お通夜の後に行われる「通夜振る舞い」は、故人の思い出を語り合いながら偲ぶ大切な時間です。
お食事を頂きながら穏やかに過ごす通夜振る舞いですが、席を設ける遺族もおもてなしを受ける参列者も、お互いにマナーを守って良い時間にしたいものですよね。
そこで、今回は通夜振る舞いの形式から料理の種類・一連の流れ・守るべきマナーについて詳しく解説します。
通夜振る舞いとは

通夜振る舞いは、お通夜の後に行われる会席のことを指します。
本来、「お通夜」とは一晩中お香を絶やさず故人の亡骸を見守る儀式です。
まだ医療が発達していなかった時代は生死を見分けることが難しく、死んだと思った人が生き返ることも多かったため、必ず一晩は寝ずの番をして亡骸を見守る習わしがありました。
死んだ人が生き返るかも知れないという恐怖心は耐えがたいため、お酒や料理を頂きながら気を紛らわせていたのですが、この風習が通夜振る舞いの由来と言われています。
現代では「お通夜の参列者を料理やお酒でもてなす」という部分が受け継がれ、お食事やお酒を頂きながら故人の思い出を語り合うという形式になりました。
医療が発達した現代では故人が生き返ることはありませんが、通夜振る舞いで心ゆくまで故人の思い出を語る時間は、最期の別れをゆっくりと惜しむ大切な風習となっています。
通夜振る舞いの形式

通夜振る舞いはお食事やお酒で参列者をもてなすことが一般的ですが、時代が変わり葬儀の規模や様式が変化したことで、通夜振る舞いもさまざまな形式で行われるようになりました。
では、現代の通夜振る舞いにはどのような形式があるのでしょうか?
実際に行われている次の3つの通夜振る舞いの形式を具体的に紹介していきましょう。
- オードブルで自由に会食する
- 1人一席を設ける
- 持ち帰りにする
形式①:オードブルで自由に会食する
通夜振る舞いの形式で一番多いのが、オードブルを用意して自由に会食する形式です。
お通夜が行われる斎場に別室を設け、テーブルを並べてオードブルと飲み物を用意し、お通夜の参列者をご案内して会食します。
席は決まっておらず参列者が自由に着席して会食する形が一般的ですが、最初に喪主の挨拶と献杯がある場合は上座に遺族が座り、おもてなしのお手伝いをする人が下座に着くことが多いです。
ある程度の時間が過ぎたところでいったんお開きとなりますが、地域によっては深夜に至るまでお酒を酌み交わし、故人を忍びつつ語り合うこともあります。
形式②:1人一席を設ける
家族葬などの小規模なお通夜では、参列者が少なくあらかじめ人数がわかっているので、1人一席を設けて通夜振る舞いをすることがあります。
お食事はオードブルの場合もありますし、仕出し屋に精進料理を頼んだり、仕出し弁当で対応したりとさまざまです。
1人一席なので席順が決まっていることも多く、上座には主賓の参列者、その隣に主賓をもてなす喪主や遺族が座り、お茶出しやお世話をする人が末席に着席します。
形式③:持ち帰りにする
家族葬の中でもよりシンプルなお通夜になると、通夜振る舞いの席を設けずお持ち帰りの品物を用意することもあります。
お持ち帰りの品物はさまざまですが、実際に用意されている品物は次のとおりです。
- 仕出し弁当
- ビール券
- お菓子の詰め合わせ
お通夜の翌日には告別式もありますし、心身ともに疲れている遺族は少しでも休む時間が必要なので、持ち帰り形式の通夜振る舞いが選ばれることも少なくありません。
ただし、夏場のお通夜で仕出し弁当を持ち帰るのは衛生面にも不安がありますし、お通夜の習わしを大切にしている年配の方から苦言が出る可能性もありますので、通夜振る舞いの席を設けず持ち帰りで対応するときは注意が必要です。
通夜振る舞いの料理

通夜振る舞いは忌中に行われるので、用意する料理の種類にも気をつけなければなりません。
ここでは、通夜振る舞いに相応しい料理の種類について具体的な例を挙げて詳しく紹介します。
通夜振る舞いの料理を選ぶときの参考にしてください。
生魚無しのお寿司
忌中は肉や魚を口にできないため、通夜振る舞いの料理でも肉と魚を省かなければなりません。
通夜振る舞いで良く用意されるのがお寿司ですが、ネタの種類としてはかんぴょう巻き・かっぱ巻きなどの巻き寿司が多いです。
お通夜を行う斎場に料理をお願いすると、提携している仕出し屋がお通夜に対応したお寿司を用意してくれます。
もし遺族が個別に手配する場合でも、通夜振る舞いであることを伝えればちゃんと対応してもらえますので、仕出し屋に頼むときはどのようなお寿司が欲しいのかしっかり伝えるようにしましょう。
おにぎり
お寿司と並んで用意されるおにぎりも、素朴で魚・肉系を使わないものが一般的です。
シンプルな塩むすびの他に、梅干しや昆布を具材にしたもの、海苔が巻かれたおにぎり、山菜の炊き込みおにぎりなどが並びます。
お酒を飲まない人や小さなお子さんは通夜振る舞いの食事もしっかり食べられた方が良いため、参列者の年齢や好みも把握してから量を調節して用意しましょう。
煮物
煮物は通夜振る舞いに欠かせない料理の一つですが、具材だけではなく煮物の出汁にも注意します。
カツオや煮干しは魚系になるので、通夜振る舞いに出す煮物には相応しくありません。
さらに、良い出汁が出るからと練り物を入れる人もいますが、練り物は魚の身をすりつぶしたものなのでお通夜ではNGです。
仕出し屋にお願いする場合は心配ありませんが、もし自分たちで作る場合は出汁の種類に注意して、昆布や干し椎茸で煮物を作るようにしましょう。
野菜の天ぷら
通夜振る舞いで出される天ぷらは、野菜をメインにして用意されます。
あっさりした料理が多い中で、野菜の天ぷらは味が濃くお酒にも合うため、幅広い年代の参列者に喜ばれるメニューです。
1人一席を設けるときは一人前ずつ用意されますが、オードブルの場合は量が足りなくなることもありますので、仕出し屋と相談しながら用意する量を調整しましょう。
飲み物
通夜振る舞いで出される飲み物は、次のとおりです。
- ビール
- 日本酒
- 焼酎
- お茶(ペットボトル・暖かいお茶)
- ジュース類
通夜振る舞いで出されるアルコール類は強めのものが多く、地域によっては清めの意味があると考えられています。
郷土色が強いお酒が並ぶこともありますが、故人の思い出を語り合うしめやかな席でのお酒なので、あまり量を用意することはありません。
お茶やジュースはペットボトルで準備されることが多いですが、それとは別にお茶の葉と急須も用意しておき、温かいお茶も飲めるようにしておきましょう。
通夜振る舞いの流れ

「お通夜の後に通夜振る舞いがある」という点はわかっていても、具体的な流れがイメージできないと不安ですよね。
通夜振る舞いの多くは一定の形式に沿っているので、基本の流れがわかっていると遺族も参列者も慌てる必要がありません。
ここでは、通夜振る舞いの始まりから終わりまでの流れについて、順を追って紹介していきます。
- お通夜の後に参列者を促す
- 始めの挨拶
- 献杯
- 会食
- お開きの挨拶
ステップ①:お通夜の後に参列者を促す
最初に遺族が行うのは、お通夜の後に参列者を通夜振る舞いに促すことです。
案内の仕方には、次のような方法があります。
- お通夜で喪主の挨拶をしたときに通夜振る舞いへのお誘いをする
- 司会者が法要の閉式を告げる際に参列者へ通夜振る舞いの参加を伝える
- お通夜の法要後に会場の案内係が誘導する
これらの方法のうち、どれか一つを行うというよりも「組み合わせて参列者を促す」という方法が一般的です。
例えば、閉式の言葉の最後に司会者から通夜振る舞いへの参加を伝えてもらい、席を立った参列者を案内係が誘導するとスムーズですよね。
家族葬などの小規模なお通夜では、喪主が挨拶をしたときにお誘いをすることもできますが、大きな法要ではなかなか難しいケースもあります。
葬儀の規模や状況に合わせて適切な方法を考え、上手に参列者を促しましょう。
ステップ②:始めの挨拶
参列者が通夜振る舞いの席についたら、喪主から始めの挨拶をします。
参列者に対するお礼と、穏やかな時間を共有したいという気持ちを伝えましょう。
もし言葉が浮かばないときは、次の文例を参考にしてみてください。
本日は、亡き〇〇(故人の名前・続柄)のお通夜に参列を賜り、誠にありがとうございました。皆様のおかげでお通夜の法要もつつがなく済ませることができ、大変感謝いたしております。ささやかではございますがお食事の席をご用意いたしましたので、召し上がっていただきながら亡き〇〇(故人の名前・続柄)の思い出話をぜひお聞かせください。
ステップ③:献杯
喪主からの挨拶が済んだら、次に行われるのが献杯です。
献杯は故人へ捧げる盃なので、飲み物が入ったコップを用意し、「献杯」ということばとともに額の位置まで掲げるようにします。
献杯をするときは、遺族の中で適任と思われる人をあらかじめ選んでおき、献杯の音頭をお願いしてください。
献杯の挨拶の文例は次のとおりです。
献杯の前にひとことご挨拶申し上げます、△△(自分の名前)と申します。私は故人の〇〇(続柄)にあたり、生前から故人と親しくさせていただきました。本日は皆様と故人の思い出話を語り合い、ご冥福をお祈りしたいと思います。それでは献杯を致しますので、続いてご唱和ください。献杯。
ステップ④:会食
献杯が済んだら、それぞれがお食事を頂きながら故人の思い出話をして、穏やかな時間を過ごします。
遺族が各席を周り、ご挨拶をしたりお酌をしてもてなしますので、その際にはゆっくりとお悔やみの言葉を述べたり、思い出話をして過ごしましょう。
ただし、一般の宴席ではないので、大声を出したり騒がないよう注意してください。
ステップ⑤:お開きの挨拶
お食事が進んで席も落ち着いてきたら、頃合いを見計らってお開きの挨拶をします。
地域によってはお開きの挨拶をせず、それぞれが遺族にご挨拶をしてから帰宅することもありますが、人によっては帰るタイミングが掴めず悩むケースも少なくありません。
喪主から一度お開きの挨拶があると、帰宅する人もスムーズに退席できますし、遺族もおもてなしの緊張を緩められます。
どのような形式の通夜振る舞いでも、開始から2時間を目安にして一度お開きの挨拶をしましょう。
お開きの挨拶の例文は次のとおりです。
本日はお忙しい中、亡き〇〇(続柄・故人の名前)のお通夜にご参列を賜りまして、誠にありがとうございました。皆様から楽しい思い出話を伺い、故人も喜んでいることと思います。明日は〇〇時より告別式が行われますので、お時間がございます方はご参列を頂けますようよろしくお願い致します。以上をもってお開きとさせて頂きます。どうぞお足元に気をつけてお帰りください。
通夜振る舞いの断り方

通夜振る舞いは、お通夜に参列した方全員のお声掛けがあります。
しかし、お通夜の後に予定がある場合、せっかくのお誘いもお断りしなければならないことがありますよね。
実は、遺族からのお誘いが断りにくいと感じ、通夜振る舞いを断れずに困ったという人も少なくありません。
では、もし通夜振る舞いを断るときにはどのようにすれば失礼にならないのか、具体的な方法を詳しく紹介していきます。
基本的には少しでも参加する
通夜振る舞いは、参列者に対する遺族のお礼が込められているため、基本的には少しでも参加することが礼儀です。
したがって、お通夜に参列することを決めたのなら、通夜振る舞いの時間まで考えてあらかじめスケジュールを組むようにします。
しかし、突然の逝去ではあらかじめ時間を設けることも難しいですし、予定の変更ができないことも少なくありません。
そのような場合は、献杯をして少しお料理にはしをつけたあと、頃合いを見計らって遺族にご挨拶してから退席するようにしましょう。
出席できないときは丁寧に断る
もし通夜振る舞いに少しでも出席することが難しい場合は、喪主の方に丁寧なご挨拶をしてお断りするようにします。
具体的な予定まで告げる必要はありませんが、次のような内容は必ず伝えてからお断りするようにしましょう。
- お悔やみの言葉をあらためて伝える
- 通夜振る舞いに出席できないことを詫びる
- 翌日の告別式に参列するのであればその旨を伝える
- 「失礼致します」と丁寧に挨拶をしてから斎場を出る
先に帰るときは挨拶を忘れない
参列者が多い場合、対応に追われている遺族に遠慮してそっと帰宅する人がいますが、これは遺族に対して失礼にあたるため、やってはなりません。
もし遺族に直接挨拶できなかったとしても、受付の人に伝言をお願いしたり、案内係にお声掛けをしてから帰宅するなど、一言でも挨拶を忘れないことが重要です。
一番良いのは、喪主やその家族に直接ご挨拶をして帰宅する方法です。
ただし、どうしても無理な場合は、受付係や案内係に自分の名前と伝言をお願いし、挨拶をしてから帰宅するようにしましょう。
通夜振る舞いの注意点・マナー

最後に、通夜振る舞いの注意点やマナーについて紹介します。
通夜振る舞いは、お通夜に参列してくださった方に対する遺族のおもてなしではありますが、参列者側も「ご供養の場である」ということを忘れてはなりません。
通夜振る舞いでやってはいけないことの具体例を紹介するので、よく確認してから通夜振る舞いに出席しましょう。
注意点・マナー①:故人に関係ない話は慎む
通夜振る舞いは、故人の思い出話を語り合いながら偲ぶ大切な席なので、故人に関係のない話は慎むことがマナーです。
特に、会社の同僚や知り合いで集まった場合、仕事や趣味の話で盛り上がってしまい、遺族が話の輪に入れないといったケースがよく見られます。
故人のお通夜の後なのに、遺族がわからない話ばかりしてしまうことは大変失礼です。
通夜振る舞いの席で久しぶりに会う人もいるかと思いますが、故人に関係ない話は慎むようにしましょう。
注意点・マナー②:故人の悪評や噂話はしない
故人に関係する話であっても、故人の悪評や噂話をするのはマナー違反になります。
マナー違反となる具体的な内容としては、次のような話です。
- 故人の借金の話
- 故人の人間関係に関する悪評
- 故人に迷惑をかけられた話
- 故人が浮気をしていたという根拠の無い噂話
- 故人の資産を詮索するような話
このような内容の話は、遺族だけではなく他の参列者が聞いていても気持ちの良いものではありません。
通夜振る舞いの席は故人の供養の場であることを意識し、話題選びには注意を払いましょう。
注意点・マナー③:お酒はほどほどにする
通夜振る舞いの席ではお酒も振る舞われますが、まれに飲み過ぎて酔い潰れたり、具合が悪くなり遺族に迷惑を掛ける人もいます。
通夜振る舞いは遺族のおもてなしではありますが、だからといって好きなだけお酒を飲み自由に振る舞って良い席ではありません。
通夜振る舞いの席は、故人の思い出話を通して供養を行い、遺族の心を慰める場であることを忘れず、お酒はほどほどに留めましょう。
注意点・マナー④:遺族の負担にならない時間で帰る
通夜振る舞いの翌日には、故人の「告別式」と「火葬」という大切が儀式が控えています。
したがって、少しでも遺族は休む時間をとり、つつがなく葬儀が終わるよう体調を整えなければなりません。
たとえ遺族が「ゆっくりしていってください」とお声掛けしていても、その言葉を鵜呑みにして遅くまで会食していると、遺族が休む時間が削られて大きな負担になってしまいます。
通夜振る舞いに出席するときは遺族の負担も考慮し、最低でも22時までには帰宅するようにしましょう。
まとめ

通夜振る舞いは、お食事の席を通して遺族が感謝の気持ちを表し、参列者と思い出話をしながら故人を偲ぶ大切な供養の場です。
お食事の内容から参列者のマナーまで、守らなければならないポイントをよく確認し、故人の供養になる穏やかな時間が過ごせるよう心掛けましょう。