故人の年齢を表すには「享年」という言葉が使われますが、この他にも「行年」や「没年」などの言葉が使われる場合もあります。
そのため、それぞれの違いがわからずに困っている方は多いのではないでしょうか?
そこで、ここでは享年の意味や行年・没年との違いについて説明しながら、「それぞれの言葉の使い方」「正しい数え方」「数え年の計算方法」を解説していきます。
これら3つの言葉は、意味がわかれば使い方や使い分けは簡単です。
この機会に理解を深めておけば葬儀やお墓を建立する際の知識につながり、いざという時落ち着いて行動することができます。
目次
享年とは

「享年」「行年」「没年」には、それそれの言葉の意味が細かい部分で異なります。
まず初めに享年の意味について解説します。
享年の意味
享年は「天から享けた年のこと、何年生きたかを表す言葉」という意味があり、故人がこの世に存在していた年数や何年生きたかを表す際に使われます。
テレビなどで芸能人の訃報が伝えられる際、しばしば「享年○○」という使い方がされますが、これはその方が何年生きたかを表しています。
また、享年には0歳という概念がないため、生れた年を1歳として数えます。
日本には還暦や米寿などの節目に長生きしたことをお祝いする風習があり、長生きは良いことだという考えがあります。
そのため、生れた年が1歳となる享年は他の言葉よりも故人が生きた年数が長くなり、「墓石」「墓誌」「位牌」などに使用されるようになりました。
享年と行年・没年の違い

故人が亡くなった際の年齢は享年と表しますが、これと同じような言葉に「行年」と「没年」という言葉があります。
ここでは、この行年と没年について解説しながら、享年との違いや使い方の文例を紹介します。
行年
行年(ぎょうねん・こうねん)という言葉には「娑婆(しゃば)で修行を積んだ年数」という意味があります。
「行」という文字には時間経過を表す意味があることから、この言葉は「この世に生存した年数」を表しています。
これまでは霊園や寺院などで使用されることが多かった行年ですが、現在では享年と行年に厳密な使い分けはありません。
一見すると同じように見える享年と行年ですが、次のような違いがあります。
- 享年:生きた年月
- 行年:生きた年
このような違いから、この二つの文字では「才」についての記載方法が異なります。
- 享年:「享年○○」のように故人が亡くなった時の年齢の後ろに才はつけない
- 行年:「行年○○才」のように故人が亡くなった時の年齢の後ろに才をつける
享年を使った例文
私の母は去年亡くなった。享年73だった。
享年40という若さで亡くなってしまった。
行年を使った例文
行年73歳で亡くなった母の墓参りに向かう
行年40歳で亡くなった会社の同僚の葬儀が行われる
娑婆(とうば)とは
先ほどの説明にあった娑婆という言葉は、日頃私たちが暮らしている俗世間を表す言葉
なお、現在では俗語として浸透しているこの娑婆という言葉の起源は江戸時代まで遡ります。
苦労の多い娑婆で鬱屈していた庶民たちが遊郭を極楽に例えたのに対して、遊郭で働く遊女達が「遊郭よりも自由がある場所」という意味で娑婆という言葉を使ったのがが、この言葉の起源だと言われています。
没年
歴史の教科書などでよく目にする「没年」の意味は「没した(死亡した)年」です。
この場合の「年」には「人が亡くなった年齢」と「亡くなった年次」という2つの意味があります。
没年は、享年とは異なり「没年○○歳」のように「歳」をつけて使用します。
なお、没年と関連して没年月日という言葉もよく耳にしますが、これは命日のことです。
「享年」「行年」「没年」の使い方

喪中はがきを送る際には、故人の年齢を記載する場合、享年をつけるべきか行年をつけるべきか、または何もつけるべきでないか判断に困る場面があります。
そこで、ここでは「享年」「行年」「没年」の使い分けについて解説します。
結論としては、喪中はがきを贈る際には、享年・行年をつけてもつけなくても問題はありません。
ただし、享年と行年のどちらかを使用する場合は、享年と行年を重ねて記載しないようにします。
享年のみを記載する場合は「享年○○歳」「満○○歳」のように、どちらかを分けて記載しましょう。
没年の注意点
享年と没年を同じ文中に使用することは避けましょう。
一般的な没年の使い方は「2000年没」という使い方をしますが、「2000年没 享年○○歳」という書き方はNGです。
没年を使うのであれば、没年か享年のどちらかを使用しましょう。
ただし、行年に関しては「満○○歳没」という使い方があるため、没年を使う場合は享年ではなく行年を使う方が自然な表記です。
「享年」「行年」「没年」を日常会話で使用する機会は多くはありませんが、喪中はがきや訃報と呼ばれる葬儀日程をお知らせする死亡通知などでは使われるため、この違いについては覚えて覚えておいた方が良いでしょう。
「歳」と「才」の標記の違い
故人の年齢は、享年や行年の後に年齢を表す数字を入れてその後ろには何もつけない場合と、「歳」と「才」をつける2つの記載方法があります。
これまでは享年の後に「歳」「才」を入れるのは二重表記となるため誤用とされてきましたが、最近ではわかりやすさを重視して数字の後に「歳」「才」をつけることが多くなってきました。
この「歳」という文字には、年や月日という意味があり年齢を表す際にも使用される漢字です。
一方で、「才」は「才能」という言葉があるように生まれまった才能という意味を持つ漢字ですが、月日という意味はありません。
これは、元々は「才」が「際」の代用漢字であったためです。
位牌や墓石に享年や行年を彫刻する際には、年齢を表す数字の後ろに何もつけないか、画数の少ない「才」が使われることが一般的です。
これは、この「才」の文字が画数が少なく形もシンプルであるため、石に彫りやすく欠けにくいためです。
なお、墓石や位牌に彫刻する際には遺族の意向で「歳」の文字を使っても問題はありません。
享年の正しい数え方

享年の数え方には「数え年」と「満年齢」があり、現在は満年齢が用いられていますが、享年を表す場合は数え年で表す場合がほとんどです。
ここでは、数え年と満年齢の違いや正しい数え方を解説します。
古くから伝わる数え方は「数え年」
生まれたばかりの赤ちゃんは、満年齢では0歳にですが、数え年では1歳です。
数え年ではすべての人が1月1日に1歳年をとることになるため、0歳はありません。
例えば、5月に生れた赤ちゃんは生まれた年は1歳で、それから8か月後の新年1月1日には2歳になり、本来の誕生日である5月を迎えても年齢が加算されることはありません。
この数え年は、赤ちゃんが母親のお腹の中にいる時期を0歳としてカウントしていると唱える説や、実年齢を少しでも長く表すことで長命を叶えようとする説など、さまざまなものがあります。
現在主流の数え方は「満年齢」
昔から日本にある数え年に対して、現在では満年齢を使うことが一般的です。
この満年齢とは、生まれた年を0歳と数えて誕生日を迎えるたびに1歳ずつ年が増えていく数え方であるため、現在の年齢を表す言葉として実年齢とも呼ばれます。
満年齢の算出方法は、1902年に成立した「年齢計算ニ関スル法律」の中で次のように定められています。
第1条「年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス」
この意味は、年齢の起算日は「出生の日」、つまり誕生日当日であるけれども、年齢の加算日は前日の午後12時になるということを表しています。
これにより、4年に一度しかない閏年の2月29日生まれの方は、前日の2月28日が誕生日となり年齢を重ねることができるようになりました。
享年の数え方はどちらも使う
以前の享年は数え年で行年は満年齢で表すことが一般的でしたが、近年では享年であっても満年齢で表すケースが増えています。
このような変化は1950年に年齢に関する法律が制定され、国や地方公共機関に対して満年齢の使用を義務付けたことが影響していると考えられています。
このように、享年の表し方はどちらであっても間違いではありません。
故人の年齢が伝わりやすい表現を選択することが重要です。
「享年」「行年」「満年齢」の使い方一覧表

ここでは、「享年」「行年」「満年齢」のどれを使うのが正しいのかについて、わかりやすく次の項目に分けて表中に記載します。
- 定義
- 数え方
- 増え方
- 書き方
項目 | 享年 | 行年 | 満年齢 |
---|---|---|---|
定義 | 天から享けた年月 | 生きた年 | 現在の年齢 |
数え方 | 生まれた年を1歳として数える | 生まれた年を1歳として数える | 生れた年を0歳として数える |
増え方 | 年が変わるごとに増える | 年が変わるごとに増える | 誕生日ごとに増える |
書き方 | 享年〇〇 | 行年〇〇才 | 満〇〇才 |
なお、墓石や位牌に故人の年齢を刻む場合にはここで紹介した3種類の中で、どれを使用するべきか疑問が生まれますが実はこれには基準がないのが現状です。
お住いの地域やお世話になっている寺院によって対応はさまざまです。
しかし、最近では分かりやすい表記を心掛ける住職が増えているため、享年や行年ではなく満年齢を刻むことが多くなっています。
初めから墓石がある場合はその表記に揃えますが、初めて墓石や墓誌を建てる場合は寺院に相談することをおすすめします。
【状況別】享年の使われ方

ここでは、享年の使い方について「喪中はがき」「位牌」「墓石・墓誌」に焦点を当てて解説します。
状況①:喪中はがき
喪中はがきには「本年〇月に父○○が享年○○にて永眠いたしました」のように、故人の俗名と亡くなった年齢を書き表します。
この際の年齢は、本来は「享年」で「数え年」を表記することが一般的でしたが、近年では「行年」を使い「満年齢」で記載する人も多くなっています。
また、中には個人情報や故人のプライバシーに配慮して、故人の名前や享年を書き込まない方もいるなど状況はさまざまです。
状況②:位牌
仏壇におく位牌は故人の依り代として供養の対象になる大切なものですが、この位牌には表面に戒名を裏面には没年月日と享年もしくは行年が彫られています。
これまでは、「享年」で「数え年」、さらには歳をつけず「享年七十二」のような表記方法でした。
しかし、「満年齢」での数え方が一般的になっている現在では、「歳」や「才」をつけて「行年七十二才」といった表記が増えています。
ただし、この書き方もお住いの地域や寺院によって考え方が異なるため、位牌を作る際には事前確認が必要です。
また、仏壇や位牌が既にある場合は書き方を合わせます。
状況③:墓石・墓誌
お墓の隣に設置する墓誌やお墓の裏には、納骨している方の「名前」「没年月日」「戒名」「享年」が彫刻されています。
「享年」か「行年」か、「歳」か「才」かなどの書き方に関しては、基本的には葬儀の際に使用される白木の位牌に合わせます。
また、初めから先祖の名前が墓誌や墓石にある場合は、位牌の時と同様に書き方を合わせなければなりません。
先祖が享年を用いていれば享年を、行年を用いていれば行年を使い表記方法をそろえます。
数え年の計算方法

続いては、数え年の正しい計算方法を解説します。
数え年は人の年齢を数えるときに使う古くからの記数法として、現在でもアジア各地で用いられ日本でも戦前までは日常的に用いられていました。
この数え年の表し方は0歳がないため、満年齢+1歳と言われていますが、実際には次の2つの決まりがあります。
そのため、やや事情は異なります。
- その年の誕生日を迎えていない場合は満年齢に2歳足す
- その年の誕生日を迎えた場合は満年齢に1歳足す
この決まりは文章だけではわかりづらいため、次の表にまとめました。
年齢の表記 | 誕生日 | 元旦 | 誕生日 | 元旦 | 誕生日 | 元旦 | 誕生日 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
満年齢 | 0歳 | 1歳 | 2歳 | 3歳 | |||
数え年 | 1歳 | 2歳 | 3歳 | 4歳 |
この表のように、数え年では生れた年の誕生日と元旦に年齢が+1歳加算されます。
満年齢では生れた年の誕生日を0歳として各年の誕生日ごとに年齢が加算されます。
そのため、数え年は必然的に元旦から誕生日を迎えるまでの期間の間に、満年齢+2歳の期間が存在するのです。
まとめ

ニュースで流れる訃報や雑誌などで頻繫に目にする「享年」「行年」「没年」という言葉ですが、これらには細かい部分で意味の違いはあるものの、使われ方自体に厳しい決まりがあるわけではありません。
ただし、その意味や使われる状況を知っておければ、もしものときに慌てずに対処できるでしょう。
なお、今回紹介したこれらの言葉や「歳」と「才」の使い方の違いなどは、お住いの地域や寺院・霊園の考え方によっても使われる状況が異なります。
葬儀やお墓を立てる際には、お世話になる寺院・霊園に念のため問い合わせすることをおすすめします。