余命宣告を医師から告げられた本人は大きなストレスに直面し、その後どのような行動をとれば良いのかがわからなくなってしまうものです。
しかし、そのような状況にあっても、どのような行動が本人のためになるのかを探し行動に移すのが家族の務めです。
そこで、ここでは余命宣告について説明しながら、「家族が行うこと」「本人への対応方法」「生命保険・遺産相続・葬儀に関する準備事項」などについて解説します。
余命宣告に対する正しい知識と理解がなれば、残された人生を有意義に過ごすことはできません。
まずは本人が落ち着くのを待って、その上で余生のためにできることを少しずつ行いましょう。
目次
余命宣告とは

余命宣告は、命にかかわる重大な病気にかからない限り、宣告されることはりません。
そのため、がんなどの深刻な病気にかかり完治の見込みがない場合などの状況で、医師から本人や家族に告げられます。
期間は中央値にすぎない
医師が告げる余命宣告は、「生存期間中央値」のデータを基に患者へ告げられますが、このデータはその病状における生存率の中央値が記載されている数値に過ぎません。
そのため、余命宣告の期間はあくまでも統計上の中間的な予想値のため、「この期間しか生きられない」という数値ではありません。
病気の進行具合は個人ごとに異なり、余命期間を前に亡くなる方もいれば、大きく余命期間を超えて生存する方がいるのはこのためです。
正確な予想は困難
医師は余命を算出する際に、生存中央値以外にも現在の病状や過去の病状など、多くのデータを用いてその期間を算出します。
しかし、個人ごとのデータは差が大きく、医師の長年の経験を用いても正確な余命期間の予想は困難です。
私たちは余命を超えて故人が生存した際には医師の判断や治療が正しかったと考え、余命期間前に亡くなった場合は、医師の判断や治療に不満を感じてしまいがちです。
しかし、いずれの場合であっても、医師は余命期間をできる限り超えるよう懸命に病気の治療に向き合っていることを忘れてはいけません。
家族が余命宣告されたら取る対応

医師から余命宣告を告げられた際には、その後の治療方法をどのようにするのかを決めなければなりません。
ここでは、余命宣告を受けた際の家族の対応方法や治療方法の方向性を解説します。
- 病気の原因を知る
- 治療方法を理解して実践する
病気の原因を知る
治療方法の決定にあたっては、その病気の原因を知らなければ対応方法がわかりません。
症例が多い一般的な病気であれば、余命宣告を受けた際に医師から病気の原因と、今後この病気がどのように進行するのか説明が行われます。
治療方法を理解して実践する
医師から病気の説明を受けた後は、余命宣告を受けた本人とその家族は治療方法についての検討を始めます。
この際の治療方法は次の3種類に分かれ、それぞれの病状や余命期間によって方向性が大きく異なりますが、この際の決定は患者の意思を優先しその判断に家族が協力する形が望ましいでしょう。
ただし、余命宣告を受けた本人がその大きすぎるストレスに耐えきれず前向きな判断ができない場合は、家族が率先して今後の治療方針を決定する場合もあります。
- 完治を目指す
- 延命治療を行う
- 緩和ケアを行う
完治を目指す
病気からの完治を目指す場合は、「外科手術」「投薬」「放射線治療」などさまざまな処置を行うため、身体へのダメージも大きく多額の金銭的負担が伴うことが一般的です。
また、長期の治療が必要であるため、残された時間の多くを病院で過ごすことになります。
延命治療を行う
延命治療とは病気の完治を目指すのではなく、余命を伸ばすことを目的にした治療方法です。
この方法を選ぶ方は、次のように何らかの理由から延命治療を選択しています。
- もう少しで生まれる孫の顔をみたい
- 数か月後の娘の結婚式に元気に参加したい
- 会社を次の代に円滑に継承したい など
この治療では外科手術や投薬を行うことが一般的ですが、病気の進行具合や治療方法によっては、病院での生活が長くなる可能性があります。
緩和ケアを行う
緩和ケアとは、病気の完治や延命を目的とせず、病気による苦しみを和らげ穏やかに死に向かうための医療措置です。
長期の入院が必要なく自宅で過ごすこともでき、病状が安定している方は家族との旅行を楽しむことも可能となります。
余命宣告を受けた方への対応方法

余命宣告の告知は、家族のみに行われる場合と家族と患者本人に行われる場合の2種類があります。
家族のみに余命宣告が行われた場合は、家族はこの事実を本人に伝えるべきかどうかを決めなければなりませんが、この判断は本人の「性格」「健康状態」「精神状態」を考慮して行います。
注意が必要な言葉
余命宣告を受けた本人への言葉は、たとえ日常的な会話であっても注意が必要です。
良かれと思った言葉でも、軽率な発言や安易な励ましは本人を酷く落胆させてしまう場合があります。
そのため、次のような言葉の使用は意識的に控えなければなりません。
- 「今日は顔色が良くて元気そうだね」
- 「頑張って治療を続ければ治るかもしれないね」
- 「前向きに考えよう」 など
余命宣告され、つらい体調の中さまざまな治療を行っている患者は、悲観的なことばを多く使うようになりますが、その場合はその発言に寄り添うことばをかけてあげる方が良いでしょう。
「よく頑張っているな」「つらかったんだね」と声をかけてもらう方が、患者は気が楽になり精神的に前向きになるものです。
【生命保険編】余命宣告を受けた際の準備事項

ここからは、余命宣告を受けた場合にやらなければならない生命保険に関する準備事項を解説します。
保険内容を確認し保険会社へ連絡する
余命宣告を受けた場合は、まずは患者が加入している保険会社へ連絡を行い、リビングニーズ特約についての確認を行いましょう。
これは、余命宣告を受けた際に死亡保険金の一部もしくは全額を受け取れるサービスで、この際には保険内容の確認も同時に行います。
リビングニーズ特約の内容を確認する
リビングニーズ特約とは、生命保険や医療保険の中で患者が余命6ヶ月以内と診断された場合に、死亡保険の一部もしくは全額が生存中に受け取れることができるサービスです。
現在このサービスは多くの保険会社が無料で提供しているため、この費用を用いることができれば多額の治療費や緩和ケアの費用を賄えるため、金銭的な負担の多くを解消することが可能です。
なお、どの程度の保険金が下りるのかはその保険内容によって異なりますが、リビングニーズ特約は3,000万円を上限金額としています。
契約内容が3,000万円未満の場合は、その上限金額が支払われることになります。
リビングニーズ特約の注意点
このリビングニーズ特約で受け取ることができる保険金は非課税ですが、保険金を使い切る前に契約者本人が亡くなった場合は、残金は本人の財産となるため相続税の対象になります。
また、この特約では患者が余命宣告を受けていない場合であっても利用できるため、家族のみが余命宣告を受けている場合は慎重に扱う必用があるでしょう。
これは、ご自身のリビングニーズ特約の使用が何らかの事情で本人に発覚した場合、余命宣告を受ける衝撃よりもさらにつらい状況になるためです。
指定代理請求について検討する
上記のように、本人は余命宣告を受けていないが家族が余命宣告を受けているため、本人に代わってリビングニーズ特約などを請求する行為が指定代理請求です。
この指定代理請求をする場合は指定代理請求人を立てる必要があり、この場合は保険金の減額などの契約内容の変更が伴う場合があります。
これは、リビングニーズ特約が契約者の余生を充実させるためのサービスであり、基本的に本人が余命宣告を受けていない場合の使用が想定されていないためです。
そのため、指定代理請求に関しては使い方によっては逆効果になることを理解しておくべきでしょう。
【相続編】余命宣告を受けた際の準備事項

ここからは、余命宣告を受けた際の相続に関する準備事項を解説します。
本人の意思をエンディングノートに記載する
相続財産に関する準備が必要ない場合でも、遺された家族に対しての想いを伝えるために、エンディングノートを作成する方が増えています。
エンディングノートにはご自身の「氏名」「住所」「連絡先」などを記入しますが、次の内容についても書き残すことができます。
記載内容
- 家族への感謝の言葉
- ご自身の「生い立ち」「経歴」「職歴」について
- 財産に関する事柄(銀行通帳・クレジットカード・印鑑の保管場所など)
- 友人・知人の氏名と連絡先
- 親族の氏名と連絡先
- かかりつけの病院や介護施設の名称と連絡先
- 形見分けする品の指定
- 処分する品の指定
- 埋葬先の寺院・葬儀方法・葬儀業者の指定
- 意識を失った際の治療方法の指定 など
余命宣告を受けた後のエンディングノートの書き方
余命宣告を受けた後は病院で過ごす時間も長く、この場合は本来エンディングノートに記載するべき内容がわからなくなってしまう状況が考えられます。
そのような場合は、家族や友人にエンディングノートに記載したい内容を調査してもらいましょう。
本来のエンディングノートは本人が記載作成することが大切ですが、余命宣告を受けた後で前向きな行動をできる方は限られます。
このような場合、エンディングノートを完成させるという取り組みは、余命宣告を受けた方の精神を落ち着かせ余生に目的をもたらしてくれる場合があります。
財産調査を行う
余命宣告を受けた方に財産がある場合は、所有財産を正確に把握するための財産調査を行います。
この財産調査ではご自身所有の財産はもちろんのこと、その負債に対して調査を行い、財産を引き継ぐ人物を確定させます。
なお、この財産を引き継ぐ人物の確定は相続人の数か少ない場合は簡単に行うことができますが、相続人が多くまた多くの資産を相続する場合は手続きが複雑です。
正確な財産調査は余命宣告を受け方へ多くの負担を強いるため、専門家への依頼をおすすめします。
財産目録を作成する
財産を相続できる人物の全員が納得するためには、財産目録の作成が不可欠です。
財産調査でわかった財産はこの財産目録に記載し、財産分配の際の資料として活用します。
財産目録の作成は法律上必要な作業ではありませんが、遺産の全体から適正な分配割合や相続税の有無がわかるため、相続する方の相続税の申告が容易になるなど多くのメリットがあります。
遺言書を作成する
財産目録を作成した後は、その財産を誰にどの程度相続するのを検討します。
十分に検討を行い相続の内容が決まれば、遺言書を作成しその中に財産の相続内容を明記しましょう。
この遺言書の作成は法律上必ず必要なわけでなく、たとえ遺言書がない場合でも民法上の規定によって財産は相続されることになります。
ただし、遺言者が相続に関する希望がある場合は遺言書の作成は不可欠です。
余命宣告を受けてからの遺言書は公正証書遺言
余命宣告を受けた方が遺言書を作成する場合は、公正証書遺言の活用がおすすめです。
この公正証書遺言とは、遺言者の意思を確認しながら公証人によって作成される遺言書で、保管場所が公証役場になることから改ざんや破棄の心配がありません。
公証人は病院や自宅を訪れて遺言書を作成してくれるため、遺言者の体調が思わしくない場合でも、法律に則った正確な遺言書の作成が可です。
【葬儀編】余命宣告を受けた際の準備事項

余命宣告を受けた際には、葬儀についても考えておく必要があるでしょう。
ご自身の葬儀についてエンディングノートに記載してある場合は、その意思を第一に葬儀業者や葬儀方法を選択して準備を行います。
このように、事前に葬儀社を選択できるように状況では、同じ内容の葬儀でも予算や内容に関しての業者の比較ができるため、遺族の金銭的負担を大きく減らすことが可能です。
なお、菩提寺がある方は余命宣告を受けた際に寺院の住職に連絡を行い、来るべき日に備えましょう。
まとめ

余命宣告を受けた際には、その内容を冷静に受け止め、その後に必要な行動を即座に行える方は極めて稀です。
一般的な感覚の方はその大きすぎるショックから、今後についての建設的な行動を取ることは難しいでしょう。
しかし、そのような場合でも家族を中心とした周囲の方々は、本人の気持ちに寄り添いながら今後についての作業を行わなければなりません。
残された時間が少しでも有意義な時間となるよう、本人の意思を最優先に各種手続きを行い、安心して旅立てる準備を行うことが家族の大切な務めと心得ましょう。