【比較】土地は「生前贈与」と「相続」のどちらが得なのか?

土地 生前贈与 相続 得生前贈与
この記事を監修した専門家は、
牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。

土地を持っている人が相続対策を考える際に、生前に贈与するか相続まで待つか悩むことがあります。

では、土地を渡すのであれば生前贈与と相続のどちらが「お得」なのでしょうか?また、生前贈与と相続の度知多を選択するのかは、何を基準に検討したら良いのでしょうか?

そこで今回は、生前贈与と相続を比較するときのポイントや贈与税と相続税の違い、生前贈与・相続それぞれのメリットを紹介します。土地の相続対策を検討している人は、どのような対策を講じるのかを決める際の参考にしてください。

贈与税とは

贈与税とは、個人から贈与により財産を取得したときにかかる税金です。たとえば親が存命であるうちに子に対して土地を贈与した場合には、原則として贈与税の対象となります。

贈与税は原則として1年単位で計算するものであり、1月1日から12月31日に受けた贈与をトータルして計算します。贈与税の申告期限は、贈与を受けた年の翌年3月15日です。

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相続税とは

相続税とは、相続などで受け取った財産に対してかかる税金です。たとえば親が亡くなり土地を相続した場合や、亡くなった人(「被相続人」といいます)の遺言(遺贈)によって土地を受け取った場合には、原則として相続税の対象となります。

相続税はその相続全体で計算するものであり、申告期限は原則として相続開始日の翌日から10ヶ月以内です。

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土地を「生前贈与」するか「相続」で渡すか決めるときのポイント

ポイント

土地を生前贈与するか相続で渡すかを決めるときには、そもそも自分が何のために土地を相手に渡したいのか、目的に応じて考える必要があります。

生前贈与または相続で土地を渡す目的が、次のいずれに該当するかによって考え方が変わるので、まずは自分がどちらに該当するのか明確にするようにしましょう。

土地を生前贈与または相続で渡す目的
  • 相続税負担を軽減したい場合
  • 相続トラブルを回避したい場合

相続税負担を軽減したい場合

土地にかかる相続税を少しでも安く抑えたい場合、つまり節税対策をしたい場合は、贈与税と相続税を比較して決めることになります。

土地を生前贈与して贈与税の課税対象にするのと、相続で渡して相続税の課税対象にするのと、どちらが税金を安く済ませられるのかが相続対策を考える際に検討すべきポイントです。

土地を受け取る人の税負担が軽くなれば、納税後にその人の手元に残る財産が増えて、実質的により多くの財産を渡せます。

また、土地を受け取る人は、土地とは別に贈与税や相続税の納税資金を準備しなければなりませんが、納税額が減れば納税資金の準備で困る可能性が低くなります。

相続トラブルを回避したい場合

土地を誰が相続するかを巡って将来相続人の間でトラブルになりそうで対策をしたい場合、つまり争族対策をしたい場合は、税金対策とは違った視点で対策を考えて決める必要があります。

そもそも、土地のような高額な財産は、誰が相続するかで揉めることがあり、現金のように簡単には分けられないため、相続トラブルの原因になることが少なくありません。

しかし、生前に土地を贈与したり、遺言書で土地を相続する人を決めたりすれば、相続トラブルを回避できます。

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贈与税と相続税の比較

贈与税と相続税の比較

土地を生前に贈与すれば贈与税が、相続で家族などに渡せば相続税が、それぞれかかります。

贈与税と相続税のどちらが安くて得なのかというと、実はどちらが得とは一概には言えません。

生前贈与のほうが得になる場合もあれば相続のほうが得になる場合もあり、どちらがより節税になるかはケースバイケースです。

具体的な税額を計算して比較するには税理士へ相談する必要がありますが、贈与税と相続税がどんな税金なのか大枠だけでも理解しておくと、生前贈与にするか相続にするか決めやすくなります。

税率は贈与税より相続税のほうが低くて得

贈与税と相続税の税率は、いずれも10%~55%です。

しかし、財産の金額がいくらだと何%の税率が適用されるのかが、贈与税と相続税では異なります。

たとえば、贈与税は財産の金額が110万円を超えるとかかるのに対して、相続税は財産の金額が3,600万円以下であればかかりません。

仮に、特例制度を一切使わず、4,000万円の土地を子に渡す場合、生前贈与で贈与税がかかる場合と相続で相続税がかかる場合では、税額はそれぞれ次のように計算できます。

生前贈与でかかる贈与税の計算例

贈与税の税率には、一般税率と特例税率の2種類がありますが、ここでは父母から20歳以上の子に土地を贈与して特例税率を適用できる場合を考えます。

  • 贈与税 = (4,000万円 - 基礎控除額110万円) 税率50% - 控除額415万円 = 1,530万円

相続でかかる相続税の計算例

たとえば、相続人が子1人で相続する遺産が土地4,000万円のみの場合、相続税は次のようになります。

  • 相続税 = (4,000万円 - 基礎控除額3,600万円)× 税率10% = 40万円

生前贈与すると1,530万円もの贈与税がかかるのに対して、相続であれば40万円の相続税しかかからず、税負担が軽く済んで得であることがわかります。

相続より生前贈与のほうが得になるケースもある

税率だけを見れば生前贈与よりも相続のほうが得ですが、実は逆に生前贈与のほうが得になるケースもあります。

たとえば、現在持っている土地の価格が今後値上がりして、相続で渡すときには土地の価格が大幅に上がるケースです。

仮に現在の土地の価格が5,000万円で、自分が死んで相続で家族に土地を渡すときには、価値が上昇して1億円になっていたとしましょう。

この場合、生前贈与で渡すと5,000万円を基準に贈与税を計算しますが、相続で渡すと1億円を基準に相続税が計算されてしまい、生前贈与に比べて税額が高くなってしまうのです。

土地の価格がどう変化するか、将来のことを予測するのは簡単ではありませんが、土地の価格が今後上がりそうな場合には、生前に贈与してしまっても良いでしょう。

配偶者に土地を渡す場合は贈与税でも相続税でも特例制度がある

生前贈与と相続、どちらで土地を渡す場合でも、税金がかからない場合があります。

この場合は、生前贈与と相続、どちらが得ということはありません。

税金がかからずに済む場合とは、たとえば配偶者に土地を渡す場合に、節税につながる特例制度を使うケースです。

贈与税の配偶者控除
  • 婚姻期間が20年以上など、一定の条件を満たす夫婦間で不動産を贈与すると、最高2,000万円の贈与まで贈与税がかからない
相続税の配偶者控除
  • 配偶者が遺産を相続する場合、少なくとも1億6千万円の遺産まで相続税がかからない

たとえば、自分が土地2,000万円を持っていて、妻に土地を生前贈与するか、相続まで待って自分が死んだときに渡すか、検討しているとしましょう。

この場合、他の遺産も含めて財産額が1億6千万円以下であれば、妻に相続税はかかりません。

ただ、生前贈与であっても、贈与税の配偶者控除の要件を満たす場合は、土地2,000万円を贈与しても贈与税はかからないため、贈与税でも相続税でも税金がかからない点では同じということです。

そのため、このように税負担に関して差がない場合は、生前に早く渡したいか相続まで待っても良いのかなど、別の観点から考えて、生前贈与にするか相続にするか決める必要があります。

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贈与税と相続税の関係

贈与税と相続税とは、まったく別の税金というわけではありません。その証拠に、贈与税と贈与税は、同じ「相続税法」を根拠としています。

仮に相続税のみが存在して贈与税にあたるものが存在しなければ、すべての財産を生前贈与することで相続税をゼロにできてしまうでしょう。相続税のほかに贈与税を規定することで、このような抜け道をふさいでいるのです。「贈与税は相続税を補完する税金」ともいわれており、双方には強い関係があるといえるでしょう。

生前贈与は贈与税、相続は相続税が基本

贈与税と相続税の基本的な整理は、次のとおりです。

  • 生前に財産をもらった場合:贈与税の対象
  • 死亡以後に財産をもらった場合:相続税の対象

まずは、この原則を確認しておきましょう。

生前贈与が相続税の対象となる例外的なケース

上で紹介をした原則に反して、次の場合には、生前に財産をもらった場合であっても例外的に相続税の対象となります。

ケース①:相続開始前一定期間内の贈与の場合

相続や遺贈で財産を受け取った人が被相続人から生前に贈与を受けていた場合、次の贈与の対象とされた財産は、相続税の計算に加算されます。

  • 相続開始前3年以内に受けた贈与

そのうえで、仮に贈与を受けた際に贈与税を負担していた場合には、その贈与税相当額が相続税の計算上控除されます。

なお、2024年1月1日以後の生前贈与からはこれが3年ではなく7年に伸長されることが決まっていますので、今後生前贈与をする場合には注意しなければなりません。

ケース②:相続時精算課税制度を活用した場合

相続時精算課税制度とは、税務署へ所定の届け出をすることで、相続税で生前贈与ができるようになる制度です。土地など価額の大きな財産を渡した場合、一般的には相続税よりも贈与税のほうが高額となります。

そのため、これを避けるために「相続まで待つ」と判断する場合が少なくありません。

しかし、本来であればたとえば子どもがその土地上に家を建てるなど「いま贈与をしたい事情」があるにもかかわらず、税金の負担を理由に死亡まで移転できないとなれば、本末転倒でしょう。

そこで検討したいのが、相続時精算課税制度です。この制度を使えば複数年に渡るトータル2,500万円までの贈与にかかる贈与税は非課税となり、代わりに贈与財産の全額が相続税の対象となります。

相続時精算課税制度の利用には注意点が少なくないため、活用する際には税理士などの専門家へよく相談したうえで行う必要があるでしょう。

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生前贈与するメリット

生前贈与するメリット

生前贈与の主なメリットとしては、次のような点が挙げられます。

生前贈与するメリット
  • 相続税の課税対象になる財産を減らせる
  • 相続トラブルの原因になる遺産を減らせる
  • 贈与する相手や時期を自由に決められる

土地の生前贈与と相続、どちらが得かはその人の置かれた状況や考え方によって変わります。

ここで紹介する点がメリットとして活かせそうな場合は、土地を生前に贈与すると良いでしょう。

相続税の課税対象になる財産を減らせる

財産を生前に贈与しておけば、将来自分が死んだときに家族が相続する遺産が減ることになります。

相続税の課税対象になる財産が減り、相続税の節税になる点が生前贈与のメリットです。

たとえば、自分が持っている財産が土地2,000万円と現金3,000万円で、将来相続が起きたときに妻と子が遺産を受け継ぐケースを考えてみましょう。

まず、遺産額が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。

  • 相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円×(法定相続人の数)

そして、このケースでは相続人が妻と子の2人なので、基礎控除額は4,200万円(=3,000万円+600万円×2人)です。

土地2,000万円と現金3,000万円を相続すると、合計額が5,000万円で基礎控除額4,200万円を超えてしまい、相続税がかかることになります。

しかし、たとえば生前に贈与税の配偶者控除を使って土地を妻に贈与しておけば、遺産は現金3,000万円だけになり、基礎控除額以下になるため相続税はかかりません。

贈与税の配偶者控除を使っているため、土地を生前贈与する際にも贈与税はかからずに済み、贈与税も相続税もかからずに財産を渡せるということです。

相続トラブルの原因になる遺産を減らせる

財産を生前に贈与しておけば、相続トラブルの原因になる遺産を減らせる点も、生前贈与のメリットの一つです。

そのため、将来自分が死んで相続が起きたときに、相続人同士で揉めてトラブルになりそうな場合は、生前贈与をうまく活用すると良いでしょう。

ただし、生前贈与をする際には、一定の相続人に認められた権利である「遺留分」に注意する必要があります。

遺留分とは、遺産の一定割合を相続できる権利として相続人に認められた権利です。

たとえば、配偶者と子が相続人になるケースでは、それぞれ遺留分として遺産の4分の1を相続する権利が法律で認められます。

そのため、仮に生前に財産をすべて配偶者に贈与して、子が遺産を一切受け取れないようにしたとしても、子は原則として財産を受け取る権利を主張できます。

遺留分を侵害するような生前贈与をすると、むしろトラブルのもとになるため、生前贈与をする際には遺留分に注意するようにしましょう。

贈与する相手や時期を自由に決められる

生前贈与であれば、誰に土地を渡したいのかを自由に決めることができ、渡したい人に確実に土地を渡せます。

また、生前贈与では贈与する時期を自由に決められるため、自分の生活状況などに応じて贈与するタイミングを選べる点もメリットの一つです。

たとえば、自分が老人ホームに入るときに、今まで住んでいた土地を子に贈与すれば、相続までの間に土地に住む人がいなくて放置されることがなくなります。

土地を所有し続けた場合は、老人ホームで生活しているのに住んでいない土地の固定資産税を払い続けることになりますが、生前贈与をうまく活用すればそのような心配はありません。

相続よりも早く土地を子や孫に活用してもらえる

生前に土地を贈与すれば、相続まで待つ場合に比べて土地を早くから相手に渡せて活用してもらえます。

そのため、自分が土地を使うよりも子や孫に活用してもらったほうが良さそうな場合は、生前贈与によって土地を早く渡してしまっても良いでしょう。

たとえば、子や孫に土地を贈与すれば子や孫の世代が子育てをする時期に住む場所として活用できますし、収益不動産を生前贈与すれば子や孫は早くから家賃収入などを得られます。

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相続で財産を渡すメリット

相続で財産を渡すメリット

相続で財産を渡す主なメリットとしては、次のような点が挙げられます。

相続で財産を渡すメリット
  • 遺産額が3,600万円以下なら相続税はかからない
  • 土地の相続では小規模宅地等の特例を使える場合がある
  • 遺言書を作っておけば土地を渡す相手を指定できる

ここで紹介する点がメリットとして活かせそうな場合は、生前贈与ではなく相続によって土地を渡すと良いでしょう。

遺産額が3,600万円以下なら相続税はかからない

すでに紹介したように、相続税はそもそも遺産額が3,600万円以下であればかかりません。

贈与税は財産額が110万円を超えると課税されることに比べると、相続税のほうが税負担の面で軽く済みます。

そのため、急いで生前に土地を渡す必要が特になければ、相続まで待って土地を渡す形でも良いでしょう。

土地の相続では小規模宅地等の特例を使える場合がある

土地の相続で使える制度の一つに小規模宅地等の特例という制度があります。

小規模宅地等の特例とは、住むためや事業経営をするための土地を家族が相続する場合に、一定の要件を満たすと、土地の価格を最大80%減額して相続税を計算できる制度です。

土地の相続でこの小規模宅地等の特例を使えると、節税効果がかなり大きく、相続税がかからずに済む場合があります。

そのため、相続で土地にかかる相続税を軽減するために、小規模宅地等の特例の要件を満たすように生前に対策をしておくと良いでしょう。

遺言書を作っておけば土地を渡す相手を指定できる

相続で土地を家族に渡す場合、自分が死んだ後に相続人である家族が話し合った結果によっては、自分が望まぬ人に土地が渡るのではないかと危惧する人もいるかもしれません。

しかし、このような場合でも、遺言書を作って誰が土地を相続するのかを指定しておけば、自分が土地を渡したい相手に土地を相続してもらえます。

自分が遺言書を作って遺産の分け方を指定しておけば、遺産の分け方を巡って家族が揉めてトラブルになることもなくなり安心です。

なお、遺言書にはいくつかの種類がありますが、その中でもおすすめなのは「公正証書遺言」です。

公証人に作成してもらう公正証書遺言であれば、自筆証書遺言などと違って形式不備によって遺言が無効になるリスクが基本的にありません。

そのため、相続対策として遺言書を活用する場合は、公証役場で公正証書遺言を作成するようにしましょう。

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まとめ

土地を生前贈与したほうが得なのか相続によって渡したほうが得なのかは、一概にどちらが得であると言えるものではありません。そもそも、何を得と考えるのかは人によって異なり、節税になる方法を得と考える人もいれば、争族を回避できる方法を得と考える人もいます。

そのため、土地を生前に贈与するか相続で渡すかを考える際には、何を優先するのか、目的や優先順位を明確にした上で検討するようにしましょう。自分で判断することが難しい場合には、専門家へ相談することをおすすめします。

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牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。