葬儀や法要を行う会場で弔問客が遺族に対してかける「お悔みの言葉」は、宗教や宗派によっては不適切な言い回しがあるため、葬儀様式に従った適切なことばをかけなければなりません。
ここでは、「ご冥福をお祈りいたします」というお悔やみ言葉の言い回しの意味を解説しながら、「使用時のマナー・注意点」「返事の方法」「連絡方法別の文例」を紹介します。
葬儀や法事などの忌事はその宗教の教義に厳密に従って進行されるため、普段は意識することがないことばの選び方がとても重要です。
お悔みの言葉の意味や成り立ちを理解して、最適なことばを遺族にかけることができるよう葬儀マナーを身につけましょう。
目次
「ご冥福をお祈りいたします」の意味

「ご冥福をお祈りいたします」の正しい使い方を理解するには、この言い回しの意味を知ることが重要です。
特に、普段の会話では使うことがない「ご冥福」の意味が重要になりますので、ここではこのことばの意味を解説しながらその使用方法や使用期限を解説します。
ご冥福の意味
ご冥福を構成する「冥₍めい)」と「福₍ふく)」には、それぞれ次のような意味があります。
- 「冥」:亡くなった方がたどり着く世界・死後の世界
- 「福」:幸せ・幸福
そのため、「ご冥福をお祈りいたします」という言い回しは、次のような意味持つお悔やみ言葉です。
- 「故人の死後の幸福をお祈りいたします」
- 「故人が死後の世界に無事にいけますように」
- 「故人が死後の世界でも幸せに暮らせますように」
ご冥福の使い方
ご冥福は故人へ向けたことばではありますが、次のように遺族へ向けたお悔やみ言葉としても使用します。
「○○様(故人の名前)には日頃から大変お世話になっておりました。
心からご冥福をお祈りいたします」
なお、ご冥福という単語は文面での利用が多いため、次のように弔電などに利用されることが多いお悔やみ言葉です。
「葬儀に伺えずに誠に申し訳ございません。
○○様(故人の名前)のご冥福を心からお祈りいたします」
ご冥福を使用できる期限
「ご冥福をお祈りいたします」は、故人の死去からあまり日時が経過していない時期に用いられるお悔み言葉ですが、その使用期限に関する明確な教義はありません。
そのため、この言い回しは特別な事情がない限り、どの時期の忌事にも使用することが可能です。
ただし、お住まいの地域や宗教・宗派別によってはこの言葉の使用期限を四十九日法要までとする場合もあるため、その際には地域の慣習に従ったほうが良いでしょう。
「ご冥福をお祈りいたします」に対する返事の仕方

「ご冥福をお祈りいたします」と弔問客から声をかけられた遺族は、そのことばに対して次のように返すことが葬儀マナーです。
- 「お気遣いいただきありがとうございます」
- 「お心遣い痛み入ります」
なお、突然のことでどのように返答して良いのかわからない場合は、相手の方に体を向けて黙って礼を行う「黙礼」を行っても良いでしょう。
「ご冥福をお祈りいたします」を使用する際の宗教・宗派別のマナー・注意点

葬儀の場において弔問客は遺族に対してお悔やみの言葉を述べますが、ここで紹介している「ご冥福をお祈りいたします」という言い回しが、すべての葬儀において適切なわけではありません。
これは、葬儀様式によっては「冥途」という表現が適さない場合があるためで、次に紹介する宗教・宗派ではこのことばの使用は厳禁です。
そこで、ここではこれらの宗教・宗派別におけるお悔やみ言葉のマナーと注意点を解説しながら、それぞれ最適なものを紹介します。
神道の場合
冒頭で解説したように、「冥」ということばには「亡くなった方がたどり着く世界」という意味がありますが、神道には「人の命は神様から任せられて、死後その命を神様にお返しする」という教義が存在します。
そのため、死後の世界である冥界という概念がないため、死後の幸福である冥福ということばは適しません。
神道式の葬儀に参列した際には、次のお悔やみ言葉を用いましょう。
- 「御安霊の安らかならんことをお祈りします」
- 「御霊のご平安をお祈りいたします」
- 「心より拝礼させていただきます」
キリスト教の場合
キリスト教では仏教や神道とは死生観がまったく異なるため、葬儀の際に参列者が遺族に対してお悔みの言葉を述べる行為は稀といえるでしょう。
また、キリスト教では人が亡くなることを不幸事と捉えることはなく喜ばしいことと考えるため、「ご冥福をお祈りいたします」という言い回しは適切ではありません。
あえてお悔みの言葉をかける際には、次のような言い回しを用います。
- 「安らかな眠りにつかれますようお祈りいたします」
- 「○○様(故人の名前)が安らかに眠られますようお祈りいたします」
- 「神様の平安がありますように」
英語でお悔みの言葉を伝える際の文例
国際的な交流が盛んになっている昨今、外国籍の方の葬儀に参列する機会は以前より増えています。
キリスト教式の葬儀に参列し、英語圏の方にお悔みの言葉を述べることがあれば、次の表現が最適でしょう。
- 「In my deepest sympathy.」(ご冥福をお祈りします)
- 「Please accept my deepest condolences.」(深い哀悼の意を受け取ってください)
- 「Thoughts and prayers」(あなたの気持ちは私とともにあります)
浄土真宗の場合
浄土真宗は仏教の中でも唯一、「ご冥福をお祈りいたします」という言い回しが適さない宗派のため、お悔みの言葉は慎重に選ばなければなりません。
これは教義の中で「亡くなった方の全てはすぐに極楽浄土へ行き幸福になる」と説かれているためで、このことから死後の幸福を祈る冥福という概念がないためです。
浄土真宗の仏式葬儀に参列する際には他の宗派と同様のお悔やみ言葉は避け、次の言い回しを使用するよう心がけましょう。
- 「お悔やみ申し上げます」
- 「謹んでお悔やみ申し上げます」
- 「心よりお悔やみ申し上げます」
お悔みの言葉をかける際のマナー・注意点

お悔みの言葉をかける際の状況は宗教儀式の最中となるため、言い回し以前に葬儀マナーが重要です。
ここでは、お悔みの言葉をかける際の葬儀マナーとして次の注意点を解説します。
- 忌み言葉・重ね言葉の使用は厳禁
- 遺族の心情に配慮した言葉を心がける
- お悔みの言葉はできる限り手短に話す
忌み言葉・重ね言葉の使用は厳禁
死を連想させることばや不吉な表現は「忌み言葉」と呼ばれ、葬儀や法事の中での使用は厳禁です。
また、不幸事が繰り返すことを想起させる「重ね言葉」も同じく控えなければならないことばであるため、お悔みの言葉はもちろんのこと参列者同士での使用もはばかられます。
忌み言葉や重ね言葉には次のようなものがあります。
葬儀や法事の際には絶対に口にしてはならないことに注意してください。
- 死ぬ
- 死亡
- 生きる
- 生存
- 苦しい
- 辛い
- 迷う など
- 返す返す
- 重ねる
- 重ね重ね
- くれぐれも
- いよいよ
- 度々
- 再び など
遺族の心情に配慮した言葉を心がける
大切な方を亡くした遺族は、深く傷ついた心情のまま葬儀での役割をこなしているため、そのような方にかけることばには慎重な配慮が必要です。
お悔みの言葉以外であっても安易な慰めになるようなことばは避け、遺族の心情に寄り添うようなことばをかけるよう心がけましょう。
お悔みの言葉はできる限り手短に話す
葬儀主催者である喪主や遺族は、大切な方を亡くした喪失感を抱えたまま大勢の弔問客の対応をするため、肉体的にも精神的にも非常に疲弊しています。
そのため、お悔みの言葉をかける際にはできる限り手短に話し、余計な負担かけない配慮が必要です。
「ご冥福をお祈りいたします」以外のお悔やみ言葉

先ほど解説したように、「ご冥福をお祈りいたします」という言い回しは、宗教・宗派によっては相応しくないお悔やみ言葉となってしまいます。
そこで、ここでは「ご冥福をお祈りいたします」以外のお悔やみ言葉を紹介します。
- 「お悔やみ申し上げます」
- 「ご愁傷さまです」
- 「胸中お察しいたします」
「お悔やみ申し上げます」
「お悔やみ申し上げます」は、宗教・宗派を問わないお悔やみ言葉として、広く使用できるお悔やみ言葉の代表的な言い回しといえるでしょう。
また、初めに「謹んで」や「心より」をつけることで、ご自身よりも年配の方に対し礼を逸することなく使用することができます。
「ご愁傷さまです」
「ご愁傷さまです」は宗教・宗派を問わない言い回しではありますが、この言葉だけでは遺族の傷ついた心に寄り添うお悔やみ言葉としては不十分とする向きもあります。
そのため、このことばを使用する際には、文頭に「お役に立てることがあれば何なりとお申し付けください」など、遺族を気遣う一言を添える必要があるでしょう。
なお、この「ご愁傷さまです」という言い回しは口頭でのみ使用することばなので、弔電などの文章での使用はできません。
「胸中お察しいたします」
「胸中お察しいたします」も宗教・宗派を問わないため、広く使用されるお悔やみ言葉です。
しかし、この言い回しは「あなたの気持ちを理解しています」という意味があるため、対等もしくは目下の方への使用に留めるべきとの考えもあります。
お悔やみ言葉は遺族の心情に配慮した言い回しが求められるため、この言い回しは目上の方への使用は控えた方が良いでしょう。
【連絡方法別】「ご冥福をお祈りいたします」の文例

訃報連絡を受け取った際には遺族に対し葬儀への出欠を伝えることになりますが、その際には同時にお悔みの言葉を伝えることがマナーです。
ここでは、「ご冥福をお祈りいたします」という言い回しでお悔み言葉を伝える際の文例を、連絡方法と関係性別にそれぞれご紹介します。
対面で伝える際の文例
先ほどの解説のとおり、お悔みの言葉は端的に短く話すのがポイントです。
対面でお悔みの言葉を伝える際には他の連絡方法よりもこの点をより強く意識して、次のような言い回しを用いましょう。
親族へ伝える場合
この度は誠にご愁傷さまです。
故人の冥福をお祈りいたします。
友人・知人へ伝え場合
○○君(故人の名前)のご冥福をお祈りいたします。
何かできることがあれば、遠慮なくお申し付けください。
仕事関係者へ伝える場合
会社の同僚の○○です(ご自身の氏名)。
この度は誠にご愁傷さまでございます。
○○様(故人の名前)のご冥福を心からお祈りいたします。
電話で伝える際の文例
電話で訃報連絡を受け取った際には、次のように「ご冥福をお祈りいたします」とお悔みの言葉を述べ、その後に自宅に伺う旨を伝えます。
親族へ伝える場合
お辛い中お知らせいただきありがとうございます。
故人のご冥福をお祈りします。
すぐに支度を整えて伺います。
仕事関係者へ伝える場合
ご連絡いただきありがとうございます。
○○様(故人の名前)のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
もしよろしければ生前お世話になった故人へお礼を述べたいのですが、今後の日程はお決まりでしょうか。
友人・知人へ伝える場合
大変な時にお電話いただきありがとうございます。
○○君(故人の名前)のご冥福を心よりお祈りし致します。
ご迷惑でなければ、これからご自宅に伺いたいのですがよろしいでしょうか。
メール・LINEで伝える際の文例
メールやLINEで訃報連絡を行う遺族に対しては、同じくメールやLINEでお悔みの言葉を返した方が良いでしょう。
件名はご自身の氏名+「お悔み申し上げます」と表記し、内容をわかりやすく記載するのがポイントです。
親族へ伝える場合
件名:○○より(ご自身の氏名)お悔やみ申し上げます
本文:突然の訃報に大変驚いています。
○○様の冥福をお祈りしています。
本来であれば直接ご自宅へ伺うべきところですが、メールでのお悔やみとなり申し訳ありません。
精神的にも肉体的にも大変な時だと思いますが、どうか体調を崩されないようご自愛ください。
後日、改めてお伺いいたします。
仕事関係者へ伝える場合
件名:○○部○○より(部署名・ご自身の氏名)お悔やみ申し上げます。
本文:○○様の突然の訃報に驚いています。
都合によりご葬儀に伺うことができず、申し訳ございません。
略儀ながらメールにてお悔やみ申しることお許しください。
心より○○様のご冥福をお祈り申し上げます。
友人・知人へ伝える場合
件名:○○より(ご自身の氏名)よりお悔やみ申し上げます
本文:○○君(故人の名前)のご逝去を知り言葉もありません。
本来であれば直接お伺いし、お悔やみをお伝えしたいところですがこのような形になり申し訳ありません。
ご家族の方が無理をされていないかが心配です。
私にできることがあればいつでもご連絡ください。
まとめ

「ご冥福をお祈りいたします」という言い回しを含むお悔み言葉は、厳粛な葬儀会場で故人や遺族にかけるためのものです。
そのため、この言い回しに不備があればご自身が恥をかくばかりか、故人や遺族に対して礼を欠いてしまいます。
葬儀に出席する際には、まずはその葬儀がどのような宗教・宗派で行われるのかを確認し、その様式に沿ったお悔み言葉を確認してから弔問するよう心がけましょう。