身内が死亡すると、多くの手続きが発生します。中には聞き慣れない手続きも多く、何から手を付けて良いか迷ってしまうことも多いでしょう。
今回は、死亡後にやるべき手続きを、やるべき時期ごとに解説します。
目次
死亡後葬儀前後ですぐにやるべき手続き一覧
身内が死亡したら、すぐにやるべき手続きは次のとおりです。
- 死亡届の提出
- 年金の手続き
- 健康保険や介護保険の手続き
- 葬祭費や埋葬料の請求
死亡届の提出
死亡届の提出は、死亡の事実を知ってから7日以内に行わなければなりません。手続き先は、死亡地または本籍地、届出人の所在地の市区町村役場です。
死亡届の提出をしなければ火葬に必要な火葬許可証がもらえませんので、一般的には手続きを忘れることはないでしょう。
年金の手続き
死亡した人の年金を止める手続きです。故人が厚生年金加入者であれば10日以内、国民年金加入者であれば14日以内に、年金事務所または市区町村役場で手続きを行います。
提出が遅れると年金を多く受け取りすぎてしまう可能性があり、後から返還する手間が生じます。ただし、日本年金機構にマイナンバーが収録されている場合には死亡届と連動するため、この手続きを別途行う必要はありません。
健康保険や介護保険の手続き
国民健康保険の加入者が亡くなった場合には、死亡から14日以内に住所の市区町村役場で死亡の届出や保険証の返納を行います。
また、健康保険の加入者が亡くなった場合には、勤務先や保険証に記載の全国健康保険協会(協会けんぽ)などで死亡の手続きを行いましょう。
葬祭費や埋葬料の請求
葬祭費や埋葬料とは、国民健康保険や健康保険から遺族が受け取れる数万円の給付です。請求期限自体は死亡後2年以内ですが、1つ上の健康保険や介護保険の手続きと併せて、このあたりで行っておくと良いでしょう。
死亡後少し落ち着いてから行う手続き一覧
死亡後、少し落ち着いてから行うと良い手続きは、次のとおりです。
- 高額療養費の請求
- 公共料金などの解約や引き落とし先の変更
- 未支給年金の請求
- 遺言書の捜索と検認手続き
- 死亡保険金の請求手続き
高額療養費の請求
高額療養費とは、一定額以上の医療費がかかった場合に、医療費の還付を受けられる制度です。故人が加入していた保険が健康保険であれば協会けんぽなど、国民健康保険であれば市区町村の窓口で手続きをします。
高額療養費の請求は、診療から2年以内です。しかし、高額療養費の還付金は相続税の対象ともなるうえ、時間が経つと忘れてしまいがちな手続きですので、このあたりで行っておくと良いでしょう。
公共料金などの解約や引き落とし先の変更
金融機関が、故人の死亡を知ると、銀行口座が凍結されます。凍結がされると、正式な相続手続きを踏むまで、その口座からの入出金ができません。
また、一人暮らしであった故人がこれまで使っていたケーブルテレビの料金など今後使わないサービスであっても、解約しない限り月々の料金がかかってしまいます。
そのため、このあたりで、今後使わないサービスの解約や、公共料金の引き落とし先の変更手続きをしておくと良いでしょう。
未支給年金の請求
未支給年金とは、受け取りそびれた年金を受け取るための手続きです。年金の支給は2ヶ月ごとで、それぞれの支払月にはその前月までの2ヶ月分の年金が支払われます。また、年金は、亡くなった月分まで支払われます。
そのため、年金停止の手続きをした時期によっては、1ヶ月ないしは2ヶ月分の年金に相当する未支給年金を受け取ることが可能です。ただし、未支給年金を受け取ることができるのは、故人と生計を同じくしていた遺族のみとされています。受け取る権利があるかどうかに迷ったら、年金事務所などへ確認してください。
遺言書の捜索と検認手続き
亡くなった人(「被相続人」といいます)が遺言書をのこしていたかどうか、このあたりで確認しておくと良いでしょう。遺言書の捜索方法は、主に次のとおりです。
- 自宅内を探す
- 公証役場に照会をする(公正証書遺言があれば見つかる)
- 法務局に照会をする(保管制度を使った自筆証書遺言があれば見つかる)
そのうえで、見つかった遺言書が法務局での保管制度を使っていない自筆証書遺言などであった場合には、すみやかに検認手続きを行いましょう。
検認とは、家庭裁判所で行う、その時点での遺言書の状態を保存するための手続きです。以後の偽造や変造を防ぐ目的で行うもので、検認が必要な遺言書は、検認を経なければ名義変更などの手続きに使うことができません。
死亡保険金の請求手続き
死亡保険金の請求の時効は、原則として死亡後3年以内(2020年4月以降の契約であれば5年以内)です。
しかし、あえて時効ギリギリまで待つ必要はありませんので、このあたりで死亡保険金などの請求をしておくと良いでしょう。受取人の指定がある生命保険は、受取人が単独で手続きをすることが可能です。
死亡後3ヶ月以内に行う手続き一覧
死亡後3ヶ月以内に行うべき手続きは、次のとおりです。
- 遺産の全体像の確認
- 相続放棄
- 相続人の確認
遺産の全体像の確認
遺産の全体像の確認とは、被相続人がのこした資産や借金などの状況を確認することです。遺産を1つずつ確認し、表などにまとめていくと分かりやすいかと思います。
遺産の確認自体に、特に期限はありません。しかし、次で解説をする相続放棄には期限があり、この相続放棄をするかどうか検討するためには、遺産の全体像が見えている必要があります。
また、相続放棄をしない場合であっても、後に行う遺産分割協議の準備として、遺産の全体像を取りまとめておくとスムーズです。そのため、死亡後おおむね3ヶ月以内くらいには、遺産の全体像が確認できると良いでしょう。
遺産が分散していたり同居していなかったりして把握が難しい場合には、専門家のサポートを受けることも検討してください。
相続放棄
相続放棄とは、家庭裁判所に申述をすることにより、はじめから相続人ではなかったこととされる手続きです。被相続人に借金が多く引き継いでしまってはとても返していけないという場合や、何らかの理由で相続に関わりたくないという場合などに、相続放棄を検討します。
相続放棄をすると、借金などマイナスの財産のみならず、不動産や預貯金などプラスの財産も一切相続できなくなりますので、慎重に検討しましょう。
相続放棄は、自分が相続人になったことを知った時から3ヶ月以内に行わなければなりません。ただし、遺産の調査に時間がかかるなど3ヶ月以内に行うことができない事情があれば、期限内に所定の手続きをして家庭裁判所の許可を受けることで期限を延長してもらうことが可能です。
相続人の確認
相続人の確認とは、被相続人の相続人が誰であるのか、戸籍謄本などから確認することです。相続人が配偶者や子などである場合には、相続人の確認は容易であることが多いでしょう。
一方、被相続人が再婚であり前妻との間に子がいる場合や、兄弟姉妹や甥姪が相続人となる場合などには、相続人の確認に時間と手間がかかる可能性があります。自分で調査をすることが難しい場合には、専門家へ依頼して調べてもらってください。
相続人の確認自体に、特に期限はありません。しかし、この後で行う遺産分割協議などをスムーズに進めていくためには、死亡後おおむね3ヶ月以内に取り掛かると良いでしょう。
なお、相続人調査で取り寄せた戸籍謄本や除籍謄本などは、後に行う遺産の名義変更などの際にも必要となります。
死亡後4ヶ月以内に行う手続き一覧
死亡後4ヶ月以内に行うべき手続きは、次のとおりです。
- 準確定申告
準確定申告
準確定申告とは、亡くなった人について行う確定申告のことです。
通常の確定申告は、1月1日から12月31日までの所得を、翌年2月16日から3月15日までの間に行います。一方、準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に行わなければなりません。
通常の確定申告とは申告期限が異なりますので、注意しましょう。
準確定申告は、被相続人に事業所得や不動産所得があった場合に必要となる可能性が高いといえます。また、亡くなる直前に不動産など資産を売却していた場合や、臨時収入があった場合にも必要となる可能性が高いでしょう。
一方、医療費が多くかかっていた場合などには、準確定申告をすることで税金の還付が受けられる可能性があります。準確定申告が必要かどうかに迷ったら、管轄の税務署か税理士へ早めに相談してください。
死亡後10ヶ月以内に行う手続き一覧
死亡後10ヶ月以内に行うべき手続きは、次のとおりです。
- 遺産分割協議
- 相続税の申告と納税
遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人全員で行う遺産分けの話し合いのことです。無事に合意ができたら、合意した内容を記した遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印で捺印します。
遺産分割協議自体には、特に期限はありません。しかし、相続税の申告を確定的に行うためには、相続税申告に先立って遺産分割協議を成立させておく必要があります。
そのため、相続税の申告期限である10ヶ月より前には、可能な限り遺産分割協議を済ませておくべきでしょう。
また、仮に相続税の申告がない場合であっても、あまり先延ばしにせず、おおむね10ヶ月以内くらいには遺産分割協議を行っておくことをおすすめします。遺産分割協議が成立しないことには、預貯金の解約や不動産の名義変更などができないためです。
なお、2023年4月以降は、寄与分や特別受益の請求に相続開始後10年以内という期限が設けられます。
寄与分の請求とは、被相続人の遺産増加や遺産を減らさなかったことなどに貢献した相続人や親族が、その貢献度合いに応じて遺産を請求することです。また、特別受益の請求とは、遺言や生前贈与で多く財産を受け取った相続人などがいる場合、その分を加味して遺産分割を行うことを指します。
これらは、相続開始からあまり時間が経つと証拠が散逸し複雑化するため、期限が設けられることとなりました。寄与分や特別受益を請求したい場合には、今後はこの期限にも注意して行うようにしましょう。
相続税の申告と納税
相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。仮に期限を超過した場合には、税額を減らすことのできるさまざまな特例が使えなくなってしまう他、加算税や延滞税の対象となります。
相続税の申告が必要な場合には、必ず期限内に申告と納税を済ませるようにしましょう。
相続税を正確に算定するためには、申告に先立って遺産分割協議がまとまっている必要があります。しかし、なかには協議が難航するなどして、申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合もあることでしょう。
この場合であっても、申告期限が延長されるわけではありません。この場合には、いったん仮の分割内容で申告を行い、後日遺産分割協議がまとまった時点であらためて申告をし直すこととなります。
なお、相続税の申告は、すべての相続で必要となるわけではありません。遺産総額に過去の一定の贈与を加算した合計額(小規模宅地等の特例などの特例適用前の金額)が、相続税の基礎控除額以下であれば、申告自体が不要となります。
相続税の基礎控除額は、次のとおりです。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
申告が必要となりそうな場合や、申告が必要かどうか迷う場合には、早めに税理士などの専門家へ相談してください。
死亡後1年以内に行う手続き一覧
死亡後1年以内に行うべき手続きは、次のとおりです。
- 各遺産の名義変更や解約
- 遺留分侵害額請求
各遺産の名義変更や解約
預貯金や証券口座の解約、不動産の名義変更(相続登記)などには、2022年5月現在、特に期限は定められていません。しかし、手続きをしないことには故人名義の預金は使うことができませんし、遺産分割協議の成立からあまり時間が空いてしまうと遺産分割協議書など書類の紛失リスクも高まりますので、死亡後おおむね1年以内くらいには手続きを済ませておいた方が良いでしょう。
各遺産の名義変更や解約には、被相続人の戸籍謄本や除籍謄本など多くの書類が必要となります。あらかじめ必要書類を確認し、計画的に集めておいてください。
なお、2024年4月以降は、相続登記に期限が設けられることになっています。改正後は、原則として、不動産取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。
いずれにしても、おおむね1年以内くらいに手続きを済ませておくとスムーズでしょう。
遺留分侵害額請求
遺留分とは、配偶者や子など一定の相続人に保証された、相続での最低限の取り分のことです。
遺留分を侵害したからといって、遺言書や生前贈与が無効になるわけではありません。しかし、遺留分を侵害された相続人から遺産を多く受け取った相手に対して、侵害された遺留分相当額を金銭で返してくれとの請求をすることが可能です。この請求を、「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分侵害額請求は、被相続人の死亡と遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年以内に行わなければなりません。遺留分侵害額請求をする場合には、必ずこの期限内に請求するようにしましょう。
なお、亡くなったことや遺言書などの存在を知らないまま年月が経過した場合であっても、死亡後10年が経つと遺留分侵害額請求をする権利が消滅します。
死亡後の手続きを効率良く進めるためのポイント
ここまでで見てきたとおり、相続が起きた後は非常に多くの手続きが発生します。
では、死亡後の手続きを効率良く進めるためには、どのようにすれば良いのでしょうか?主なポイントは、次のとおりです。
まとめてできる手続きはまとめて行う
身内が死亡した後の手続きを効率良く進めるための1つ目のポイントは、可能な限り手続きをまとめて行うことです。
中でも、死亡後の手続きのなかには、市区町村役場で行うべきものが少なくありません。そのため、一度の来庁でできるだけ多くの手続きを済ませるよう、必要な手続きをあらかじめピックアップしてから出向くと良いでしょう。
なお、市区町村のなかには死亡後の手続きについてまとめて案内が受けられる「お悔やみ」窓口を設けているところもあります。このような窓口がある場合には、まずこの「お悔やみ」窓口で相談をすることで、効率良く手続きを進めやすくなるでしょう。
手続きの代行を利用する
死亡後の手続きの多くについて、代行を依頼することが可能です。
相続登記や相続税申告など専門的な手続きを専門家へ依頼できることはもちろん、たとえば相続人を確認するために必要な戸籍謄本などの収集、預貯金や証券口座の解約手続きなどの代行を依頼することもできます。
このような代行を依頼することで、相続手続きにかける時間と手間を最小限に抑えることが可能となるでしょう。
ただし、司法書士や税理士など相続を専門に取り扱う専門家のすべてが、預貯金解約などの手続き代行まで行っているわけではありません。
そのため、これらの手続きまでをまとめて依頼したい場合には、専門手続きの依頼を予定している先の専門家に、どこまでの手続きを代行してくれるかどうかあらかじめ確認しておくと良いでしょう。
死亡後の手続きに関するよくある質問
最後に、死亡後の手続きにまつわるよくある質問を紹介しましょう。
死亡後の手続きを放置したらどうなるか
死亡後の手続きを放置した場合には、さまざまな不利益をこうむる可能性があります。次の手続きを放置した場合のデメリットは、それぞれ次のとおりです。
相続放棄手続きの放置
相続放棄をしたいと考えているにもかかわらず期限までに相続放棄手続きをしなかった場合には、もはや相続放棄をすることはできません。
つまり、たとえば被相続人に多額の借金があることを理由に相続放棄を検討していたにも関わらず放棄ができる期限を超過してしまった場合には、原則どおり被相続人の借金を引き継ぐことになるということです。
相続税申告の放置
相続税申告が必要であるにもかかわらず期限までに申告をしなかった場合には、本来支払うべきであった相続税に加えて、「無申告加算税」が課されます。
中でも、無申告が仮装や隠ぺいによるものであると税務署側から判断されれば、さらに重い重加算税の対象となる可能性があるでしょう。
これに加えて、本来の申告期限から実際に納税した日までに対応する延滞税(利息的な税金)の納付も必要です。
不動産登記の放置
不動産登記を放置した場合には、さまざまなトラブルの原因となる可能性があります。
まず、たとえ相続人間では長男が不動産を取得することが決まっていたとしても、そのことを第三者に主張することができません。そのため、二男にお金を貸している債権者が、この不動産のうち二男の法定相続分を差し押さえて売却してしまう可能性があるでしょう。
また、故人名義のままでは、その不動産を売却したり担保に入れたりすることができません。そのため、すぐには売却などをする予定がないからといって手続きを放置したとしても、数十年後に売却をしようとした際には、その時点で改めて相続登記をする必要が生じます。
死亡からかなりの期間が経過してから相続登記をしようとすれば、元々相続人であった人が亡くなったり認知症になったりするなどして、手続きの負担が大きくなる可能性があるでしょう。
さらに、2024年4月の相続登記義務化施行後において期限を超過した場合には、10万円以下の科料に処される可能性があります。
もめていて手続きが進められない場合はどうすれば良い?
身内が亡くなったものの、家族間などでもめていて手続きを進められない場合もあることでしょう。その場合には、どうすれば良いのでしょうか?
まず、もめてしまって当人同士での解決が難しい場合には、弁護士へ相談しましょう。弁護士が交渉を仲裁してくれるほか、それでも埒が明かなければ調停(裁判所で行う話し合い)や審判(裁判所が結論を出してくれる手続き)などへ移行して、解決を図ります。
そして、これとは別途、期限のある手続きを進めていくことが必要です。
まず、相続税申告など税務関係の手続きは、たとえ相続人間でもめていたとしても申告期限が伸長されるわけではありません。そのため、上でも触れたとおり被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告と納税を済ませ、その後協議がまとまった段階で申告をし直すことになります。
また、改正法施行後(2024年4月以降)における不動産登記では、もめていて3年以内に相続登記ができない場合、「相続人申告登記」を検討しましょう。
相続人申告登記とは、その不動産の最終的な取得者を登記するのではなく、「自分が相続人の1人である」ということを登記する制度です。この登記を申請しておくことで、3年以内に相続登記をするという義務を果たしたこととなります。
そのうえで、その後協議がまとまって不動産の取得者が決まった場合には、改めて登記をし直しましょう。
まとめ
身内が死亡すると、さまざまな手続きが発生します。手続きの中には期限があるものが少なくありません。あらかじめ期限を確認したうえで、順序立てて漏れなく手続きを進めるようにしましょう。
手続きの中でも、特に大変な思いをされる方が多いものの一つに、相続登記があります。相続登記をするには、被相続人の除籍謄本など見慣れない書類が多く必要となるほか、登記申請書も一から作成しなければなりません。
相続登記でお困りの際には、ぜひ当サイト「そうぞくドットコム」のご利用がおすすめです。