家内安全・子孫繫栄を祈願してご自宅に神棚をまつる方は多いですが、この神棚は設置する向きが非常に重要です。
そこで、神棚の向きや推奨される設置場所とあわせて、神棚に納める「お札の納め方」「お供え物の種類」「お参りの作法」「正しい清掃方法」など神棚に関する正しい知識を解説します。
神道における神棚は「各家庭における小さな神社」と考えられている神聖な祈りの場です。
古来より伝わる正しい知識で神棚をまつり、日常的に神棚に手を合わすことができれば心に余裕が生まれ、感謝の気持ちをもった豊かな生活を送ることができるでしょう。
目次
神棚の向きに決まりはある?

神棚とは、日本古来から伝わる神道の神様(八百万の神)・氏神様をまつるための棚を指し、江戸時代初期に庶民に普及したと考えられています。
このように、はるか昔から各家庭にあった神棚には神道の教義が反映され、その教えは現代にも継承されています。
特に設置する向き・設置する場所は古来より決まりがあり、それにより「吉」と「凶」がはっきりとわかれると考えられているのです。
神棚をまつるのにふさわしい向き

それでは、実際に神棚をまつるのにふさわしい向きとはどの方向なのかを解説していきます。
また、あわせて神棚をまつる際に考えなければならない「明るさ」についても説明します。
南向き・東向きが吉
神棚をまつる際の向きは、神棚から見た時に「南向きもしくは東向きが吉」と言われてきました。
この理由については、南向きは太陽が移動する方角のため一日の中で一番日照時間が長く、神道において明るさの象徴と考えられているからです。
また、東向きの場合は太陽が昇る方角ということから、勢いの象徴としてエネルギーが降り注ぐ方角と考えられています。
このように、神棚の向きは太陽の動きと日差しの差し込み方と深く関係し、一日を通して日が降り注ぐ方向に向けることが推奨されているのです。
明るい場所であれば西向きも可
しかし、各家庭においては日差しが入りやすい南向き・東向きの方角では、窓が無いもしくは周囲の建物の陰になり日が差し込まないなどの事情も考えられます。
このような場合は、神棚に日が差し込み明るい場所であれば、その方角が西向きであっても設置は可とされています。
これは、神棚をまつる意味が「天照大御神(あまてらすおおみかみ)」の御威光を頂くことを目的としているからです。
神道における神さまとは自然の象徴となっていることが多く、太陽はその自然を育むため絶対に必要なさらに上の存在です。
先に触れた天照大御神はこの太陽の神様で、神棚には全ての神様の頂点に立つこの神様がまつられています。
このような考えから、神棚は出来る限り日が当たる場所に設置するのが好ましく、推奨される東向き・南向きに日が差さない場合では、できるだけ明るい場所として西向きであっても良いとされているのです。
神棚をまつるのにふさわしい場所

これまでは神棚をまつる方角について解説してまいりましたが、神棚は方角だけではなく、設置する場所についても推奨される条件があります。
その条件とは「いつでも清潔で家族全員が親しみやすい場所」であるということです。
この条件を満たす場所は、ご自宅であればリビング・居間などが最適でしょう。
また、神棚を設置する際には目の高さより高い場所に設置して、私たち人間が神様の住居とも言える神棚を見下ろすことがないよう配慮します。
神棚をまつるのに適さない場所

それでは、神棚を設置するにあたって適さない場所とはどのような場所になるのでしょうか。
神棚の設置に適さない場所は次のとおりです。
- キッチン・トイレ:汚れやすく水回りが集中しているため
- 廊下:頻繫に人が通るため
- 玄関:人の出入りが多いため
- 寝室:日の光が入りづらくプライベートな空間のため
キッチン・台所に神棚を設置したい場合
キッチンは先に触れたように、神棚の設置には不向きな場所です。
しかし、現代の住宅事情を考えた場合、どうしてもキッチン以外に神棚を設置する場所がないことも予想されます。
このような場合は、火の神様である「荒神様」を神棚にまつることで、キッチンに神棚を設置することが可能になります。
この荒神様とは火をつかさどる「かまど」の神様で、災いを払い衣食住に困らないよう助けてくれる神様として、現在でも多くの信仰を集めています。
神棚と仏壇を同室にまつる際の注意点
神道の神様をまつる神棚と、仏教におけるご先祖様をまつる仏壇は、仏壇を飾る仏間がなくなりつつある現在では同じ居間に設置することも珍しくはありません。
このように、神棚と仏壇を同じ部屋に設置することに問題ありません。
しかし、その設置方法についてはいくつかの注意点があり、これを守らなければ神さまにも仏様にも礼を欠いてしまいます。
その注意点とは次のとおりです。
- 向かい合わせに設置しない
- 上下には設置しない
- 神棚と仏壇を並べる際には神棚が上位になるように設置する
注意点①:向かい合わせに設置しない
神棚と仏壇を向かい合わせに設置すると、どちらかに手を合わせる際にもう片方にお尻を向けてしまいます。
この行為は非常に失礼なため、向かい合わせの設置は控えましょう。
注意点②:上下には設置しない
先に述べたように神さまは仏様よりも上位の存在と考えられていますが、仏壇の上に神棚があることは仏様にとって非常に失礼な行為です。
そのため、仏壇の上に神棚を設置して上下の関係を作ることは控えましょう。
この上下の関係は1階と2階であっても同様です。
仏壇を一階に設置するならば神棚も一階に設置してください。
注意点③:神棚と仏壇を並べる際には神棚が上位になるように設置する
神棚と仏壇を並べて設置する際は、神様は仏様よりも上位の存在という考えから、神棚を仏壇よりも部屋の中心に近くかつ日の差し込む場所に設置しなければなりません。
そのため、仏壇は神棚を設置した場所に向かって左側の下に設置します。
【場所別】神棚の設置方法

ここでは、一軒家以外の神棚の設置場所として「アパート」「マンション」「会社」「事務所」を例に解説します。
また、神棚の設置状況によっては必要となる「雲」の文字についてもあわせて説明します。
設置場所①:アパート・マンションの場合
アパート・マンションにお住いの場合は、神棚の設置場所はさきに触れた一軒家と同様に、東向きか南向きのリビングが最適です。
しかし、アパート・マンションの場合はその部屋が最上階でない限り、神棚の上に人の生活が存在することになります。
神棚の上に人が存在する状態は、神さまにとっては非常に失礼な状態です。
この場合は、次に解説する「雲」の文字を貼ることが推奨されています。
2階がある場合は「雲」を天井にはる
近年の住宅事情を考えると神棚の上に人の生活が存在しないことは珍しく、アパート・マンションに住む場合は最上階以外のすべての階で、神棚の上に人が生活していることになります。
このような場合には神棚の上に「雲」の文字を貼り、神棚の上を空と見立てることによって神様が一番高い場所にいることを表現します。
この「雲」の文字は、お住いの地域や信仰対象の神社によっても異なりますが意味は同じです。
「雲」以外の文字は次のとおりです。
- 「空」
- 「天」
- 「上」
設置場所②:会社・事務所の場合
会社・事務所は、社員の団結と商売繁盛を祈願するため、通常神棚が設置されています。
神棚の向きは一般家庭と同じく太陽の光が差し込む方向に設置するため、北を背にして南向きもしくは西を背にした東向きが良いでしょう。
しかし、設置場所に関しては神様が社員全員を見守ることができるように、一般家庭よりも高い場所に設置することが推奨されています。
また、神棚の下を社員が通らず、神棚に社員が背を向けないよう社内のレイアウトを含めた対策が必要です。
【種類別】神棚へのお札の納め方

神棚に納めるお札は一般的には次の3種類です。
- 神宮大麻のお札
- 氏神神社のお札
- 崇敬神社のお札
ここでは、この3種類のお札の納め方を神棚の種類ごとに解説します。
種類①:一社造りの場合
扉が一つついているのが一社造りの神棚で、この神棚にはお札は次の順番で重ねて納めます。
- 手前が神宮大麻のお札
- その後ろが氏神神社のお札
- 最後が崇拝神社のお札
種類②:三社造りの場合
扉が3つついているのが三社造りの神棚で、この神棚には次のようにお札を納めます。
- 中央に大麻神社のお札
- 向かって右側に氏神神社のお札
- 向かって左側に崇敬神社のお札
種類③:五社造り・七社造りの場合
扉が5ついているのが五社造り、扉が7つついているのが七社造りの神棚で、基本的にはこれらの神棚は3社造りと同様に3種類のお札を中央に納めます。
お札の数が増えた場合は、向かって右側→左側の順番で余ってる宮形にお札を納めていきましょう。
ちなみに、お祓いなどで頂く「祈願のお札」は宮型の外に立てかけることがマナーです。
【種類別】神棚に必要なお供え物

続いては、神棚に必要なお供え物を解説します。
正式にはこのお供え物は全部で8種類ありますが、この全てのお供え物が収まる神棚は3社造り以上の神棚に限られます。
コンパクトな一社造りの神棚では、全てのお供え物を飾ることはできないため、必ずしもすべてをそろえる必要はありません。
- 神鏡
- 榊・榊立て
- 瓶子(へいじ)
- 水器(みずうつわ)
- 平瓮(ひらか)
- 八足台(はっそくだい)
- 三方(さんぽう)
- 神灯
種類①:神鏡
神聖な鏡として、太陽の象徴とされる神鏡はご神体の前方におきます。
種類②:榊・榊立て
神道のお祓いなどに使われることから「神の宿る木」「栄える木」と考えられている榊は、榊立てを2対用意してそれぞれに飾ります。
なお、お住いの地域によっては榊以外にも次の樹木を使用する場合があります。
- 杉
- 樫
- モミの木
種類③:瓶子(へいじ)
瓶子とは蓋がついたお神酒を入れる容器です。
この瓶子は左右一対で一つとされます。
種類④:水器(みずうつわ)
水器は蓋付きの水入れでその見た目から瓶子と混同される場合がありますが、一般的なデザインの瓶子が縦長なのに対して、水器はやや小さくずんぐりとした形状をしています。
種類⑤:平瓮(ひらか)
平瓮は塩・お米を盛り付ける器です。
お米は炊いたお米でも生米でもどちらでも良いとされています。
種類⑥:八足台(はっそくだい)
八足台とは「瓶子」「水器」「平瓮」をのせる台のことです。
この台を神棚の前方(神鏡の前方)に設置してそれぞれのお供えを飾ります。
種類⑦:三方(さんぽう)
三方とは八足台の代わりとして用いられるお供えをおく台です。
八足台との使い分けについての細かいマナーはありませんが、三方は三方向に穴が開いています。
穴が空いてない面を奥に向けて設置するのがマナーとなっています。
種類⑧:神灯
神灯は神前を明るく照らす照明で、左右一対で一つです。
神棚の左右に飾ることで神棚全体を柔らかい明るさで包みます。
神棚のお参り方法

神棚は、正しい設置だけではまったく意味がありません。
神社同様にお参りをすることで、初めて自宅に神棚をまつった意味があるのです。
ここでは、正しい神棚へのお参り方法や日供祭と呼ばれる毎日のお参り方法を、7つのステップに分類して解説していきます。
基本は二拝二拍手一拝
神棚にお参りする際には、神社同様に二拝二拍手一拝が基本とります。
この二拝二拍手一拝の動作は次のとおりです。
- 神棚の前に立ち45度の角度でお辞儀をする
- お賽銭を静かに入れる(神棚では省略)
- 鈴を鳴らす(神棚では省略)
- 90度の角度で2回お辞儀をする
- 右手を少し下にずらして2回拍手をする
- 願い事を祈願する
- 90度の角度でお辞儀をする
- 45度の角度でお辞儀をして神棚を離れる
日供祭(にっくさい)のお参りの手順
ここでは、神棚に対する毎日のお参りである日供祭の手順を朝の行動とともに解説します。
日供祭は朝食前に行う事がマナーとされていますので、起床後すぐに行うよう心がけましょう。
- 洗顔・歯磨き
- 宮型の扉を開く
- お供え物をする
- お参り
- お供え物を下げる
- 扉を閉める
- 礼をする
ステップ①:洗顔・歯磨き
神棚の前に立つときはある程度の身なりは整えます。
起床直後の場合は、洗顔をして歯を磨き眠気を覚ましましょう。
ステップ②:宮型の扉を開く
神棚に向かって軽くお辞儀をしてから宮型の扉を開き、その後あらためてお辞儀をします。
ステップ③:お供え物をする
榊立ての水を取替え、神灯の明かりをともしたらお供え物の「米」「水」「塩」を取りかえ軽くお辞儀をします。
ステップ④:お参り
さきに触れた二拝二拍手一拝でお参りをします。
ステップ⑤:お供え物を下げる
お辞儀をしてお供え物を下げ、またお辞儀をします。
ステップ⑥:扉を閉める
軽くお辞儀をしてから扉を閉めます。
ステップ⑦:礼をする
最後に改めてお辞儀をして日供祭は終了です。
神棚を清掃する際のマナー・注意点

正しい設置方法で神棚を飾り毎日のお参りを欠かさない方でも、神棚が汚れていては神様に礼を欠いてしまいます。
ここでは、神棚を清掃する際のマナー・注意点を解説します。
- 床に置かない
- 清潔な白い布を使う
- 息を吹きかけない
マナー・注意点①:床に置かない
清掃のため設置場所から神棚を外した際に神棚を床に置く方がいますが、この行為は神様に対して非常に失礼です。
どうしても床に神棚を置かなければならない時は、清潔な白い布を床に敷きその上に神棚を静かに置いてください。
マナー・注意点②:清潔な白い布を使う
神棚の清掃には、神棚専用の白い清潔な布を使用します。
また、一般的な神棚は檜で作られていることが多く、檜は水拭きすることで変形しカビが生える木材です。
水拭きはせずに、乾いた布で乾拭きすることをおすすめします。
マナー・注意点③:息を吹きかけない
神棚の細部に入り込んだホコリを、息を吹きかけて取り出そうとする方がいますが、この行為はマナー違反です。
神道の教義では、人間の息は穢れを運ぶものとして忌み嫌われています。
細かい部分の汚れは、綿棒を使い丁寧に拭き取りましょう。
神棚・お札の処分方法

家を新築する際や新年を迎える時には、神棚やその中にまつられたお札を処分して新しく神棚やお札を頂くことになります。
では、この際の神棚やお札はどのように処分するのが良いのでしょうか?
ここでは、毎日の信仰の場である神棚やお札の正しい処分方法について解説します。
神棚の処分方法
神棚の処分方法は、お正月に各地で行われる「どんど焼き」に神棚を持ち込み、焚き上げを行う方法が一般的でしょう。
この方法以外では、神社内において神主から「神あげ」と呼ばれる焚き上げを行って頂き、処分する方法もあります。
お札の処分方法
基本的には、お札は一年に一度新しく交換することが推奨されています。
この際の古いお札は近くの神社にまとめて納め、焚き上げをして頂き処分します。
神社は年末になると「古札納め所」が設置されて、古くなったお札の処分を受け入れています。
また、大晦日・お正月・1月15日前後に行われる「左義長(さぎちょう)」や、さきに触れたどんと焼きなどでしめ縄や正月飾りと共に焚き上げする方法も一般的です。
まとめ

神棚の設置に関し、その方向や設置場所を中心に解説しました。
本来の神棚は日本古来の宗教である神道のお社として、私たちの生活に根付き毎日の生活の中に溶け込んでいました。
しかし、近年の住宅事情や洋装建築の普及に伴い、神棚がある家庭は減少傾向にあります。
この機会にご自宅に神棚をまつり、毎日の生活の中にご自身や家族の安全や健康を祈願する時間を設けてみてはいかがでしょうか。
神棚に毎日手を合わせることで自然と心に安らぎが生まれ、「家族」「友人」「職場仲間」に対する感謝の気持ちが沸き上がり、充実した毎日を送れるようになりますよ。