贈与税の時効は「6年」または「7年」。成立しないケースが多いので注意

相続税の時効生前贈与
この記事を監修した専門家は、
牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。

贈与税をはじめとした税金には「時効」があるため、一定期間が経過して時効が成立すれば支払い義務がなくなります。
しかし、贈与税の場合は時効が成立するまでの年月が他の税金とは異なり、時効の完成自体が税務署から認められないケースも多いため注意が必要です。
この記事では、贈与税の時効の考え方や時効が成立しないケース、贈与税の未納が税務署に知られる理由や未納者に対する罰則について解説します。

贈与税の時効とは

悩んでいる女性
時効とは「ある状態が一定の期間に渡って続いた場合に権利の取得や義務の消滅を法的に認めて確定させること」を指します。
そして、贈与税の時効とは「一定の期間が経過して贈与税の支払い義務がなくなること」です。

いつまでも権利関係が確定しないと、関係者が不安定な状況に置かれて困ることにもなりかねません。
そこで、一定の年月が経過すると時効という形で権利関係を確定させる仕組みになっています。
時効が成立する年月は、権利や義務の種類ごとに異なりますが、時効の考え方は税金でも適用され、贈与税でも時効が成立した後は支払う必要はありません。

ただし、後述するように、贈与税は時効の成立が税務署に否認されることが多い税金です。
そもそも時効の成立を待って納税義務を免れれば良いなどという話ではないので、贈与税は未納にせず正しく申告・納税するようにしてください。

時効が成立する年月

贈与税の時効が成立する年月は、原則6年です。
しかし、虚偽の記載をしたり脱税の意図があった場合には7年となります。
税金の時効が成立するまでの年月には複数あって混同しがちですが、まとめると次の通りです。

  • 申告期限内に申告書を提出している場合:3年
  • 申告期限内に申告書を提出していない場合:5年ただし贈与税は6年
  • 虚偽の記載や脱税の意図があった場合:7年

贈与税の場合は、未納であれば脱税の意図があるから納税していないケースがほとんどと言えます。
贈与を受けたことを本人が知らずに、悪意なく未納の状態になることは通常考えられません。

また、贈与はそもそも当事者間の合意があって成立するものなので、本人が知らなければ贈与自体が成立していないことになります。
そのため、原則の6年が適用されることはほぼなく、時効完成までの年月は7年と考えて良いでしょう。

時効の起算日

時効の成立を考える際には、そもそも基準日がいつなのかを正しく理解しておく必要があります。
贈与税の時効は6年または7年で成立しますが、起算日は贈与税の申告期限の翌日です。

そして、贈与税の申告は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日に行わなければなりません。
つまり、申告期限である3月15日の翌日3月16日から時効完成に向けたカウントが始まり、未申告の場合にはその6年後または7年後の3月15日を過ぎると時効が成立します。
贈与を受けた日からカウントされるわけではないため、勘違いしないようにしましょう。

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贈与税の時効が成立しないケース

NGサインを出す女性
贈与を受けた本人は、贈与税の時効が成立すると思っている場合でも、贈与があったこと自体を税務署から否認されて時効が成立しないケースがあります。
そもそも、贈与があったことを事後的に証明することは非常に困難です。

例えば、当事者間の口約束だけで贈与を行って贈与契約書を作っていなかった場合、税務署に贈与を否認されても実際に贈与があったことを示す明確な証拠を出すことができません。
贈与の時効を主張しても贈与自体を税務署が認めず、亡くなった被相続人が単に貸していただけのお金と見なされてしまいます。
被相続人の財産として扱われれば、相続税の課税対象です。

また、時効の成立を主張して納税を免れることだけを目的として贈与契約書を作成していても、時効の成立が認められないことがあります。
脱税目的だけの契約書作成を違法として時効の成立を認めなかった過去の判例がすでにあるからです。

税金を未納にして税務署にバレないか気にしたり、不必要なリスクを取る意味はまったくありません。
後になってから税務署に指摘されることがないように、贈与契約書や入金履歴等の形で証拠を残し、翌年3月15日までに贈与税の申告を適切に行うようにしてください。
ここでは、特に税務署から指摘を受けて贈与が否認されることが多いケースを紹介していきます。

ケース①:名義預金

贈与自体を税務署から否認される典型的なケースが名義預金です。
名義預金とは「銀行口座の名義人ではない他の人が実質的に預金するために使っていて、口座名義人は単なる名義貸しに過ぎない」と考えられる口座を指します。

例えば、親が子ども名義の銀行口座を開設して、子の将来のために毎年100万円の積立を行っていた場合を考えてみましょう。
親が亡くなり相続が開始された場合、子が「この口座のお金は親が私に贈与したもので、毎年基礎控除額110万円以内の金額だから課税されない」と主張したら税務署は認めてくれるでしょうか?

実は、このようなケースでは、残念ながら贈与自体を税務署が認めないことがほとんどです。
そもそも、財産を受け取った人がその財産を自由に使えなければ贈与が成立しているとは言えません。
銀行口座の名義が子の名前になっているだけで、実際にお金を管理しているのが親ならば親の財産です。

この例であれば、贈与自体を税務署に否定されてしまい、銀行口座内のお金は親の財産の一つと見なされて相続税の課税対象になります。
贈与であったことをしっかりと主張するためには、財産を受け取った側がその財産を自由に使える状態にしておくことや、贈与契約書を作成しておくことが大切です。

また、夫婦間でやり取りしたお金についても、一方が亡くなって相続が開始された際、税務署によって生前の贈与が否認されて相続税の課税対象財産と見なされてしまうケースがあるため注意してください。

ケース②:貸付金・立替金

財産を渡した側も渡された側も、贈与のつもりで授受していた場合でも、贈与契約書を作成していなかったために税務署に贈与として認めてもらえないケースがあります。

例えば、まとまった資金を事業資金として経営者に提供するようなケースを考えてみましょう。
返還の必要がなく贈与した資金であれば経営者の財産ですが、単に貸し付けただけの資金であれば、貸付金であるため提供者側の財産と言えます。

事業を経営している子に親が資金援助をしているような場合、親が亡くなって相続が開始された場合には注意が必要です。
贈与した資金であるという証拠を示せない場合、税務署は贈与を認めず子の財産として扱ってくれません。
つまり、貸付金と見なして親からの相続財産の一つと見なし、相続税の課税対象になります。

被相続人と相続人の間で贈与を行った場合は、贈与契約書を作成するなど証拠を残すことが大切です。
貸し付けただけの貸付金や立替えただけの立替金として見なされないように注意してください。

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贈与税の未納が税務署にばれるケース

落ち込んでいる男性
贈与税は、相続税のように税務署による調査が頻繁に行われるわけではありません。
そのため、贈与税の時効が成立するまでの年月が何年であろうと、そもそも贈与税が未納でも税務署にバレずに済むだろうと考える人がいます。

しかし、贈与を受けていることや贈与税が未納であることが税務署にバレるケースがあるため、税金の未納が簡単にまかりとおるほど話は甘くありません。
ここでは、贈与税の未納が税務署に知られてしまう典型的なケースを2つ紹介していきます。

ケース①:相続が発生した場合

ある方が亡くなって死亡届を市区町村役場に提出すると、その情報が税務署にも伝わり、税務署が被相続人の財産の調査を開始します。
被相続人が亡くなったことを税務署に直接報告しなければ、税務調査が入らないなどということは決してありません。

もしも、過去に被相続人から相続人への贈与を行っていて未申告だった場合、亡くなった方の銀行口座の状況や入出金履歴などから税務署はお金の移動をしっかりと把握してきます。
贈与税の未申告を指摘されて、後述する罰金も含めて納付することになるか、贈与自体が否認されて相続税の課税対象になるか、どちらにしても課税対象になると考えた方が良いでしょう。

「贈与税の時効が完成しているので納税しなくて大丈夫です」などと税務署が簡単に認めてくれると考えるべきではありません。
贈与そのものへの税務調査は多くないため、贈与は税務署にバレないと考える人もいますが、このように相続が発生したタイミングで知られることになります。
贈与税の時効が成立するまで隠し通そうなどとせず、申告・納税は正しく行うようにしましょう。

ケース②:不動産を取得した場合

贈与によって不動産を取得した場合には、贈与による取得である旨が登記簿に記載されるため税務署は簡単に気づきます。
また、不動産の購入資金の贈与を受けて不動産を購入した場合は、登記簿上では贈与である旨は記載されませんが、このようなケースでも税務署は簡単には見逃してくれません。

不動産の購入のように大きな金額が動く取引に関して、税務署は特に注意して見ています。
その人の収入額などを踏まえ、不動産購入資金を自分で準備することが難しそうであれば、税務署としては贈与を受けた可能性を疑ってくるわけです。

不動産のような高額な資産を購入するケースで税務署にバレずに贈与を隠すことは到底できません。
税務署から指摘を受けて罰金まで科されることがないように、最初から正しく申告・納税を行うようにしてください。

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贈与税の納税が遅れた場合の罰則

罰則
贈与税を申告期限までに納税していないと、通常の納税額に加えて罰金も支払わなければなりません。
「延滞税」「過少申告加算税」「無申告加算税」「重加算税」は、いずれも税率が非常に高いです。

贈与税の時効の成立を狙い、高額な罰則を科されるリスクを犯す意味はまったくありません。
それぞれの罰金の仕組みを理解して、万が一にも科されないように適切に納税を行うことが大切です。

罰則①:延滞税

延滞税は、税金が期限までに納付されていない場合に科される罰金です。
納税が遅れたことへの利息として、法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて科されます。

延滞税の税率は年ごとに変わりますが、平成30年1月1日から令和元年12月31日の率はつぎのとおりです。

  • 納期限の翌日から2月を経過する日まで:年2.6%
  • 納期限の翌日から2月を経過した日以後:年8.9%

税務署から指摘を受けた場合だけでなく、納めるべき税金を過少に申告していたことに気づき、申告期限後に自ら申告をやり直した場合にも延滞税は科されてしまいます。

納税が遅れた期間が長くなれば長くなるほど、延滞税の金額は増える仕組みです。
意図的に未納にしないことは当然ですが、すでに贈与税の申告をしていた場合でも、申告内容が間違っていて過少だったことに気付いた場合は1日でも早く修正申告を行うようにしてください。

罰則②:過少申告加算税

過少申告加算税は、期限内に申告書を提出していたものの、納税額を過少に申告していたことが期限後になってから発覚した場合に科される罰金です。
過少申告加算税が科されると、不足していた税額(新たに納税する額)に過少申告加算税の税率を掛けた金額も納付しなければいけません。

税務調査を受ける前に、自主的に申告内容を修正すれば過少申告加算税はかかりませんが、そうでなければ過少になっていた税額に対して過少申告加算税が科されてしまいます。
平成29年以降に納期限を迎える税金にかかる過少申告加算税は、

  • 税務調査の事前通知を受けた後から調査の実施前に修正申告をすれば5%
  • 調査が実施されてから修正申告したら10%

です。

ただし、新たに納める税額が当初の期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超えている場合には、その超えている部分の税率は5パーセント増えることになります。
上記の5パーセントと10パーセントは、それぞれ10パーセント15パーセントになるため、より高額な罰金を納付しなければなりません。

罰則③:無申告加算税

無申告加算税は、納税義務があるのに納期限までに納付せず無申告だった場合に科される罰金です。
無申告加算税が科されると、不足していた税額(新たに納税する額)に無申告加算税の税率を掛けた金額も納付しなければなりません。

平成29年以降に納期限を迎える税金にかかる無申告加算税は、税務調査を受ける前に自主的に申告を行えば5パーセントです。
しかし、

  • 税務調査の事前通知を受けた後から調査の実施前に申告すると10%
  • 調査が実施されてから申告すると15%
  • 過去5年以内に贈与税で無申告加算税または重加算税を科されていると25%

になります。
さらに50万円を超える部分の税率は5%増えるので、上記の10%・15%・25%の各税率は50万円を超える部分についてはそれぞれ15%・20%・30%です。
無申告加算税は税率が非常に高いので、万が一にも科されることがないように注意してください。

罰則④:重加算税

重加算税は、納税義務があるのに意図的に隠ぺいしたり、仮装した場合に科される重たい罰金です。
悪質と判断された場合に科されるのが重加算税であり、過少申告加算税や無申告加算税に代えて税率がより高い重加算税が科される仕組みになっています。
重加算税の税率は、

  • 過少申告加算税の代わりに科される場合は35%
  • 無申告加算税の代わりに科される場合は40%

です。
ただし、平成29年以降に納期限を迎える贈与税については、過去5年以内に贈与税で無申告加算税または重加算税を科されたことがあると税率が10%増えることになります。
そのため、上記の35%と40%はそれぞれ45%50%となります。

これほどまでに高い税率で罰金を科されると、重加算税も含めて本来の納税額の1.5倍もの納付をしなければいけなくなってしまいます。
せっかく受け取った贈与財産が減ってしまうことになるため、贈与税の時効の完成を目論んで未納などにはせず、正しく申告・納税を行って重加算税を科されないように気をつけましょう。

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贈与税の正しい節税方法

節税方法をレクチャーする女性
贈与税の時効の成立を待って納税を免れようとしても、贈与自体が否認されて時効が成立しなかったり罰則まで科されて大きな負担になるリスクがあることが理解できたと思います。
贈与税を逃れようとして不要かつ大きなリスクを取る意味はまったくないことが理解できたはずです。

税金を安く抑えるために節税を行いたい場合には、相続税や贈与税の仕組みをうまく活用して適切に節税対策を検討するようにしましょう。
贈与税の基礎控除110万円以内の贈与であれば非課税ですし、住宅取得等資金や教育資金、結婚・子育て資金を特定の方から贈与された場合には一定額まで非課税になる特例制度もあります。

贈与した資金が非課税になる各種特例制度の内容は、国税庁ホームページなどでも確認できますし、よくわからず不安な場合には相続に詳しい税理士に相談してみてください。
税金関係の知識は単に知らないだけで損をすることも多いため、使って得する相続税・贈与税の制度を活用して正しく節税を行うことが大切です。

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まとめ

贈与税の時効は、起算日である申告期限の翌日から6年または7年が経過すると成立します。
しかし、贈与自体が税務署に否認されて時効がそもそも成立しないことも多く、贈与自体が認められず相続財産の一部と見なされると相続税の課税対象になることもあり得ます。
贈与と認められた場合でも、通常の贈与税に加えて延滞税などの罰則も科されるリスクがあり、納税を逃れようとしても何も良いことはありません。

税金を安く抑えるためには、適切に節税対策・相続対策を行うことが大切です。
贈与税の基礎控除をうまく活用したり、贈与資金の用途が決まっている場合には各種非課税制度を利用する方法も考えられます。
相続税や贈与税の仕組みを一つひとつしっかりと理解して活用すれば、税金を安く抑えることは十分に可能です。
相続新聞で掲載している他の記事も活用しながら相続や贈与への理解をぜひ深めていってください。

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この記事を監修した専門家は、
牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。