核家族化・高齢化が進んだ近年、一日葬で故人を見送る遺族が増えてきました。
告別式だけを行う一日葬は、諸事情で時間が取れない遺族や体力のない高齢者にとってメリットが多い一方、一般葬と異なる点が多く、思わぬデメリットに悩むことも少なくありません。
そこで今回は、一日葬の具体的な内容や流れとともに、メリット・デメリットについて詳しく解説しましょう。
一日葬とは

一日葬とは、一般葬のようにお通夜・告別式という流れを取らず、告別式のみを行う形式の葬儀です。
儀式が1日だけで済むことから「一日葬」と呼ばれ、さまざまな事情から時間が取れない遺族や、長時間の葬儀に参列することが難しい高齢者に支持されています。
さらに、お通夜を行わないので会場費や飲食費が軽減されるため、葬儀費用に不安がある遺族が一日葬を選ぶケースも増えてきました。
一般葬での葬儀を大切にしている人には受け入れ難い点もありますが、告別式は一般層とほぼ変わらない内容でできるため、事前に周囲とよく話し合ってから検討すると良いでしょう。
家族葬・火葬式との違い
「シンプルな葬儀」「費用が抑えられる」という特徴から、一日葬とよく間違われるのが「家族葬」や「火葬式」です。
しかし、これらの葬儀には次のような違いがあります。
葬儀の形式 | 概要 |
---|---|
家族葬 | お通夜・告別式・火葬・精進落としを、身内やごく親しい人のみで行う。行程日数は2日間。 |
火葬式 | 火葬・精進落としを身内やごく親しい人のみで行う。行程日数は1日。 |
一日葬 | 一般参列者に葬儀の案内をし、一般葬とほぼ変わらない形式で告別式・火葬・精進落としを行う。行程日数は1日。 |
どの葬儀形式を選ぶかによって、葬儀の内容・参列者数・葬儀に掛かる日数が変わってきますので、それぞれの違いをよく理解しておきましょう。
一日葬の流れ

一日葬は、告別式の内容こそ一般葬と変わりませんが、全体的な流れを見ると異なる点があります。
では、一日葬はどのような流れで行われるのか、臨終から精進落としまでの流れをお伝えしましょう。
- 臨終
- 遺体の搬送・安置
- 葬儀社と打ち合わせ
- 葬儀形式を決める
- 火葬の予約
- 日程決め
- 納棺
- 葬式
- 火葬
- 精進落とし
臨終
故人の死亡は、医師からの診断で確認されます。
臨終後の遺体は、医療器具の取り外しやエンゼルケアなどの処理を受けることになりますので、遺族はその間に次のような項目を行ってください。
- 葬儀社へ連絡して遺体を搬送するための寝台車をお願いする。
- エンゼルケア後に着せる着衣を確認する。病院で用意できるのならお願いしても良いし、事前に着せたい服があるなら用意して渡すなどの対応を取る。
- 故人の荷物をまとめる。
- 遺族や近しい親族に連絡する。臨終時間が深夜や早朝で電話が難しい場合は、第一報としてメールで伝えておくと良い。
- 医師の死亡診断書を受け取る。
- 病院へ支払う費用と支払い方法を確認する。
- 寝台車が来るまでで安置室に移動し待機する。
遺体の搬送・安置
寝台車が到着したら、遺体を乗せて安置場所へ移動しましょう。
寝台車に同乗できるのは多くても2人ほどなので、その他の遺族・親族はそれぞれに移動してください。
安置場所が自宅なら自宅へ、斎場で安置場所を借りるならそちらに移動します。
安置場所に遺体を寝かせ、枕飾りなどの祭壇を整えたら安置の終了です。
葬儀社と打ち合わせ
遺体の安置後は、葬儀社と打ち合わせして今後の大まかな流れを決めていきます。
主な相談内容は次のとおりです。
- 葬儀形式の希望
- 火葬日の希望
- 仏具や棺・骨壷などの話し合い
- 供花や祭壇飾りの相談
- 宗教的儀式の有無 など
ただし、打ち合わせの段階で一日葬を相談しても、葬儀社によっては一日葬を扱っていない場合もありますし、周囲の人から理解が得られていなければ、葬儀形式をはっきりさせるのは難しいかもしれません。
まだ一日葬にするか悩んでいるようなら、その旨を葬儀社に伝え、決められる部分から決めていきましょう。
葬儀形式を決める
葬儀者が一日葬を行っており、遺族間や周囲との折り合いがついていれば、葬儀形式を一日葬で決定します。
一日葬の場合は、遺族の希望に沿って参列者の人数や僧侶による読経の有無を決められますので、どのような一日葬にするのかを詳細に決めていきましょう。
火葬の予約
火葬を行う火葬場は、希望日があったとしても空きがなければ予約ができません。
一般的には最短で火葬できる日を予約し、その日を基準にして日程を決めていきます。
一日葬の場合はお通夜がありませんので、火葬が予約できた日が告別式の日です。
遠方にいる親族の移動日程や火葬場の予約状況などをよく確認し、いくつか希望日を挙げてから火葬の予約をしましょう。
日程決め
火葬場の予約ができたら、正式な葬儀日程を決めていきます。
この段階での日程決めが最終決定になるので、一日葬の日時まで細かく決めて、参列を希望する親族や知人・友人に伝えましょう。
案内の連絡をする際には一日葬であることを伝え、お通夜を行わないことも知らせてください。
納棺
一日葬の納棺は、葬式の前に行われます。
具体的なタイミングとしては、葬式の1時間〜2時間前です。
遺体を納める前には死装束などに着替えさせたり、身なりを整えてあげましょう。
このとき、故人と一緒に納めたい品物があるなら用意し、遺体の周りに置くようにしてください。
ただし、金属製の品物や水分の多い食べ物、分厚い本などは火葬を妨げになることがあります。
また、家族写真など生きている人の写真を納めることは、縁起が悪いと考えられており相応しくありません。
一緒に納棺できる品物にはある程度の縛りがありますので、納めて良いかわからないときは、葬儀社の人に相談してください。
葬式
棺を斎場に移動し、参列者を迎えて準備が整ったら葬式を行います。
葬式の流れはほぼ一般葬と変わらないため、僧侶に読経をお願いしている場合は1時間半、読経がない場合は1時間前後の時間を見ておきましょう。
一日葬で読経がない場合でも、参列者が多く故人とのお別れに時間がかかる場合は、全体で1時間半かかることもあります。
また、一日葬であっても喪主の挨拶がありますので、挨拶が苦手な人は事前にメモなどを用意しておきましょう。
火葬
葬式が済んだら火葬場へと向かい、故人の遺体を火葬します。
年齢や体の大きさにもよりますが、火葬にかかる時間は平均して90分です。
お骨が焼き上がったら納骨室へ移動し、骨壷に遺骨を納めましょう。
精進落とし
火葬が済んだ後に精進落としがある場合は、一度斎場へ戻り預けていた荷物を持った後、精進落としの会場へ移動してください。
精進落としの方法はさまざまですが、参加者が多い場合は広い会場を借りたり、少人数の場合は自宅へ帰って仕出し料理をいただくこともあります。
あらかじめ参加者の人数がわかっている場合は、状況に合わせて精進落としの用意をしましょう。
一日葬の平均費用

一日葬にかかる平均費用は、全国的に見て約45万円です。
ただし、これはあくまで全国的な平均なので、地域によってはこの金額より上下することがあります。
また、僧侶による読経の有無や依頼した葬儀社によっても金額が異なります。
費用が気になる場合は見積を出してもらい、内訳を見て必要かそうでないかを判断していくと良いでしょう。
一日葬のメリット

一日葬は、一般葬に比べると葬儀日数が少ないため、遺族や参列者にさまざまなメリットがあります。
では、具体的にどのようなメリットがあるのか、その内容を詳しくお伝えしましょう。
- 葬儀費用が軽減される
- 参列者の日程が短縮される
- 遺族の負担が軽くなる
葬儀費用が軽減される
一日葬は、お通夜を行わない葬儀形式なので、葬儀日数が減るぶん費用が軽減されます。
例えば、お通夜のための会場費や通夜振る舞いなどの飲食費、お通夜の法要を行う僧侶へのお布施といった費用は、お通夜を行わない一日葬には必要ありません。
ただし、自宅がマンションで遺体の安置が難しい場合は、葬式が済むまで安置場所を借りる可能性もあります。
費用にある程度の目安をつけたいときは、事前に葬儀社へ相談しましょう。
参列者の日程が短縮される
お通夜が行われる葬儀形式の場合、参列者はお通夜から火葬の前後まで、合わせて3日ほど日程を組まなければなりません。
遠方から駆けつける親族の場合、移動時間まで含めると3日以上の日程が必要です。
一日葬の場合は最低でも葬式の1日、遠方から駆けつける場合でも2日の予定で日程が組めますので、時間が短縮されるというメリットがあります。
遺族の負担が軽くなる
故人を亡くしたばかりの遺族は、心身共に疲弊しておりお通夜や葬儀の準備をするのも大変な状況です。
特に高齢者の場合は、2日間の葬儀日程が体の負担となり、葬儀後に寝込む人も少なくありません。
一日葬は、お通夜を行わない分事前準備の項目が減るため、遺族への負担が軽くなります。
費用の面で見ても金銭的負担が軽減されますから、一日葬は遺族にとってメリットの多い葬儀形式と言えるでしょう。
一日葬のデメリット

遺族や参列者にとってメリットのある一日葬ですが、一方で理解しておくべきデメリットもあります。
ここでは、一日葬を行なった場合のデメリットを具体的に紹介しましょう。
- 故人とゆっくりお別れできない
- 参列できない人が増える
- 葬儀後の弔問対応が多くなる
- 寺院や周囲から反対される可能性がある
故人とゆっくりお別れできない
一日葬は、臨終から火葬式までの日数が詰まっているため、遺族が準備で慌ただしくなりゆっくりお別れできない可能性があります。
実際に、事情があって一日葬を行なったものの遺体の側でゆっくりお別れできなかったため、心の整理が追いつかず気持ちが沈んだというケースもあるため、遺族の心情まで考慮して決めた方が良いでしょう。
参列できない人が増える
一日葬のほとんどは、午前中の10時頃から午後1時頃に行われます。
したがって、一日葬が平日に行われる場合、仕事の都合で参列できない人が増えるかもしれません。
故人の交友関係が広く、たくさんの人が参列する可能性がある場合は、できるだけ多くの人が参列できる時間帯にしたり日程を調整するなどの対策が必要です。
葬儀後の弔問対応が多くなる
一日葬にした場合、都合がつかず参列できない人が増えると、葬儀後に自宅へ弔問に訪れる可能性があります。
葬儀後は遺族も疲れ切っているため、弔問対応が多くなると負担が増えていまい、最悪の場合体調を崩すかもしれません。
葬儀との弔問対応をできるだけ減らしたいと考えている人は、あらかじめ一日葬であることを説明して理解を得ておいた方が良いでしょう。
寺院や周囲から反対される可能性がある
一日葬は、葬式自体は一般葬とほとんど変わらないのですが、従来の慣習や仏式の考え方に沿った形式ではないので、檀家となっている寺院や周囲の人から反対される可能性があります。
理解を得られないまま一日葬を行うと、後々のおつきあいに悪い影響が出るかもしれません。
一日葬を行う場合は、必ず寺院や周囲の人と話し合い、お互いの考えを擦り合わせておきましょう。
一日葬でよくある疑問

一日葬は比較的新しい葬儀形式なので、遺族も参列者もさまざまな疑問を持っています。
そこでここでは、一日葬でよくある疑問とその答えを紹介しましょう。
疑問①:参列する際の服装は?
一日葬は、お通夜がないというだけで、葬式は一般葬と変わりません。
そのため、正喪服や準喪服を着用してください。
もし一日葬であっても参列者が少なく、遺族からも「平服でお越しください」という案内を受けた場合は、黒やダークグレーを基本にした略喪服で大丈夫です。
一番大切なのは「遺族に敬意を払った服装をすること」なので、迷う場合は準喪服以上で参列しましょう。
疑問②:香典や供物は必要?
香典や供物は、参列者から故人や遺族へ向けたお悔やみの気持ちなので、遺族側から香典辞退の申し出をされない限りは必ず用意してください。
逆に、遺族から香典辞退の申し出を受けた場合は無理に渡さず、遺族の気持ちを尊重してあげましょう。
疑問③:日程が厳しい場合は親族でも欠席できる?
一日葬は葬儀日程が少ないため、急な知らせを受けても対応できないこともあるでしょう。
そのような場合は、事前に欠席の連絡をして、葬儀日に合わせて弔電を送れば失礼にはあたりません。
ただし、親族という立場上、直接お悔やみを述べることも大切です。
一日葬を欠席した場合は後日自宅へ出向き、改めて欠席したことへのお詫びとお参りをさせてもらいましょう。
疑問④:一日葬はどの葬儀社でも頼める?
一日葬比較的新しい葬儀形式なので、どの葬儀社でも一日葬を頼めるわけではありません。
一日葬のメリットに「費用の軽減」が挙げられますが、ノウハウと実績がある葬儀社に頼まないと、思ったより費用が抑えられないこともあります。
一番良いのは、事前に葬儀社を調べて実績のあるところに相談することです。
最初から一日葬を考えているのならあらかじめ準備をしておいた方が良いでしょう。
疑問⑤:一日葬でも読経はお願いするべき?
一日葬に限らず、どのような葬儀であっても読経を希望する場合は、寺院に相談して読経をお願いすることはできます。
ただし、依頼する寺院によっては宗教的考えの違いから、苦言を述べられたり断られるかもしれません。
しかし、一日葬にする理由をきちんと説明し納得が得られれば問題ありませんので、まずは僧侶や寺院に相談することから始めてみましょう。
一日葬を行う際の注意点

一日葬を行う際には、気をつけておくべき注意点があります。
ここでは、一日葬を行う上での注意点を具体的に紹介しますので、検討する際の参考にしてください。
- 事前に僧侶と周囲の理解を得ておく
- 葬儀社とよく話し合い見積書を確認する
- 不明・不安な点は周囲や葬儀社とよく相談する
事前に僧侶と周囲の理解を得ておく
先にお伝えしたように、一日葬は従来の慣習や仏式の考えに沿った葬儀形式ではないため、事前に理解を得ておかなければなりません。
理解を得られないまま一日葬をした場合、寺院や周囲の人たちとの関係が悪くなることもありますので、一日葬を行う場合は理解を得られるまでよく話し合いましょう。
葬儀社とよく話し合い見積書を確認する
一日葬のプラン内容は葬儀社によって異なるため、よく話し合った上で見積書を確認しないと、思わぬ費用がかかっていることがあります。
見積書の内訳を確認することは費用の軽減につながりますので、本契約の前にしっかり話し合ってください。
不明・不安な点は周囲や葬儀社とよく相談する
一日葬は、最近になって広く認識されてきていますが、実際に施主となったり参列するという立場になると、細かな部分で不明点や不安を感じます。
一日葬に関して不明点や不安なことがあるときは、周囲の人や葬儀社によく相談して、失礼のない対応ができるようにしておきましょう。
まとめ

一日葬は、お通夜がなく葬儀日程も短いので、体力に不安がある人や忙しい人に注目されています。
お通夜を行わないことで費用が抑えられるため、葬儀費用に不安がある人の選択肢としても重要です。
しかし、比較的新しい葬儀形式なので昔からの慣習に合わず、周囲の人から反対されたり寺院に苦言を述べられることも少なくありません。
大切なのは、一日葬を選ぶ理由をきちんと説明し、周囲からの理解を得て葬儀を行うことです。
一日葬の葬儀内容やメリット・デメリットを検討し、遺族・親族や葬儀社・僧侶とよく相談して、心のこもった一日葬になるよう準備しましょう。