葬儀の喪主は、僧侶や弔問客への対応や式の中で行う挨拶など多忙を極めますが、葬儀が終わった後もやらなければならない作業があることをご存知でしょうか?
この葬儀終了後の作業の中で、最も重要なのが香典返しの手配やお礼の手紙の作成です。
香典返しの手配に関してはそれ難しくはありませんが、普段から手紙を書くことがない方にとっては、お礼状の作成は頭を悩ませる方も多いようです。
そこで、ここでは香典返しに添える手紙の書き方を説明しながら、「記載内容」「故人との関係性別の文例」「注意点」などを解説します。
香典マナーは相手との関係性によっても異なるため、柔軟な対応が求められる場面があります。
基本的な知識が分かれば応用がきくので、香典マナーとしてお礼状の知識を深めましょう。
目次
香典返しに添えるお礼の手紙とは

初めに、香典返しに添えるお礼の手紙とはどういったものなのかについて説明します。
一般的に、香典返しは郵送で送りますが、その際の贈り物に添えるのが香典返しのお礼の手紙です。
この手紙は私たちが良く知る手紙とは異なり、香典返しに適した文面に従って書く必要があります。
また、手紙を送る人物が故人とどのような関係性にあったのかによっても、文面を若干変えるなどの配慮も必要です。
このように、私たちが知る手紙とはまったく異なる香典返しのお礼の手紙ですが、ある程度の予備知識と慣習に従った書き方がわかれば、それほど難しくなく作成することができるでしょう。
香典返しとは?
香典返しとは、葬儀の主催者側が香典をいただいたことに対してお礼の品を贈る行為です。
お礼の品は食べ物や日用品が選ばれることが多く、送る時期は香典を頂いた当日と四十九日法要が済んだ忌明け後の2種類があります。
香典のお礼を伝える方法

本来であれば、直接相手の自宅にお伺いして、香典返しと共にお礼の言葉を述べるのが正式なマナーです。
しかし、取り急ぎお礼を述べたい場合や、相手が近しい関係性の場合は次の方法でお礼を伝える場合があります。
- お礼状(香典返しを送る場合)
- メール(親しい間柄の場合)
- 電話(親戚などの場合)
- ハガキ(丁寧にお礼を伝える場合)
方法①:お礼状(香典返しを送る場合)
近年増えている「当日返し」での葬儀では、その場でお礼を述べることができますが、忌明けに郵送する香典返しではそうは行いきません。
この場合は、先ほどお伝えしたように、香典返しを郵送する際にお礼の手紙を添えて送ります。
なお、お礼状を書く紙は奉書紙に薄墨で書くことがマナーとされてきましたが、近年では印刷で済ませることも多くなりました。
お礼状を書く紙の種類は、この後の「お礼状の種類」で解説していますのでそちらをご覧ください。
当日返しとは
先ほどの解説にあった「当日返し」とは、お通夜や葬儀の当日に会葬礼状と一緒に香典返しの品をお返しする方法で、近年ではこの方法で香典返しを行う方が多くなっています。
ちなみに、以前の香典返しは四十九日法要が終わった後に行う「後返し」が一般的でした。
方法②:メール(親しい間柄の場合)
本来であればメールでお礼を伝える行為はマナー違反ですが、相手が親しい間柄の方で急ぐ場合はメールでお礼を述べる場合もあります。
ただし、メールでのお礼はあくまでも略称のため、目上の方に対しては礼を欠いてしまいます。
また、いくら相手が親しい間柄と言っても、砕け過ぎた言葉や表現は避けなければなりません。
方法③:電話(親戚などの場合)
遠方に住む親戚には、電話でお礼を伝える場合があります。
メール同様にマナー的には好ましくない電話ですが、身内の不幸を心配されている方に対して直ちに連絡ができるため、香典のお礼を伝えながら近況報告すれば安心してもらえるでしょう。
方法④:ハガキ(丁寧にお礼を伝える場合)
ハガキでお礼を送る場合の文面は、お礼状と同じ内容です。
ただし、手紙と異なりはがきには多くの文章が書けないため、整理された短い文面にしなくてはなりません。
丁寧にお礼を述べたい相手や故人が特にお世話になった方に対しては、ハガキを使ってお礼を伝えましょう。
香典返しに添えるお礼状の記載内容

香典返しにそえるお礼状の内容は、次の構成手順で記載するのが一般的です。
- 会葬と香典へのお礼
- 四十九日法要が滞りなく終わったことの報告
- 香典返しを送ることのお知らせ
- 手紙でお礼と報告を述べることに対するお詫び
- 日付
- 差出人の氏名
なお、親戚などの親しい関係の方にはお礼状の内容に、生前のお付き合いに対するお礼や故人のエピソードなどを加える場合もあります。
【関係性別】香典返しに添えるお礼状の文例

香典返しに添えるお礼状の文面は、送る相手によって若干異なります。
ここでは、故人との関係性別に基本的なお礼状の文例を紹介します。
家族・親族へのお礼状の文例
拝啓 過日 父(続柄)○○(故人の名前)の永眠に際しましては ご多忙中にもかかわらず 遠路ご会葬いただき誠にありがとうございました
葬儀では取り込み中にて万事不行き届きにて申し訳なく存じております
お陰をもちまして ○月○日 四十九日の法要を滞りなく済ませることができました
生前に故人が賜りましたご厚情に心より感謝申し上げます
心ばかりの品ではございますが、供養のしるしにお送りいたしますので 何卒ご受納くださいませ
本来なら拝眉の上御礼申し上げるところ 略儀ながら書中をもちまして ご挨拶申し上げます 敬具
令和○○年○○月
○○県○○市○○町○○-○○
○○○○(喪主の名前)
友人・知人へのお礼状の文例
拝啓 この度 母(続柄)○○(故人の名前)の葬儀に際しまして ご多忙にもかかわらず お心遣いを賜り誠にありがとうございました
お陰をもちまして 先日四十九日の法要を滞りなく済ませることができました
○○様(送り先の氏名)には生前 家にこもりがちだった母を旅行などに誘っていただき 母はいつも次に出かける予定を心待ちにしておりました
闘病生活のなかでも 母が最期まで笑顔を忘れずにいられたことも○○様(送り先の氏名)のお心遣いの賜物と感謝に絶えない思いです
お蔭様にて四十九日の法要を滞りなく済ませることができました
つきましては供養のしるしとして 心ばかりの品をお送りいたします
本来であれば直接お伺いして御礼申し上げるところではございますが 書中をもちましてご挨拶申し上げます 敬具
令和○○年○○月
○○県○○市○○町○○-○○
○○○○(喪主の名前)
会社関係者へのお礼状の文例
拝啓 この度 父(続柄)○○○故人の名前)の葬儀に際しましては ご多忙にもかかわらず 社長(役職)にご会葬いただきましたこと また過分なお心遣いを賜りましたことに心から感謝申し上げます
忌引中にご迷惑をお掛けしとこと心よりお詫び申し上げます お陰をもちまして忌明けまでを無事に済ませることができました
つきましては心ばかりの品をお送りいたしましたので お納めいただきたく存じます
略儀にて失礼とは存じますが 書中をもちましてご挨拶申し上げます 敬具
令和○○年○○月
○○県○○市○○町○○-○○
○○○○(喪主の名前)
【宗教別】香典返しに添えるお礼状の文例

先ほどお伝えした故人との関係性別のお礼状と同様に、宗教別のお礼状も基本構造は同じです。
しかし、使用する表現は文言はその宗教特有のものとなるため、注意が必要です。
ここでは、「神道」「キリスト教」「無宗教」のお礼状の文例を紹介します。
神道の香典返しのお礼状の文例
謹啓 ご尊家ご一同様ますますご清祥のことと拝察申し上げます
過日 父 ○○(故人の名前) 帰幽の節はご懇篤なるご弔慰を賜り
また格別のご芳志に預かり誠に有難く厚く御礼申し上げます
お陰をもちまして五十日祭も滞りなく相済ませました
偲草のしるしとして粗品をお届け申し上げましたのでご受納くださいますようお願い申し上げます
略儀ながら書中をもって謹んで御挨拶申し上げます 謹白
令和○○年○○月
○○県○○市○○町○○-○○
○○○○(喪主の名前)
キリスト教の香典返しのお礼状の文例
謹啓 先般 亡父 ○○(故人の名前) 帰天の際は御懇篤なる御弔詞を頂き且つ御鄭重なる御献花を賜り誠にありがたく厚く御礼申しあげます
お蔭様にて追悼ミサも滞りなく相済ませました
就きましては皆様からの御厚情に対し謝意を表したく
心ばかりの品ではございますがお届けいたしました
何卒お納めくださいますようお願い申しあげます
先ずは略儀ながら書中を以て謹んで御挨拶申しあげます 謹白
令和○○年○○月
○○県○○市○○町○○-○○
○○○○(喪主の名前)
無宗教の香典返しのお礼状の文例
拝啓 先般 ○○(故人の名前) 永眠に際しましては多くのお気遣いと お香典をたまわり 誠にありがとうございました
生前 故人が皆様にどれだけ支えられていたかと感謝にたえない思いです
親しくかかわっていただいた皆様にお見送りいただき故人もさぞ喜んでいることとでしょう
つきましては 供養のしるしとして 心ばかりの品をお届けいたします
今後ともなにとぞ よろしくお願い申し上げます 敬具
令和○○年○○月
○○県○○市○○町○○-○○
○○○○(喪主の名前)
香典返しに添えるお礼状の注意点
香典返しに添えるお礼状は、かしこまった場面で感謝の気持ちを伝える手紙のため、書き方や使う言葉に次のような注意点があります。
- 句読点を打たない
- 「頭語」「結語」「正しい敬語」を使う
- 「宗教」「宗派」「地域に応じた正しい言葉」を使う
- 重ね言葉は使わない
- 便箋は1枚まで・二重封筒は使わない
注意点①:句読点を打たない
挨拶状には句読点(「、」「。」)を打つことはありません。
この句読店は、そもそも学校で子供たちが文章を読みやすくするために用いられてきました。
そのため、使用すると相手の読解力がないと言っているのと同じと捉えられる場合があります。
また、句読店には文書を止めるという意味合いがあるため、句読点を打たないことで法事がつつがなく進むという意味が込められています。
注意点②:「頭語」「結語」「正しい敬語」を使う
お礼状では、「拝啓」や「敬具」などの頭語・結語を用いるのがルールです。
また、ご自身の身内が亡くなった場合などは「逝去(せいきょ)」は使わずに「死去」を使用するなど、正しい敬語を使う必要があります。
頭語と結合とは
たとえば、人の家を訪れる際には「ごめんください」などの挨拶で呼びかけますが、それと同様に手紙を書く際にも「拝啓」などの言葉で挨拶を行います。
このように、頭語と結合とは手紙を書く際に行う独特な言葉を使った挨拶です。
そのため、頭語には「こんにちは」を、結語には「さようなら」にあたる言葉を使います。
また、頭語と結合には「拝啓」と「敬具」の様に対応する文字が決められています。
注意点③:「宗教」「宗派」「地域に応じた正しい言葉」を使う
忌明法要や四十九日法要などは仏教用語のため、他の宗教では使うことはありません。
それぞれの宗教や宗派、地域の呼び名に沿って用語を使い分けなければ、感謝の気持ちを伝えるお礼状としては不十分な内容となってしまいます。
宗教と宗派ごとの四十九日法要の呼び名は次のとおりです。
宗教・宗派ごとの四十九日法要の呼び名一覧
宗教・宗派 | 四十九日法要の呼び名またはそれに相当する名称 |
---|---|
仏教 | 四十九日法要・忌明法要・満中陰法要(西日本の一部の地域) |
神道・天理教 | 五十日祭 |
キリスト教カトリック派 | 追悼ミサ |
キリスト教プロテスタント派 | 記念集会・記念式 |
注意点④:重ね言葉は使わない
お礼状では「ますます」や「たびたび」などの重ね言葉は、不幸事が繰り返されることを連想させるため避けなければなりません。
この重ね言葉とは次のとおりです。
- 重ね重ね
- いよいよ
- かえすがえす
- ふたたび
- 次に
- また など
注意点⑤:便箋は1枚まで・二重封筒は使わない
お礼状で使用する便箋は1枚とし、手紙を入れる封筒も二重ではなく一重の白黒無地を使用します。
なお、使用する墨は忌明後に送るお礼状では濃い墨を使用しますが、お住いの地域によっては薄墨を使用する場合もあります。
墨の種類については、地域の葬儀に詳しい年長者に確認しておきましょう。
お礼状の種類

お礼状の用紙は次に挙げる3種類がありそれぞれに特徴があります。
ここでは、お礼状の用紙をタイプごとに分類し一つ一つ説明していきます。
最も格式が高い「奉書紙タイプ」
一般的には巻紙と言われる奉書紙は、楮(こうぞ)を原料として昔ながらの手すき技法によって作られた和紙です。
現代でも儀礼などではこの奉書紙が使用されるため、このタイプは最も格式が高いお礼状と呼べるでしょう。
カジュアルな「カードタイプ」
これまでの葬儀様式に加えて、家族葬や一日葬などの新しい葬儀のやり方が登場してきた現在では、お礼状も新しいカードタイプのものが登場しています。
このタイプのお礼状は、印刷にも手書きにも対応しているため、比較的簡単に取り扱うことができ、最近では非常に多くの方が利用するようになりました。
価格面で優れた「はがきタイプ」
一般的なはがきに会葬礼状の文面を記載するこのタイプは、お礼状の用紙としては最も簡略化されています。
郵便局などで安く手に入れることができるますが、格式を重んじる場合には不向きなため使用できる場面は限られるでしょう。
香典返しのお礼状の日付はいつにするべきか?

お礼状を作成しているとお礼状の日付に迷う場合がありますが、この日付は四十九日法要を行った日付を記載することが一般的です。
これは、お礼状の趣旨の一つとして「四十九日法要を終えた後の報告」があるためです。
なお、日にちを書かなくてもお礼状のマナーとしては問題にはならないため、年月のみを記載する方法もあります。
香典返しに関するマナー

ここまでは、香典返しに添えるお礼状について解説してまいりましたが、香典を贈る際のマナーはこれだけではありません。
ここでは、香典返しを贈る際のお礼状以外のマナーを解説します。
- 表書きは「志」と記載する
- 金額は相場を意識する
- のしはつけずに水引が印刷された紙をつける
表書きは「志」と記載する
香典返しの表書きにはいくつかの種類がありますが、一般的には「志」と記載します。
書き方は不祝儀袋の水引よりも上の部分に「志」を、下の部分にはご自身の氏名を記載します。
なお、表書きはお住いの地域や宗派によっても慣習が異なるため、マナーに不安がある方は葬儀でお世話になった寺院の僧侶に確認することをおすすめします。
金額は相場を意識する
香典返しで贈る品の金額相場は、香典金額の半分程度が目安です。
ただし、いただいた香典が高額だった場合は半額にはこだわらず、3割から4割程度の品を返せば良いとされています。
贈る品は消えてなくなる食料品や消耗品が一般的ですが、次に挙げる商品は香典返しには不向きとされていますので注意しましょう。
- 肉や魚などの四つ足生臭もの:仏教で説かれる不殺生の教えに反するため
- 鰹節やお酒:お祝い事で贈る商品のため
- 商品券や現金:金額が分かりやすいため(カタログギフトは可)
のしはつけずに水引が印刷された紙をつける
香典返しには必ずのしをつけると思っている方もいますが、これは間違いです。
香典返しにはのしをつけずに、水引のみが印刷された紙を使用します。
印刷された水引の色は黒白の物を使用するのが一般的です。
まとめ

葬儀後は大切な方を亡くした悲しみや喪失感から、誰しもが無気力になりがちです。
また、必要な事務手続きも多くなかなか気が休まらない日が続くことでしょう。
しかし、そんな中でも香典に対するお礼だけはしっかりと行わなければ、周囲の方との今後の関係に影響を及ぼしかねません。
大変な状況であることは周囲の方も理解していますが、その気遣いに甘えることなく、正式なマナーで感謝の気持ちを伝えましょう。