任意後見人制度とは?認知症の対策には「法定後見人制度」を活用しよう

認知症対策
この記事を監修した専門家は、
牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。

日本の平均寿命が医療の発達ともにどんどん上がっています。2017年の調査(厚生労働省「簡易生命表」より)では、

  • 女性82.26歳(20年前の1996年は83.59歳)
  • 男性81.09歳(20年前の1996年は77.01歳)

と公表されており、男女ともに年々寿命が伸びています。寿命は伸びていますが、当たり前ですが人はいつまでも健康的で居られる訳ではありません。特に大きな事故や怪我に合わなくても、高齢者になると 認知症 になる可能性も出てきます。認知症は相続と深い関わりがあり、かつ多くの方がかかってしまう可能性があるものであるため、正しい知識を身につけ、対策を行っておくことが重要です。そこで本稿では、相続と深く関わる 認知症対策 にフォーカスを当てて、ご説明します。

1.認知症になると何が困るの?

本人でもお金が引き出せなくなる

認知症(または脳梗塞)などの高次脳機能障害になると、法的能力が認められなくなります。
そして法的能力が認められなくなると、本人でさえも自由に銀行からお金を下ろしたりする事が困難になります。
※細かな対応は銀行によって異なるため、一概には言えません
例えば、親の生活費、医療費など老後には様々なお金が必要となりますが、認知症になると本人がお金を自由に下ろす事ができなくなる可能性が高く、そうすると親のお金を親族が使うこともできなくなります。
すると、親の介護などを行う親族は、代わりに自分たちの財産で親の生活費や医療費などを賄う必要が出てきます。
これは大変ですよね。親の口座にお金が入っているのに、誰も引き出す事ができなくて使えない、というのは金銭的なデメリットしかありません。

60歳以上の5人に1人が認知症の可能性

認知症というのは、どれくらいの割合で発症しているのでしょうか。
厚生労働省の平成24年のデータを見ると、65才以上の高齢者人口3,079万人に対して、

  • MCI(正常と認知症の中間の人)の人:400万人(12.9%)
  • 認知症高齢者:462万人(15.0%)

という数値が出ています。つまり、65歳以上の高齢者の4人に1人(27.9%)が、認知症または認知症と正常の間にいる人ということになります。
もちろん、認知症の発症を防ぐために予防対策などはできますが、高齢になればなるほど、発症を防ぐのは難しいと考える方が良いのかもしれません。
さて、このような現状を踏まえ、重要になってくるのが「認知症になる前の事前対策」です。
先ほども述べたように、認知症は多くの高齢者がなってしまう可能性が高いですが、認知症になってしまうと法的能力が認められなくなり、相続を考える上でたくさんの問題が生じます。
次章以降で、具体的な対策の1つとして、任意後見制度についてご説明します。

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2.成年後見制度とは?

成年後見人制度について

まずそもそもの前提として、成年後見制度というものをご存知でしょうか?
これは「意思能力にある継続的な衰えが認められる場合に、その衰えを補い、その者を法律的に支援するための制度」として、民法で定められている法的制度です。
前章で説明した、認知症などによって本人の意思能力が衰えてしまった場合に、第三者を成年後見人としてたて、後見人が財産の管理を行うことができるという制度です。

成年後見人制度は、2種類ある

成年後見人制度は、

  1. 任意後見人
  2. 法定後見人

という2つの制度が存在します。
どちらも「認知症などで本人の意思能力が衰えた場合に、後見人に財産管理を任せる」と言う点は同じですが、前者(任意後見人)は後見人を任意で選ぶことができ、後者(法定後見人)は、家庭裁判所で法的に決められた人(多くの場合弁護士)が後見人になる、と言う制度です。
違いとしてはこれだけなのですが、細かく見ると、任意後見人と法定後見人とでは内容が大きく異なります。
また法定後見人には様々なデメリットがあります。
つまり本稿で伝えたいのは、

  • 認知症の事前対策として任意後見人制度を利用すべき!
  • 認知症になってしまってからだと、法定後見人制度しか使えないので注意!

ということです。
それぞれ解説していきます。

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3.任意後見と法定後見について!

任意後見人制度とは

繰り返しになりますが、任意後見人制度とは、

  • 認知症などで本人の意思能力が衰えた場合に、後見人に財産管理を任すことができる
  • 後見人を任意で選ぶことができる

制度です。
任意後見人が優れているのは、

  • 契約後も、親は自由に自分の資産を使える
  • 費用があまりかからない

と言う点にあります。

契約後も、親は自由に自分の資産を使える

例えば、親と子が任意後見契約を結んだとします。
これは公証役場で交わすことになりますが、契約を交わした後でも、親が元気なうちは自由に自分の資産を使うことができます。
つまり、親が元気なうちは、たとえ契約を交わしていても、財産の管理権は親自身にあり、子に管理権はありません。
認知症の対策として「法定後見制度の申し立てをしたい」と親に言ったところで「まだ元気なのに、財産の管理は渡せない!」と、親と喧嘩になってしまった、などの話を聞くことがありますが、任意後見制度の場合はこの心配はありません。
「もしも認知症になってしまった時に、銀行からお金を降ろせなくなると家族全員が大変だから任意後見契約を結んでおこう、元気なうちは財産の管理はそのままだよ」と説明すれば親も納得してくれることでしょう。

費用があまりかからない

任意後見制度は、後で説明する法定後見人制度と比べて、比較的安価で済ませる事ができる点も優れています。
費用の話をする前に、まずは任意後見制度の流れについてご説明します。

  1. もしもの時のために、任意後見について親と話す
  2. 公証役場で任意後見契約を結ぶ
  3. 親が認知症になる
  4. 家庭裁判所への申し立てを行う
  5. 監督人がつく
  6. 後見人が財産の管理を行う(監督人への報告義務がある)

のです。
上記の流れの中で費用がかかるのは、

  • 公証役場での契約費用(3〜5万円)※後見人の人数によって異なる
  • 家庭裁判所への申立費用(1万円)※精神鑑定が必要な場合はプラス5〜15万円
  • 監督人への費用(月額1〜3万円)※財産価額によって変動

です。あくまでも費用感は目安ですが、だいたいこの程度です。
また、上記の中で、「家庭裁判所への申立費用」「監督人への費用」の2つについては、実際に認知症が発生してからかかる費用であるため、実質的に対策自体は公証役場での契約費用のみとなります。
これだけ説明してもいまいちお得感が感じられないかもしれませんが、のちに説明する、法定後見人と比較すると、特に監督人の費用の部分において、お得になります。

法定後見人制度とは

さて、これまでは任意後見人制度の説明をしてきましたが、次に法定後見人制度について説明します。
まず重要な部分をお伝えすると、親が認知症になってしまった後は「法定後見人制度しか使えない!」という点です。
法定後見人制度の流れをご説明します。

  1. 親が認知症になる
  2. 家庭裁判所への申し立てを行う
  3. 法定後見人がつく(家庭裁判所が選んだ弁護士)
  4. 後見人が財産の管理を行う

お気付きの通り、流れとしては任意後見制度と大きく変わりません。
しかし、次の点において、法定後見制度はデメリットがあると言えます。

  • 法定後見人の財産管理が厳しい
  • 法定後見人の費用が任意後見に比べ高い

法定後見人の財産管理が厳しい

まず、法定後見人では、監督人ではなく法定後見人として家庭裁判所が選んだ弁護士が選ばれることになりますが、この法定後見人の財産管理は非常に厳しいものとなっております。
任意後見の場合も、監督人がつきますが、ある程度は後見人の理解を汲み取った上で判断してくれる事が多いですが、法定後見人はそれらの対応よりも厳しい場合が多いです。
具体的にどういうことなのかと言うと、法定後見人は「財産が減ること」を極端に嫌います。
結果、例えば新聞の購読費用など、親が習慣として支払っていた費用などにも目がいき「必要なのか?」としてされる事があります。この基準はケースによって様々なので一概には言えませんが、人によっては、親の携帯代すらも「必要なのか?解約するべきでは?」と問われたケースもあるようです。
このような面から、法定後見人の場合は、子供や親族の意思が反映されず、法定後見人による財産管理が強いと言う点がデメリットの1つとして挙げられます。

法定後見人の費用が任意後見に比べ高い

任意後見の場合、

  • 監督人への費用(月額1〜3万円)※財産価額によって変動

と説明しましたが、法定後見人の場合はこれよりも費用が高くなる傾向にあります。

  • 法定後見人の費用(基本報酬2万円+月額3〜6万円)※財産価額によって変動

となっています。月額でかかってくるので、年間通すと大きな差になります。

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まとめ

ご理解頂けたでしょうか?
任意後見制度は、法定後見制度と比べ、費用面、その他の面で優れた制度となっておりますので、ぜひ親が元気なうちに任意後見契約を結んでおくことをお勧めします。
また親と話すときは、突然制度の話をするのではなく、本稿でも伝えている通り、

  • 認知症になると何故大変なのか?
  • 実際どれくらいの割合で認知症になるのか?

と言う前提のお話から丁寧に話す事が大切です。
いくら子供と言えど「自分の財産を自分以外の人に管理されてしまう」と聞くと、いい気持ちがしないのが人の性です。
その点を考慮した上で、説明を省略せず、きちんと伝えてあげる事が重要です。

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牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。