葬儀は、その形式によってマナーが異なるため、初めて参列する葬儀形式では事前のマナー確認が必須です。
特に、近年執り行うことが多い「家族葬」では独特のマナーがあるため、初めてこの葬儀に参列する方は一般葬とは異なる対応に戸惑う状況が少なくありません。
ここでは、家族葬のマナー・注意点を遺族側と参列者側から説明しながら、「参列する人物」「参列するかどうかの判断基準」「参列しない場合の対応方法」などについて解説します。
目次
家族葬とは

家族葬のマナーを説明する前に、まずは家族葬とはどのような葬儀形式なのかについて解説します。
家族葬とは、故人の家族や親族が中心となりその他の少数の近しい友人・知人のみが参列する小規模な葬儀です。
葬儀参加人数は30名以下で行われることが一般的であるため、遺族は多くの参列者への対応が不要など多くのメリットがあることが特徴です。
なお、葬儀の流れについては一般葬と同様となることから、葬儀期間については次のような流れとなります。
- 死去当日:ご遺体の搬送→安置
- 死去から2日目:納棺→お通夜
- 死去から3日目:葬儀・告別式→出棺→火葬→精進落とし
家族葬は増加傾向にある
1990年代の中頃から行われるようになった家族葬ですが、近年ではその件数は増加傾向にあります。
近年の調査では、葬儀実地件数の30%弱がこの家族葬で行われています。
この傾向は特に首都圏に顕著に現れており、この地域における家族葬割合は全国平均を超える50%台です。
参照:葬儀の取引に関する実態調査報告書(公正取引委員会)
今後この流れは全国的にも広がると考えられていることから、家族葬で葬儀を行う方は増加していくことが見込まれています。
増加の背景
比較的新しい葬儀形式である家族葬が広がった背景には、次のような事情が関係していると考えられています。
- 就職などで地元を離れることに起因する地域コミュニティの希薄化
- 少子高齢化による一人当たりの葬儀費用負担額の増加
- 新型コロナウイルスによる大規模集会の規制とソーシャルディスタンスの推奨
家族葬と密葬は異なる
日本では、古くから小規模で行う葬儀として「密葬(みっそう)」が行われきました。
この葬儀形式と家族葬では、次の点が異なります。
- 密葬は少数で行う本葬終了後に近しい方を招いて故人とお別れができる大規模な集会を行う
- 家族葬では本葬後に大規模な集会を開催するとことはない
家族葬に参列する人物

先ほど解説したように、家族葬とは故人と関係性の深い人物のみが参加する葬儀形式です。
この葬儀には、次のような人物が参列することが一般的です。
- 故人の家族
- 故人の兄弟姉妹
- 故人の配偶者の父母
- 故人の子やその家族
- 故人と特に親交があった友人・知人
このように、家族葬に参列する人物は故人の近親者や友人・知人の一部のみで行うことが一般的ですが、その他の人物を招いてはならないというわけではありません。
ただし、あまり大勢の方の弔問を受け付けるようになると本来の家族葬とはかけかけ離れてし舞います。
そのため、参加人数は最大でも30名程度となり、これ以上大規模な家族葬を行うことは稀でしょう。
家族葬に参列するかどうかの判断基準
家族を中心に故人と特に近しい友人・知人で行う家族葬ですが、家族以外の人物はどのような判断で葬儀への参加を決めれば良いでしょうか?
ここでは、家族葬への参加の判断基準について解説します。
- 家族葬は家族だけで執り行うのが原則
- 遺族から参加願いがあった場合のみ参加
- 直接申し入れがあった場合の遺族の対応方法
家族葬は家族だけで執り行うのが原則
原則として家族だけで行う家族葬ですが、葬儀への参加を呼びかける人物の範囲は葬儀規模によって次のように異なります。
- 10名程:故人の配偶者・子供とその配偶者・親・孫
- 20名程:上記+故人の兄弟姉妹とその配偶者
- 30名程:上記+故人の従妹・孫・甥・姪
このように、家族葬といってもその規模はさまざまです。
そのため、葬儀への参加を希望する場合であっても、その規模が非常に小さい場合は、たとえ親戚であっても葬儀への参加を見合わせなければならない状況が生まれます。
遺族から参加願いがあった場合のみ参加
家族葬は、遺族から葬儀への参加願いがあった場合のみ参加が可能です。
そのため、ご自身が葬儀に参加する意思があっても、遺族から何の連絡もなければ家族葬には参加することはできません。
遺族は故人と最後のお別れを参列者の対応に追われることなく、ゆっくりと過ごしたいと考え家族葬を選択しています。
また、葬儀の対応を煩わしいと考え、少人数で行う家族葬を選択していることも少なくはないのです。
訃報連絡に参加願いが記載されている場合
遺族側から家族葬への参加願いがある場合は、訃報連絡の中に葬儀日時や葬儀場所が記載されています。
このような内容の訃報連絡を受け取った場合、葬儀参加願いとなるため、葬儀への参加準備を行いましょう。
ただし、同じ訃報連絡であっても葬儀日時や葬儀場所が記載されていない内容の場合は、葬儀への参加願いではないため注意が必要です。
直接申し入れがあった場合の遺族の対応方法
家族葬へ参加は、口頭での参加依頼か先ほど説明した訃報連絡への記載で判断することができます。
しかし、参加を許可されていない人物の中には、どうしても故人と最後のお別れを行いため遺族に葬儀への参加を直接申し込む方もいます。
遺族はこのような申し入れに対して安易に葬儀への参加を許してくれしまえば、他の参加できない方に対しての説明がしにくくなってしまうものです。
そのため、このような申し入れに対しては基本的にお断りした方が賢明です。
ただし、これをきっかけに家族葬への不信感や不満が溜まってしまうのであれば、例外的に葬儀への参加を許可するケースがあることもまた事実です。
いずれの判断を下すにせよ、遺族側は葬儀に参加できなかった人物に対して、葬儀後に「故人を偲ぶ会」などの席を設けるなどの配慮を示しましょう。
【遺族側】家族葬のマナー・注意点

再三になりますが、家族葬は希望する誰もが葬儀に参加することができる一般葬とは異なり、遺族側や故人の意思で葬儀に参加する人物を選別する葬儀形式となるため特有のルールが存在します。
ここでは、家族葬におけるマナー・注意点を遺族側の視点から解説します。
- 家族葬を行うことをへの了承を得る
- 参加を遠慮してもらう場合は明確に伝える
家族葬を行うことをへの了承を得る
家族葬を行う際には、ご自身の身内の方からの理解が必要となるため、事前に説明を行い了承を得る必要があります。
これは、家族葬を行う規模によっては身内の方であっても、葬儀へ参加することができない状況があるためです。
このような方は、家族葬という比較的新しい葬儀形式を理解しないため、「何故自分は身内であるにも関わらず葬儀に呼ばれないのか?」と不満を感じてしまうものです。
周囲の方に対しては、家族葬の方法や行う意思を説明し納得してもらってから葬儀準備を行いましょう。
参加を遠慮してもらう場合は明確に伝える
家族葬への参加を希望しない方への連絡は、その旨を明確に伝える必要があります。
訃報連絡の中には、「誠に勝手ながら通夜ならびに葬儀・告別式は近親者のみで行うため、弔問等はご遠慮いただくようお願いいたします」と記載し、参加不要の意思を明確に伝えましょう。
【参列者側】家族葬のマナー・注意点

家族葬では、遺族同様に参列者側にも特有のルーが設けられているため注意が必要です。
ここでは、家族葬へ参加する参列者側のマナーや注意点を解説します。
- お知らせが来ていない人物を誘わない
- 喪主指定の服装を着用する
- お悔みの言葉に気をつける
- 香典の要否を確認する
- 開式後の挨拶を忘れない
- 家族が葬儀報告を行うまで参列を口外しない
お知らせが来ていない人物を誘わない
家族葬は故人や遺族の意思で葬儀参加を決めるため、参加者の判断でお知らせが来ていない人物を葬儀に誘うことはマナーに反します。
特に、ご自身が故人の友人として葬儀に参加する場合は、「あの人も故人と仲が良かった」という理由から、遺族の了承なしにその友人を葬儀に招いてしまうケースがありますが、これは間違いです。
葬儀に参加する方の人選は、遺族側のみが行うことができると心得ましょう。
喪主指定の服装を着用する
家族葬における服装は、一般葬と同様にブラックのフォーマルスーツが基本です。
ただし、中には葬儀案内の中に「平服でお越し下さい」と記載されている場合があるため、その際には平服を着用して葬儀に参列すると良いでしょう。
平服での案内がない場合は、次のような服装で葬儀に臨みます。
指定が無い場合の服装
平服の指定が無い場合は、男性・女性ともに次のような準喪服を着用して葬儀に参加します。
- 男性の準喪服:ブラックスーツ・白色ワイシャツ・黒色ネクタイ・黒色靴下・光沢が無く黒色の革靴
- 女性の準喪服:黒色の「ワンピース」「スーツ」「アンサンブル」・黒色ストッキング・光沢が無くヒールの低い黒色のパンプス
お悔みの言葉に気をつける
家族葬へ参列し遺族と対面した際には、「この度はご愁傷様でございます」とお悔みの言葉を掛けますが、この際には忌み言葉を使用しないよう注意が必要です。
忌み言葉とは不幸や死を連想させる言葉や、不幸事が繰り返し起こることを想起させる言葉で、次のような文言がこれに該当します。
- 死ぬ
- 苦しむ
- 消える
- 迷う
- 落ちる
- くれぐれも
- 再三
- 度々 など
香典の要否を確認する
家族葬に参列する際には、香典が必要かどうかの確認は非常に重要です。
一般葬であれば葬儀と香典は切り離せないものですが、家族葬の場合は葬儀連絡の文中に、「香典・供花の儀は辞退いたします」などの記載がある場合があります。
これは、香典や供花をお断りしているという意味の文言です。
このような記載がある場合は、香典や供花を持参する必要はありませんが、葬儀連絡の中にこのような記載がない場合は、一般葬と同様にお布施を持参し場合によっては供花を贈ることになります。
開式後の挨拶を忘れない
家族葬を行う方は増加傾向にありますが、それでもお住まいの地域によってはまだまだ一般的とはいえない地域も存在します。
そのため、このような地域で家族葬を行う遺族は、葬儀の評判が気になるものです。
このように、家族葬を行ったことへの不安を感じている遺族に対しては、開式後に「とても良いお葬式でした」と声をかけてあげましょう。
葬儀は故人を弔う気持ちも重要ですが、遺族に対する配慮や寄り添う気持ちを表すことがマナーです。
家族が葬儀報告を行うまで参列を口外しない
家族葬へ参列していない方が参加した方からその死去を聞かされた場合、直ちに故人へ手を合わせたいとの思いから、葬儀が終わったばかりの遺族の自宅へ弔問する場合があります。
これは、大切な方を亡くし多くの苦労がある葬儀を終えたばかりの遺族にとっては大きな精神的負担となります。
このような負担を遺族にかけないためにも、家族葬へ参列したことは家族が葬儀報告を行うまでは他言しないのがマナーと考えましょう。
家族葬に参列しない際のマナー・注意点

家族葬への参加を依頼された場合でも、どうしても葬儀に参列できない状況は少なくありません。
その場合は、次に解説するマナーや注意点を守った対応を行い遺族の負担を軽減するよう努めましょう。
- 葬儀前のお悔やみ連絡は控える
- 「香典」「供花」「弔電」はお知らせ状を確認してから行う
葬儀前のお悔やみ連絡は控える
葬儀へ参加することができない方は、遺族に対してお悔みを述べることがマナーと考えますが、家族葬の場合は葬儀前のお悔み連絡は控えることがマナーです。
家族葬を行う方は、葬儀に参加する人物以外の方に対しての気遣いを減らしたいと考え家族葬を選択する場合がほとんどです。
そのため、葬儀前のお悔みの連絡への対応は煩わしいとい感じてしまうでしょう。
お悔みの連絡は、遺族の負担を考慮して、葬儀終了後ある程度の日数が経過した段階で行います。
「香典」「供花」「弔電」はお知らせ状を確認してから行う
家族葬に参加できない場合は、葬儀へ招いてくれた遺族に対して申し訳ない気持ちから、直ちに香典や供花を贈りたいと考えてしまうものですが、まずは葬儀案内を確認する必要があります。
先ほども解説したように、家族葬では故人や遺族の意思によって香典や供花をお断りして行うことも少なくありません。
葬儀案内の中で、「香典・供花・弔電の儀は辞退いたします」と記載がある場合は、遺族側はこれらすべての受け取りを拒否しているとうことになります。
反対に、記載がない場合は受け取ることができるという意思表示であるため、記載されていないものに対しては贈ることが可能です。
中には、せっかく持参したのだから、どうしてもと無理やり香典を渡す方もいますが、これは遺族に余計な負担を強いる行為です。
葬儀は主催者である遺族の意向を最優先で行うため、ご自身の判断のみでの行動は慎まななければなりません。
家族葬の香典相場・香典返し

家族葬は一般葬とは異なるマナーや気遣いが必要とされる葬儀ですが、香典に関しては一般の葬儀との違いはありません。
ここでは、家族葬を含む葬儀に必要な香典の相場を解説しながら、香典返しについても説明します。
家族の場合
家族が亡くなった場合の家族葬の香典相場は、故人との関係性によって異なり次のような金額が相場となります。
- 両親の場合:5万円~10万円
- 祖父母の場合:3万円~5万円
- 兄弟の場合:3万円~5万円
- 親戚の場合:1万円~5万円
参列者の場合
家族葬に参列する家族以外の香典相場は、5,000円ほどが相場となります。
なお、会社関係者の場合は連名で香典を包む場合がありますが、この際には1人当たり3,000円から5,000円ほどが相場金額です。
家族葬の香典返しは即日返しが基本
本来の香典返しは、故人の死去から四十九日が過ぎた段階で、忌事のすべてが無事に終了した報告を兼ねて行われてきました。
しかし、家族葬を行うほとんどの方は葬儀後の作業負担を軽減したいと考えるため、この香典返しは葬儀当日に行う「即日返し」で行うことが一般的です。
なお、小規模で行う家族葬ではたくさんの香典返しを準備する必要はなく、その作業は葬儀会社へ依頼することが可能であるため、香典の不足を心配する必要はありません。
香典返しのマナー
香典を相場金額よりも過分に頂いた方に対しては、香典返しだけでは礼を欠いてしまうため、香典金額の1/3から1/4ほどの品をお礼の手紙と共に贈ることがマナーです。
なお、香典返しに贈る品は「消え物」と呼ばれる家庭内で消費できるものを渡すというルールがあり、「お茶」「海苔」「洗剤」などを贈るのが一般的です。
ただし、近年では賞味期限があるものや葬儀が続いた場合に同じような品ばかりが集まってしまうという事情から、カタログから好きなものを選ぶ香典返しを贈る方が増えています。
特に家族葬では、仲の良い近親者のみで葬儀を行うという事情から、このカタログでの香典返しは非常に人気を博しています。
まとめ

これまで多くの方が行う一般葬に代わって、新しい葬儀形式の家族葬は増加傾向にありますが、そのマナーのすべてが参列者に浸透しているとは言い切れないのが現状です。
そのため、中には家族葬特有のルールを勘違いしている方もいます。
家族葬を行う方の多くは、故人や遺族にさまざまな事情があり家族葬を選択しています。
故人と親交があった方は、葬儀への参加の要否に関わらず、遺族の事情や意思に配慮した心遣いが何よりも重要と考えましょう。