令和6年(2024年)4月1日、相続登記の義務化がスタートします。これ以後は、原則として相続開始後3年以内に相続登記をしなければなりません。
この相続登記の義務化は、所有者不明土地の増加が社会問題となったことによるものです。では、所有者不明土地と相続登記義務化は、どのように関係するのでしょうか?また、相続登記の義務化に備えて、どのような対策をとれば良いのでしょうか?
今回は、法務省から公表されている情報をもとに、所有者不明土地と相続登記の義務化についてわかりやすく解説します。
目次
所有者不明土地と相続登記義務化の関係性
相続登記の義務化は、所有者不明土地の増加に起因するものです。では、これらはどのように関係するのでしょうか?
はじめに、所有者不明土地と相続登記義務化との関係性を解説します。
所有者不明土地とは?
所有者不明土地とは、現在の所有者が誰であるのかわからなくなってしまった土地のことです。
まず、土地の所在地や面積などの情報は、原則として、すべて法務局に登記されています。そして、登記簿には土地所有者の住所と氏名も掲載されており、これはその土地の全部事項証明書(登記簿謄本)を取ることなどで、誰でも調べることが可能です。
そのため、本来は土地の全部事項証明書を取得すれば所有者の住所と氏名がわかるため、その住所宛に手紙を送ったり出向いたりすれば、土地所有者と連絡が取れるはずです。
しかし、登記簿上の情報は、戸籍や住民基本台帳などの情報と連動しているわけではありません。そのため、実際には登記簿上の名義人がとうの昔に亡くなっている場合や引越しなどで住所が変わっている場合であっても、名義人や遺族などが何ら手続きをしていなければ、古い情報のままとなってしまうのです。
結果的に、全部事項証明書を取り寄せてそこに掲載された名義人の住所宛に連絡をしても、関係者と連絡が取れないケースが生じます。このような状況で現在の権利者と連絡が取れず、また現在の権利者が誰であるのかわからなくなってしまった土地のことを所有者不明土地といいます。
所有者不明土地があるとどう困る?
所有者不明土地の増加が、社会問題となっています。では、所有者不明土地があると、具体的にどのように困るのでしょうか?
法務省の資料などで挙げられている主な困りごとは次のとおりです。
- 周辺の環境や治安の悪化
- 災害復旧の妨げ
- 開発などの妨げ
周辺の環境や治安の悪化
所有者不明土地は、管理不全の状態となっていることが少なくありません。そのため、草が生い茂り野生動物の住処となったり、土地上の建物に不審者が出入りしたりするなど、周辺の環境や治安の悪化へつながることが懸念されます。
災害復旧の妨げ
東日本大震災のような大規模な災害が起こると、復旧事業のために用地を取得する必要などから、土地の所有者に連絡を取るべき場面が生じます。しかし、その中に所有者不明土地があると、スムーズな用地取得ができず、災害復旧の妨げとなります。
開発などの妨げ
その地域一帯を開発するためには、土地の所有者と連絡を取らなければなりません。しかし、その中に所有者不明土地があれば開発を進めることができず、開発の大幅な変更や開発自体の断念が余儀なくされます。
その結果、付近一帯の土地の利便性向上が妨げられる可能性があるでしょう。
所有者不明土地と相続登記義務化との関係性
所有者不明土地が増加する原因はさまざまですが、特に大きな原因の一つが、相続登記の放置であると考えられています。
先ほど解説したように、登記簿上の土地の名義人が亡くなったからといって、相続人などの名義へと自動的に書き換わるわけではありません。登記簿上の名義人を変更するには、その土地を取得することになった相続人が自ら(もしくは、司法書士へ依頼して)、法務局へ名義変更の申請をすることが必要です。この手続きを、「相続登記」といいます。
そして、この相続登記はこれまで義務ではなく、期限も設けられていませんでした。なぜなら、そもそも相続登記は所有者が自分の権利を守るために行うものという側面が強く、外部から手続きを強制する性質のものではないと考えられていたためです。
しかし、こうしたことから、相続登記がなされないまま放置されるケースが散見される事態となりました。価値の高い土地などであればまだしも、さほど価値がない土地などであれば、費用や手間をかけてまで相続登記をするインセンティブが働きにくいためです。
その結果、相続登記がなされないまま相続が繰り返されて、もはや現在の権利者がわからない所有者不明土地が増加する事態となっています。そこで、今後新たに所有者不明土地が生まれる事態を抑制するため、相続登記が義務化されました。
【法務省】所有者不明土地解消へ向けた広報ページ
所有者不明土地への対策は、相続登記の義務化だけではありません。他にも、所有者不明土地の発生を抑制するための取り組みや、所有者が不明となってしまった土地を利活用しやすくするための取り組みなど、さまざまな対策が取られています。
法務省のホームページでは所有者不明地土地解消へ向けた取り組みがまとめられていますので、こちらも参照すると良いでしょう。
相続登記義務化で相続登記はどう変わる?
相続登記の義務化によって、今後相続登記はどのように変わるのでしょうか?主な変更点を2つ紹介します。
- 相続登記に期限が設けられる
- 相続人申告登記が新設される
相続登記に期限が設けられる
相続登記義務化による最大の変更点は、相続登記に期限が設けられる点です。
改正法の施行後は、不動産を取得した相続人に対し、取得を知った日から3年以内の相続登記が義務付けられます。この期限を過ぎたからといって相続登記ができなくなるわけではないものの、正当な理由なく期限を超過した場合には、10万円以下の過料に処される可能性があります。
なお、「取得を知った日」とは、原則として相続が起きた時点です。なぜなら、不動産の名義人である亡くなった人(「被相続人」といいます)の死亡と同時に、遺産である不動産は相続人全員の共有状態となるためです。
相続人全員での遺産分けの話し合い(「遺産分割協議」といいます)がまとまった時点からカウントされるわけではないことに注意しましょう。つまり、仮に3年以内に遺産分割協議がまとまらなかったとしても、3年という期限のカウントが進行しないわけではないということです。
この場合には、まず相続開始から3年以内に、法定相続分での相続登記(「配偶者2分の1、長男4分の1、二男4分の1」など法定相続分で行う登記)もしくは次で解説をする相続人申告登記を行います。その後、遺産分割協議がまとまったら、協議がまとまってから3年以内に、改めて遺産分割協議の結果にもとづいた相続登記を行うこととなります。
ただし、3年以内に遺産分割協議がまとまったのであれば、あえて相続人申告登記などを経る必要はなく、はじめから遺産分割協議の結果に沿った相続登記をすれば問題ありません。
相続人申告登記が新設される
相続登記の義務化にともなって、相続人申告登記制度が創設されることとなりました。相続人申告登記とは、仮に相続人がABCの3人だった場合に、このうちの1人であるAが、自分が相続人の1人であることを申告する登記です。
これは、「この不動産がAのものになる」という性質のものではなく、単にAが相続人の1人であることを申告するのみの登記制度です。
この登記はA単独で行うことができ、BやCの協力を得る必要がありません。そして、この相続人申告登記をすることで、Aは3年以内の相続登記の義務を履行したこととなります。
この制度は、3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合に、相続登記の義務を履行する手段の一つとして新設されました。なお、遺産分割協議はまとまっていないもののABCで協力できるのであれば、従来から存在する法定相続分での相続登記も選択肢の一つとなります。
相続登記義務化はいつから始まる?
相続登記の義務化は、いつから始まるのでしょうか?ここでは、開始時期について解説します。
相続登記義務化制度の開始時期
相続登記義務化制度は、令和6年(2024年)4月1日です。先ほど解説したように、これ以後に発生した相続では、原則として相続開始後3年以内に相続登記をしなければなりません。
すでに発生した相続にも適用される
相続登記の義務化制度は、改正法の施行日前に開始した相続にも適用されます。ただし、令和6年(2024年)3月31日以前に起きた相続には経過措置が適用され、令和6年(2024年)4月1日から3年の期限が進行することとなっています。
所有者不明土地や相続登記義務化への対策として今できること
所有者不明土地や相続登記義務化への対策として、今何をしておくべきなのでしょうか?土地の所有者が存命である場合と、すでに故人名義の土地がある場合とに分けて解説します。
土地の所有者が存命である場合
土地の所有者が存命である場合に検討すべき主な対策は、次のとおりです。
- 遺言書を作成する
- 不要な土地を処分する
遺言書を作成する
相続登記を放置してしまう理由の一つに、遺産分割協議がまとまらないことが挙げられます。しかし、改正法の施行後は、相続争いが長引いているからといって、相続登記の放置が許されるわけではありません。
この場合には、まず3年以内に相続人申告登記などを行い、その後協議がまとまったら再度登記をするという、二段階での対応が必要となります。
そこで、相続人の負担を軽減するため、土地を所有している人は、元気なうちに遺言書を作成しておくことを検討すると良いでしょう。遺産全体を網羅した有効な遺言書があれば、遺産分割協議を経ることなく土地の取得者を決めることができるからです。
不要な土地を処分する
現在使用しておらず、今後も使用する予定のない土地を所有している場合には、元気なうちに処分することを検討しましょう。生前に土地を手放してしまうと、相続が起きた際に、その土地について相続登記などをする必要がなくなるためです。
土地を処分する方法としては、誰かに売却をしたり、買い手がつかない土地であれば贈与や寄付を受けてもらえないか打診したりすることなどが考えられます。また、その土地が相続で受け取ったものであれば、「相続土地国庫帰属制度」の利用も選択肢の一つとなるでしょう。
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地を国に引き取ってもらえる制度であり、令和5年(2023年)4月27日からスタートする予定です。制度の利用には費用がかかるほか利用できる土地には条件がありますが、次世代に負担を先送りしないため、利用を検討することも一つでしょう。
故人名義の土地がある場合
すでに故人名義となっている土地がある場合には、次の対策を検討しましょう。
- すみやかに相続登記をする
- 専門家へ相談する
すみやかに相続登記をする
たとえば、相続争いが起きているなど、相続登記を妨げる事情が特にないのであれば、すみやかに相続登記を行いましょう。
ただし、相続登記をするためには、名義人である被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・原戸籍)謄本など、非常に多くの書類を集めなければなりません。これらを集めることがハードルとなり、相続登記が進まない場合もあることでしょう。
その場合には、代行サービスを利用することも一つです。なお、当サイト「そうぞくドットコム不動産」では相続登記に必要な書類の代行取得を行っていますので、お困りの際にはお気軽にご相談ください。
専門家へ相談する
「相続争いが起きている」や「相続人の中に行方不明者がいる」など相続登記を進められない事情がある場合には、専門家へ相談しましょう。
問題の中には時間が解決するものもある一方で、時間の経過とともに、解決までの手間が増大しかねないものも存在します。また、一人で悩んでいては打開策が見いだせなくても、専門家へ相談した結果、事態が進行する可能性もあるでしょう。
いずれにしても、まずは専門家へ相談のうえ、解決へ向けた方向性を探ることをおすすめします。
まとめ
法務省は所有者不明土地の解消へ力を入れており、相続登記の義務化はその取り組みの一つです。
令和6年(2024年)4月1日の改正法施行後は、より期限を意識して相続登記する必要が生じるでしょう。また、相続登記の義務化は、施行日より前に起きた相続も対象です。
そのため、すでに故人名義の不動産がある場合には、早めに対応しておくことをおすすめします。
しかし、相続登記には非常に多くの書類が必要であり、これが相続登記を行うハードルになっているケースも多いでしょう。すべての手続きを司法書士へ依頼すれば手間は少なくて済むものの、この場合には費用が多くかかってしまいます。
そのような際には、「そうぞくドットコム不動産」のご利用がおすすめです。
また、そうぞくドットコムの運営会社であるAGE technologiesは、相続登記をきっかけに空き家の発生を抑制して利活用につなげる取り組みとして、令和4年国土交通省「住宅市場を活用した空き家対策モデル事業」に採択されております。所有者不明土地の発生を抑制したい各自治体との提携も進めておりますので、各自治体ご担当者様からのお問い合わせもお待ちしております。