相続税の対策として生前贈与を考えられる方は多いかもしれません。基本的に、贈与を行うと贈与税がかかりますが、相続税と同じように、贈与税にも基礎控除があるため、110万円(年)までの贈与だと非課税となります。が、それを超える分には贈与税がかかります。
しかし、実は贈与には、110万円の基礎控除以外にも、様々な要件を満たすことによって、非課税となる特例が設けられています。
- 住宅取得資金贈与の特例
- 相続時精算課税の特例
- 夫婦間贈与の特例
- 教育資金贈与の特例
- 結婚子育て資金贈与の特例
本項では、3つ目に記載した夫婦間贈与の特例についてご説明させて頂きます。この制度は、簡単にご説明すると「婚姻期間20年の夫婦間において、居住用の不動産であれば、2,000万円まで贈与しても、税金はかかりません!」という旨の制度です。
が、この制度は生前対策を利用しても、実はあまり得にならなかったり、場合によっては損をしてしまう可能性もあるので要注意です。
被相続人=資産を残す人=亡くなった方
相続人=資産を受け継ぐ人=配偶者、子供、親せきなど
目次
1.夫婦間贈与の特例とは
そもそも「贈与」の基準って?
夫婦間贈与の特例の話に入る前に、そもそも「夫婦間での贈与」とは何が該当するのかについて、解説します。
例えば、
- 今晩のご飯代として、妻が夫にお金を渡した
- 子供の塾の月謝を払うために夫が妻にお金を渡した
これらのお金の受け渡しは贈与として扱われるのでしょうか?
答えはノーです。
生活費や教育費用など、通常の生活の中で発生するお金の受け渡しに関しては、贈与としては判定されません。
贈与と判定されるのは、
- 夫が妻に誕生日プレゼントで高級車をプレゼントした
- 夫が妻に生活費以上のお金を渡した
と、通常の生活では必要とならない金銭のやり取りのみです。
理解しておきましょう。
制度の概要
さて、夫婦間でのお金の受け渡しについて何が贈与に当たるのかを確認したところで、本題である「夫婦間贈与の特例」について確認していきましょう。
夫婦間贈与の特例とは
婚姻期間20年以上の夫婦であれば、夫婦間で、
- 居住用の不動産
- 居住用の不動産を取得するための金銭
の贈与が行われた場合、2,000万円まで控除できる
という制度です。
夫婦というのは、共に財産を築いていくパートナーである訳ですから、そのパートナー間で自分たちが住んでいる家を贈与しても、税金はかからないように考慮しましょう、という目的で作られた制度です。
もちろんですが、贈与税は110万円までの基礎控除があるため、実質的にこの特例を使うと、2110万円まで非課税となります。
特例の条件について
この特例ですが、条件が3つあります。
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
- 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための国内の居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
※国税庁HP(No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除)より
②について、「居住用不動産を取得するための金銭」でも良い訳ですから、例えば夫から妻に居住用の不動産を取得するための、現金2,000万円を贈与したとしても、この特例は利用可能です。
2.特例を受ける時に注意点について
「2,000万円まで贈与税がかからないなんて、なんて良い制度なんだ!」と思われた方もいるかもしれませんが、実はこの制度あまり得をすることがなく、損する可能性も秘めています。
ここでは、この特例を利用する際の3つのポイントについて解説します。
一生のうちで1回しか使えない制度
これは得をする、損をするという話ではないですが、夫婦間贈与の特例は、同じ配偶者に対して一生に1回しか使うことができません。
つまり、一度この特例を使って、配偶者に居住用の不動産を贈与した場合、その後の人生において同じ配偶者に、居住用の不動産を贈与することがあっても、この特例は使えません。
なので、それらを踏まえた上で、使用するタイミングを考える必要があります。
相続対策として利用するのはあまり意味がない
生前贈与と聞くと、相続税の対策として捉えられる事が多いですが、実はこの特例、相続税の節税に有効的かといえば、そうではありません。
もちろん、2,000万円まで課税なしで贈与できる、という点については節税対策として有効的だとは思います。
しかし、夫婦間での不動産の相続税対策を考えるのであれば「もっと良い制度が他にあるため、わざわざこの特例を使う必要もない」というのが本項で1番伝えたい内容です。
では「もっと良い制度」とはどの制度を指すのでしょうか?ここでは、2つの制度をご紹介します。
配偶者控除について
相続税では、配偶者への優遇制度として「配偶者控除」が存在します。
配偶者控除では、
- 1億6000万円
- 法定相続分
のどちらか高い方までは、配偶者は相続税が課税されません。
つまり、どうしても生前に配偶者に居住用の不動産を相続したい特別な理由がある場合は別ですが、そうでもない限りは、無理に生前贈与をしなくても、相続の時に渡しても、ほとんどの場合税金はかからない、という事です。
※配偶者控除について、詳細はこちらの記事をご覧下さい
小規模宅地等の特例について
相続税の対策として、配偶者控除と並んで効果的な制度として有名なのが「小規模宅地等の特例」です。
これは、被相続人が住んでいた自宅を、
- 配偶者
- 同居親族
- 別居親族
に、相続する場合は、相続税評価額の8割減の価格で相続できるという制度です。
つまり、この制度を使えば、無理に生前贈与をしなくても、相続の時に、8割減で配偶者に相続できる、というものです。
この制度では税金を0にすることは難しいですが、8割引で相続できるので、節税効果は非常に大きいです。
※小規模宅地等の特例について、詳細はこちらの記事をご覧下さい
配偶者控除、小規模宅地等の特例、両制度とも、相続発生後に初めて使える制度であり、生前は使えません。
その点でも、居住用の不動産を、夫婦間贈与の特例を使ってをわざわざ生前で贈与しても、相続発生後に上記の制度を使って相続しても、効果としてはさほど変わらないかもしれない、という事が言えるのです。
不動産を贈与すると他の税金がかかる
夫婦間贈与の特例を使って、居住用不動産の生前贈与を行えば、贈与税については場合によっては0円にする事ができます。
しかし「不動産を贈与する」という意味では、名義変更のための登録免許税、不動産取得税、などがかかってしまいます。
また不動産取り扱いについては、司法書士などの専門家に依頼するため、専門家の費用もかかります。
以上のように、
- 一生のうちで1回しか使えない制度
- 相続税対策として利用するのは、あまり意味がない
- 不動産を生前贈与すると、他の税金や費用がかかる
夫婦間贈与の特例を使う時には、上記の3つのポイントに気をつける必要があり、総合的に評価すると、「あまり使う意味がない」という結論に達する方も多いのです。
もちろん!上記の意見は、一般的なケースの場合の一意見であり、状況によってはこの制度を使う事でしか大きな節税効果が得られない場合もあるので、生前対策〜相続発生までの計画については専門家へのご相談をお勧めします。
まとめ
本項では、数ある贈与の特例の1つとして「夫婦間贈与の特例」について解説してきました。
制度というのは意見内容だけ聞くと、お得に感じるものもありますが、他の制度と合わせて考えたり、またはそれぞれの家庭の状況などを考えたりすると、意外と効果的に使えるものは少ないものです。
しかし、生前において、このような制度の内容をたくさん理解し「その制度が自分の家庭に合うか」を考えることは非常に重要となります。