仏式の葬儀では、参列者は祭壇の前でお焼香を上げ故人の冥福を祈りますが、このお焼香の正確な作法を知っていますか?
葬儀経験の少ない方の中には、「お焼香のやり方はよくわからないが前の人と同じやり方で大丈夫だろう」と考える方もいます。
しかし、ご自身が一番最初にお焼香をすることになれば、お焼香のやり方がわからずに恥ずかしい思いをしてしまう可能性もあります。
そこで、今回はお焼香の正しい知識として「お焼香の種類別の作法」「お焼香の宗派別の作法」「お焼香を行う順番のマナー」などを中心に解説します。
お焼香の作法は、宗派ごとにやり方が異なるため予備知識が重要です。
いざというときに備えて、お焼香の基本的なマナーを身につけておきましょう。
お焼香とは

お焼香とは、仏前にお香をたき仏様を拝む行為です。
お香には香木を砕いた「抹香」が使用され、葬儀で「お焼香をする」と言われる場合は、一般的にはこの抹香をあげる行為を指しています。
中には仏壇やお墓の前で線香をあげる行為を「お焼香」と呼ぶ方もいますが、この場合は「お線香をあげる」という言い回しが適切で、日常のお参りでお焼香という表現は適切ではありません。
お焼香をあげるという行為は「葬式」「通夜」「告別式」「法事」など、仏教儀式の中で行う行為と考えましょう。
お焼香の意味
お焼香をたく行為は、その場に「香り」を立たせることを目的としていていますが、宗教上次のような意味もあります。
- 抹香の香りは身と心を清める効果があるとされて、お参りする方は穢れを取り除いた清らかな心身で故人を供養できる
- 仏教では四十九日までは故人の食べ物は「匂い」とされているため、故人の食べものとしてお焼香を用いる
- 仏教ではお焼香の煙は故人とコミュニケーションを取るための手段と考えられているため、特に別れの儀式や故人の魂が帰ってくるお盆などはお焼香の煙を重要視する
お焼香の種類

お焼香には3種類のやり方があり、葬儀会場の大きさや参列者の数によって、どの種類のお焼香を行うのかは喪主や葬儀業者によって決められます。
事前にお焼香の種類を告知することはありませんので、葬儀に参列する方はどの種類のお焼香であっても対応できた方が良いでしょう。
お焼香の種類は次のとおりです。
- 立礼(りつれい)焼香
- 座礼(ざれい)焼香
- 回し焼香
種類①:立礼(りつれい)焼香
葬儀・告別式の際に椅子が設けられている斎場では、葬儀参列者は遺影の前に設置されている焼香台の前に進みお焼香を行います。
このように、葬儀参列者が立った状態で行うお焼香が立礼焼香です。
種類②:座礼(ざれい)焼香
椅子を設置するスペースがない小規模な葬儀会場では、祭壇や焼香台も低い位置に設置されているため、座った状態でお焼香をすることになります。
このように、葬儀参列者が座った状態で行うお焼香が座礼焼香です。
種類③:回し焼香
自宅で葬儀を行う際に大きな葬儀スペースを設けることは難しく、焼香台に進む導線の確保も困難です。
そのため、特に狭い場所で葬儀を行う際には、香炉と抹香をのせたお盆を用意しそのお盆を葬儀参列者の間で移動させながらお焼香を行います。
このように、参列者が座ったままで焼香台を移動させるお焼香が回し焼香です。
【種類別】お焼香の作法

先ほどお伝えした3種類のお焼香には、そのお焼香ごとに特有の作法があります。
ここでは、参列する葬儀がどのようなお焼香であっても対応できるよう、お焼香の種類別にそれぞれの作法と手順を解説します。
立礼焼香の場合
お焼香の中で最も一般的で、基本となるのが立礼焼香です。
立礼焼香の作法の手順は次のとおりです。
- 前の順番の方が席に戻り着席するタイミングで立ち上がる
- この際に次の順番の方に軽く会釈する
- 焼香台の前に着いたら遺族に向かって軽く一礼をする
- 焼香台の手前で遺影に向かい深く一礼をする
- 焼香台に進み抹香を右手の親指・人先指・中指の3本でつまむ
- 抹香をつまんだまま軽く頭を下げながら右手を頭の高さまで掲げる(この作法は「お香を押し頂く」と呼ばれます)
- 押しいただいた抹香を静かに香炉へと落とす
- 数珠を両手にかけて合掌する
- お焼香が終わればそのままの向きで3歩ほど下がり遺族へ一礼して自分の席に戻る
なお、夫婦で参列する場合は焼香台までは一緒に進みますが、お焼香は個別に行うのがマナーとなっています。
座礼焼香の場合
順番が回ってきたら焼香台まで進みお焼香を行うのは立礼焼香と同じですが、座礼焼香では席から焼香台までの移動に特有の作法があります。
自身の席と焼香台までの距離が比較的近い場合では、「膝行・膝退(しっこう・しったい)」と呼ばれる方法で移動します。
この膝行・膝退の移動方法は次のとおりです。
- 座ったままの状態で両手の親指だけを立て他の指を握りこむ
- そのままの体制で両腕を前に出し体を前方に傾けて拳を前方の床に着ける
- 前方に着いた拳を支点にして身体を軽く持ち上げ腰を前に押し出す動作を繰り返しながら進む
この膝行・膝退で移動するのは、あくまでも焼香台までの距離が短い場合です。
焼香台までの距離がはなれている場合は、中腰で進んでも問題はないでしょう。
回し焼香の場合
隣りの方から香炉と抹香が回ってきたら軽く会釈をして受けとり、お焼香を行った後は隣りの方に回します。
会場が座敷であれば自身の前に香炉と抹香を置いてお焼香を行いますが、いす席の場合はご自身の膝の上でお焼香を行いましょう。
お焼香を行う順番のマナー

実は、お焼香を行う親族間の順番に絶対的な決まりはありません。
しかし、この事情は「お住まいの地域」「風習」「しきたり」によっては異なるため、お焼香の順序を巡って葬儀後に親族間でトラブルに発展するケースも珍しくはありまん。
このような事態を避けるため、喪主はあらかじめお焼香の順番を決めておいておいた方が賢明です。
一般的なお焼香の順番は次のとおりです。
- 喪主(長男・長女)
- 故人の妻や両親
- 喪主の妻や子供
- 喪主の兄弟姉妹やその子供
- 故人の兄弟姉妹
- 故人の妻の兄弟姉妹
- 喪主の妻の両親
- 喪主の妻の兄弟姉妹
- 喪主の従兄弟姉妹
また、これ以外にも大規模な葬儀を行う場合では、近
- 親者のお焼香:親族焼香
- 一般参列者のお焼香:一般焼香
と区別してお焼香を行う場合もあります。
この他、通常のお焼香を「個人焼香」と呼ぶことに対して、会社の代表者などがお焼香を行うことを「代表者焼香」と呼ぶこともありますので、あわせて覚えておきましょう。
【宗派別】お焼香の作法

ここまではお焼香の種類ごとに作法を解説してきましたが、お焼香の作法はこれだけではありません。
お焼香の作法は、同じ仏教であっても宗派が異なれば作法も異なるのです。
ただし、この宗派ごとの作法をすべて把握して葬儀ごとに使い分けることは非常に困難なため、ご自身の宗派の作法でお焼香を行っても良いとされています。
ご自身の宗派の作法を確認する意味でも、各宗派の作法を確認してください。
宗派ごとの作法は次のとおりです。
宗派①:天台宗
線香は3本立てますが焼香の回数に決まりはなく、1回もしくは3回お焼香を行います。
宗派②:曹洞宗
線香を1本立て、お焼香回数は2回とされています。
一回目のお焼香は押しいただいて(つまんだお焼香を頭の高さまで上げる行為)から香炉に落とし、2回目のお焼香はそのまま香炉に落とします。
宗派③:日蓮宗
線香を1本立て、焼香回数は僧侶が3回、参列者は1回とされています。
宗派④:真言宗
線香を3本立て、お焼香は押しいただき3回行います。
宗派⑤:臨済宗
お線香を1本立て、お焼香の回数は1回もしくは2回行う場合もあります。
また、一回目のお焼香は押しいただいてから香炉に落とし、2回目のお焼香はそのまま香炉に落とします。
宗派⑥:浄土宗
「お香を押しいただくかどうか」「線香を用いるかどうかの」「お焼香をする回数」などに特に決まりはなく、お焼香を行う方に任されています。
また、線香は折って寝かせる「寝線香」を行います。
宗派⑦:浄土真宗本願寺派(西本願寺)
線香は1本の線香を2つ折りか3つ折りの寝線香で供え、お焼香の回数は1回とされています。
この際に、お香を押しいただくことも合掌することもありません。
宗派⑧:真宗大谷派(東本願寺)
線香は浄土真宗と同じく寝線香で供え、お焼香の回数は2回とされています。
この際に、お香を押しいただくことはありません。
【宗派別】お焼香回数一覧表

宗派ごとの作法で特に異なるのは、お焼香回数と押しいただくかどうかです。
ここでは、このお焼香回数と押しいただくかどうかについて、宗派ごとに表に記載します。
宗教 | 作法(焼香回数・押しいただくかどうか) |
---|---|
天台宗 | 回数の定めはなく押しいただくかどうかも自由 |
曹洞宗 | 2回行い1回目は押しいただき2回目は押しいただかない |
日蓮宗 | 押しいただき1回行う |
真言宗 | 押しいただき3回行う |
臨済宗 | 押しいただき1回行う(2回行う場合は1回目は押しいただき2回目は押しいただかない) |
浄土宗 | 回数の定めはなく押しいただくかどうかも自由 |
浄土真宗本願寺派 | 押しいただかず1回行う |
真宗大谷派 | 押しいただかず2回行う |
【宗教別】お焼香の作法

お焼香は仏式の葬儀に限られますが、他の宗教でもお焼香と同じ意味を持つ儀式が行われます。
ここでは、神道とキリスト教においてお焼香に代わる儀式とその手順について解説します。
神式の場合
神式では、お焼香に代わり「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」と呼ばれる儀式が行われます。
この玉串奉奠の儀式では、榊の枝に「紙垂(しで)」とよばれる紙片をつけた玉串をささげます。
玉串奉奠の手順は次のとおりです。
- 左手で葉を右手の親指で枝の下を支えるように玉串を受け取る
- 祭壇へ進み祭壇へ一礼してから根元を手前にして玉串を縦にする
- 左手に持ち換えて葉先が手前に向くよう玉串を時計回りに反転させる
- 玉串の根本が祭壇側になったら静かに祭壇へ置く
- 「二礼」「しのび手(音を立てない拍手)」「二拍手」「一礼」し、一歩下がって遺影に一礼して戻る
なお、玉串奉奠では玉串を使用しない場合もあり、この場合は神前で「二礼二拍手一礼」のみを行います。
キリスト教式の場合
キリスト教式では、お焼香に代わり「献花」と呼ばれる儀式を行います。
この献花とはカーネーションなどの花を参列者が持ち、一人ずつ祭壇へ進み花を手向ける儀式です。
献花の手順は次のとおりです。
- 右手側に花が来るように両手で花を受け取る
- 祭壇へ進み手前で一礼する
- 茎が祭壇へ向かうよう時計回りに回転させ献花台に花を手向ける
- 深く一礼する(黙禱をささげるのも可)
- 頭を上げ前を向いた状態で一歩下がり遺影に一礼して戻る
この献花はキリスト教以外にも無宗教の葬儀でも行われます。
また、参列者が多く一人ずつ献花ができない場合は、献花を省略して参列者全員で黙禱をささげる場合もあります。
お焼香を行う際のマナー・注意点

焼香を行う際には、焼香の作法以外にもマナー・注意点があります。
たとえお焼香を作法通り行えたとしても、故人や遺族に失礼があれば、遺族はあなたへ良くない印象を持つでしょう。
このように、お焼香を行う際の一般的な葬儀マナーは、ときとしてお焼香のマナーより重要視されるのです。
- お焼香中はマスクを外す
- 言葉遣いに気をつけお悔やみ言葉を使う
- 適切な服装であるのかを確認する
- 相手に迷惑をかけないお供えを用意する
- 数珠を忘れず用意する
マナー・注意点①:お焼香中はマスクを外す
風邪や花粉症であればマスクを欠かすことはできませんが、お焼香を行う際にはマスクを外すことがマナーです。
ただし、お焼香を待つ時間やお焼香を終えてからはマスクをつけても問題はありません。
焼香台の前に立ち故人の遺影に対峙する際には、マスクを外し臨みましょう。
マナー・注意点②:言葉遣いに気をつけお悔やみ言葉を使う
遺族にお悔やみを伝える際には、あらかじめ用意したお悔やみ言葉を伝えた方が良いでしょう。
お悔やみ言葉として相応しくない言葉をあらかじめ把握して、決して遺族に失礼がないように心掛けてください。
お悔やみ言葉として相応しくない言葉とは次のとおりです。
- 「たびたび」「いよいよ」「ますます」など1つの言葉を重ねて使う重ね言葉
- 「再び」「なお」「追って」など繰り返しを予感させる言葉
- 「死亡」「死ぬ」「生きる」など直接的な言葉
マナー・注意点③:適切な服装であるのかを確認する
葬儀に参列する際の服装は、基本的にはブラックのフォーマルを着用します。
靴下やストッキングも黒色を着用し、髪色が明るい方は当日だけでも黒色にした方が良いでしょう。
葬儀の場では、全員が同じ格式の服装で統一することが重要です。
一人だけ格式の低い服装でお焼香を行うと、場の雰囲気を壊し遺族から反感を買ってしまいます。
マナー・注意点④:相手に迷惑をかけないお供えを用意する
お焼香に伺う際には、お供え物を持参する場合もあります。
この際のお供え物は、相手の迷惑にならないような品物を選びましょう。
特に、お供え物の定番である和菓子などは極端に賞味期限が短いものもあり、このようなお供え物を頂いた場合遺族は困惑してしまいます。
食品をお供え物として持参する際には、賞味期限が長くできるだけ傷みづらいものを贈るなどの配慮が必要です。
マナー・注意点⑤:数珠を忘れず用意する
最近では数珠を持っていない方も増えましたが、お焼香を行う際には数珠は必ず必要です。
この数珠は房を下にして左手で持ち、移動の際には左手に持つか手首にかけることが基本です。
大きな葬儀場などでは数珠を忘れた方へ貸し出しも行っていますが、数珠の貸し借りは基本的にはマナー違反です。
数珠は故人の冥福を祈る大切な仏具と考え、ご自身の数珠を用意することをおすすめします。
長い数珠の持ち方
長い数珠は「本式数珠」と呼ばれる正式な数珠です。
この数珠は座っている時は二重にした状態では左手首に掛け、お焼香時には左手に持って行います。
合掌の際には両手を合わせた状態で、親指と人差し指の付け根の間に二重に掛ける形で持ちましょう。
短い数珠の持ち方
短い数珠は「略式数珠」と呼ばれ、本式数珠より少ない個数の玉でできています。
略式数珠の持ち方は本式数珠と同じですが、長さが短いため一重のまま使用することになります。
ちなみに、略式数珠には男性用と女性用があるため、購入の際には気をつけてください。
合掌の仕方

仏前で手を合わせる行為は合掌と呼ばれ、いくつかの形がありそれぞれやり方が異なります。
最も一般的な合掌の手順は次のとおりです。
- 両手を腕の高さまで上げ肘が胸につかないようにして少し前に構える
- 指先を45度の角度に傾ける
- 肘を張らずに脇に寄せる姿勢で手を合わせる
まとめ

お焼香は故人と最後のお別れができるよう、葬儀参列者一人ひとりに割り当てられた貴重な時間です。
そのため、作法に不安があれば落ち着いた気持ちで故人を偲ぶことができず、後悔の念が残ってしまうでしょう。
お焼香についての正しい知識と作法を知ることは、ご自身が葬儀の場で恥をかくこと以上に、大切な方との最後の時間を充実したものにするためにも必要なことなのです。