「出資持分あり医療法人」から「出資持分なし医療法人」への移行とは?

手続き
この記事を監修した専門家は、
牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。

 
「出資持分あり・なし医療法人」と聞いても、よくわからないという方が多いのではないでしょうか。本稿では、自分が医療法人を経営されている、または被相続人や親族の誰かが医療法人を経営されている方にとって、特に重要なお話になります。またそうで無い方に取っても、贈与税や相続税の仕組みを理解するという意味でご一読頂ければ幸いです。本稿では、「出資持分あり医療法人」から「出資持分なし医療法人」への移行について、それぞれの問題点や移行計画認定制度などに触れながら、解説します。

1.「出資持分あり医療法人」とは

「出資持分あり医療法人」とは、一体どういう意味なのでしょうか。
ここでの出資持分とは、医療法人へ出資した人がその出資額の割合に応じて、払い戻すことができる財産権のことを指します。
つまり「出資持分あり医療法人」とは「医療法人への出資者が、持分割合に応じてその財産を払い戻すことができる権利を持っている医療法人」のことです。
例えば、医療法人Xの設立に際して、3人の医師が100万円ずつお金を出して、計300万円を出資したとします。
数十年後、医療法人Xは3億円の資産を築いた場合、医療法人Xが出資持分あり医療法人であれば、3人の医師は1人当たり1億円を払い戻すことができます。
1/3の持分割合に応じて、出資持分の払戻請求権を行使できるということです。

「出資持分あり医療法人」の問題点

医療法人は営利を目的とするものではないという事から、たとえ利益が生じたとしても、利益剰余金を配当することは禁止されています。
そのため、医療法人には多額の利益剰余金が積み上がるケースが多いです。
こう考えると、先ほどご説明した「出資持分あり医療法人」は、様々な点において問題点が挙げれらます。

① 払戻金は現金で支払う必要がある

例えば、ある医療法人の資産が12億円で、医療法人の出資者Aさんが1/3の持分割合を持っているとします。
出資者Aさんが退社するときに払戻請求権を行使した場合、その医療法人はAさんに対して、4億円を支払わなければなりません。
また、この払戻金は現金で用意しなければならず、医療法人にとってはかなり高額の支出になることから、経営面での大きなリスクとなります。

② 出資持分の「相続」による弊害

①のケース場合、出資者Aさんが死亡した場合、Aさんの「出資持分の払戻請求権」は相続人が相続することができますが、この権利の価値は先ほどご説明した通り高額になることが多く(今回のケースでは4億円)、もちろん相続税についても多額の税金が発生します。
そして、仮に相続人が、高額の相続税を支払うことができない場合、権利を相続するのではなく、相続税の資金を確保するため、医療法人に対して出資持分の払戻しを請求することになります。
このように、出資者が退社などで払い戻し請求を行う、また出資者が亡くなった場合に相続人が払い戻し請求を行う、といずれも医療法人には高額な支出が発生します。
これらが、出資持分あり医療法人の問題点となります。
 
ちなみに、②の場合、4億円の価値がある権利財産の相続税を試算すると、次のようになります。

4億円 × 50% - 4,200万円 = 1億5,800万円

 

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2.「出資持分なし医療法人」への円滑な移行

「出資持分あり医療法人」には出資持分の払戻請求権があることから、高額な払戻金の支払いが発生するおそれがあるため、医療法人を運営する上で大きなリスクが存在します。
では、「出資持分あり医療法人」の問題点を解決するにはどうすれば良いのでしょうか?
一言で述べると、「出資持分」をなくしてしまえばいいのです。
出資持分のない医療法人のことを出資持分なし医療法人と言います。
実際に、国は平成18年に医療法を改正し、「出資持分あり医療法人」を新規に設立することを禁止する一方で、「出資持分なし医療法人」の新規設立のみ認める事としました。
改正された医療法は平成19年4月1日から施行されています。

「出資持分なし医療法人」へ移行する際の問題点

平成18年の医療法改正により、既存の「出資持分あり医療法人」は経過措置として、当分の間存続することとされました。
同時に、平成19年3月31日以前に設立された「出資持分あり医療法人」は「出資持分なし医療法人」へ円滑に移行することとされましたが、ここでも問題が浮上します。
実は「出資持分あり医療法人」から「出資持分なし医療法人」へ移行する際に贈与税が発生してしまうのです。
どういう事なのでしょうか?なぜ贈与税が発生するのでしょうか?
例えば、ある医療法人の資産が12億円、出資者がAさん、Bさん、Cさん、それぞれ1/3ずつ出資持分があるとします。
「出資持分あり医療法人」から「出資持分なし医療法人」へ移行するには、まず出資者の3人が持分を放棄します。
この場合、放棄された3人の出資持分は、医療法人に贈与されたとみなされて、医療法人に贈与税を支払う義務が生じるのです。
つまり「出資者3人が、権利を医療法人に贈与した」と判断されるのです。

贈与税の非課税要件

「出資持分なし」へ移行する事で、贈与税がかかってしまうなら、多くの人がリスクがあっても「出資持分あり」のままでいいと考えてしまいますよね。
そこで国は「出資持分あり医療法人」から「出資持分なし医療法人」へ移行する際に発生する贈与税を非課税とする事にしました。
しかし、また問題があります。非課税になるための条件がとても厳しく、結局「出資持分なし」への移行はスムーズに行われませんでした。
当時の贈与税の非課税の主な要件は以下の通りです。

非課税基準の主な要件

  • 理事6人、監事2人以上
  • 役員の親族1/3以下
  • 医療機関名の医療計画への記載
  • 法人関係者に利益供与しないこと

 

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3.移行計画認定制度の延長及び改正

「出資持分あり医療法人」から「出資持分なし医療法人」へ移行する際に、

  1. 贈与税が発生する
  2. 贈与税を非課税にする事はできるが要件が厳しい

という事から、「出資持分なし医療法人」への移行はスムーズに進みませんでした。
そこで国は移行計画認定制度の期限を平成29年10月から平成32年9月までの3年間延長した上で、非課税条件の緩和を行いました。

贈与税の非課税要件の緩和

主な改正点は、

  • 役員のうち親族は1/3以下

という要件が削除されたことです。この要件によって、贈与税の非課税条件をクリアできない医療法人が多かったことから、この要件を撤廃しました。

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4.「出資持分なし医療法人」への移行までの流れ

最後に「出資持分あり医療法人」から「出資持分なし医療法人」へ移行するまでの流れについてご紹介します。

  1. 出資持分なし医療法人への移行計画の申請及び定款変更について、社員総会で議決する。
  2. 厚生労働省へ移行計画を申請し、厚生労働省から移行計画の認定を受ける。
  3. 定款の変更について、都道府県へ申請し、定款変更の認可を受ける。
  4. 出資者の持分放棄や払戻しの請求に対応する。
  5. 出資持分なし医療法人への定款変更について、社員総会で議決する。
  6. 出資持分なし医療法人への移行に当たり、定款の変更を都道府県へ申請し、認可を受ける。
  7. 出荷持分なし医療法人への移行手続き完了
  8. 出荷持分なし医療法人へ移行後6年間、毎年「運営に関する要件」に従って、運営の状況を厚生労働省へ報告する。

① ~ ⑧の手続きを完了させることによって、「出資持分なし医療法人」への移行が完了します。

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まとめ

この記事では、「出資持分あり医療法人」についての問題点、また「出資持分なし医療法人」への移行における問題点や移行計画認定制度に触れながら、解説してきました。
この記事のポイントは、相続税や贈与税などの税金が関わっているということです。
医療法人を運営している方、身内にそういう方が居られる場合は、上記ついて深く理解しておくことをお勧め致します。

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立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。