故人が亡くなられたあと、遺体を清潔に整え少しでも生前の姿に近づける処置を「エンゼルケア」と呼びます。
エンゼルケアを受けた遺体は、まるで眠っているように安らかで、故人を亡くし悲しみにくれる遺族の心が救われることも少なくありません。
エンゼルケアには、「医療」と「遺体への敬意」という2つの側面があり、どのようなケアを受けるかによってその内容にも違いがあります。
今回は、現在行われているエンゼルケアの目的・内容・費用について、注意点と共に詳しく解説します。
エンゼルケアの目的

エンゼルケアでは、故人の遺体が少しでも清潔に美しくなるよう、さまざまな処置が行われます。
エンゼルケアで行われる処置には具体的な目的があり、故人を見送る上でも欠かすことができない要素です。
では、エンゼルケアはどのような目的で行われるのか、その内容を解説しましょう。
- 医療器具の取り外し
- 感染症の予防
- 遺体のケア
医療器具の取り外し
病院で亡くなられた人の遺体には、さまざまな医療器具がつながれています。
心電図や酸素マスクはもちろんのこと、排尿を促すためのカテーテル、胃に直接栄養を送るための胃瘻(いろう)、心臓に問題を抱えている場合は体内にペースメーカーが埋められていますよね。
これらの医療器具は、故人が亡くなったあとすぐに遺体から取り外さなければなりません。
エンゼルケアでは、このような医療器具の取り外しも大切な目的の一つとなっています。
感染症の予防
生命維持活動が止まった遺体は、逝去後から少しずつ菌の繁殖が進んでいきます。
遺体の菌をそのままにしてしまうと、遺族や葬儀社の人も感染症を引き起こす可能性があり大変危険です。
このような状態を防ぐため、エンゼルケアではできる限り遺体の内容物を取り除き、全身を消毒して感染症を予防します。
感染症のリスクを減らすことは、遺族が安心して故人を見送るためには欠かせません。
故人の遺体と安全に接する環境を整えることも、エンゼルケアの重要な目的です。
遺体のケア
亡くなった直後の遺体には、治療痕や傷跡などさまざまな痕跡が残っています。
特に、事故や災害などを原因とした死亡の場合、そのままの状態で葬儀を行うと故人に対する礼儀を欠いてしまいますし、見送る遺族の心も癒されません。
エンゼルケアでは、できるだけ生前と同じ状態になるよう、治療痕や傷跡の処置をして綺麗な状態に近づけます。
少しでも安らかな寝顔の故人を見て、遺族が穏やかにお別れをすることが、エンゼルケアを行う人の願いです。
エンゼルケアの種類

エンゼルケアと聞いたとき、「病院でやってもらった」「葬儀社でお願いした」と意見が分かれることがありますよね。
エンゼルケアは、医療的処置と共に故人や遺族を癒す目的があるため、病院と葬儀社で少し違いがあるのです。
では、一般的にエンゼルケアといわれるものにはどのような種類があるのか、具体的な内容を紹介しましょう。
「病院」による医療行為のエンゼルケア
故人が亡くなった病院で行われるエンゼルケアは、医療行為としてのケアが基本になります。
たとえば、医療器具を外すことは病院でなければできませんし、故人の排泄物や内容物を体内から取り出す行為も、専門知識がなければ難しい行為です。
傷口の縫合も医師の手で行わなければなりませんから、まさに「故人の遺体を治療すること」が病院によるエンゼルケアと言えます。
病院によっては、看護師がエンゼルケアを専門的に学び、より遺族に寄り添ってケアを行うケースも増えてきました。
どのようなエンゼルケアを行うかは病院によって異なりますので、できれば処置を行う前に内容を確認してみるとよいでしょう。
葬儀社による葬儀のためのエンゼルケア
葬儀で見送られる遺体と遺族のために行われるのが、葬儀社による葬儀のためのエンゼルケアです。
医療機関ではありませんが、葬儀社でエンゼルエアを行う人は専門知識を学んでおり、感染症予防も踏まえた上で適切な処置を行います。
少しでも穏やかな表情になるよう死化粧をほどこしたり、遺体の髭剃りや髪を洗って綺麗にするなど、細やかな気配りで遺体に寄り添う姿勢は、もう一人の遺族といっても過言ではありません。
葬儀社のエンゼルケアは、遺族の希望により一緒に行うこともできますので、エンゼルケアのスケジュールをたずねて希望を伝えてみましょう。
湯灌・エンバーミングとの違い
エンゼルケアと間違われやすいのが、「湯灌(ゆかん)」や「エンバーミング」などの行為です。
湯灌とは、納棺の儀式として行われるもので、ひと昔前は遺体を湯船で洗い清められていました。
今でも湯灌を行うことはありますが、一般的には湯灌の代わりにアルコールで遺体を拭き清め、死装束を着せて納棺するという流れになります。
エンバーミングは、遺体を少しでも長く保たせるために施される特殊技術で、遺体の腐敗防止が目的です。
遺体の長距離移送や火葬の予約が取れないなど、特別な状況で選択されるケースが多く、死後2日から3日で火葬できるときはエンバーミングを行いません。
湯灌やエンバーミングも遺体へのケアではありますが、エンゼルケアとは異なりますので注意しましょう。
エンゼルケアの内容・手順

遺体を綺麗いしてくれるエンゼルケアですが、具体的にどのような処置が行われるのか気になりますよね。
この章では、エンゼルケアを「医療機関」と「葬儀社」の2つに分け、それぞれがどのようなエンゼルケアを行うのか詳しくご紹介します。
医療機関の場合
医療機関で行うエンゼルケアは、医療に関する項目が主な行為です。
一般的な医療機関で行われるエンゼルケアの内容について、順を追って紹介しましょう。
- 遺体から医療器具を外す
- 傷・治療痕・内容物の処置
- 口腔内をケアする
- 顔を整える
- 着物や洋服を着せる
ステップ①:遺体から医療器具を外す
故人が亡くなったあと、最初に行われるのが医療器具を外す作業です。
故人が亡くなる前の状態にもよりますが、点滴を抜擢したりつながっている管を外すなど、遺体が自由になるようケアをします。
このとき、もし体内にペースメーカーなどが埋まっていたらそれも取り出し、傷口を縫合して綺麗にしなければなりません。
ペースメーカーは火葬をすると爆発して火葬場の人が怪我をすることもあるため、わかっているのであれば事前に医師へ伝えるようにしましょう。
ステップ②:傷・治療痕・内容物の処置
医療器具を外したら、遺体に残っている傷や治療痕、内容物の処置を行います。
特に内容物の処置は、遺体の腐敗や感染症予防にも大きく関わるため、可能な限り押し出して体内から排出させます。
傷や治療痕も綺麗にし、ガーゼなどでおおって目立たないようにしたら終了です。
ステップ③:口腔内をケアする
傷や内容物の処置のあと、口腔内のケアをして口臭や腐敗防止をします。
実は、口が少しでも開いていると遺体から腐臭が漂い、お見送りをするときに問題になってしまうのです。
口腔内のケアでは、のどの奥から消毒液を染み込ませた綿を詰めていき、体内から上がっている腐臭を防ぎます。
ステップ④:顔を整える
口腔内のケアのあと、頬や鼻・耳の穴などに綿を詰めて、穏やかな顔になるよう顔を整えます。
病院によっては髭を剃ったり、死化粧まで看護師が行うこともありますが、各病院で内容が異なるので、気になる場合はどこまでやってもらえるのか尋ねておきましょう。
ステップ⑤:着物や洋服を着せる
遺体のケアが済んだら、着物や洋服を着せて病院のエンゼルケアの終了です。
遺体に着せるものは、病院にお願いするケースもありますが、事前に遺族へ知らせて洋服を持ってきてもらうこともあります。
もし故人に着せたい服があるようなら、ケアに入る前にその旨を看護師に伝え、服を用意するようにしましょう。
葬儀社の場合
葬儀社のエンゼルケアでは、「故人をより生前の姿へ近づける」ことを目的にしています。
一般的には「病院で処置を受けたあと葬儀社のエンゼルケア」という流れになりますので、ここでは葬儀社で主に行われるエンゼルケアについて、順を追ってご紹介します。
- 遺体から医療器具を外す
- 傷・治療痕・内容物の処置
- 口腔内をケアする
- 顔を整える
- 着物や洋服を着せる
ステップ①:遺体の肌を整える
遺体の肌は、亡くなった直後から徐々に潤いを失い、カサカサに乾燥しているケースがほとんどです。
カサカサした肌にエンゼルケアを行っても、思い通りの表情や顔色に仕上げることができません。
そこで、保湿用のオイルをたっぷりと塗り込んでいき、マッサージをするように遺体の肌を整えていきます。
ステップ②:遺体の表情を整える
病院で処置をされていても、時間が経つと遺体の目が少し開いていたり、口元が緩んでしまうことも少なくありません。
葬儀社のエンゼルケアでは、生前の姿にいかに近づけるかということを考え、目の閉じ方や口元の表情まで細かくみながら表情を整えます。
ステップ③:髭や髪型を整える
故人の遺体は横たわっているので、髪型はどうしてもオールバックになりがちですよね。
しかし、もし故人がおしゃれで綺麗好きな人なら、きっと髪型にもこだわっていることでしょう。
葬儀社のエンゼルケアはこのような点まで考え、前髪をカールさせたり白髪を染めるなど、故人にも良いご供養になる処置を行います。
ステップ④:死装束を着せる
遺体の顔や髪型などが整ったら、故人の死装束を着せていきます。
白い着物の死装束もありますが、最近では故人のお気に入りだったスーツやカジュアル服、中には本格的なドレスを着せるという人も増えてきました。
エンゼルケアを行う人は専門的な知識があるため、遺族では難しい服も素早く上手に着せていきます。
もし故人のお気に入りでどうしても着せたい服があるときは、エンゼルケアに入る前によく相談して決めておくと良いでしょう。
ステップ⑤:死化粧をほどこす
死装束を着せたら、最期に死化粧を施します。
葬儀社で行うエンゼルケアは、故人の顔色のムラや年齢・性別まで考えてた死化粧を行い、遺族の希望に寄り添って仕上げることが特徴です。
たとえば、高齢で化粧をしない人の死化粧なら自然な肌色を基調に、生前からお化粧が好きだった女性なら、キッチリとお化粧をして華やかにします。
葬儀という悲しい場面であっても、少しでも故人の魂と遺族に寄り添うことが葬儀者が行うエンゼルケアです。
エンゼルケアの料金

エンゼルケアをお願いするとき、料金がいくらになるのかについても気になりますよね。
ここでは、エンゼルケアの料金相場について、医療機関と葬儀社に分けて解説していきます。
- 医療機関の場合:5千円~2万円
- 葬儀社の場合:3万円~10万円
医療機関の場合:5千円~2万円
医療機関でのエンゼルケアは、5千円から2万円が相場です。
「医療機関なのに幅があるの?」と思われるかもしれませんが、基本的にエンゼルケアは「治療」ではないため、費用に関しては各病院に判断が委ねられます。
したがって、必要最低限のケアを行う場合は5千円前後、死化粧まで行うと2万円を超える場合もあり、病院によって料金に違いが出るのです。
どうしても先に料金が知りたいというときは、エンゼルケアに入る前に説明を求め、ケア内容も含めて話し合うようにしましょう。
葬儀社の場合:3万円~10万円
葬儀社のエンゼルケアは、3万円から10万円が相場です。
葬儀社のエンゼルケアは、葬儀を行う遺族に寄り添って行われるため、可能なサービスであれば請け負うケースがほとんどです。
たとえば、エンゼルケアの前に「故人をお風呂に入れたあげたい」という遺族の要望があれば、移動式の簡易風呂を用意してお風呂に入れたり、可能な限り要望に応えることも少なくありません。
葬儀社のエンゼルケアは、遺族と相談して内容を決めることができますので、心のこもったケア内容と費用について話し合ってみましょう。
エンゼルケアで知っておくべき注意点

エンゼルケアをお願いするときは、注意をしなければならないポイントがあります。
どんなことに気をつけておけば良いのか、エンゼルケアで知っておくべき注意点を紹介しましょう。
- 家族が参加できない可能性がある
- 費用は医療保険適用外
- 事前確認がないこともある
注意点①:家族が参加できない可能性がある
エンゼルケアは、感染防止の観点から家族が参加できない可能性があります。
特に、医療機関の場合はご臨終のあと遺族がさまざまな場所へ連絡している間に行われることも多く、気がついたらケアが終わっていたというケースが多く見られます。
確かに、遺体の直接的な医療ケアは難しいかも知れませんが、身体を拭いてあげたり髪を整えるケアは参加したいですよね。
もし少しでもエンゼルケアをしてあげたいという希望があるときはそれを事前に伝えておき、参加できるケアだけでも一緒に行えるようお願いしておきましょう。
注意点②:費用は医療保険適用外
医療機関で行うエンゼルケアは、医療的観点から行う処置ではありますが「治療」ではありません。
したがって、費用は医療保険の適用外となり、実費でエンゼルケア費用を支払うことになります。
故人が亡くなった直後はなかなか気づけませんが、後から請求書の内容を見て驚く遺族もいますので、エンゼルケアは医療保険の適用外であることを覚えておきましょう。
注意点③:事前確認がないこともある
多くの場合は、エンゼルケアを行う前に事前の説明は確認がありますが、場合によっては事前確認がないこともあります。
特に、医療機関のエンゼルケアは、故人が亡くなって間もないだけに説明をする余裕もなく、事前確認無しで気がついたら行われていたというケースも多いのです。
エンゼルケアには事前確認がない場合もあるという点を念頭に置いておき、いざというときに慌てず説明を求められるよう気を配っておきましょう。
まとめ

エンゼルケアは、故人の遺体と見送る遺族の心を整える大切なケアです。
エンゼルケアで行われる内容をよく把握しておき、やって欲しいケアの内容や遺族の要望について、具体的に伝えられるよう意見をまとめてみましょう。