神社で行われる祈年祭や新嘗祭などの祭事のが終わった後には、「直会」と呼ばれる集会を行うことが一般的な流れです。
直会の中では参加者の代表者が挨拶を行いますが、この挨拶の作法をご存知の方は少ないのではないでしょうか?
そこで、ここではこの直会とはどのような儀式なのかを詳しく説明しながら、「挨拶の文例」「作法・注意点」「直会の中で頂く料理」などを解説します。
目次
直会とは
直会とは祭事を行った後に、神主や祭事参列者が行う儀式です。
直会の読み方は「なおらい」
直会の読み方は「なおらい」です。
直会の概要
直会では、神前に捧げた神饌(しんせん)と呼ばれるお供え物を参加者全員で食べますが、これは神様が食した食べ物を頂きその神力を分けて頂くことを目的として行われています。
なお、神前へのお供えとして使用する食品は次の種類が一般的です。
- 米
- 御神酒(お酒)
- 餅
- 魚
- 野菜 など
神社本庁の案内によれば、この直会は基本的には全ての神事において行うことが基本とされています。
また、神道の場合は葬儀も神式で行うため、葬儀後に神主や葬儀を手伝ってくれた方への感謝のしるしとして直会を行う場合もあります。
このような状況や作法は、仏式で行う「お斎(おとき)」と非常に似ていると言えるでしょう。
直会の語源・意味
直会の語源は諸説ありますが、現在最もよく説明されている語源は「直り合い(なおりあい)」が元になっていると言われています。
神社の神主や氏子は、神事を行う前に身を清める儀式である「潔斎(けっさい)」を行い、神社に一定期間こもって「参籠(さんろう)」を行います。
この参籠を行う状態は普段とは体も心も日常生活とは異なるため、祭典が終わった際にはその状態を解く「解斎(げさい)」を行い、通常の生活に戻るのが習わしです。
このように、普段とは異なる状態から普段通りの状態に戻ることを直り合いと呼び、その直り合いが語源となって「直会」と呼ばれるようになったのです。
また、先ほどお伝えしたとおり、直会には神様に捧げたお供え物を食べることで神力を分けてもらうという意味がありますが、この他には身体を清めるという意味合いもあります。
直会の実態
祭事が終わると食品やお酒を囲む会が行われるため、周囲の方には祭事終の宴会と認識されることもありますが、この直会は正確にはこの神事の一部です。
しかし、近年ではこれまで神社の施設内で行われてきた直会を、神社近くの宴会場などを借りて行うことが多くなってきました。
このような状況が影響してか、直会を祭典と考えている方はあまり多くはないのが現状です。
直会に参列した人物の中にも、ご自身が参加した直会が神事の一部であるといった認識がなく、宴席の一種と勘違いしている方は大勢います。
直会とよく似たお斎(おとき)との違い
ここまで解説したとおり、直会は祭事の後に行う宴席を指していますが、これと同じような作法で行う「お斎(おとき)」とはどのような違いがあるのでしょうか?
この2つの儀式の違いは次のとおりです。
- 直会:神式の祭事や葬儀の最後に神主と参列者がお供えしていた神饌を皆で分かち合い、食事やお酒を頂くことで日常の生活に戻る行為
- お斎:仏式の法要の後に施主が参列者や僧侶と共に食事を頂き、法要への参列に感謝の意を伝え故人を供養する行為
これら2つの儀式は、「神事や法事に参列した方々をもてなすために行うため宴席を持つ」という点では非常に似ています。
しかし、その目的は、直会では日常生活に戻ること、お斎では故人を供養することという点で異なります。
また、開催に関しても次のように異なります。
- 直会:直会は神事や祭事を行うごとに開催することが推奨されている
- お斎:四十九日法要が終わった後に行う
直会で行う挨拶の文例
直会は祭事の場合は氏子の代表者が、葬儀後には喪主がそれぞれ開催と終了時に挨拶を行うのが慣習です。
仏式の葬儀であれば、私たちに馴染み深いためこの際の挨拶もさほど抵抗はありませんが、神社に接する機会が少ない方にとっては、直会の挨拶には抵抗を覚えてしまうでしょう。
ご自身の家系が以前から神社にお世話になっている方や、神社との結びつきが強い地域の方は、神道でなくても神主からこの挨拶を依頼されるケースは少なくありません。
そこで、ここでは直会の挨拶の文例を紹介します。
なお、ここで紹介する文例は神式の通夜祭を行った後の直会での挨拶です。
開始時の挨拶の文例
本日はご多忙中にも関わりませず、ご参列頂き誠にありがとうございました。
また、○○(故人名)の存命中には格別のご厚情を賜わりまして、厚くお礼申し上げます。
故人も皆様の御厚意を受けて喜んでいることかと思います。
粗食ではございますがどうぞ、お召し上りながら故人との懐かしい思い出話などお聞かせいただければ幸いです。
それでは、本日は誠にありがとうございました。
終了時に行う挨拶の文例
本日はご多忙中にも関わりませず、ご参列頂き誠にありがとうございました。
皆様のおかげで、滞りなく通夜際の全てを終えさせていただくことができました。
ご多用中の所と存じますので、これより以後はお気遣いなさいませんよう、ご散会とさせて頂きます。
本日は、誠にありがとうございました。
通夜祭の流れ
このように、仏式における通夜を神道では通夜祭と呼びますが、この儀式は呼び名だけでなくその内容についても大変酷似しています。
この通夜祭は次の流れは次のとおりです。
- 手水の儀:通夜祭を行う前に身を清めるため入口に準備されている手桶を使い、左手、右手の順番に手を清め水を手にとって口をすすぎ懐紙を使って手と口をふく
- 玉串奉奠(たまぐしほうてん):玉串と呼ばれる榊の枝に紙垂(しで)という白い紙片を付けたものを祭壇に捧げて祈りをささげる
- 直会:会食の席を勧められたら出席しその席では故人との思い出話を語り、長居することなく1時間程度で切り上げる
直会に参加する際の服装
直来に参列する際の服装は、仏式における葬儀や通夜と同様に喪服を着用するのが一般的です。
神式の儀式が終わればそのまま会場を移し直会を行うため、参列者は特に着替えを行うことなく喪服を着用したまま直会を行います。
なお、参列者側は男女ともに正式喪服ではなく、準喪服や略式喪服でも構いません。
ここでは、これらの服装を男女に分けて具体的に解説します。
男性の服装
神式の葬儀後に行われる直会では、男性の服装は次のとおりです。
- 一般的な喪服であるブラックスーツを着用
- ワイシャツは白無地
- ネクタイは黒色で光沢がないもの
- ネクタイピンやアクセサリーは結婚指輪以外はすべて外す
なお、直会を行う状況は葬儀だけではありません。
神式の祭事が終わった後に行う直会では喪服を着用することはありませんが、その際にもできるだけ派手な服装は控えて周囲の方から浮かない配慮が必要です。
女性の服装
女性の服装は次の通りです。
- 黒のワンピースもしくはアンサンブルやセットアップを着用
- ストッキングは黒色
- 靴は黒色で光沢がなくヒールが低いパンプス
- 鞄は黒色で光沢がないもの
- 結婚指輪と真珠のネックレス以外のアクセサリーはすべて外す
男性同様に、神式の祭事の後に行われる直会では、喪服を着用する必要はありません。
その際には派手な服装や肌が露出した服装を避け、地味な服装を心がけましょう。
直会の作法・注意点
祭事や神事の一部として行う直会には、参加する側にも開催する側にも作法が求められます。
ここでは、この作法を解説しながらその際の注意点を説明します。
- 開催時間に気を付ける
- 火を使った料理はNG
開催時間に気を付ける
直会は平均して1時間から1時間半を目安に行うため、開催す側はこの目安となる時間の中ですべてを終わらせなければなりません。
そのため、参列者側はこのような事情に配慮して、喪主が終了の挨拶を行ったら直ちに直会の会場を後にするのが作法です。
まれに挨拶終了後も直会の会場に留まり、周囲の方とお酒を飲みながら談笑している方がいますがこれはマナー違反です。
なお、喪主や遺族側は直会に参列してくれた方にお酌をして回るのが作法ですが、この際のお酌の回数は一杯程度に留めましょう。
直会は時間も限定されていることから、たくさんのお酒を嗜むものではありません。
あくまでも形式的なものと捉え、2杯目以降のお酌は控えます。
火を使った料理はNG
直会で出す料理には注意が必要です。
直会では肉や魚を食べることを禁止しているわけではありませんが、火を使うことをできる限り避けるべきとされています。
しかし、夏場などは火を通した料理の方が衛生上間違いがないため、その場合は仕出し店などを利用します。
また、宗教上の理由などにより直会で出された料理を食べることを辞退する方には、仏式と同様に御膳料を渡すのも作法です。
この際の御膳料の相場は5,000円程です。
直会で頂く料理は神饌(しんせん)
冒頭でもお伝えしたとおり、神饌とは神前に捧げられる食物のことで直会で頂く食物はこの神饌(しんせん)です。
ここでは、この神饌について詳しく解説していきます。
神饌の現状
神様にささげその後にいただく神饌は、神様と神事に参加した方をつなげる重要な役割を果たしますが、現在の神饌はほとんどが調理される前の食品のためこれをそのままいただくことはありません。
そのため、直会に神饌を出す前に調理を行うか、そのまま食べられるお神酒やスルメなどを少量口に含むだけの形式的な直会を行う場合があります。
最近では直会を行わない神事も多く、その場合は神饌をそのままの状態で参列に分け与え、各自が自宅で調理してを頂くことも多くなっています。
神饌の種類
このように、神饌の現状は形式的な作法で頂くことも多くなりましたが、本来の神饌は長い歴史の中で継承されてきた食物です。
そこで、ここでは神事に必要な代表的な神饌を4点紹介し詳しく解説していきます。
- お神酒(おみき)
- 稲穂
- お塩
- 鮑(あわび)
お神酒(おみき)
お神酒は神饌として欠かすことができない食物で、古くは神社側や氏子がこのお神酒を自家醸造していましたが、現在は酒税法の関係でこのような行為は法律に違反します。
ただし、中には伊勢神宮のように、清酒の醸造免許や税務署からどぶろくの製造を許可されている神社もあります。
稲穂
日本はその昔「稲穂の国」と称され、その関わりは現在にも引き継がれています。
この稲穂は日本最古の書物である日本書紀には既に記載があることから、その関わりは少なく見積もっても1300年以上に渡り、当時から神饌として神様に奉納されてきました。
そのため、神事の中で行う祈願祭はこの稲穂の収穫に関する祭事が多く行われています。
お塩
お塩は穢れを払い清める力がある神聖な食物として、神饌に用いられてきました。
そのため、現在でもお塩は神饌には欠かすことができない食物です。
鮑(あわび)
鮑は2000年以上前から伊勢の神宮で神饌として供えられてきた食物です。
現在では鮑を桂剥きにして長くのばした熨斗鮑が奉納されています。
神饌の並べ方の作法
神饌は神様が召し上がりやすい向きと順番に並べるのが作法とされ、この順番は地域や神社によって解釈が異なります。
ここでは、一般的な神饌の並べ方について解説します。
神饌は品目ごとに序列があり、次のような優先順位がつけられています。
- お米
- お酒
- 餅
- 鯛
- 海雑魚
- 川雑魚
- 鳥肉
- 野菜
- 果物
- 菓子
- 嗜好品
- お塩
- お水
神饌を並べる際には、この品目のすべてを用意する必要はなく、準備できた品目だけを次の順番で並べていきましょう。
- 神饌の数が奇数の場合は、中央を最上位として次に向かって右、その次を向かって左とし、その後はこの順番を繰り返す
- 神饌の数が偶数の場合は、中央を最上位として次に向かって左、その次を向かって右とし、その後はこの順番を繰り返す
ただし、神饌を置く場所が狭い場合などは複数の神饌を同じ場所に置く場合もあるため、状況に応じた作法が求められます。
まとめ
直会は周囲の方から見た印象とは異なり、祭事の一部のため自由な宴会を気楽に行っているわけではありません。
故人を偲びながら一連のマナーや慣習に従っているため、注意点を確認してから参加しなければ思わぬ恥をかいてしまうことがあるかもしれません。
神式で行う祭事や葬儀は私たちに馴染みが薄いため、初めは少し戸惑ってしまうものですが、基本的なマナーがわかれば仏式で行う法事との類似点も多くそれ程違和感を感じることはないでしょう。
直会の場合は仏式のお斎との類似点が多いため、この席を経験したことがある方なら失礼がない振る舞いができるでしょう。