相続では、相続税は税理士に、遺産分割協議書など権利書類は行政書士に、争族などで揉め事に発展した場合は弁護士など、内容によって依頼する専門家が異なりますが、不動産登記の場合は、司法書士に依頼をします。
ただし、上記の手続き含め、不動産の登記についても、専門家に依頼せず自分で行うことも可能です。本項では「どのような場合に司法書士に依頼すれば良いのか?」「依頼した時の費用感は?」などについて、解説致します。
目次
不動産登記とは
不動産登記とは、不動産の情報や不動産の所有者についての情報などを法務局で変更することです。一般的には、このうち不動産の名義変更手続のことを、「不動産登記」と呼ぶことが多いでしょう。
また、相続での不動産登記とは、亡くなった人(「被相続人」といいます)名義の不動産を相続人の名義へ変えることを指していることが通常です。
不動産の所有者が変わった場合、不動産登記をしなかったからといって所有者変更の効力が生じないわけではありません。たとえば、父が亡くなり、父の持っていた不動産を長男が不動産を相続するという遺産分割協議がまとまったのであれば、登記をしなかったとしてもその不動産は長男のものです。
しかし、これはあくまでも内々の話であり、登記をしなければ事情を知らない第三者に対抗(主張)することはできません。仮に、二男にお金を貸していた第三者がこの不動産のうち二男の法定相続分を差し押さえた場合、登記をしていない以上は、長男はこの第三者に「自分が相続したものだから返してくれ」とはいえないということです。
せっかく遺産分割協議がまとまっても、不動産登記をしていなければ、このようなトラブルに巻き込まれる可能性があります。
また、故人名義のままの不動産は、売却したり担保に入れたりすることはできません。そのため、不動産を取得したら、できるだけすみやかに不動産登記まで済ませておくべきでしょう。
不動産登記を司法書士へ依頼した方が良いパターン
次の場合には、自分で不動産登記を行うことは容易ではありません。このうち一つでも該当する場合には、司法書士へ手続きを依頼した方が良いでしょう。
- 数次相続など特殊な相続である場合
- 時間や手間をできるだけかけたくない場合
- 平日の日中に何度も時間を取ることが難しい場合
- 不動産登記の完了を急ぐ事情がある場合
- 司法書士へ相続の相談をしたい場合
- 漏れなく手続きを終えたい場合
数次相続など特殊な相続である場合
数次相続とは、複数回にわたって相続が発生していることです。たとえば、今回父が亡くなり不動産登記をしようとしたところ、不動産の名義が何年も前に亡くなった祖父のままとなっていたような場合がこれに該当します。
この場合には、集めるべき書類も多くなる他、登記に必要な申請書の書き方も複雑です。このような特殊な相続登記を自分で行うことは容易ではありませんので、司法書士へ依頼した方が良いでしょう。
時間や手間をできるだけかけたくない場合
不動産登記を自分で行うには、相当な時間と手間がかかります。一つずつ調べながら手続きを進める必要があるほか、何度か法務局の事前相談へ出向いて書類を確認してもらう必要が生じることが多いためです。
時間や手間をできるだけかけたくない場合には、無理に自分で行わず、司法書士へ依頼することをおすすめします。
平日の日中に何度も時間を取ることが難しい場合
不動産登記を自分で行うためには、平日の日中に何度も時間を取らなければなりません。登記申請先や事前相談先である法務局は、平日の日中しか開いていないためです。
また、不動産登記に必要な多くの書類の取り寄せ先である市区町村役場も、原則として平日日中のみの開庁です。平日の日中に何度も時間を取れない場合には、自分で不動産登記を完了させることは困難でしょう。
不動産登記の完了を急ぐ事情がある場合
自分で不動産登記をした場合には、登記の完了までに時間がかかる傾向にあります。
なぜなら、慣れない手続きを一つずつ調べながら進めることで申請までに時間がかかる他、申請後の補正(修正)が必要となり更に時間がかかる可能性が高いためです。そのため、相続での不動産登記完了後に売却を控えている場合など登記を急ぐ事情がある場合には、無理に自分で行うことはおすすめできません。
司法書士へ相続の相談をしたい場合
法務局は、登記申請をするにあたっての書類の相談には乗ってくれます。しかし、不動産登記の前提となる、相続の相談には乗ってくれないことが一般的です。
そのため、たとえば不動産を誰の名義にすべきかなど不動産登記の前段階となる相続の相談をしたい場合には、はじめから司法書士へ手続きを依頼すべきでしょう。
漏れなく手続きを終えたい場合
自分で不動産登記をした場合には、必要な手続きを見落として漏れてしまうリスクがあります。
たとえば、家の前の道が被相続人名義の私道となっており、その登記を漏らしてしまう場合は少なくないでしょう。なぜなら、被相続人が持っていた不動産は毎年4月から6月頃に市区町村役場から送付される「固定資産税課税明細書」などで確認することが多いものの、私道など固定資産税が非課税である財産は、この書類には掲載されないためです。
プロである司法書士へ依頼した場合には、このような漏れが起きるリスクを下げることが可能となります。
不動産登記における司法書士費用の相場
司法書士に依頼すれば登記は確実に実行してもらえるとはいえ、司法書士に相続登記を依頼するとなると、やはり一番気になるのは費用だと思います。
「専門家に頼むと安心だけど、費用が勿体無いから自分でやる」と言う考えをお持ちの方も多いでしょう。
そこで司法書士に相続登記を依頼した場合の費用について、ご自身で相続登記したときと比較しながら説明していきます。
実費について
相続登記を司法書士へ依頼したときにかかる費用には、「実費」と「報酬」があります。
実費
実費とは、相続登記をするために必要な戸籍謄本等を取得するための手数料や、相続登記の際に納付する登録免許税をいいます。
前者の戸籍謄本等の取得にかかる手数料は、以下のとおり1通あたりは数百円ですが、書類を何十通も取得する必要があったり、取得のための郵送代や交通費がかかったりと、トータルすると1万円程度、多いときには3万円程かかることもあります。
※なお、郵送で戸籍謄本等を取得する場合は、郵便局で購入する「定額小為替」を使用しますが、こちらの発行手数料として1枚100円かかります。
また、相続登記の際に納付する登録免許税は、下記計算式で計算されます。こちらは不動産によって価格が異なりますが、仮に評価額が2000万円の不動産について相続登記をするときは、登録免許税は8万円と計算されます。
[不動産の評価額]×0.4%(4/1000)
(端数処理)
- 不動産の評価額は、評価証明書に記載されている価格
- 不動産の評価額の1,000円未満の端数は切り捨ててから0.4%を乗じる
- 0.4%を乗じて計算した金額に100円未満の端数があるときは切り捨てる
- 計算した登録免許税が1,000円未満のときは、登録免許税は1,000円となる
報酬について(一般的な価格帯)
次に、司法書士の報酬について説明します。まずは下記の表をご覧ください。
これは、平成30年に日本司法書士連合会が行ったアンケートの結果を引用したものです。
※相続を原因とする土地1筆及び建物1棟(固定資産評価額の合計1000万円)の所有権移転登記手続の代理業務を受任し、戸籍謄本等5通の交付請求、登記原因証明情報(遺産分割協議書及び相続関係説明図)の作成及び登記申請の代理をした場合
このアンケートの結果によれば全国平均で約7万円という結果になっています。前提条件がシンプルなものになっていますので、実際の相続案件での報酬額はもう少し高くなることが予想されます。
アンケートの結果からすれば、司法書士の報酬額が10万円程度であれば一般的な金額といえるでしょう。
司法書士報酬が高くなりそうなケース
10万円程度の報酬額であれば一般的な報酬額といえますが、どのような場合であってもその金額が目安になるわけではありません。司法書士の報酬が高くなる場合があります。
- 手続きや登記申請が複数ある
- 権利関係が複雑な場合(下記参照)
には高くなっても仕方ないといえます。
もちろん、下記は一例に過ぎませんが、その他の理由で報酬額が加算されることもあります。
- 裁判所の手続きも一緒に依頼する場合(遺言書の検認が必要な場合や、相続放棄をする相続人がいる場合など)
- 何世代にも渡って相続登記を放置していた場合
- 相続登記と一緒に抵当権抹消登記をする場合や、相続登記申請を複数の法務局へする必要がある場合など、登記申請が複数に渡る場合
- 戸籍謄本等を収集していた際に、他の相続人が見つかった場合
- 被相続人の登記簿上の住所地が古く、権利証も見つからない場合
自分で申請した場合との比較
上記の実費と報酬のうち、実費については、司法書士に依頼せずに、ご自身で相続登記をする際にもかかる費用です。司法書士に依頼したからといって割高になったり割引になったりすることはありません。
ですので、司法書士へ相続登記を依頼して30万円請求されたという場合であっても、そのうちの20万円程は実費で、ご自身で相続登記をされても発生する費用ということになります。
結論として、相続登記をご自身でされる場合の費用と、司法書士へ依頼する場合の費用の違いは、司法書士の報酬だけということになります。
不動産登記の司法書士費用を抑えるポイント
不動産登記にかかる司法書士費用を抑えるためには、どのようなポイントに注意すれば良いのでしょうか?主なポイントは、次の2点です。
- 相見積もりを取得する
- 自分でできる部分は自分で行う
相見積もりを取得する
1つ目の方法は、複数の司法書士から相見積もりを取得することです。
とはいえ、司法書士は事務所ごとに報酬体系を定めており、その報酬体系に従って報酬額が決まります。そのため、相見積もりを取るからといって、その事務所の規定料金から値下げを受けられる可能性は高くありません。
では、なぜ相見積もりを取るのかといえば、事務所によって報酬額や報酬体系が異なるためです。そのため、複数の事務所に相見積もりを取ることで、ご自身のケースでもっとも金額の低い事務所を見つけやすくなるでしょう。
ただし、あまり多くの事務所に相見積もりを取ってしまうと、時間や手間が多くかかってしまいます。そのため、相見積もりを取るとしても、多くても2つか3つの事務所に絞って行うことをおすすめします。
自分でできる部分は自分で行う
もう一つの方法は、自分でできる部分は自分で行うことです。たとえば、戸籍謄本や除籍謄本など不動産登記の必要書類をすべて自分で揃えることで、報酬を下げてもらえる可能性があるでしょう。
ただし、自分で行った内容に不備があった場合には、結局司法書士側で手間がかかるため、値下げに応じてもらえない可能性があります。そのため、一部を自分で行うことを理由に値下げ交渉するのであれば、自分で行う部分に不備がないよう、十分に注意して行う必要があるでしょう。
不動産登記における司法書士の選び方のポイント
全国にはたくさんの司法書士事務所がありますが、上記で説明した報酬についてはそれぞれ異なります。できれば報酬が安い司法書士を選びたいですよね。ですが、司法書士を選ぶ際に、報酬だけで判断するのは危険です。
報酬だけでなく、他の条件(特に以下の2つの条件)もチェックした上で、どの専門家に依頼するのかを比較検討するべきでしょう。
- 相続に強いかどうかを重要視する
- 依頼できる範囲を確認する
相続に強いかどうかを重要視する
司法書士であれば誰でも同じかというと、そうではありません。司法書士にはそれぞれに強みや専門分野がありますので、中には相続登記をほとんど扱ったことがない司法書士もいます。折角報酬を支払ったのに、時間がかかったり、不動産に登記漏れがあったりしては大変です。
また、遺産分割の方法についてアドバイスを受けたい場合などには、相続手続きに精通している司法書士であれば、ベストなアドバイスが期待できます。司法書士を選ぶ際には、報酬だけでなく相続に強いかどうかも重要といえます。
依頼できる範囲を確認する
相続登記の代行業務では、一般的には申請書類の作成、添付書類の取得から、法務局への登記申請までをワンストップで行うことを指しますが、それらに付随する業務までサービスに組み込まれている場合があったり、逆にそうでない場合があります。
同じような代行サービスでも、厳密にヒアリングすると微妙に依頼できる範囲が異なる場合があるので注意しましょう。
また、基本的には戸籍謄本等の役所で取得する書類の取得代行も依頼できますが、印鑑証明書だけは原則本人でないと取得できませんので、ご自身でする必要があったりします(相続登記に遺産分割協議書を添付する場合のみ)。
また、遺産分割協議に代理で参加して話をまとめるなど、他の相続人と交渉をすることは、司法書士では対応できず、弁護士へ依頼する必要がありますのでご注意下さい。
これらはどの司法書士に依頼しても同じことなので、あらかじめルールとして理解しておくのが良いでしょう。
不動産登記に関するよくある質問
最後に、不動産登記に関するよくある質問を2つ紹介します。それぞれの回答は、次のとおりです。
不動産の相続登記を放置したらどうなる?
相続が起きた後、不動産の相続登記を長期に渡って放置することはおすすめできません。なぜなら、相続での不動産登記を放置すれば、次のデメリットが生じるためです。
そのままでは売却などができない
故人名義の不動産は、売却をしたり融資を受ける際の担保に入れたりすることができません。今すぐ売却などをする予定がなかったとしても、不動産登記を放置すれば、将来売却や担保に入れる必要が生じた際にすぐに対応ができず不利益をこうむる可能性があります。
トラブルの原因となる可能性がある
不動産登記を放置すれば、たとえ相続人間の話し合いで自分が不動産を相続することが決まっていたとしても、そのことを第三者に対して主張することができません。
その結果、他の相続人(例:二男)にお金を貸している債権者が不動産のうち二男の相続分を差し押さえて他者に売却してしまうなど、トラブルの原因となる可能性があります。
放置すればするほど手続きが大変になる
一般的に、相続登記は相続が起きてから年数が経てば経つほど大変になります。なぜなら、年月が経過する中でもともと相続人だった人が亡くなったり、認知症になったりする可能性が高くなっていくためです。
罰則の対象になる可能性がある
2024年4月1日から、相続登記が義務化されます。義務化後は、相続による不動産の取得を知ってから3年以内に相続登記をしなければなりません。
正当な理由がないままにこの期間を超過してしまえば、10万円以下の過料に処される可能性があります。
相続登記に権利証は必要?
相続の不動産登記である相続登記で、権利証や登記識別情報通知書は必要なのでしょうか?中には、失くしてしまって不安に感じている方もいらっしゃることでしょう。
結論をお伝えすると、相続登記の場面では、原則として権利証などは必要ありません。
ただし、登記上の名義人と被相続人の情報(氏名の表記や住所など)が一致しない場合などには、例外的に権利書などが必要となります。とはいえ、この場合であっても権利書がなければ絶対に不動産登記ができないわけではなく、上申書を作成するなど他の方法で登記ができる場合が大半です。
権利書などが必要となるケースであるにもかかわらず紛失している場合には、司法書士へ相談すると良いでしょう。
まとめ
相続登記を司法書士に依頼することについて解説してきました。
相続では色んなところで費用がかかってしまうと言うことがあるため、費用を抑えるために自分で手続きをしたくなると言う人も多いでしょうが、本項で説明した通り、自分でやる(=専門家のチェックを通さない)ということはリスクもあることなので、「単純にお金が高いから」と依頼するのを諦めるのではなく、色々な面を考慮しながら検討するべきでしょう。