内縁の妻(夫)に相続権はない?財産を渡す方法と相続のポイント

内縁 の 妻 相続法定相続
この記事を監修した専門家は、
呉村成信
司法書士
2016年、司法書士試験合格。東京司法書士会所属。都内の司法書士事務所にて不動産登記を中心に登記業務全般に携わる。その後独立し、2019年、そうぞくドットコム不動産の立ち上げ期から参画し、プロダクトアドバイザーに就任。

婚姻届を出している夫婦と婚姻届を出していない内縁関係の夫婦では、法律上の扱いが同じ場合と異なる場合があり、相続では扱いが異なります。

婚姻届を出している場合と違って、内縁の妻や夫に遺産の相続権はないため注意が必要です。

遺産を相続させたい場合には何らかの対策をしておかなければなりません。

今回は、内縁関係における相続について、権利関係や生前にできる相続対策を紹介します。

内縁の妻(夫)とは

内縁の妻とは

内縁関係とは、役所に婚姻届を出していないものの、結婚している夫婦と同じように生活している男女関係のことを指します。

事実婚も内縁関係と同じ意味のことばですが、同居や同棲は内縁関係とは異なる意味のことばです。

違いは、婚姻の意思があるかどうかで、内縁関係や事実婚の場合はお互いが婚姻の意思を持っているのに対して、同居や同棲は婚姻の意思はありません。

入籍せず内縁関係を選択する理由は人によってさまざまですが、婚姻届を出している場合と出していない場合で、たとえば次のような違いがあります。

内縁関係の場合
  • 所得税や相続税の配偶者控除の対象にならない
  • 遺産の相続権がない
  • 生まれた子は非嫡出子として母親の単独親権になる

一方で、生活を支え合う共同扶養義務や別れたときに財産を分ける財産分与などは、婚姻届の提出の有無による違いは基本的になく同じです。

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内縁の妻(夫)に相続権はない

内縁の妻に相続権はない

家族が亡くなって相続が起きたとき、誰が相続人になって遺産を相続するのかは法律で決まっています。

相続人になる人や相続権を取得する順番は以下のとおりで、内縁の妻や夫は相続人の範囲に含まれません。

遺産を相続する人の順位
  • 配偶者(法定婚):相続人として遺産を相続できる
  • 第1順位:子(子が既に亡くなっている場合はその子である孫)などの直系卑属
  • 第2順位:父母や祖父母などの直系尊属
  • 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に亡くなっている場合はその子である甥・姪)

まず、相続が起きたときに配偶者が存命であれば、相続人になり遺産を相続できます。

ただし、相続人になれる配偶者とは婚姻届を出している配偶者を指し、内縁関係の妻や夫は相続人にはなれません。

また、子や親、兄弟姉妹の間では相続人になる人の順位が決まっており、最も順位が高いのが子などの直系卑属、そして第2順位が父母などで第3順位が兄弟姉妹などです。

順位の高い人がいる場合はその人が相続人になり、先の順位の人がいない場合は、次順位の人が相続権を取得して遺産を相続します。

そして、内縁関係の妻や夫は相続権がないことに加えて、寄与分が認められない点にも注意が必要です。

内縁関係と相続に関する注意点
  • 内縁関係の妻や夫に相続権はなく遺産を相続できない
  • 内縁関係の妻や夫には寄与分は認められない

寄与分とは、被相続人の生前に財産を増加させるなどの貢献をした相続人に認められる遺産の取り分のことです。

しかし、寄与分が認められるのは相続人だけなので、法律上相続人には当たらない内縁関係の場合は、どんなに生前に貢献をした場合でも、寄与分は認められません。

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内縁の妻(夫)に財産を渡す方法

内縁の妻(夫)に財産を渡す方法

内縁関係の場合は、自分が死んで相続が開始したときに妻や夫に遺産の相続権がありません。

内縁の妻や夫に財産を渡したい場合は、対策を講じておく必要があります。

内縁の妻や夫に財産を渡す主な方法は次の4つです。

内縁の妻や夫に財産を渡す方法
  • 生前に財産を贈与する
  • 遺言書で財産の受取人に指定する
  • 死亡保険金の受取人に指定する
  • 特別縁故者として遺産を受け取る

生前に財産を贈与する

相続で遺産を渡そうとしても、内縁の妻や夫には相続権がなくて相続できませんが、そもそも生前に贈与すれば財産を渡せます。

自分が生きているうちに生前贈与すれば確実に財産を渡せて安心できるので、自分の死後に残される内縁の妻や夫のことが不安な場合は、生前に財産を贈与すると良いでしょう。

生前に財産を贈与する際、気を付けるべき点は次の2点です。

生前贈与における注意点
  • 贈与をすると贈与税がかかり、税務署への申告が必要になる場合がある
  • 相続人の遺留分を侵害すると、遺留分侵害額請求を受けてトラブルになる場合がある

まず、財産を贈与すると一般的に、年間の贈与額が110万円を超えると贈与税がかかります。

贈与税がかかる場合、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告と納税の手続きをしなければなりません。

そして、生前に財産を贈与する場合には、将来相続が起きたときの相続人の権利である遺留分に注意が必要です。

遺留分とは、一定の相続人に認められた権利で、遺留分が保障されている相続人は遺産の一定割合を相続する権利があります。

たとえば、生前贈与ですべての財産を内縁の妻や夫に贈与して、相続人が一切財産を相続できないようにしても、遺留分がある相続人は基本的に相続開始後に財産をもらう権利を主張できます。

生前贈与が原因で、内縁関係の妻や夫が相続人とトラブルになる事態は避けるべきなので、相続開始後に問題が起きないように、生前贈与では遺留分に注意しましょう。

遺言書で財産の受取人に指定する

財産を遺す人が生前に遺言書を作っておけば、誰にどれだけの財産を渡すのかを決められます。

財産を渡す相手としては、相続人を指定してもそれ以外の人を財産の受取人に指定しても構いません。

生前贈与と同様、相続人の遺留分には注意が必要ですが、遺言では相続人以外の人に対しても遺産を渡せるため、内縁関係の妻や夫にも財産を渡せます。

遺言書には種類があり、その中でも特に利用されることが多いのは「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類です。

公正証書遺言と自筆証書遺言
  • 公正証書遺言:遺言内容を公証人に伝えて遺言書を作成してもらい、遺言書の原本が公証役場で保管される
  • 自筆証書遺言:自分で遺言の全文を自書して作成する

遺言書は一定の要件が守られていないと無効になる場合がありますが、公正証書遺言であれば、公証人が作成するため形式不備のリスクが基本的になくて安心です。

また、自筆証書遺言を自分で作成して保管すると形式不備や紛失のリスクがありますが、法務局で保管する制度を利用すれば、保管申請の際に形式に問題がないか確認してもらえます。

なお、遺言で財産を内縁関係の妻や夫に渡す場合、相続税に関して次の点に注意が必要です。

相続税に関する注意点
  • 内縁の妻や夫が受け取る遺産額が大きいと、相続税がかかる場合がある
  • 1億6千万円の遺産まで相続税がかからない配偶者控除の適用は受けられない
  • 内縁の妻や夫が遺産を受け取る場合、相続税の2割加算の対象になる

まず、遺産額が「3,000万円+600万円×(法定相続人の数)」で求めた額を超えると、一般的に相続税がかかります。

そして、婚姻関係にある配偶者が適用を受けられる配偶者控除は、内縁関係の場合は適用を受けられず、さらに税額が2割加算されて相続税負担が大きくなる場合があります。

財産の額が大きくて相続税がかかりそうな場合は、生前贈与をして相続税の課税対象になる財産を減らすなど、遺言以外の方法も組み合わせて対策をすると良いでしょう。

死亡保険金の受取人に指定する

生命保険に加入して、内縁の妻や夫を死亡保険金の受取人にしておけば、自分が死んだときに保険金という形で相手に財産を渡せます。

ただし、保険会社によっては、保険金の受取人に指定できる人の範囲を「婚姻関係にある配偶者と2親等内の親族」など限定していることがあり、その場合は内縁の妻や夫は受取人にできません。

保険会社によって規定が異なるので、相続対策として生命保険を活用する場合は、内縁の妻や夫を保険金の受取人にできる保険会社をまずは探すようにしましょう。

なお、相続人が死亡保険金を受け取る場合は、500万円に法定相続人の数をかけた額まで相続税がかかりませんが、内縁の妻や夫が受け取る場合は、全額が相続税の課税対象になります。

特別縁故者として遺産を受け取る

特別縁故者とは、亡くなった人の世話をしていたなど、特別な関係にある人のことです。

ある人が亡くなったとき、法定相続人がおらず遺産を相続する人がいない場合、特別縁故者と認められるとその人が遺産の一部または全部を受け取ることができます。

特別縁故者になれる人とは、具体的には次の3つのいずれかに該当する人です。

特別縁故者になれる人
  • 亡くなった人と生計を同じくしていた人
  • 亡くなった人の看護などをしていた人
  • その他亡くなった人と特別な関係にあった人

そのため、法定相続人がいない場合には、内縁の妻や夫が特別縁故者として認められて遺産を相続できる場合があります。

ただし、法定相続人がいる場合は、相続人以外の人が特別縁故者として認められて遺産を相続できることはありません。

また、特別縁故者として認められるためには、家庭裁判所で手続きをする必要があり、必要書類を揃えるなど手間がかかります。

そのため、生前に遺言書を作成して内縁の妻や夫が財産を受け取れるようにしておくなど、他の方法で財産を渡すほうが良いでしょう。

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内縁の妻(夫)との子は認知すれば遺産を相続できる

内縁の妻との子は認知すれば遺産を相続できる

内縁関係の夫婦の間に生まれた子は、婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子と違って、女性の戸籍に入り女性の単独親権となります。

夫が亡くなり妻と子が遺された場合でも、子に相続権はなく遺産を相続することはできません。

しかし、父親が子を認知すれば子に相続権が生じます。

認知とは、婚姻していない男女の間に生まれた子を、父親が自分の子であることを法律上認めることです。

認知の方法
  • 生前に認知する
  • 遺言で認知する
  • 死後に認知請求をする

生前に認知する場合

生前に父親が子を認知する場合、市区町村役場に認知届を提出する必要があり、基本的には父親本人の判断で認知を行えます。

ただし、次の場合には母親や子の同意が必要です。

  • 子が出生前で胎児の場合(胎児認知):母親の同意が必要
  • 子が成人している場合:子の同意が必要

子の出生後に認知した場合は出生日に遡って効力が発生し、子の出生前に認知した場合は、効力が発生するのは出生日からです。

また、認知は大きく分けると「任意認知」と「強制認知」の2種類あります。

  • 任意認知:父親が自ら進んで行う認知
  • 強制認知:父親が認知を拒み、母親などが調停や裁判の申立てを起こして行う認知

遺言で認知する場合

周囲の家族の目を気にして認知ができなかったなど、生前に父親が子を認知できなかった・しなかった場合でも、遺言に記載すれば子の認知が可能です。

遺言書には「遺言者は、遺言者〇〇と△△の間に生まれた子である□□を自分の子として認知する」などと記載し、子の住所・氏名・生年月日・本籍・戸籍筆頭者を記載します。

そして、遺言で子を認知する場合は、遺言執行者を定めておかなければいけません。

遺言執行者とは、文字通り遺言の内容に従って手続きを執行する人で、遺言者が亡くなると遺言執行者が認知の届出等を行います。

子を認知する旨が記載されているのに、遺言書に遺言執行者の記載がないと、相続開始後に裁判所で遺言執行者選任の手続きが必要になり手間がかかるため、遺言執行者を必ず記載しましょう。

遺言者が亡くなると、遺言執行者は10日以内に認知の届出を行います。

死後に認知請求をする場合

父親が生前に認知をせず、認知する旨を遺言書に記載していない場合でも、父親の死後に子やその法定代理人は裁判所に認知の訴えを起こすことができます。

死後に認知請求ができるのは、死後3年以内です。

裁判所によって請求が認められて認知が成立すると、その子には相続権が生じて父親の遺産を相続できます。

ただし、認知請求が認められた場合でも、他の相続人による遺産分割協議が既に終わっていた場合は、遺産分割協議のやり直しを請求することはできません。

相続権を取得した子ができるのはあくまで、自分の法定相続分に相当する金額の支払いを他の相続人に求めることです。

死後の認知請求が認められた場合
  • 遺産分割協議が終わっていない場合は、認知が認められた子も協議に参加する(子が未成年者の場合は法定代理人が協議に参加する)
  • 遺産分割協議が終わっている場合は、法定相続分に相続する金額の支払いを他の相続人に求めることができる

死後に子本人や母親が認知請求を行うと、裁判所での手続きが必要になるなど、手間も時間もかかります。

そのため、父親が生前に認知をできるのであれば認知をしておいたほうが良く、何らかの事情で無理な場合でも、遺言書を作成して認知する旨を記載してもらうほうが良いでしょう。

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内縁関係と相続に関するその他のポイント

内縁関係と相続に関するその他のポイント

内縁の妻や夫に相続権はありませんが、賃借権の取得と遺族年金の受給権に関しては、内縁関係であっても認められる場合があります。

「内縁関係だと遺族年金はもらえないだろう」と勘違いをすると年金をもらい損ねる場合があるので、内縁関係の相手が亡くなった場合は年金の受給権が自分にあるかどうか必ず確認しましょう。

内縁の妻が賃借権を取得できる場合がある

賃借権とは、賃料を払って他人のものを借りる権利です。

たとえば、夫が契約してアパートを借りて内縁の妻と同居していた場合に、夫が亡くなった後に妻が賃借権を取得できれば、アパートに住み続けることができます。

借家で同居していた場合、内縁関係の一方が亡くなり遺された相手が常に賃借権を取得できて住み続けられるとは限りませんが、過去の裁判例で賃借権の取得が認められたケースがありました。

遺族年金は内縁関係でも受け取れる場合がある

夫婦の一方が亡くなると、公的年金のひとつである遺族年金が残された配偶者に支給されることがあり、この配偶者には内縁の妻や夫も含まれます。

「事実婚関係及び生計同一関係に関する申立書」と、事実婚関係にあったことを証明するための書類を日本年金機構に提出して認められれば遺族年金の受給が可能です。

遺族年金をもらえる条件は細かく決まっているため、すべての要件を満たさなければいけませんが、支給要件を満たせば、内縁関係でも婚姻届を出している夫婦と同様に年金が支給されます。

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まとめ

婚姻届を出していない内縁の妻や夫は、配偶者が亡くなっても遺産の相続権がありません。

婚姻届を出している夫婦のように遺産を相手が相続できるわけではないので、自分の財産を渡したい場合は何らかの対策をしておく必要があります。

生前贈与や遺言書の作成など、生前にできる相続対策をしっかりと行いましょう。

また、内縁関係の妻との間に生まれた子は、父親が認知をしなければ遺産を相続できません。

父親が認知をすれば子に遺産の相続権が生じるので、子に遺産を渡したい場合には生前に認知をするか認知する旨を遺言書に記載するようにしてください。

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この記事を監修した専門家は、
呉村成信
司法書士
2016年、司法書士試験合格。東京司法書士会所属。都内の司法書士事務所にて不動産登記を中心に登記業務全般に携わる。その後独立し、2019年、そうぞくドットコム不動産の立ち上げ期から参画し、プロダクトアドバイザーに就任。