【2024】任意後見制度とは?専門家がわかりやすく解説

任意後見制度について解説認知症対策
この記事を監修した専門家は、
勝 猛一
司法書士
創業してから23年、東京・大阪・横浜に拠点をもつ司法書士法人の代表。平成21年から遺言・相続・成年後見セミナーをスタートし、現在は年間50回以上の講演を行う。平成28年大学院に入学し任意後見制度についての修士論文を出すなど、任意後見制度の知識の普及、啓発に力を入れている。

任意後見人制度とは、認知症などに備えて、必要な判断能力を持っている間に、前もってご本人が選んだ人に代わりに後見に関する事務業務を決めておく制度のことです。

この記事では認知症など自己判断能力に不安がある人を法的に保護・支援する「成年後見制度」の一つである「任意後見制度」について、①任意後見人ができることを解説②任意後見人になれる・慣れない人③任意後見人とのトラブルについての3部構成で専門家が分かりやすく解説します。

任意後見人ができることを解説

任意後見制度は、判断能力が衰えたら信頼できる人に任意後見人になってもらい、自分の財産の管理、介護サービス等の契約を任せられる制度です。しかし、この任意後見人が本人の代わりにすべてのことをできるわけではありません。今回は、任意後見人にできることを詳しく解説します。

任意後見人ができること

任意後見人ができることは、おもに本人の「財産管理」と生活を維持するために必要な契約等の「身上監護」をすることです。そして、契約書に記載のない事項については本人に代わって代理行為はできません。

預貯金の管理

本人の財産管理として預貯金の管理を行います。そのために、まず各金融機関に連絡し預貯金の名義変更の手続きを行います。

口座名義の一例としては「鈴木一郎 任意後見人 勝司法書士法人 代表社員勝猛一」になります。この手続きは、金融機関によって対応が違います。後見制度を理解していない窓口担当者もいますので事前に連絡を取り必要書類等を準備します。また、入出金の管理のため定期的に通帳記帳を行い、出納帳を作成します。

 

年金の受領

年金の受領や変更等の手続きをします。年金通知書等の送付先の変更年金を受取る金融機関、口座名義を変更することもできます。

もちろんこの手続きができるのは契約で「任意後見人に年金に関する諸手続きを委任する」という記載がある場合です。

 

福祉関係の契約

施設への入所が必要になった場合、親族と相談の上本人に合う施設探しから始めます。あらかじめ本人の希望として施設を決めておいてもすぐに入所できるとは限りません。施設が満室ということもあるからです。施設が決まったら入所手続きや費用等の支払いをします。

必要に応じて住民票の移動、住所変更による行政手続きも行います。

 

介護認定の申請

身体の状態が衰えたら公的介護保険サービスを受けられるように要介護認定の申請をします。各自治体には、オムツ代の補助など福祉関係のさまざまな制度があります。本人が受けられる補助金や手当て等の行政手続きも任意後見人が行います。

 

遺産分割協議

本人が相続人となった場合は、任意後見人は本人に代わり遺産分割協議に加わります。

 

医療契約の締結

病院への入退院の手続きをします。しかし、手術や治療などのいわゆる医療行為の同意は親族ではない任意後見人にはできません。

 

商品の購入や契約

介護用ベッドや補聴器の購入等も行います。本人のために購入したものは必ず領収書をもらい出納帳を作成するために保管します。

 

任意後見人ができることのまとめ

任意後見人ができることは以下の通りです。

できること

・預貯金の管理

・年金の受領

・福祉関係の契約

・介護認定の申請

・遺産分割協議

・医療契約の締結

・商品の購入や契約

任意後見人は、契約書に記載されていること以外は本人に代わって代理行為はできません。不動産の管理や処分も必要であれば記載しておきましょう。任意後見人に何をお願いするかは、専門家に相談し具体的に定めておくことが大切です。

 

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任意後見人になれる人・なれない人を解説

任意後見人は誰でもできるわけではありません。任意後見人になれない方もいらっしゃるのでご注意ください。

任意後見人になれる人

任意後見人に資格はいりません。本人が自由に決めることができます。本人が誰を任意後見人にするか、という決定権を持つことは任意後見の大きなメリットとなります。実際に7割~8割が子どもや甥・姪などの親族や信頼できる友人を任意後見人として契約しているようです。ただし、信頼関係だけで選ぶのではなく任意後見人として手続きがしっかりとできるか、ということも考慮すべき大切な点です。

任意後見人は、本人の財産管理や入退院の手続き、施設入所の手続きなどのさまざまな事務手続きをしなければなりません。これが思いのほか負担となる場合があるからです。そのため本人よりせめて10歳以上年下である必要があるでしょう。できれば親子くらいの年の差がある方が無難です。任意後見の契約内容をよく理解し手続きについても理解できる人を選びましょう。

 

任意後見人になれない人

任意後見人になれない人は次のようになります。

任意後見になれない人の特徴

・未成年者

・家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人

・破産者

・行方の知れない者

・本人に対して訴訟をした人、およびその配偶者と直系血族

・不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

 

任意後見人になれる人のまとめ

任意後見人に資格はいりません。本人が自由に決めることができます。これが任意後見の大きなメリットとなります。信頼関係だけで選ぶのではなく任意後見人としてしっかりと手続きができるか、ということも考慮すべき大切な点です。後見業務を行っている法人に依頼するのも1つの選択肢です。その際は後見業務の経験が豊富な法人を選びましょう。任意後見制度を利用する場合、誰を任意後見人にするかは大変重要なポイントです。

というのも、任意後見人は自分の大切な財産管理や入所する施設等を決めてくれる人です。任意後見人を誰にするか思い当たらない場合は法人も一つの選択肢です。

 

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任意後見人とのトラブルとその対策案について

任意後見契約の契約件数は増加傾向です。任意後見契約とは将来の認知症などに備えて後見人を自分で決めてやってもらいたいことも決めておける大切な契約です。

しかし、任意後見契約自体は必ずしも世の中で認知度が高いとは言えません。このため、契約内容の誤解や不理解から任意後見人として問題を起こしてしまうトラブルに遭う事例が発生しています。任意後見人になるには、しっかりとした準備や知識が必要です。今回は、任意後見人に起こったトラブルについて解説しその対策案も紹介していきます。

任意後見のスタート

任意後見をスタートさせることを「任意後見契約の発効」と表現します。本人の判断能力が衰えているにもかかわらず任意後見人が、この「任意後見契約の発効」させるための申立てをしないという問題があります。任意後見契約は、公証役場で契約書を作っただけではまだスタートしません。

任意後見契約は、「任意後見契約を発効」させるには家庭裁判所に「任意後見監督人選任の申立て」をします。この任意後見「監督人」が決まってから任意後見がスタートします。任意後見人は、この任意後見監督人に対して定期的に本人の財産状況や身体状況について報告しなければなりません。任意後見人は監督される立場になり負担が大きく後見をスタートさせたくない心情もあるようです。そのため、せっかく任意後見契約をしても「任意後見監督人選任の申立て」をする割合は任意後見契約中、約5.3%程度とかなり少ない状況です。

任意後見人と任意後見監督人との関係

親族が任意後見人の場合

「他人の財産を預かっている」という認識が弱く財産の管理や報告がずさんになることがあります。このような場合、監督する立場の任意後見監督人に「任意後見人として不適格なのでは?」と判断されかねません。また、任意後見人は代理権目録の範囲内でしか代理行為ができません。

 

代理権目録とは

本人の生活、療養看護や財産の管理に関して任意後見人に代理してやってもらいたい事を書いてあるものです。この代理権の定め方が曖昧だと任意後見人と任意後見監督人の「代理権の範囲」の判断に違いが出てくることがあります。

たとえば、自宅の建替えや売却については、任意後見監督人に相談し家庭裁判所と協議してもらうことが必要になる場合があります。しかし、具体的な方法が書かれていないと任意後見監督人に承諾を取りつけることは難しいでしょう。

 

任意後見人と親族との関係

親族ではない任意後見人は本人の医療行為について同意をすることができません。手術やワクチン接種が必要になった場合に医療関係者から親族の同意を求められることがあります。実際の事例でも遠方の親族や付き合いのあまりない甥、姪に連絡しても協力的ではないこともあり、治療やワクチン接種が遅滞してしまうことがあります。また、それとは逆に任意後見人に対していろいろ指示をしてくる親族もいます。代理権目録に定められた範囲外のことを指示するなど本人の意思だとは思えないことを主張してくることもあります。

 

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トラブルが起きないための対策

任意後見をするにあたり、トラブルが起きる可能性もあります。スタートするにあたりトラブルが起きないよう、以下の点は抑えておきましょう。

任意後見のスタート

本人の判断能力が衰えている状況にもかかわらず「任意後見契約の発効」をさせないことには問題があります。本来「任意後見制度」とは、将来の本人の判断能力の衰えに備える制度です。そして、本人は将来判断能力が衰えても自分の意思を尊重してもらった生活をしたいと願い契約をします。この本人の思いを大切にするためにも任意後見人は、本人の判断能力が衰え始めたと感じたら「任意後見監督人の申立て」を視野にいれなければなりません。

 

任意後見人と任意後見監督人との関係

任意後見人が親族の場合、自分の財産と分離して管理する必要性から実際は親族だったとしても、他人の財産を管理しているのだと強く認識することが大切です。さらに「代理権の範囲」の判断に意見の相違がないように代理権目録の内容は具体的に定めておく必要があります。代理権目録を補強する意味でもライフプランを作成することをお勧めします。

ライフプランとは、将来の希望や本人の趣味・嗜好などの細かい希望をまとめたものです。

所有している建物の建替えや売却については特に詳細に代理権目録やライフプラン等に記載することが大切です。本人の判断能力がしっかりしている間に設計や予算額、請負業者、借入れ予定の金融機関について確認しておきます。金融機関に借入れを予定していれば事前にその金融機関と打ち合わせも済ませておく必要があります。将来、自宅を売却する状況になっても代理権目録やライフプランに詳細に記載されていれば任意後見監督人にも説明しやすくなるでしょう。

 

任意後見人と親族との関係

司法書士などの専門家の任意後見人と親族との関係は難しいものがあります。あらかじめ本人に、必ず連絡が取れるような親族を確認すること、そして、その親族に任意後見契約をしたことを説明しておいてもらうことが大切です。

司法書士法人では、契約書の作成の時点から同席してもらうこともあります。医療行為についての同意などは親族しかできないことも伝えてもらうと良いでしょう。加えて親族には、代理権目録やライフプランの範囲内でしか任意後見人には代理権がない、と説明してもらっておくことも大切です。

 

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まとめ

 

任意後見制度は、認知症などが発症してしまった後など判断能力が十分でなくなってからでは契約を結ぶことができません。

しかし、判断能力があるうちに制度を活用していれば自分の財産を管理する人を後見人に選ぶことができるので有用な制度と言えます。

そのため、正しい手順を踏めば安心の生活を送れます。ただ、詳しい手続きは専門知識が必要にもなりますので司法書士などの専門家に相談しましょう。

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勝 猛一
司法書士
創業してから23年、東京・大阪・横浜に拠点をもつ司法書士法人の代表。平成21年から遺言・相続・成年後見セミナーをスタートし、現在は年間50回以上の講演を行う。平成28年大学院に入学し任意後見制度についての修士論文を出すなど、任意後見制度の知識の普及、啓発に力を入れている。