仏前でお参りをする際、まず線香をあげてから仏様や先祖の霊に手を合わせますよね。
実は、この線香をあげるという行為にはきちんとした意味があり、宗派によっても線香のあげ方が変わってきます。
今回は、仏様や先祖の霊にお線香をあげる意味や正しい線香のあげ方について、基本的な作法・注意点を交えて詳しく解説します。
線香をあげる意味とは

仏教の世界では、「香」が大切なお供物の一つと考えられており、その役割を果たしているのが線香です。
焚かれた線香の煙と香りは仏様や先祖の霊とつながる架け橋なのですが、それ以外にも重要な意味合いがあります。
では、線香をあげるという行為はどのような意味を持っているのか、具体的な内容を解説していきましょう。
- 故人へ捧げる食事
- 自分の身を清める
- 仏様とつながりを持つ
- 故人が旅立つときの道標
意味①:故人へ捧げる食事
仏教の考えでは、亡くなった故人の魂や先祖の霊は、線香の香りを食べ物として受け取るとされています。
もちろん、線香以外にもお供物はしますが、線香の香りは煙と一緒に極楽浄土へ届き、個人や先祖の霊の飢餓を満たすと考えられているのです。
現在では、線香にもさまざまな香りの物がありますから、故人の好きだった香りの線香をあげて食事として届けても良いでしょう。
意味②:自分の身を清める
線香の香りは、あげる人の心身を清めるとされています。
よく大きな寺院でお参りをする際、焚かれた線香の煙と香りを自分の身に煽り被ることがありますが、これも身を清める儀式の一つです。
仏前でのお参り前に線香をあげるのも、現世で受けた穢れを香りで清めてからお参りするという流れと言えるでしょう。
意味③:仏様とつながりを持つ
線香の香りと煙は、故人の魂だけではなく極楽浄土の仏様にも届いています。
線香の香りで清められた人の清らかな気持ちが香りとともに仏様の元へ届き、その心を伝える役割を果たすのです。
仏様とのつながりを持つ線香の香りと煙は、故人や先祖の魂を弔いたいという心と、仏様への真摯な気持ちを伝えてくれることでしょう。
意味④:故人が旅立つときの道標
亡くなった故人は、四十九日の旅を経て極楽浄土へ辿り着きます。
このときに必要なのが旅路の道標なのですが、その役割を担うのが線香の香りと灯火です。
残された遺族は、故人が迷わないよう四十九日をかけて供養し、線香の火を絶やさないようにします。
現世と仏様をつなぎ、故人の旅立ちを手助けするのも線香をあげる重要な目的と言えるでしょう。
線香をあげるために用意するもの

線香をあげるためには、宗派に応じて仏具を準備しなければなりません。
では、具体的にどのようなものを用意するべきなのか、その内容を詳しく紹介していきましょう。
- 線香立て
- ろうそく立て
- マッチ・ライター・点火グッズ
- マッチ消し
線香立て
線香をあげるためには、火をつけた線香を供えるための「線香立て」が必要です。
しかし、線香のあげ方は宗派によって異なるため、それぞれのあげ方に合わせた線香立てを用意しなければなりません。
具体的な線香立ての種類は次のようになりますので、線香のあげ方に合わせて線香立てを用意してみましょう。
線香を立てる場合は香炉

線香を立ててあげる場合は、香炉と呼ばれる線香立てを用意します。
香炉は丸いお椀のような形をしており、そのままだと線香を立てることはできません。
香炉を用意する時は、中に灰を入れて線香が立てられるようにしてから使用しましょう。
線香を立ててあげるのは次の宗教なので、用意する前には宗派を確認してください。
- 曹洞宗
- 日蓮宗
- 天台宗
- 真言宗
- 臨済宗
- 浄土宗
線香を寝かせる場合は線香皿

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線香皿とは、火をつけた線香を寝かせてあげるための仏具です。
横に長い皿のような形の器に、線香を寝かせるための網や灰などを敷いて使用します。
線香を寝かせてあげる(横置きにする)のは「浄土真宗」です。
ろうそく立て
ろうそく立ては、線香に火をつけるために使用するろうそくを立てるための仏具です。
線香は仏様や個人に捧げる大切な供物なので、マッチやライターなどから直接火をつけることはできません。
そのために必要なのがろうそくで、そのろうそくを立てるために準備するのがろうそく立てです。
ろうそくは、お墓参りで線香をあげる時にも使用しますので、仏壇用とお墓参り用で分けて用意するのもよいでしょう。
マッチ・ライター・点火グッズ
マッチやライター、大きめのガスライターといった点火グッズも、線香をあげる際には必要です。
できれば仏壇専用のものを用意し、お参りの時にすぐろうそくに火がつけられるよう用意しましょう。
マッチやライターなどの点火グッズで線香に直接火をつけることは失礼に当たりますので、使用する時には十分気をつけてください。
マッチ消し
マッチ消しとは、ろうそくに火を灯して燃えているマッチ棒を穴に差し込み、火を消すとともに安全にマッチを捨てるための道具です。
卵のような形で上部に穴が開いており、その穴に燃えさしのマッチ棒を差し込んで火を消します。
仏前に供えるために灯した火を人の吹きかけた息で消すのは仏様に失礼な行為なので、マッチを用意するときは必ずマッチ消しもセットで用意しましょう。
線香の選び方

お供えする線香は、ポイントを押さえておくと選びやすくなります。
ここでは、線香を選ぶ際のポイントをお伝えしましょう。
- 長さ
- 香り
- 煙の量
ポイント①:長さ
一般的な線香は「短寸」という細長い棒状の形をしており、長さは約13.5センチです。
この長さの線香を燃やした場合、燃焼時間は30分ほどが目安で、これは「お経を一回読む長さ」に当てはまります。
これよりも短い線香なら燃焼時間も短くなりますので、もし燃焼時間が気になる場合は短めの線香を選んでみましょう。
ポイント②:香り
線香の香りは、大きく分けると「香り線香」と「杉線香」の2種類があります。
香り線香とは、簡単にいうと「香りを楽しむための線香」なので、花や果物・コーヒーといったさまざまな香りをお供えできることが特徴です。
「杉線香」は、乾燥させて粉末状にした杉の葉で作られたもので、ヤニによる煙が多いことから屋外でのお参り用に利用されます。
それぞれの特徴を理解しておき、普段のお参り用とお墓参り用で香りを分けてみても良いでしょう。
ポイント③:煙の量
マンションやアパートなどの集合住宅では、煙が多いと火災警報機に感知されたり、近所から匂いについて苦情が出る可能性もあります。
もしそのような状況が気になるようなら、煙の量が少ない線香を選ぶことをおすすめします。
近年では、煙が少ないという特徴がある線香も販売されているため、好みの長さや香りも考慮して選びましょう。
線香をあげる時の作法の基本

弔問客として故人の自宅を訪れた時、お参りのために線香をあげようとして作法に迷う人も少なくありません。
では、線香をあげる際にはどのような方法が失礼にならないのか、線香をあげる時の基本的な作法を流れに沿って紹介します。
- 数珠を左手に持つ
- 座布団に座る
- 仏壇に合掌する
- ろうそくに火をつける
- 線香に火をつける
- 再度仏壇に合掌・礼拝する
基本①:数珠を左手に持つ
まず、お参りをする際は、数珠を左手に持って仏前まで進みます。
数珠は房が下になるようにし、左手に輪を掛けて軽く握るような感じで持ちましょう。
基本②:座布団に座る
仏前の前まで進んだら、しつらえてある座布団に座りましょう。
このとき、もし周囲に人がいるようであれば座る前に頭を下げ、ご挨拶をしてから座布団に座るようにしてください。
基本③:仏壇に合掌する
座布団に座ったら、仏壇に正面を向いて「これからお参りします」という意味を込め、軽く一礼してから合掌しましょう。
この礼拝は仏様に対するご挨拶になるため、線香はまだあげずリンも鳴らさないようにしてください。
基本④:ろうそくに火をつける
ご挨拶の合掌が済んだら、線香に火を灯すためのろうそくに火をつけます。
多くの場合は、仏前にマッチやライターといった点火グッズが揃えてありますので、その点火グッズを使用してろうそくに火をつけましょう。
基本⑤:線香に火をつける
ろうそくに火がついたら、宗派のやり方に従って線香に火をつけお供えします。
この時、注意しなければならないのが「線香についた火の消し方」です。
仏前で灯された火は、口で吹き消すと穢れてしまい仏様に失礼にあたります。
線香の火は必ず手であおいで消すようにしましょう。
基本⑥:再度仏壇に合掌・礼拝する
宗派に合わせたやり方で線香をあげたら、再度仏壇の正面に座り直して居住まいを正し、数珠を手に掛けて合掌と礼拝をします。
ここでの礼拝が本当の「お参り」になりますので、合掌・礼拝の前にはリンを鳴らし、心を込めて合掌・礼拝しましょう。
礼拝が済んだら数珠を左手に掛け、両手の親指をついて膝を使って後ろ向きに下がり、座布団を下りてください。
【宗派別】線香のあげ方

線香自体は宗派の決まりがありませんが、線香のあげ方は宗派によって違いがあります。
ここでは、線香のあげ方を宗派別にご紹介していきますので、それぞれの宗派の線香のあげ方を確認しましょう。
天台宗
まず線香を3本取り、ろうそくの火で線香を灯します。
線香に火がついたら、1本を香炉の手前側に、残りの2本を香炉の仏様側の左右それぞれに立て、香炉の中で逆三角形になるように線香をあげましょう。
曹洞宗・日蓮宗・臨済宗
線香を1本取ったら、ろうそくの火で線香を灯します。
線香に火がついたら、香炉の真ん中に線香を立てましょう。
すでに他の人が線香をあげている場合でも、できるだけ真ん中に線香を立ててください。
真言宗
線香を3本取り、ろうそくの火で線香を灯します。
線香に火がついたら、1本を香炉の手前に、残りの2本を香炉の仏様側の左右1本ずつに立てましょう。
上から見ると、香炉の中で逆三角形になる形です。
すでに他の人が線香を立てている場合も、できるだけ同じ形になるようにしましょう。
浄土宗
線香を1本〜3本取り、ろうそくの火で線香を灯します。
線香に火がついたら、香炉の真ん中に線香を立ててください。
2本以上の線香はできるだけ揃えて、バラバラにならないように線香をあげましょう。
すでに他の人が線香をあげている場合も、香炉の真ん中に近くなるよう立ててください。
浄土真宗
線香を1本手に取ったら、半分に折って端を揃えます。
線香の端を揃えたら、ろうそくの火で線香を灯しましょう。
線香に火がついたら、横に寝かせて線香をあげてください。
用意されている線香立てが横置きでも香炉でも、線香は寝かせてあげるようにしましょう。
線香をあげる時の注意点

線香をあげる際には、注意をしなければならないことがあります。
では、具体的にどのような点に気をつければ良いのか、注意点をお伝えします。
- 火を吹き消さない
- 必ずろうそくから火を点ける
- 宗派に合わせる
注意①:火を吹き消さない
線香に火を灯した際、その火を自分の息で吹き消してはなりません。
仏教では、人間の悪い行いは「身・口・意」の3つから生まれると考えられているため、口で吹き消すという行為はお供えである線香を穢してしまうのです。
もし線香に灯した火が消えない場合は、手であおいで消すようにしましょう。
注意②:必ずろうそくから火を点ける
線香を灯す際は、ろうそくの火から灯すことが作法とされています。
仏前にはろうそくが用意されているため、もしろうそくに火が灯っていない場合はまずろうそくに火を点け、その後ろうそくの火で線香を灯すようにしてください。
ただし、屋外にあるお墓で線香をあげる場合は、天候によってろうそくの火が消えてしまうこともあります。
基本はろうそくからになりますが、どうしても難しい場合は強めの点火グッズを用意しておき、点火グッズから線香に火を灯しましょう。
注意③:宗派に合わせる
先ほど紹介しましたが、宗派によって線香のあげ方には違いがあります。
もし故人の自宅に弔問して線香をあげる際は、事前に宗派を調べておくと良いでしょう。
仏前に横置きの線香置きがある場合は浄土真宗なので、線香を2つに折って横置きにあげてください。
どうしても線香のあげ方がわからない場合は、親戚や知人に尋ねるようにしましょう。
まとめ

仏前にあげる線香は、故人へ捧げる大切な供物であるとともに、仏様へとつながる清らかな架け橋です。
線香をあげる意味について理解を深め、宗派の作法にのっとって線香をあげるようにしましょう。