近年、何らかの事情もしくはお二人の意思により「内縁関係」と呼ばれる状態で結婚生活を送る方が増えています。
しかし、この「内縁関係」とは一般的な婚姻関係とどのような違いがあるのか疑問を持っているかたも多いのではないでしょうか?
そこで、ここでは内縁関係と一般的な法律婚との違いにについて説明しながら「意味や定義」「メリット・デメリット」「内縁を検討しているかたがやるべきこと」などを解説します。
今後、内縁で結婚生活を送ることを考えている方はぜひ参考にしてみてください。
目次
内縁とは

それでは、まずは内縁とは何であるのかについてその意味や定義を解説します。
そして、「内縁の夫・内縁の妻」「内縁関係に起こりえる問題」「事実婚との違い」について説明します。
意味
内縁の意味は、双方が結婚する意志を持って共同生活を送っているものの、入籍の届出を出していない状態のため法律上の夫婦とは認められていない男女関係です。
この意味の中には「内縁状態では法律上夫婦とは認められない」とありますが、内縁の妻(夫)という存在には法律的に婚姻に準ずるものとして多くの権利が与えられています。
ただし、法律で認められた結婚(法律婚)と比較すると認められていない権利もあるのが現状です。
定義
内縁関係は法律によって次の4つに定義されています。
- お互いが婚姻の意志を持っている
- 共同生活をしている
- 事実婚(内縁関係)を公的資料に表明している
- 子供を認知している
定義①:お互いが婚姻の意志を持っている
お互いが相手と婚姻しようという気持ちを持っていることが必要です。
単に恋人と一緒に暮らすという認識しかなければ、それは内縁関係ではなく同棲関係です。
この婚姻の意思を法的に評価してもらうためには次の客観的事実が必要になります。
- 2人が婚姻の意志を持って夫婦生活を営んでいる
- 両家の親族が夫婦だと認識している
- 結婚式を挙げ社会的に二人が夫婦として認められている
- 家計を同一で管理している
- 二人の間に子供がいる
内縁関係が認められるためには、これらの客観的事実が一つではなく総合的に勘案して夫婦として認められるのかを判断します。
定義②:共同生活をしている
生計を共にして夫婦としての共同生活を営む必要があります。
共同生活の実態がない場合は、お互いが相手と婚姻しようという気持を持っていても内縁関係とは認められません。
定義③:事実婚(内縁関係)を公的資料に表明している
住民票に「未届けの妻(夫)」と表記するなど、公的資料に内縁関係を示す必要があります。
なお、公的な資料に内縁関係を示すには次の方法もあります。
- 社会保険に第3号被保険者として登録する
- 内縁関係を証明する私的契約書に調印する
定義④:子供を認知している
同居して子供を認知している場合も事実婚であると評価されます。
「内縁の夫」「内縁の妻」とは
内縁と聞くと、「内縁の夫」や「内縁の妻」という言葉を連想してしまいますが、この2つの言葉には次のような意味があります。
- 内縁の夫:籍を入れていないが事実上の夫婦関係にある夫
- 内縁の妻:籍を入れていないが事実上の夫婦関係にある妻
内縁関係に起こる問題
内縁関係に起こる問題は法律婚の夫婦とほぼ同じですが、離婚については異なります。
法律婚の夫婦は離婚の届出を出さなければ婚姻関係が解消されることはありませんが、内縁関係の夫婦では別居の事実によって婚姻関係を解消する場合があります。
つまり、これは法律婚では夫婦関係が悪化して別居しても離婚にはならないが、内縁関係では別居によって夫婦関係を解消されてしまうということです。
こうした法律上の違いから、内縁関係を解消する問題が起きた際には別居前の対応が必要です。
内縁関係と事実婚の違い
内縁と事実婚は、婚姻届の提出できない場合と、婚姻届を提出しない場合という違いがありますが、どちらも婚姻の届出がなく社会生活上で夫婦同様の生活をしている関係である点で共通しています。
そのため、両名が夫婦同様の生活をする意思を持ち生計を共に生活していれば、内縁関係あるいは事実婚となります。
そこで、本記事では内縁と事実婚を同様のものとして説明しています。
事実婚(内縁)と法律婚の違い

続いては、事実婚と法律婚の違いについて解説します。
公的な手続き
法律婚であれば各種控除や税金の免除がありますが、事実婚では配偶者控除が適用されません。
子供の扱い
出生後の戸籍の扱いに違いがあります。
法律婚では子供の出生手続は出生届以外にはなく、戸籍上も夫婦の子供として記載されます。
一方、事実婚の夫婦に子供が生まれた場合は、「妻の子供(非嫡出子や私生児)」となり父親は不明な状態となるため、父子関係を明らかにするためには父親が子供を認知する必要があります。
戸籍
婚姻届を提出せず入籍もしないため、夫婦は別々の戸籍となり夫婦別姓を名乗ります。
相続
事実婚では遺言書を作成しなければ、相続の権利はありません。
ただし、子供が認知されている場合は子供に相続権は認められます。
【一覧表】事実婚と法律婚の違い

事実婚と法律婚には様々な面で違いがありますが、内容を整理するためにここではこの違いについて一覧表で記載します。
内容 | 事実婚 | 法律婚 |
---|---|---|
パートナーとの関係 | 婚姻関係は築けない | 婚姻関係は築ける |
出産した子供 | 非摘出子となる | 摘出子となる |
子供の親権 | 母親が持つ | 離婚協議により可否がわかれる |
被相続人の財産相続 | 相続人がいなければ分与請求ができる | 相続できる |
社会保険の扶養 | 内縁相手の扶養に入れる | 相手の扶養に入れる |
慰謝料 | 請求できる | 請求できる |
遺族年金の受給 | 一定要件を満たせば可能 | 可能 |
財産分与 | 内縁関係中の共有財産は可能 | 婚姻中の共有財産は可能 |
姓の変更 | 変更しない | 変更する |
事実婚(内縁)のメリット

では、事実婚のメリットにはどういったものがあるでしょうか?
ここでは、事実婚のメリットについて解説します。
- 法律婚とほぼ同等の権利・義務がある
- 姓の変更が不要
- 対等な立場で生活できる
- 別れても戸籍に履歴が残らない
- 親族のしがらみに縛られにくい
メリット①:法律婚とほぼ同等の権利・義務がある
事実婚では法律婚とほぼ同等の権利・義務が認められているため、婚姻関係を解消する際には財産分与などの金額請求をすることも可能です。
この権利・義務には次のようなものがあります。
財産分与
財産分与とは、夫婦共有財産を公平に分配する制度です。
事実婚であっても、同居中に夫婦が共同で積み上げた財産は2分の1ずつに分け合うことが可能です。
慰謝料
夫婦の一方に婚姻関係を破綻させた原因があれば、離婚の慰謝料が発生します。
この破綻の原因については「暴力」「不貞」「家出」などが挙げられ、慰謝料の金額は50万円~300万円が相場です。
養育費
事実婚の夫婦の間に未成年の子供がいた場合、子供が成人するまで養育費が発生します。
養育費は夫婦の収入状況によって異なるため相場はありませんが、一般的には4万円前後です。
年金分割
事実婚の場合でも年金分割請求は可能です。
ただし、一方が相手の扶養に入っている場合の「第3号被保険者」である場合の「3号分割」に限定されるため、合意分割はできません。
婚姻費用
事実婚の場合でも相手が生活費を払ってくれない場合は、「婚姻費用」を請求することができます。
法律婚では、たとえ別居中であっても離婚が成立するまでは婚姻費用が発生します。
しかし、事実婚では別居が事実婚の解消とみなされる場合があるため、婚姻費用の請求が困難な場合が考えられます。
事実婚であっても確実に婚姻費用を請求できるのは、単身赴任や入院といった場合に限られるのが現状です。
メリット②:姓の変更が不要
現在の日本では夫婦別姓は認められていませんが、事実婚では姓の変更が不要とされているため、夫婦両名はこれまでの姓を名乗ることが可能です。
そのため、「運転免許」「銀行のキャッシュカード」「クレジットカード」などの名義変更をする必要がありません。
メリット③:対等な立場で生活できる
事実婚では女性が男性の家に入ることも男性の姓を名乗ることもないため、対等な立場で生活を送ることができます。
メリット④:別れても戸籍に履歴が残らない
事実婚では戸籍を変更することがないため、離婚の履歴が残ることはありません。
新たなパートナーと結婚する場合は初婚となります。
メリット⑤:親族のしがらみに縛られにくい
事実婚の場合は戸籍を変更しないため、どちらか一方の親族が家柄にうるさい場合でも婚姻しやすい状況が考えられます。
事実婚(内縁)のデメリット

では、事実婚することのデメリットにはどういったものがあるでしょうか?
ここでは、事実婚のデメリットについて解説します。
- 保険や税金関係で権利を得ることができない
- 子供が生まれた場合の手続きが複雑
- 相続権がなく相続税控除が受けられない
- 慰謝料請求のハードルが高い
- 夫婦関係を証明しにくい
デメリット①:保険や税金関係で権利を得ることができない
事実婚では配偶者を健康保険の扶養に入れるために、事実婚の実態を資料によって証明しなければならないため、法律婚と比べて手続きが複雑です。
また、扶養に入れたとしても税金の配偶者控除は適用されないので、法律婚と比較して税金が高額になります。
また、この他にも相続税控除や医療費控除も受けることができません。
デメリット②:子供が生まれた場合の手続きが複雑
事実婚では子供が生まれた際に父親が認知しない限り、子供と父親は法律上他人になってしまうため認知の手続きが必要です。
また、子供は妻の戸籍に入ることになるため、子供が成長した際には父親と違う姓であることで不便が起こることが予想されます。
たとえ認知をしていても子供は非嫡出子となることに変わりはなく、母親の戸籍に入るのであれば親権者は母親です。
子供を父親の戸籍に入れて同じ姓にするには、家庭裁判所で子供の氏の変更手続きを行い、親権者を父親に変更するために養子縁組をしなければなりません
デメリット③:相続権がなく相続税控除が受けられない
事実婚の配偶者には相手名義の財産(不動産・預貯金)を引き継ぐ権利がないため、これを引き継ぐ場合は遺言書を書いてもらう必要があります。
ただし、遺言書によって相手の財産を相続したとしても相続税の控除を受けることができないため、法律婚と比較すると多額の税金を納める場合があります。
なお、子供に関しては認知していれば相続権を得ることができます。
デメリット④:慰謝料請求のハードルが高い
先ほどお伝えしたとおり、事実婚でも関係を解消した際には慰謝料を請求することが可能です。
しかし、事実婚で慰謝料を請求するには、まず事実婚であることを証明し慰謝料を請求できる事由をを立証する必要があるため、法律婚と比較して慰謝料請求のハードルは高いと言えます。
デメリット⑤:夫婦関係を証明しにくい
法律婚なら戸籍謄本を用意すれば夫婦関係を証明することができますが、事実婚の場合にはさまざまな資料が必要です。
事実婚を証明する資料は次のとおりです。
- 住民票
- 生命保険の証書
- 写真や日記
- 親族の草原など
【状況別】事実婚(内縁)でも慰謝料が発生するケース

事実婚でも実際の夫婦関係があると認められた場合には、慰謝料を請求することが可能なケースがあります。
慰謝料が発生するケースは、相手に次の行動があった場合です。
状況①:不貞行為があった場合
相手が不貞行為(肉体関係を伴う不倫)をしたことによって夫婦関係を解消しなくてはならなくなった場合、不貞行為をされた被害者は、加害者や不貞行為を行った相手に対して不倫慰謝料を請求することができます。
状況②:正当な理由なく一方的に事実婚(内縁)の解消があった場合
事実婚は法律婚のように正式な婚姻状態と認めらてはいませんが、相手のことが嫌いになったなどの簡単な理由で気軽に関係を解消することはできません。
このように、正当な理由なく一方的に事実婚を解消された場合は慰謝料を請求することができます。
この正当な理由とは次のとおりです。
- 相手が不貞行為を行った場合
- 相手が理由なく同居を拒否し生活費を渡さない場合
- 相手の生死が3年以上明らかでない場合
- 相手が強度の精神病にかかり回復の見込みがない場合
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由がある場合
なお、婚姻を継続しがたい重大な事由とは次のとおりです。
- 性格の不一致
- DV
- ギャンブル
- モラハラ
- セックスレス
これら婚姻を継続しがたい重大な事由によって事実婚を解消するのであれば、これらを立証する証拠を用意しなければなりません。
状況③:相手が一方的に別居した場合
相手が正当な理由なく突然家出をした場合には、「悪意の遺棄」として慰謝料が発生します。
事実婚でも相続を受け取る方法

続いては、事実婚であっても相続を受け取れる方法を解説します。
方法①:生前贈与を行う
事実婚の相手が健在のうちに財産贈与を行う生前贈与なら、法的な権利がない事実婚であっても相続を受け取ることが可能です。
方法②:遺言書を作成しておく
遺言書の中で「財産を事実婚の相手に贈与する」と明確に記述すれば、財産分与は遺言書の内容に沿って行われるため財産の継承が可能です。
方法③:特別縁故者として財産を受領する
配偶者がいない方が死亡した場合は、特別な手続きを一切していない方でも、事実婚と同様の権利を有する「特別縁故者」となれる場合があります。
とは言え、何の縁もない方に遺言以外で自身の財産を相続させるのは難しいのが現状です。
この場合は多少の贈与税を払っても「生前贈与」という形で、数年に渡って財産を相続する方法が一般的です。
特別縁故者になるには
特別縁故者になるためには、家庭裁判所へ申し込みこれを認められた方しかなることは出来ません。
亡くなった方に相続人が一人もいない場合は、その方のお世話をした方が特別縁故者となる場合もあります。
なお、この場合の相続人が一人もいない場合とは、法定相続人全員が相続放棄をした場合です。
事実婚(内縁)を検討している方がするべきこと

ここでは、実際に事実婚を検討している方がするべきことについて解説します。
これから事実婚を行う方は、次のような準備が必要です。
事実婚を証明できるよう準備する
事実婚をするなら、後から事実婚を証明できる状態にしておく必要があります。
これは、あらゆる手続きにおいて事実婚の証明が必要になるためです。
事実婚の証明が必要になる手続きは次のとおりです。
- 遺族年金を受け取る場合
- 健康保険の扶養に入る場合
- 離婚の際に慰謝料や財産分与をもらう場合など
事実婚を証明できなければ、公的な給付や相手への請求も認められなく可能性が高くなってしまいます。
事実婚を証明する資料は次のように準備します。
住民票の続柄を「未婚の妻(夫)」に変更する
役所で住民票の記載を変更してもらいます。
同一世帯の場合は同居人と記載されている場合もありますが、事実婚を証明するために「未婚の妻(夫)」と記載してもらいましょう。
結婚式を挙げる
結婚式を挙げたり新婚旅行に行ったりして、その際の領収証や写真などの資料を保管するのも有効な方法です。
事実婚の契約書を作成する
契約書を作成することで、後に事実婚関係を明確に証明しやすくなります。
遺言書を作成する
事実婚の夫婦はお互いの財産に対して相続権がないため、相手が亡くなった際には資産を相続できずに困ってしまうケースがあります。
このような不利益を被らないためにも、婚姻時からお互いが死亡した際には資産を相手に渡す旨を書いた遺言書を作成することをおすすめします。
内縁関係になった場合はできるだけ早い段階で遺言書を作成し、万が一の事態に備える必要があるのです。
まとめ

事実婚であっても法律婚とほぼ同等の権利が認められているため、日常生活で困ることは少ないはずです。
しかし、相手が死亡した際の相続については法律の保護が十分ではないため不安が残ります。
この様な状態を解消するためにも、内縁関係になった際にはいち早く内縁関係を証明する資料を作成し、遺産相続に関する遺言書を作成して安心した生活ができる環境を整える必要があるのです。