葬儀・法要を行う際には、僧侶へ「お布施」を渡し故人の供養を行っていただきます。
しかし、このお布施については「どんな袋にどのような表書きを書けば良いのかよくわからない」と疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
寺院や僧侶とのお付き合いが少なく、親族の中の年長者との関係性も希薄になっている現代では、こういった疑問を持つ方が多くいることは仕方ありません。
ここでは、このような疑問に対し「お布施袋の種類」「お布施の表書きの書き方」「お布施のマナー・作法」を中心に解説します。
寺院・僧侶とのお付き合いは、その場限りではなく長年にわたり継続するものです。
お布施に関する知識を深め、寺院・僧侶との関係を良好に保てるようなマナーを身につけましょう。
お布施とは

はじめに、お布施について解説しましょう。
お布施とは、葬儀・法要の際に、僧侶からお経をあげてもらったり(読経)、その法事を導いて頂くこと(導師)に対して謝礼として手渡す金銭です。
しかし、このお布施はあくまでも読経・導師に対する対価としての金銭ではなく、「お気持ち」「お礼」という位置付けという特徴があります。
そのため金額に決まりはなく、僧侶から金額を指定されることもありません。
お布施の目的
お布施は、僧侶が行った行為に対して対価として「あげる」わけではありません。
寺院側は、受け取ったお布施をもとに寺院を維持し、ご本尊を守る活動をしている僧侶やその家族の生活を支えています。
そのため、お布施は間接的であれ、ご本尊を守ることを目的に使われると考えると良いでしょう。
お布施袋の種類

僧侶に渡すお布施袋は、次の5種類に分類することができます。
このお布施袋は、「お住まいの地域」「宗派」「法事の種類」によって使われ方が異なります。
- 水引なし・無地・表面に「御布施」
- 黒白の水引
- 黄白の水引
- 双銀の水引
- 奉書紙(ほうしょがみ)
種類①:水引なし・無地・表面に「御布施」
この種類のお布施袋は、水引がなく表書きに「御布施」と印刷された市販の袋、または無地の封筒にご自身で「御布施」と書いた袋です。
どちらも水引がないため、どのような法事でも使える万能なお布施袋と言えるでしょう。
この種類のお布施袋には、次の2種類があります。
封筒タイプ
一見すると質素な印象がある封筒タイプのお布施袋は、数千円から2万円ほどまでの金額を包む場合に使用します。
多当折りタイプ
封筒タイプのお布施袋とは異なり、多当折りタイプのお布施袋は高級感があり中袋がつくことが一般的です。
そのため、このタイプのお布施袋は、3万円から10万円以上を包む場合に使用します。
種類②:黒白の水引
黒白の水引がついた不祝儀袋は、一般的には通夜・葬儀での香典の際に使用されます。
お布施袋として使用する場合は、四十九日までの法事に限って使用することも可能です。
四十九日以降の法事で、お布施袋として使用する場合は、「種類①」で紹介したお布施袋が無難でしょう。
種類③:黄白の水引
黄白の水引がついた不祝儀袋は、主に関西地方で使用されています。
一般的に、一周忌以降の法事で遺族に渡す香典を包む際に使用されますが、お布施袋として使用することも可能です。
ただし、このタイプの不祝儀袋を使用するのは、一周忌以降のお布施からです。
種類④:双銀の水引
双銀(銀色×銀色)の水引がついた不祝儀袋は、黒白の水引がついた袋と同様に、通夜・葬儀での香典を包む際に使用します。
また、お住まいの地域によっては、僧侶へのお布施・戒名料を包む場合にも用いられています。
黒白の水引の不祝儀袋との違いは次のようになります。
- 比較的包む金額が高額(5万円~10万円)となる場合
- 寺院の格式が高い場合
種類⑤:奉書紙(ほうしょがみ)
お布施は、和紙でできた奉書紙に包むのが正式なマナーです。
奉書紙にお布施を包む手順は次のとおりです。
- お札を半紙で包む(この際のお札は肖像画が上向きなるように半紙に置く)
- 半紙で包んだお札を奉書紙でさらに包む
奉書紙には裏表があり、表面は光沢がありますが裏面はザラザラです。
ザラザラの裏面を表にしてにお札をおき、光沢がある面が表面がにくるよう包みましょう。
お布施袋の書き方

続いては、お布施袋の書き方の中でも、特に重要な「表書き」「中袋」「裏面」の書き方について解説します。
書き方①:お布施袋の表書き
お布施袋の表書きは、市販の「御布施」と記載されているもの以外は、漢字で上部に「お布施」と記載します。
また、お布施以外では、交通費として僧侶に渡す「御車料」、宴席代であるお膳料の「御膳料」などがあります。
ただし、この表書きは特定の宗教や仏教の一部の宗派で異なるため、注意が必要です。
宗教・宗派別の表書きの書き方は次のとおりです。
仏教の場合
仏教では、表書きは「お布施」もしくは「御布施」と書きます。
お布施・御布施以外では次のような書き方もあります。
- 「御回向料」
- 「御経料」
- 「御礼」
ただし、これら表書きは、地域や寺院によってまったく事情が異なる場合があります。
初めてお布施を渡す場合は、表書きの書き方を僧侶へ事前相談することをおすすめします。
また、表書きはお布施以外には、戒名をつけて頂いた際の「志」「戒名料」などもあります。
こちらの表書きについても、お布施同様に地域や寺院によって書き方が異なりますので、事前確認が必要です。
浄土真宗の場合
浄土真宗でも、お布施の表書きは「お布施」と書きます。
しかし、浄土真宗ではお布施の解釈が他の宗派とは異なり、お布施を阿弥陀如来に対する御礼と考えます。
そのため、浄土真宗の表書きは、他の宗派で肯定する次のような表書きを書くことはありません。
- 「回向料」
- 「御経料」
- 「志」
- 「戒名料」
ただし、御車代・御膳料に関しては、他の宗派同様に「御車代」「御膳料」と記載しても構いません。
神道の場合
日本に古来から伝わる神道にも、お布施という考えはあります。
神道のお布施の書き方は「御礼」「御祭祀料」と書くことが一般的です。
お布施の意味は、仏教と同様に神式の葬儀進行(神葬祭)や祝詞を読んで頂いた神職に対するお礼の意味合いがあります。
キリスト教の場合
キリスト教においても、お布施に該当するものがあり表書きは次のようになります。
- 「御礼」
- 「御ミサ料」
- 「献金」
- 「記念献金」
ただし、キリスト教の宗派のうち、プロテスタントの葬儀においては「御ミサ料」は絶対に使用してはいけません。
プロテスタントの表書きは「献金」「記念献金」を用いましょう。
書き方②:お布施袋の中袋
お布施袋の中袋には、表面にお布施金額を書き裏面には次の項目を書きます。
- 郵便番号
- 住所
- 電話番号
- 氏名
書き方③:お布施袋の裏面
中袋が無い場合は、封筒の裏面の左側にまとめて次の項目を書きます。
- 郵便番号
- 住所
- 氏名
- 電話番号
- お布施金額
原則的として、お布施は僧侶に対する労働の対価ではないため、お布施の金額を書く必要はないという解釈もあります。
しかし、寺院の経理では税務上の理由から、お布施金額は書いてあった方が都合が良いようです。
【状況別】お布施の名前の書き方

お布施の表書きと同様に、お布施袋には名前を書く必要がありますが、名前の書き方は状況によって異なります。
ここでは、名前の書き方を状況別に解説します。
家名を書く場合
葬儀・法事を行った家の名前を書く場合は、「○○家」と書きます。
ただし、表面に家名を書いた場合は、裏面に喪主か施主の名前をフルネームで書かなければなりません。
喪主・施主を書く場合
お布施で名前を書く際には、喪主や施主の名前を書くという状況はよく見られます。
この状況では、喪主・施主の名前をフルネームで書く場合と、苗字のみを書く場合があります。
フルネームで書く場合
喪主・施主の名前をフルネームで表面に書く場合は、裏面に住所・名前を書く必要はありません。
ただし、初めて知り合った僧侶にお布施を渡す場合は、裏面に住所・電話番号を書く配慮が必要です。
名字だけを書く場合
表面に名字だけを書くことも、特に問題ではありません。
ただし、名字だけを書いた場合は裏面にフルネーム・住所を書きましょう。
初めて知り合った僧侶にお布施を渡す場合は、フルネームで書く時と同様に住所・電話番号を書く事を忘れないでください。
連名で書く場合
お布施を複数人で出した場合は、連名で名前を書きます。
この際の人数が、3人までの場合であれば立場の高い順に、もしくは五十音順に右側からフルネームで書くことがマナーです。
また、4人以上の場合は表面に代表者のフルネームと「外一同」と書き、お布施を出した人全員の名前を書いた目録を同封します。
会社名で書く場合
企業が主催する社葬の場合は、企業側が僧侶へお布施を渡す場合もあるでしょう。
この場合は、会社名やその会社の代表者の名前を書きます。
なお、役員の複数人が連名でお布施を渡す場合は、先に説明した「連名で書く場合」と同様の書き方となります。
お布施袋の書き方の注意点

お布施の書き方には、表書きは以外でも注意点があります。
ここでは「金額の書き方」「使用する筆」「墨の種類」の注意点について解説します。
注意点①:金額は旧字体の漢数字で書く
金額は算用数字(1・2・3)ではなく、旧字体の漢数字(壱・弐・参)を使って書きましょう。
また、金額の頭には「金~」、金額の最後には「~圓也」をつけて表記します。
- 使用する漢数字:壱・弐・参・四・伍・六・七・八・九・拾・百・仟・万
- 使用する単位:圓
金額の記入例
- 5,000円:金伍阡圓也
- 10,000円:金壱萬圓也
- 30,000円:金参萬圓也
- 35,000円:金参萬伍阡圓也
- 50,000円:金伍萬圓也
- 100,000円:金壱拾萬圓也
避けるべき金額の数字
結婚式などのご祝儀では「割り切れる偶数は別れを連想させるため避けるべき」と言われます。
しかし、法事のお布施には避けるべき数字は原則的にはありません。
ただし、忌事に関する数字なだけに4(死)や9(苦しむ)などの数字を避けることが一般的です。
注意点②:筆は濃墨の毛筆を使う
お布施袋の表書きは、毛筆の濃墨で書きましょう。
お悔やみ事・弔事の際に、親族に渡す香典は薄墨を使用しますが、僧侶へ渡すお布施はお悔やみ事ではなく、僧侶への感謝の気持ちを込めて渡すものです。
そのため、お布施は通常の濃墨を使用し、筆は毛筆で書くことが推奨されています。
ただし、筆は書道などで使う毛筆でなくても、市販の筆ペンでも構いません。
また、中袋に書く文字も、濃墨を使用し毛筆で書くことが好ましいとされています。
【法要別】お布施の相場料金

お布施の金額は、行う法要の種類や規模によっても異なります。
ここでは、一般的な規模の法要を行う場合のお布施の費用相場について、法要別に解説します。
法要の種類 | お布施の相場 |
---|---|
葬儀 | 15万円~30万円 |
初七日法要 | 3万円~5万円 |
四十九日法要 | 3万円~5万円 |
百か日法要 | 3万円~5万円 |
一周忌・三回忌以降の年忌法要 | 3万円~5万円 |
納骨法要・開眼法要 | 1万円~5万円 |
初盆・お盆 | 3万円~5万円 |
葬儀
お通夜から葬儀の際のお布施の全国平均は、15万円から30万円が相場と言われています。
ただし、葬儀の際にかかるお布施相場は非常に地域差があり、特に関東地方・中部地方では高額となる傾向にあります。
初七日法要
故人が亡くなってから七日目には、初七日法要が行われます。
この初七日法要で必要となるお布施の相場は、3万円から5万円です。
ただし、最近では初七日法要を葬儀と同日に行うことも多くなりました。
このように、葬儀と初七日法要を同日に行う場合は、葬儀のお布施と初七日法要のお布施を合わせた金額を僧侶に渡します。
四十九日法要
四十九日法要は、故人の成仏を祈願する大切な法要で、この四十九日法要を境に納骨式を行う事が一般的です。
この四十九日法要のお布施相場は3万円から5万円となります。
百か日法要
百か日法要は、故人が亡くなり百日目に行われる法要で、四十九日を過ぎた後の最初に行われる大規模な法要です。
この百か日法要でのお布施相場は、3万円から5万円になります。
一周忌・三回忌以降の年忌法要
故人が亡くなってから、ちょうど一年目に行われるのが一周忌です。
この一周忌法要のお布施の相場は、3万円から5万円です。
また、一周忌以降の年忌法要は「三回忌」「七回忌」「十三回忌」と続き、お布施相場は1万円から5万円になります。
納骨法要・開眼法要
納骨法要は、お墓に遺骨を納める際に行う法要、開眼法要はお墓に故人の魂を入れる法要です。
この法要のお布施相場は、納骨法要・開眼法要ともに1万円から5万円となります。
初盆・お盆
初盆は、四十九日を過ぎてから初めて迎えるお盆をさし、この初盆では初盆法要を行います。
この初盆法要のお布施の相場は3万円から5万円となります。
なお、通常のお盆では菩提寺の僧侶が檀家の家を回り読経を行います。
この際のお布施は、初盆ほど高額ではなく5千円から1万円が相場です。
お布施以外に必要な料金

葬儀・法要の場では、お布施以外にも「御車代」「御膳料」が必要です。
ここでは、御車代と御膳料が必要になる場面と費用相場について解説します。
必要な費用 | 相場 |
---|---|
御車代 | 5千円~1万円 |
御膳料 | 5千円~1万円 |
御車代
法要を行う会場まで、僧侶が自家用車などを使ってお越しいただく際には、御車代が必要になります。
御車代の費用相場は5千円から1万円です。
御膳料
法要の後に会食を設けていて、僧侶が会食に参加されない場合は御膳料が必要になります。
御膳料の費用相場は5千円から1万円です。
お金を入れる際の注意点

お布施は、これまで説明してきた表書き・名前の書き方同様に、お金の入れ方にも注意が必要です。
ここでは、このお金の入れ方について、使うお金の種類・お金を入れる向きについての注意点を解説します。
- できるだけ新札を使う
- 肖像画を上向きにして向きを揃える
注意点①:できるだけ新札を使う
お布施に使用するお札は、できる限り新札を使いましょう。
葬儀での香典は、古いお札・折り目のついたお札を使用しますが、これには「不幸ごとを予想してあらかじめ新札を準備していた」という誤解を受けないためです。
しかし、お布施は僧侶に対する謝礼として渡すため、あらかじめ新札を準備することがマナーです。
どうしても新札が準備できない場合は、なるべくきれいなお札を包み、僧侶への感謝の気持ちを表します。
注意点②:肖像画を上向きにして向きを揃える
お札は、肖像画が印刷されている面を表側にして、上向きで揃えて入れます。
一万円札を例にすると、福沢諭吉が印刷されている面を表側、かつ福沢諭吉の肖像画が上になるように入れるということです。
このお札の入れ方は、慶事の入れ方となり弔事の入れ方とは正反対です。
お布施は葬儀の場でやり取りされますが、謝礼として僧侶に渡すため、弔事の入れ方をする必要はないのです。
お布施を渡す際の作法

お布施はいつ渡すべきなのか、またどの様に渡すのが作法として正解なのか、疑問をお持ちの方も少ないないでしょう。
ここでは、これらの疑問を解消するべく、お布施の渡し方の正式な作法について解説します。
- お盆にのせて渡す
- ふくさに包んで渡す
- 葬儀が始まる前に渡す
- 一言挨拶を添えてから渡す
- お布施とその他の料金は別々にする
作法①:お盆にのせて渡す
僧侶にお布施を渡す際には、手渡しで渡してはなりません。
お盆にお布施を乗せて、お盆のままお布施を渡すのが正式な作法になります。
この際、お布施が乗ったお盆を床に置き、そのお盆を僧侶の方へ寄せることはマナー違反となるため注意が必要です。
また、使用するお盆は正式には切手盆(きってぼん)・祝儀盆(しゅうぎぼん)と呼ばれるお盆が推奨されますが、このお盆をお持ちの家庭も現代では限られています。
そのため、家庭用のお盆であっても、落ちつた色合いのものであれば問題はないとされています。
作法②:ふくさに包んで渡す
お布施をお盆に乗せて渡せない場合は、ふくさに包んで渡すことが正式な作法です。
このふくさにお布施を包んで渡す際には、ふくさから中身を取り出して渡すのはマナー違反です。
弔事用の包み方をした上で、ふくさごと僧侶へ渡しましょう。
作法③:葬儀が始まる前に渡す
お布施を渡すタイミングは、葬儀が始まる前の挨拶をするタイミングで渡すと良いでしょう。
ただし、葬儀後に読経のお礼を述べるタイミングで渡しても問題はありません。
作法④:一言挨拶を添えてから渡す
お布施は、葬儀が始まる前、もしくは終了してから一言添えて渡すことが作法です。
この際に、僧侶に添える言葉には特別な言い回しは必要なく、次のようになります。
僧侶への挨拶の文例
葬儀が始まる前にお布施を渡す際には次のような言葉を添えましょう。
本日の法要お世話になります。
どうぞよろしくお願いいたします。
こちらをお納めください。
葬儀が終わった後、もしくは食事が行われる場合は食事が終わった後に渡す場合は、次のような言葉を添えましょう。
本日はありがとうございました。
どうぞお納めください。
作法⑤:お布施とその他の料金は別々にする
中には、お布施袋の中に御車代・御膳料をまとめて僧侶に渡す方がいます。
しかし、厳密にはこれらの「お布施」「御車代」「御膳料」はまったく性質の異なるものです。
誤解を与えないためにもこれらは別々の袋に入れ、お布施を一番上にして3つの袋を重ねて渡すことが作法です。
まとめ

寺院との付き合いの中でお布施は必要不可欠なものですが、お布施を渡しさえすれば良いというものではありません。
それは、お布施が単なる金品や報酬ではなく、僧侶に対する感謝の気持ちを表す品だからです。
寺院との付き合いは長年にわたり続き世代をまたぐことが一般的となるため、ご自身がお布施に関する知識を深めた後は、その知識を子や孫に伝えることも重要になります。
そうすることで、一家は長年にわたり寺院と良好な関係を続けることができるのです。