相続の手続きにおいてはほぼ必ずと言って良いほど登場する「戸籍謄本」ですが、普段の生活とはあまり馴染みのある存在ではありません。
自分で収集するのも大変だと思っている方が多いのではないでしょうか。
そもそも、なぜ相続手続きには戸籍謄本が必要になるのでしょうか?
今回は、相続に戸籍謄本が必要になる理由と、取り寄せる方法について解説していきます。
目次
相続手続きに戸籍謄本が必要な場合と理由
相続手続きでは、相続人を確定するという作業が必須です。
相続人が一人でも欠けたまま遺産分割をしても、それは無効です。
戸籍を収集して戸籍に記載された人の名前をよく見てみた結果、 「兄弟姉妹はいないと親から聞かされていたけれど、実は他の兄弟姉妹が存在していた」ということがわかるというケースもあります。
戸籍を十分に読み込んで、相続人の見落としがないようにしなければなりません。
戸籍の種類
戸籍には種類があります。
そのため、自分はどの種類の戸籍を請求しようとしているのかは把握しておかねばなりません。
どの戸籍を請求したら良いのかわからない場合、役所に行けば窓口で教えてもらえます。
ただし、郵送請求する場合は役所に電話で問い合わせるか、自分で判断するしかありません。
では、戸籍を種類ごとに解説していきましょう。
戸籍全部事項証明書
戸籍全部事項証明書は、現在の戸籍のことです。
戸籍をコンピューター化したものであり、その前は「戸籍謄本」と呼ばれていました。
コンピューター化とは、従来の紙で管理していた戸籍からコンピューターを使った管理に移行したということです。
資格試験や手続きなどで必要になる戸籍は、「戸籍全部事項証明書」であることがほとんどです。
戸籍全部事項証明書には、同一の戸籍にある人の名前や身分事項の異動(出生、結婚、離婚、死亡など)が掲載されます。
自分の分だけではなく、家族の分まで記載されています。
自分が相続人であり、自分以外の家族の分の記載が不要な場合は 、次に説明する「戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)」を取得してください。
戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)
戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)は、戸籍にある人の一部だけを証明する書類です。
「抄本」とは、原本の書類の一部を抜き書きにした書類という意味です。
例えば、戸籍が必要になり自分の名前だけあれば良いという場合は、戸籍抄本を取得すれば大丈夫です。
除籍謄本
除籍謄本とは、戸籍から人が抜けて誰もいなくなった(=閉鎖された)戸籍のことです。
ある人の戸籍には家族が数人いたけれど、死亡や結婚、転籍などで人がすべていなくなると、その戸籍は閉鎖されます。
閉鎖された戸籍を「除籍」と呼びます。
「除籍」という言葉が使われる場合は、戸籍にまだ誰か残っており、死亡した人が除籍となっている戸籍のことを指す場合があります。
例えば、相続人が被相続人(相続される人、亡くなった本人)の銀行口座の名義変更をするために銀行に行ったとしましょう。
銀行では、「除籍を持ってきてください」と言われるケースが多いです。
この場合、多くの場合は「閉鎖された戸籍」のことではなく、「閉鎖されていなくても、亡くなった本人が死亡という記載がされた戸籍」を持ってきてくださいという意味です。
除籍謄本はあまり馴染みのない種類の戸籍ですが、相続の場面ではよく使われる書類です。
除籍謄本には被相続人の死亡の事実が記載され、本当にその人が亡くなったということを証明することができるからです。
そのため、相続の現場では「除籍謄本を取ってきてください」と言われることが多いのです。
改製原戸籍
改製原戸籍は、改製される前の戸籍のことを言います。
平成6年(1994年)に戸籍法が改正され、戸籍をコンピューターで管理することが可能になりました。
戸籍法が改正されたのはこの平成6年(1994年)ですが、実際に各自治体が戸籍をコンピューターで管理するようになった時期は統一されていません。
その法律に基づいて、ある自治体が平成26年(2014年)に新しくコンピューター化された戸籍を作ったとしましょう。
コンピューター化され自治体が作り直した戸籍が現在の戸籍であり、コンピューター化される前の戸籍は「改製原戸籍」と呼ばれます。
一般的に コンピューター化される前の戸籍を「平成改製原戸籍」と呼びます。
現在に到るまで、戸籍は何度か作り直されてきました。
江戸時代後期から戸籍の元になるものが作られ、明治時代に現在の形に近い戸籍ができました。
明治時代の戸籍は、戸主を中心とした親族が一つの戸籍に記載されていました。
その後、民法が改正された影響で戸籍法も改正されました。
現在取得可能な改製原戸籍は、「平成改製原戸籍」と「昭和改製原戸籍」の2種類です。
つまり、改製原戸籍にはコンピューター化される前のものと、戸主の表記がなくなる前のものがあるということです。
改製原戸籍が必要とされる場面は相続が多いです。
亡くなった人の一生分の戸籍を集めなければならないからです。
自治体が戸籍を作り直すとき、以前の戸籍の内容をすべて書き写すわけではありません。
相続に必要な養子縁組や、死亡、結婚、離婚、認知といった事項は新しい戸籍には引き継がれません。
つまり、改製後の戸籍を読んだだけでは、改正前に結婚して戸籍から除かれた人などを見落とす可能性があります。
被相続人の一生分の戸籍が必要になったら、面倒臭がらずこの「改製原戸籍」を取るようにしてください。
2020年現在取得できる戸籍の中で、一番古いものは明治13年式戸籍です。
平成22年(2010年)6月1日までは、戸籍の保存期間は80年と定められていました。
2020年現在は、除籍となった翌年から150年間保存されます。
相続の現場では、被相続人の一生分の戸籍がそろわないといった問題がしばしば発生します。
被相続人が亡くなってからかなりの月日が経過してから相続手続きをする場合などは注意が必要です。
保存期間が過ぎてしまい戸籍が揃わないという場合でも相続の手続きを進めることは可能ですが、手続きが難しいため弁護士や司法書士など専門家に相談することをおすすめします。
壬申戸籍
江戸時代の宗門人別改帳に代わって編成されたのが「壬申戸籍」(明治5年式戸籍)です。
壬申戸籍は、今ではほとんど見ることのできない幻の戸籍と言われています。
壬申戸籍が幻の戸籍になってしまった理由は、2020年現在の法制度では閲覧することが不可能だからです。
壬申戸籍が明治31年に廃止されるまでは、戸籍には年貢の量や、犯罪歴、どこのお寺の檀家なのかという情報や身分が記載されていました。
しかし、身分などの情報は差別などにつながる可能性があるため、2020年現在は閲覧することができません。
各自治体において厳重に保管されています。
戸籍謄本の取り寄せ方
続いては、戸籍の取り寄せ方を解説していきます。
今まで取得したことのない方でも簡単に取ることができますよ。
ステップ①:必要な戸籍謄本を確認する
まずは、必要な戸籍謄本の種類を確認します。
相続が発生し、市役所などに戸籍を請求するとき、どの戸籍を指定して取得したら良いのかわからないかもしれませんね。
相続手続きに使用する戸籍謄本類は、原則として被相続人が生まれてから亡くなるまでの一生分の戸籍が必要です。
例えば、被相続人が80代の方であるとすると、「全部事項証明書」「平成改製原戸籍」「昭和改製原戸籍」が必要です。
離婚や転籍等でそれらの戸籍に誰もいなくなっていると「除籍謄本」がある場合もあります。
また、被相続人がもっと若い40代の方の場合は、「全部事項証明書」と「平成改製原戸籍」で済むこともあります。
どこに請求したら良いのかわからない場合は、まずは被相続人の死亡した最後の「戸籍全部事項証明」を取得します。
その戸籍全部事項には「従前の戸籍」や「改製」という記載がありますので、さらに前の改製戸籍謄本や除籍謄本を請求します。
このようにして、被相続人の一生分の戸籍類をそろえていきます。
もし、そろっているかどうか不安になったら、弁護士や司法書士などの専門家に相談すると良いでしょう。
ステップ②:本籍地の市区町村役場に請求する
「全部事項証明書」や「改製原戸籍」といった戸籍類 は、本籍地のある市町村役場に請求します。
本籍地と住所が違うことはよくあり、たとえば住所は東京でも本籍地は大阪ということはよくあります。
住民票のあるところが住所ですが、本籍地は住所とは別の概念ですので一致しなくても問題はありません。
最初に請求する戸籍の本籍地がわからない場合は、被相続人の住民票(除票)を取得して調べてください。
なお、除票を取得する際には、必ず本籍地が記載されたものを取得するようにしましょう。
戸籍謄本を取得するためにかかる費用
戸籍謄本を取得するには費用がかかります。
では、具体的にいくらくらい必要になるのでしょうか?
自治体によらず一律の費用が掛かる
戸籍謄本を取得する際の費用は、現在有効な戸籍である「戸籍全部事項証明書」の場合は1通450円、「改製原戸籍」および「除籍謄本」の場合は1通750円 です。
郵送請求の際は小為替のみ使用できる
戸籍を郵送で請求する際の支払いは、小為替のみ使うことができます。
あまり馴染みがないかもしれませんが、小為替は郵便局の窓口で購入することができます。
1部発行するのに100円の手数料がかかります。
そのため、郵送で戸籍謄本を請求する場合の費用は、次の3点の合計金額です。
- 往復の郵便切手代
- 戸籍の代金分の小為替
- 小為替の発行手数料
戸籍謄本を取得する際の注意点
続いては、「全部事項証明書」や「改製原戸籍」などの戸籍類を取得する際の注意点について紹介します。
相続手続きでは、戸籍が不足してしまうと手続きを進めることができません。
また、戸籍の内容を間違えて理解してしまうと、本来相続人になるべき人を見落としてしまいがちです。
このようなことがないように、これからお伝えする点に注意してください。
注意点①:読み間違い
戸籍の本文を飛ばして読んでしまったり、間違えて理解してしまうことのないように注意しましょう。
本文には、出生、結婚、転籍などの情報が書かれています。
特に、「養子縁組した」「認知をした」といった情報は見落としがちなので注意して読んでください。
改製原戸籍などの戸籍類は、見慣れていない人からすると特にコンピューター化される前のものは読みづらいです。
例えば、記載された文字が崩れすぎていて読めないことがあります。
紙で管理されていた時代のものなので、今では使用されていない漢字が使われていることもあります。
万が一読めない文字がある場合は、発行元の自治体に問い合わせてください。
どのように読むのか教えてもらうことができます。
また、家族関係や、養子縁組などの関係を把握するためには、図を書きながら読み込んでいくと間違いが少なくなりますよ。
注意点②:必要な戸籍の見落とし
改製される前に戸籍から除かれた人の情報は、改製後の戸籍には記載されません。
そのため、改製前の戸籍を請求する必要があるのですが、うっかり忘れて請求しないままにしてしまうと、必要な戸籍を見落としてしまうことがあります。
必要な戸籍の見落としは、次に説明する「相続人の見落とし」という重大なミスにつながります。
注意点③:相続人の見落とし
相続人の見落としは、あってはならないことです。
なぜなら、相続人が一人でも欠けていると遺産分割協議が無効になってしまうからです。
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産を誰が何を引き継ぐのか話し合うことです。
遺産分割協議には、すべての相続人が参加する必要があります。
もし、相続人が一人でも抜けていればすべてがやり直しになってしまうので、時間やお金が余計にかかることもあります。
大量の戸籍謄本が必要となる相続事例
場合によっては、大量の全部事項証明書、戸籍謄本などの書類が必要となる事例があります。
相続人が増えれば増えるほど、全部事項証明書が必要になるからです。
それ以上に収集の手間がかかるのは、相続が何回も連続して起こった場合です。
具体的に例を出しながら解説していきましょう。
相続人が亡くなっている場合
高齢者の相続人が多い場合によくあることなのですが、相続人が亡くなってしまっている場合は相続人が増えることが多いです。
そのため、戸籍を集めることが大変な作業になります。
相続人だった人が相続手続をしないまま亡くなると、その人の相続人が相続人になります。
このように相続が複数回発生すればするほど、相続人の人数が増えていきます。
例えば、Aさんが亡くなり、子どものBさんが相続人になったとします。
しかし、相続手続きをする前にBさんが亡くなってしまった場合、Bさんの相続人のCさんとDさんがBさんがAさんを相続する権利を相続することになります。
つまり、Aさんの相続手続きを最終的な相続人としてCさんとDさんがすることになります。
Bさんが生きていれば、Bさんだけが相続人になるだけで済みました。
しかし、Bさんも死亡したため、最終的な相続人はCさんとDさんの2人になります。
このように、相続人の数が増えるとそれだけ戸籍謄本が多く必要になることになります。
兄弟・姉妹が相続人になる場合
兄弟・姉妹が相続人になる場合も、戸籍謄本が大量に必要になることがあります。
例えば、被相続人が結婚しておらず(結婚していたが離婚したという場合も含む)、子供がいないまま死亡、そして両親や祖父母も亡くなっているという場合です。
直系の親族がない場合は、兄弟・姉妹が相続人になります。
この場合、両親がいないことを証明するために、両親が戸籍から除かれている戸籍(閉鎖されていれば除籍謄本)はもちろん、兄弟姉妹が何人いるのかを証明するために両親の一生分の戸籍が必要ですし、相続人となる兄弟・姉妹の戸籍も必要となります。
戸籍謄本を取得する際のQ&A
では、最後に全部事項証明書や戸籍謄本類を取得する際によくある質問についてまとめて解説します。
誰が取得できるのか、どのように取得したら良いのかといった疑問を解決しましょう。
戸籍謄本を取れる人は誰?
原則として、本人・配偶者、および直系の血族(血のつながった親族で、親子などの縦のつながり)は戸籍謄本を取ることができます。
しかし、兄弟・姉妹が相続人になるケースなど、直系の血族だけでは戸籍が足りない場合は、傍系の血族の戸籍を取ることができます。
また、代理人に頼んで取得してもらうことも可能です。
その場合は、委任状と代理人の身分証明書が必要です。
戸籍謄本を取るのに必要な書類は?
戸籍謄本を取るのに必要な書類は、
- 戸籍の請求書(自治体によって名称が異なるが「戸籍関係証明書交付請求書」など)
- 身分証明書(運転免許証など)
が必要です。
傍系の血族 (血のつながった親族で、兄弟姉妹などの横のつながり)の戸籍を相続のために請求する場合などは、請求者と戸籍に記載されている人との関係のわかる戸籍を見せるように言われます。
コンビニで取ることはできる?
「戸籍全部事項証明書」はマイナンバーカードを使ってコンビニのマルチコピー機で取得することができます。
「改製原戸籍」や「除籍謄本」などは役所の窓口でしか発行していません。
役所の窓口まで行くか、郵送で請求してください。
まとめ
相続に必要な戸籍類の種類と取得方法について解説しました。
相続において必要となる戸籍には、「全部事項証明書」や「改製原戸籍」などがあります。
作り直される過程で写しが記されない事項の見落としには注意してください。
中でも注意して欲しいことは、本来相続人となるべき人を見落としてしまい、相続人がそろわないまま相続手続きをしてしまうことです。
特に、被相続人が養子縁組や結婚と離婚を繰り返していたなどの事実がある場合は、戸籍の記載を読み間違えてしまう機会が増えます。
丁寧に戸籍を読むように心がけてください。
相続が起こると、法律の手続きだけではなくお葬式や法要などの行事もたくさんあり大変忙しくなります。
相続が複数回発生しているなどして、取得する戸籍が多い場合は、相続手続きに必要な戸籍をすべてそろえるまでに、最大で数ヶ月の時間がかかります。
また、郵送で取り寄せる場合は、請求から返送までに1週間から10日ほどはかかります。
相続税申告が必要な場合は、その期限に間に合うように早めに戸籍を収集することをおすすめします。