所有者不明土地の増加問題などを受け、相続した土地に関する改正や新制度の創設が相次いでいます。
2024年4月から相続登記が義務化され期限が設けられるほか、2022年8月には、相続した土地を国有化させる際にかかる負担金を原則として20万円とする方針も公表されました。
このような流れを受け、相続登記がされない土地や管理不全となり活用されていない不動産に対する風当たりは、今後ますます強くなっていくことでしょう。
そこで今回は、相続した土地の活用方法を紹介するとともに、相続登記の義務化制度や相続した土地を国有化できる制度などについてくわしく解説します。
相続した土地はどうすれば良い?
相続財産の中に土地があった場合、この土地は今後どうしていけば良いのでしょうか?相続した土地の取り扱いについては、大きく分けて次の3つの方針が挙げられます。
- 自分で活用する
- 相続放棄をする
- 相続土地国庫帰属制度を活用して国有化する
自分で活用する
もっとも基本となる選択肢は、その土地を自分のものとしたうえで活用することです。
たとえば、自分が住んだり別荘として活用したりするほか、他者に賃貸することや、売却して対価を得ることなどが考えられるでしょう。よりくわしい活用方法については、後ほど改めて解説します。
相続放棄をする
たとえば、相続した土地が山林や原野である場合のほか、人口の少ないいわゆる農村地帯にある土地である場合などには、土地の活用方法が見当たらず、買い手を見つけることさえ難しい場合もあることでしょう。
それどころか、定期的にメンテナンスをしなければ近隣に迷惑をかけてしまう可能性があり、固定資産税も毎年支払わなければなりません。このような土地は、相続をしても負担の方が大きく、困ってしまいます。
そのような際には、相続放棄が一つの選択肢となります。
相続放棄とは、家庭裁判所で申述をすることで、はじめから相続人ではなかったこととする手続きです。相続放棄をすることで、その相続についてはプラスの財産もマイナスの財産も一切相続できなくなります。
つまり、相続放棄をすれば、いらない土地を相続しなくて済むわけです。
ただし、相続放棄には注意点が少なくありません。主な注意点は、次のとおりです。
- 一切の財産を相続できなくなる
- 次順位以降の相続人に迷惑がかかる
一切の財産を相続できなくなる
1つ目の注意点は、相続放棄は財産ごとにするものではないということです。相続放棄をすると、要らない土地や建物のみならず、必要な土地建物、預貯金、株式など、一切の相続権を失ってしまいます。
たとえば「この土地だけ相続放棄をして、預貯金は相続する」などは認められません。そのため、相続したい財産が他にある場合には、相続放棄をすることは現実的でないでしょう。
次順位以降の相続人に迷惑がかかる
2つ目の注意点は、相続放棄をすると次順位以降の相続人に迷惑がかかる可能性があることです。相続放棄をした人ははじめから相続人でなかったこととなるため、その順位の人が全員相続放棄をすると、次順位の相続人が繰り上がって相続人になります。
たとえば、第一順位の相続人である亡くなった人(「被相続人」といいます)の子が全員相続放棄をすると、第二順位の相続人である被相続人の父母などや第三順位の相続人である兄弟姉妹などが繰り上がって相続人となるわけです。
そのため、その順位の人が全員相続放棄をする場合には、後順位の相続人にあらかじめ話を通しておく必要があるでしょう。
相続土地国庫帰属制度を活用して国有化する
相続土地国庫帰属制度とは、相続した「要らない土地」を国有化させられる制度です。
これまでは、たとえ相続財産に不要な土地があったとしても、その土地だけをピンポイントで放棄するような制度はありませんでした。つまり、「要らない土地を含めてすべて相続する」か「他の財産も含めてすべて相続放棄をする」しか選択肢がなく、これが相続登記されないままで土地が放置される原因の一つになっていると指摘されています。
そこで、不要な土地を個別で国庫に帰属させられる「相続土地国庫帰属制度」が創設され、令和5年(2023年)4月27日からスタートすることとなりました。制度の内容については、後ほど改めて解説します。
相続した土地を活用する12の方法
相続した土地の活用方法には、非常に多くの選択肢が存在します。主な選択肢は、次のとおりです。
- 自分で使う
- 土地をそのまま賃貸する
- 土地をそのまま定期借地の対象とする
- 駐車場経営をする
- 戸建て賃貸をする
- アパートやマンション経営をする
- オフィス賃貸経営をする
- 太陽光発電用地とする
- 等価交換する
- 土地信託する
- リバースモーゲージを設定する
- 売却する
自分で使う
自分で家を建てて住むほか、別荘や自分が営む事業の店舗などとして活用する方法です。更地である場合には、自分の車を停めるための駐車場とする場合もあります。
土地をそのまま賃貸する
土地をそのまま他者に貸して、地代を得る方法です。なお、賃借人が土地上に建物を建てる場合には、原則として借地権が発生し、土地を返してもらうことが難しくなる点に注意が必要です。
土地をそのまま定期借地の対象とする
土地をそのまま他者に「定期借地」として貸し、地代を得る方法です。定期借地は通常の借地権とは異なり、期間の満了時に契約が更新されません。また、契約の満了時には借地人が建物を撤去して更地で返却することが原則となります。
駐車場経営をする
駐車場経営をして、駐車料金を得る方法です。そのままの状態で青空駐車場とする方法もあれば、アスファルト舗装をしたり、立体駐車場を建てたりする方法もあります。
戸建て賃貸をする
土地の上に戸建て住宅を建てて賃貸する方法です。元々土地上に家が建っていれば、その家をそのまま貸す場合もあります。
アパートやマンション経営をする
土地の上のアパートやマンションを建てて経営する方法です。初期費用が大きく、借り入れが必要となる可能性が高いでしょう。
オフィス賃貸経営をする
建物を建てて、オフィスや店舗などとして貸し出す方法です。元々土地上に建物が建っていれば、その建物をオフィスや店舗用に改築して貸す場合もあります。
太陽光発電用地とする
太陽光パネルを設置して、発電した電力を電力会社へ売る活用方法です。ある程度の広さのある、南向きの土地が適しています。また、住宅やオフィスを建てる場合と比較して、メンテナンスに手間がかかりにくい点がメリットです。
等価交換する
土地上にデベロッパーが資金を出して建物を建て、その後自分が持っている土地の持分とデベロッパーが建てた建物の持分を等価交換する方法です。建物の持分の一部を得ることと引き換えに土地の持分を一部失うこととなりますが、土地活用のための初期費用を拠出する必要がありません。
ただし、たとえば商業地や人口密集地などデベロッパーにとって魅力的な場所の土地である必要があります。
土地信託する
土地活用について専門知識のある信託会社に土地を信託し、運用をすべてお任せしたうえで運用益を得る方法です。信託期間が終われば土地は戻ってくるものの、仮に運用に失敗すれば不利益をこうむる可能性があります。
リバースモーゲージを設定する
リバースモーゲージとは、自宅不動産を担保としてお金を借りて毎月利息のみを返済し、自分が亡くなった後で自宅不動産を売って借入金を返済する方法です。不動産を次世代に相続させるつもりがない場合には有力な選択肢となりますが、マンションなどは対象外であることが多く、どの不動産でも対象となるわけではありません。
売却する
もっともシンプルな方法の一つが売却です。不動産を手放すこととなる一方で、まとまった資金が入手できます。
相続登記は放置しても良い?
上のような活用が検討できる土地であればともかく、相続をしても使い道がない土地もあるかと思います。では、そのような場合、相続登記をしないままで放置しても良いのでしょうか?
相続登記とは
相続登記とは、法務局に登録(登記)されている不動産の名義人を、被相続人から相続人などへと書き換える手続きです。不動産の名義人が亡くなったからといって、法務局が勝手に名義を書き換えるわけではありません。
また、相続人同士の遺産分割協議で長男がその不動産を相続することが決まったとしても、相続人側から申し出がなければ、法務局は誰が取得することになったのか知る方法がないでしょう。
そのため、不動産を相続する人が決まったら、法務局に所定の書類を提出して名義を書き換えてもらう必要があるのです。これが、「相続登記」です。
相続登記を放置するデメリット
2022年9月現在、相続登記は義務ではなく特に期限もありません。しかし、そもそも相続登記は、土地や建物という自分の財産を守るための手続きです。
相続登記を放置することには、次のデメリットが存在します。
- 自分が所有者であることを第三者に主張できない
- トラブルの原因となる可能性がある
- 放置すればするほど手続きが大変になる
自分が所有者であることを第三者に主張できない
相続登記をしていなければ、自分が正式な所有者であることを第三者に主張することができません。
そのため、相続登記をしなければその土地を売ったりお金を借りる際の担保に入れたりすることができず、いざこのような必要が生じた際に急いで相続登記をする必要が生じます。
トラブルの原因となる可能性がある
相続登記をしなければ、そのことが原因でトラブルとなる可能性があります。
たとえば、長男と二男との間でした遺産分割協議で長男がA土地を取得することが決まったにもかかわらず、長男が相続登記をしなかった場合において、その後事情が変わって金銭的に困窮した二男が、その土地のうち自分の法定相続分である2分の1の持分を第三者に売却してしまう場合などです。
この場合において、長男は第三者から売られてしまった持分を取り戻すことは困難でしょう。
放置すればするほど手続きが大変になる
相続登記を放置する人は、相続登記に手間や時間をかけたくないと考えている場合が少なくないでしょう。しかし、相続登記を長年放置すれば放置するほど、より手続きが大変になり手間が増える可能性が高くなります。
なぜなら、時間の経過とともに、元々相続人であった人が認知症になったり、亡くなって代替わりが起きたりする可能性が生じるためです。
このような事態となれば手続きの手間が増えるばかりか、場合によっては代替わりした権利者が手続きに応じてくれず、手続きの進行が困難となるかもしれません。
2024年4月からは相続登記が義務化される
相続登記がされないままで放置され、もはや現在の権利者がわからなくなった「所有者不明土地」の増加が社会問題となっています。これを受け、相続登記の義務化が決定されました。この改正は、2024年4月1日から施行される予定です。
改正法の施行後は、不動産を相続したことを知ってから3年以内に相続登記をしなければなりません。正当な理由なく期限を超過した場合には10万円以下の過料に処される可能性がありますので、注意しましょう。
なお、相続登記の義務化は、義務化よりも前に発生した相続についても対象です。ただし、義務化前に発生した相続にかかる相続登記には猶予があり、2024年4月1日の制度開始後3年以内に相続登記をすれば構いません。
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度とは、相続した「いらない土地」を国有化できる制度です。これまで「要らない土地」だけをピンポイントで手放す制度はありませんでしたが、2023年4月27日の制度施行後は、相続した不要な土地だけを手放すことが可能となります。
相続した土地を国庫に帰属させる条件
相続土地国庫帰属制度の施行後も、どのような土地であっても国に引き取ってもらえるわけではありません。
- 相続で取得した土地であること
- 土地の所有者全員で申請すること
- 却下事由や不承認事由に該当する土地ではないこと
相続で取得した土地であること
相続土地国庫帰属制度の対象となるのは、原則として相続によって取得した土地のみです。そのため、たとえば自分が以前購入した土地や自分が以前他者から贈与を受けた土地が要らなくなったからといって、この制度を使って国庫に帰属させることはできません。
なお、制度施行前に相続で取得した土地であっても、相続土地国庫帰属制度の対象となります。
土地の所有者全員で申請すること
土地が共有になっている場合であっても、相続土地国庫帰属制度の対象となります。
ただし、この場合には、共有者全員が共同して申請しなければなりません。たとえば、長男と二男が1筆の土地を2分の1ずつの共有で取得した場合においては、長男と二男が共同して申請することで制度の利用が可能となります。
却下事由や不承認事由に該当する土地ではないこと
相続土地国庫帰属制度で国に帰属した土地は、国がその後管理をしていくこととなります。そのため、次のような土地は、この制度を使って国庫に帰属させることができません。これらの土地は、管理や処分に多大な費用や労力を要する可能性があるためです。
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
- 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
- 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
相続土地国庫帰属制度利用の流れ
相続土地国庫帰属制度を利用する際の流れは、次のとおりです。
- 承認申請をする
- 法務局が要件審査をして承認する
- 負担金を納付する
承認申請をする
相続した土地を国庫に帰属させたい場合には、まずその土地を相続した相続人が承認申請を行います。承認申請の手続き先は、土地の所在地を管轄する法務局です。
法務局が要件審査をして承認する
承認申請がなされると、法務局が要件を満たしているかどうかを確認します。実地調査がなされる場合もあります。
確認の結果、要件を満たしていると判断されれば国庫帰属が承認されます。
負担金を納付する
承認後、10年分の土地管理費相当額を納付します。この時点で、土地が国庫に帰属します。
相続土地国庫帰属制度で負担すべき負担金はいくら?
相続土地国庫帰属制度で負担すべき負担金は、10年分の土地管理費相当額とされています。具体的な金額や考え方は、次のとおりです。
- 宅地(市街化区域・用途地域が指定されている地域内)・農用地(市街化区域・用途地域が指定されている地域内、農用地区域内等)・森林:面積に応じて算定
- 上記以外の宅地・農用地・雑種地・原野等:一律20万円
まとめ
今回解説したように、相続した土地の活用方法には、さまざまな選択肢があります。しかし、相続した土地をどのように活用するとしても、原則として相続登記を済ませておかなければなりません。
2024年4月以降は相続登記が義務化されますので、仮に既に起きた相続について相続登記が済んでいないのであれば、早めに手続きを済ませておくと良いでしょう。
しかし、相続登記にはさまざまな書類が必要であり、慣れていない人が自分で完了させることは容易ではありません。自身で完了させることができない方は、当社AGE technologiesが提供するそうぞくドットコム不動産をご利用ください。