【解説】相続時精算課税制度とは?申告手続き・メリット&デメリット・必要書類

生前対策
この記事を監修した専門家は、

「どうやったら相続が発生したときの相続税を減らし、その対策のための生前贈与について贈与税の課税がかからないようにできるだろう?」

生前の相続対策を考えている方の中にはこのように考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?

その中の一つとして、贈与税との関係で「相続時精算課税制度」というものがあります。

今回は、相続時精算課税制度がどのようなものなのかについてお伝えしていきます。

目次

相続時精算課税制度とは

書類に記入する女性

まずは、相続時精算課税制度とはどのような制度なのかの概要を確認しましょう。

相続時精算課税制度は贈与税の特例

相続時精算課税制度はどのような場面で使われるものなのでしょうか。

相続時精算課税制度は、贈与税の特例です。

 

相続税は、相続が発生した際に存在する遺産の額に対して税金がかかるものです。

そのため、生前に贈与をしてしまって遺産を減らして相続税がかからないようにしようというのが相続税対策としての生前贈与です。

「生きている間に相続人に全部贈与してしまったら税金がかからなくて良いのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それでは相続税を規定した意味がなくなってしまいますね。

そのため、贈与にも「贈与税」という税金を課すことで、相続税を免れようとする行為に歯止めをかけているのです。

贈与税は、相続税を規定している相続税法の中に規定されています。

相続時精算課税制度は贈与をしても課税されない金額を増やしてくれる制度

では、「相続時精算課税制度」とはどのような制度でしょうか。

一言でいうと、相続時精算課税制度とは贈与をしても課税をされない金額を増やしてくれる制度です。

先ほどお伝えしたように、贈与をすると課税がされますが、「基礎控除」と呼ばれる範囲であれば贈与をしても課税されません。

 

2020年6月15日現在、贈与税の基礎控除額は110万円となっていますので、これ以上の金額を贈与しようとすると課税がされます。

しかし、相続時精算課税制度の適用を受けると、2,500万円までの贈与に贈与税がかからなくなり、2,500万円を超えた部分についても20%しか贈与税がかからなくなります。

生前贈与は相続時に遺産として加える制度

相続時精算課税とあるのですが、何を「相続時」に「清算精算」するのでしょうか?

相続時精算課税制度で非課税もしくは20%の税額での課税となった分については、相続をしたときに遺産の額に含む取り扱いで計算されます。

つまり、「いま贈与税では課税はしないけども、将来の相続の時に生前贈与で課税しなかった分を清算精算して相続税で課税する」というのが相続時精算課税制度なのです。

相続時精算課税制度の利用条件

チェックリスト

では、相続時精算課税制度を利用するための条件を確認しましょう。

相続時精算課税制度は、家族間の贈与のための制度であるという観点から利用条件があります。

贈与者(財産を贈与した人)の場合

相続時精算課税制度を利用するための条件として、贈与者は60歳以上の父母・祖父母であることが必要です。

 

相続時精算課税制度は父母から子、あるいは孫に贈与をする場合に利用することができる制度です。

そのため、贈与をする人が、受贈者の父母または祖父母であることが必要です。

 

また、父母・祖父母の年齢が60歳以上であることも必要となります。

なお、ここにいう年齢とは、1月1日時点での満年齢で計算をします。

受贈者(財産の贈与を受けた人)の場合

相続時精算課税制度の利用するための条件として、受贈者は20歳以上の子・孫であることが必要です。

贈与税の申告

以上の条件を満たしていれば、贈与後でも何も手続きが要らないというわけではありません。

相続時精算課税制度を利用するためには、贈与税の申告をした上で「相続時精算課税制度の選択の届出書」を提出しなければなりません(この後に解説します)。

贈与税の計算

相続時精算課税制度の適用を受けると贈与税は次のように計算されます。

まず、2,500万円までの贈与については非課税とされます。

また、2,500万円を超える部分については、一律20%の課税となります。

相続時精算課税制度の申告手続きの流れ

では、実際に相続時精算課税制度を利用するためには、どのような手続きが必要となるのでしょうか?

手続きの方法について解説していきましょう。

生前贈与をする

まず、生前贈与を行います。

「生前贈与」というのは相続に関する用語であり、「遺贈」や「相続」と区別するための呼び方に過ぎず、法律上の形式としては贈与契約となります。

贈与契約自体は、法律上は贈与者が「あげる」受贈者が「もらう」という意思表示が合致すれば成立します。

ただ、上限2,500万円の大きな額の贈与が対象になり、申告をすることから、きちんと贈与契約書を作成して贈与をします。

贈与税の申告の相続時精算課税選択届出書を提出する

相続時精算課税制度の利用をするためには、「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。

相続時精算課税選択届出書は、国税庁のホームページでダウンロードをすることが可能です

相続時精算課税選択届出書の提出には期限があります。

次の2つのうち、早く期限が来るほうの日付までに行います。

たとえば、2020年の10月に贈与を受け、2020年の11月に贈与者が亡くなった場合には、翌年の2021年3月15日が期限になります(贈与を受けた翌年の3月15日)。

2020年1月に贈与をして、2月に贈与者が亡くなった場合には、12月には相続税の申告期限となります(2月+10ヶ月=12月)。

なお、相続時精算課税選択届書を提出する際には、要件の証明をするために次の書類を添付することになっています。

添付書類
  • 受贈者の氏名・生年月日・贈与者の子・孫であることを証明するための戸籍謄本など
  • 受贈者が20歳に達した時以後の住民票
  • 贈与者の60歳に達した時以後の住民票

税務署への提出する書類の作成であるため、専門家に任せたい場合は税理士に依頼して行うことになります。

相続時精算課税制度のメリット

相続時精算課税制度の概要について解説してきました。

では、この制度を使うことによってどのようなメリットがあるのでしょうか?

相続時精算課税制度を利用するメリット
  • 一般的な生前贈与よりも多くの額を贈与できる
  • 物価が上がっている時に有利に働く
  • 収益物件を早期に贈与でき相続税対策になる
  • 子・孫に財産を早めに渡せる

メリット①:一般的な生前贈与よりも多くの額を贈与できる

一般的な生前贈与を使って非課税で贈与をする場合は、110万円までの範囲で行う必要があります。

しかし、相続時精算課税制度を利用すれば2,500万円までは非課税とすることができ、2,500万円を超える場合でも20%に抑えることができます。

そのため、一度に大きな金額の生前贈与をすることが可能となります。

メリット②:物価が上がっている時に有利に働く

相続時精算課税制度は、いずれ相続開始がされるときに相続税の対象として計算されるものです。

相続時精算課税制度を利用する場合と一般的な手順で相続する場合とでは、対象となる財産をどの時点の価値で計算するかが異なります。

 

相続時精算課税制度を利用する場合には、対象となる資産の価値は贈与時の価格で計算をします。

たとえば、贈与時に2,000万円の土地を所有している場合を考えてみます。

近隣に新駅ができるなどして、相続時には3,000万円に価値が上がっていたとしましょう。

 

相続時精算課税制度を利用した場合、2,000万円で贈与時・相続時に計算をすることになります。

相続時精算課税制度を利用しない場合、3,000万円と計算され値上がり分の1,000万円が課税の対象となってしまうのです。

そのため、目的物が値上がりすることが予想できるような場合は、相続時精算課税制度を利用するメリットがあると言えます。

メリット③:収益物件を早期に贈与でき相続税対策になる

相続時精算課税制度のメリットとして収益物件を早期に贈与すると相続税の節税効果があることも挙げられます。

例えば、毎月7万円の家賃を受け取ることができる賃貸マンションを所有している場合を考えます。

手元に持っていると、1年で84万円贈与者の財産が増えることになり、その分遺産に加算されることになります。

しかし、生前に遺贈をしていれば、収益分は受贈者が受け取ることになります。

子や孫に限定はされるものの、大きな財産になりがちの収益物件を生前贈与しておけば、この分の収益をまるごと移転することができるのです。

そのため、相続税対策になります。

メリット④:子・孫に財産を早めに渡せる

相続時精算課税制度は、ある程度の金額でも課税されなかったり、金額を低く抑えられたりできます。

そのため、子・孫の世代の人の中に相続を待たずにまとまった資金を使いたいという希望がある場合には、早期に財産を渡すことができることもこの制度のメリットだと言えます。

相続時精算課税制度のデメリット

悩む女性

一方で、相続時精算課税制度にはデメリットもあります。

利用する前に、デメリットについてもしっかりと把握しておきましょう。

相続時精算課税制度を利用するデメリット
  • 一度利用すると暦年贈与の利用ができなくなる
  • 相続税申告における小規模宅地の特例が利用できなくなる
  • 申告義務がある
  • 法改正による影響で不利になる可能性がある
  • 必ず相続税がかからないというわけではない
  • 相続人は物納を選択できなくなる

デメリット①:一度利用すると暦年贈与の利用ができなくなる

相続時精算課税制度を利用すると、「暦年贈与」の利用ができなくなります。

暦年贈与とは、通常の110万円まで非課税の贈与を続けていくことです。

そして、相続時精算課税制度を利用すると撤回をすることができないため、もう毎年の110万円の非課税の制度を使えなくなるのです。

 

たとえば、4年間110万円の非課税枠を使った暦年贈与を行って、5年目に相続時精算課税制度を利用する場合には、合計で次の金額を贈与を非課税とにできます。

  • 110万円 × 4年 + 2,500万円=2,990万円

しかし、暦年贈与を1年も使わずに相続時精算課税制度を利用してしまう場合、2,500万円までしか非課税で贈与できません。

そのため、いつ相続時精算課税制度を利用するかはよく考えて行う必要があります。

デメリット②:相続税申告における小規模宅地の特例が利用できなくなる

相続税申告をする際に、居住用の不動産に関しては最大で80%価値を減額できる「小規模宅地の特例」という制度があります。

相続財産の中で、居住用不動産の価値が大部分になっているような場合には相続財産の価値を下げることができ、相続税が課されるのを回避できたり、納税額を下げることができる重要な制度です。

 

小規模宅地の特例を適用するためには、被相続人から居住用不動産を相続する(または遺贈を受ける)ことが必要です。

相続税・贈与税を回避するために生前贈与してしまっていると、被相続人が持っていた財産ではなくなってしまい、小規模宅地の特例の適用が利用できなくなります。

そして、一度相続時精算課税制度を利用すると撤回することができないため、あとで小規模宅地の特例を使いたいと思っても利用ができなくなるのです。

 

相続が見込まれる財産の構成をきちんと把握し、小規模宅地の特例を利用したほうが全体として納税額が低くなり、コストがかからないと判断できる場合には、相続時精算課税制度を利用しないほうが良いと言えるでしょう。

デメリット③:申告義務がある

相続時精算課税制度を利用する場合には、必ず届け出が必要です。

また、2,500万円を超える贈与をすることになると、その分について毎年申告をする必要があります。

継続して生前贈与を続けることが見込まれる場合は、お金の面とともに、手続き的な負担があることはデメリットとして考えておいたほうが良いでしょう。

デメリット④:法改正による影響で不利になる可能性がある

相続時精算課税制度は、なるべく早く遺産を贈与しておきたい場合に利用することが一般的です。

つまり、贈与から相続開始までに長期間空くことが見込まれます。

この間に、相続税の基礎控除が下がるような改正があったり、その他の改正があった場合に、相続時精算課税制度を利用したことがマイナスに働く可能性があります。

デメリット⑤:必ず相続税がかからないというわけではない

2,500万円もの生前贈与を行うため、「相続税はかからなくなる」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、相続時に精算するため、相続をした際に贈与をした金額を含めた遺産の計算をすることになります。

相続開始時に遺産となったものと、相続時精算課税制度によって贈与をしたものの金額が、相続税の基礎控除額を超える場合には相続税はかかることになります。

デメリット⑥:相続人は物納を選択できなくなる

相続税の納税方法として物納という方法があります。

相続税の納税は一般的には現金で行います。

そのため、例えば相続財産のほとんどが不動産であり現金がほとんどないような事例の場合、換金が難しく納税ができないということも発生し得ます。

このような場合には、不動産などの物を納めることで納税ができる場合があり、「物納」と呼ばれます。

 

物納は相続財産の中からすることになりますが、相続時精算課税制度を利用して生前贈与をしている場合、その目的物はすでに相続財産でありません。

そのため、物納をすることができないことになるのです。

相続時精算課税制度を利用する場合の注意点

相続時精算課税制度には一長一短あるのですが、利用をする場合にはどのようなことに注意をすべきでしょうか?

最後に、利用する際の注意点をまとめてお伝えします。

相続時精算課税制度の注意点
  • 相続全体を考慮する
  • 定期贈与にならないようにする
  • 現金手渡しの贈与にならないようにする

注意点①:相続全体を考慮する

相続時精算課税制度は、いま2,500万円までを非課税で渡したいと考えた場合には効果のあるものです。

しかし、デメリットの項目でお伝えしたように、一度相続時精算課税制度を利用してしまうと「小規模宅地の特例を利用できない」「暦年贈与に戻すことができない」など、相続全体に大きな影響を与えます。

お得な制度であるからと安易に利用をした結果、トータルでかかる費用・税金が多くなってしまうことも考えられるのです。

 

実際のところ、相続時精算課税制度において節税効果がある場面は限られています。

相続時精算課税制度を含めた生前贈与・相続対策は、法律・税金を中心とした専門知識が必要になります。

相続に詳しい専門家に相談しながら制度の利用を検討することをおすすめします。

注意点②:定期贈与にならないようにする

相続時精算課税制度に限らず「生前贈与」をする際に気をつけるべきことですが、年間に110万円の基礎控除があるからといって、毎年決まった時期に一定額の贈与を行うと定期贈与という扱いになり、贈与税が課税される可能性があります。

例えば、毎年1月1日に100万円を10年に渡って振り込むことにすると、「定期金に関する権利」を贈与されたとして、合計で1,000万円を受け取る権利を贈与されたと評価されることがあるのです。

このような評価をされないためにも、銀行振込で贈与を行う・毎年きちんと贈与契約書を作成するといった行為を行うようにする必要があります。

注意点③:現金手渡しの贈与にならないようにする

こちらも相続時精算課税制度に限ったことではなく「生前贈与」全体に言えることですが、現金を手渡しするだけの贈与は慎むべきと言えます。

先ほどお伝えしたように、贈与契約自体は贈与者が「あげます」受贈者が「もらいます」という意思表示が一致すれば成立します。

そのため、例えば現金を100万円を「あげます」「もらいます」という形式であっても法形式的には贈与契約は成立しており、現金を手渡しすれば成立した贈与契約は履行されたことになります。

 

しかし、これでは外から見たときにどのような資金の流れがあったかを判断することができません。

現金の不自然なやり取りについては、課税の関係はもちろん、いわゆるマネーロンダリングという犯罪などの資金の流れを見逃さないために厳しくチェックされています。

 

税務署から尋ねられたときに説明をすることになりますが、現金手渡しの贈与は説明を裏付けることができなくなります。

お金の流れを説明するためには、きちんとした裏付けとなる資料を用意できる状態で行うべきです。

そのため、贈与契約書を作成した上で銀行を介した現金振り込みを行い、どのような贈与であるのかをきちんと説明できるようにしておくべきです。

注意点④:死亡直前に贈与しない

贈与者の方の健康状態が良くないため、早晩亡くなってしまうことが予想されるような場合に気を付けたいことが、「相続税の生前贈与加算」です。

余命があまり長くないと感じた際は、生前贈与を使って財産を移転することを考えがちです。

しかし、一方でそれは相続税の課税を逃れようという行為そのものです。

当然ながら法律でも規制を行わなければならず、そのための一つの方法として、相続税法で「生前贈与加算」というものがあります。

 

生前贈与加算は、110万円以内の生前贈与であっても、死亡前3年以内の贈与について相続税の課税価格に贈与額を加算する規定です。

かえって納税額が高くなってしまう可能性もあるため、注意が必要です。

詳しくはこちらを確認してください。

まとめ

相続時精算課税制度についてお伝えしました。

一時的に贈与税の負担を減らしてくれる制度ですが、物の値段が値上がりしているときや収益物件を贈与するような場合でなければメリットが少ない可能性もあります。

相続税の小規模宅地の特例の利用などができなくなると、トータルとして納税する金額が上がってしまうようなことも考えられます。

相続時精算課税制度の利用を含む生前贈与は、専門家と相談しながら行ったほうが良いでしょう。

この記事を監修した専門家は、