家族が亡くなり遺産を相続するときには、遺産の名義変更手続きや相続税の申告など、さまざまな手続きが必要になります。
手続きの中には期限が決まっているものがあり、期限を過ぎると罰金を科されるなど不利益を被る場合があるので注意が必要です。
今回は、遺産の相続手続きのうち期限が決まっているものは何か、いつまでに何の手続きをしなければいけないのか、詳しく解説します。
相続手続きの種類や期限を確認して、必要な手続きを期限までに確実に終えるようにしましょう。
目次
遺産の相続手続きには期限があるものとないものがある

相続開始後に必要になる手続きの中には、「手続き期限が決まっているもの」と「手続き期限が決まっていないもの」があります。
期限が決まっている遺産相続手続きを行う必要がある場合には、法律で決められた期限までに手続きをしなければいけません。
- 相続放棄:3ヶ月
- 限定承認:3ヶ月
- 準確定申告:4ヶ月
- 相続税申告:10ヶ月
- 遺留分侵害額請求:1年または10年
- 死亡保険金の請求:3年(簡易保険は5年)
- 遺産分割協議
- 銀行預金の相続手続き
- 不動産の相続登記
ここからは、それぞれの手続きごとに詳しく解説していきます。
相続放棄の手続き期限は3ヶ月

ある人が亡くなると、法律で定められた一定の人が相続人となって遺産を相続します。
しかし、ケースによっては何らかの理由で遺産を相続したくない場合もあるはずです。
遺産を相続したくないときに行う手続きが相続放棄で、主に次のようなケースでは相続放棄を検討することになります。
- 遺産に借金が含まれる場合
- 相続しても使い道がない財産が遺産に含まれる場合
相続放棄とは遺産の相続権を完全に放棄すること
相続が開始したとき、誰が相続人になって遺産を相続するのかは法律で決まっています。
そして、遺産を相続する権利を持つ人(法定相続人)が、遺産の相続権を完全に放棄するのが相続放棄です。
相続放棄をした人は、最初から相続人ではなかった扱いになり、相続権がなくなるため遺産を一切相続しません。
亡くなった人が借金を抱えていた場合でも相続せずに済み、相続しても困るだけの財産が遺産に含まれる場合も相続せずに済みます。
たとえば、田舎の土地や家を相続しても使い道がなく、固定資産税などの費用だけがかかる負動産になりそうな場合は、相続放棄の検討が必要です。
原則3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きが必要
相続放棄をするには家庭裁判所で手続きが必要で、単に「私は遺産を相続しません」と他の相続人に伝えるだけでは、法的に遺産の相続権を放棄したことにはなりません。
相続放棄ができる期間は決まっていて、手続きができるのは、原則として相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。
- 申請書(相続放棄申述書)を作成する
- 必要書類を揃えて申請書とともに裁判所に提出する
- 裁判所から届く照会書に記入・回答して返送する
- 相続放棄の手続きが完了すると相続放棄申述受理通知書が届く
相続放棄をするときには、相続放棄をする人自身の戸籍謄本や亡くなった人の住民票除票(または戸籍附票)など、一定の書類を揃える必要があります。
手続きの詳しい流れや必要書類、費用などは、次の記事で解説しているので、実際に相続放棄を検討する場合には参考にしてください。
手続き期限の延長が認められるケースは限定的
相続放棄の手続きは3ヶ月以内に行う必要があり、3ヶ月を過ぎると遺産を相続することを認めたことになります。
そのため、期限を過ぎると相続放棄は原則としてできず、遺産を相続しなければなりません。
ただし、例外的に3ヶ月の期限が延長される場合や、3ヶ月を経過した後でも相続放棄が裁判所によって認められる場合があります。
たとえば、期限が延長されるケースは、遺産に含まれる財産が多くて3ヶ月以内に相続財産調査が終わらず、相続放棄をすべきかどうか判断ができない場合です。
このようなケースでは、3ヶ月の期限を迎える前に裁判所で手続きをすれば期限の延長が認められることが多いので、3ヶ月以内に忘れずに手続きを行いましょう。
また、亡くなった方に借金があることが3ヶ月を過ぎた後に判明したような場合も、相続放棄が認められる場合があります。
限定承認の手続き期限は3ヶ月

限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続することで、限定承認をする場合は原則3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きが必要です。
限定承認は、遺産に借金などのマイナスの財産が含まれるものの、土地や家など相続したいプラスの財産がある場合などに行います。
ただし、限定承認はすべての相続人が同意しないとできず、手続きに手間がかかるなどデメリットがあるため、実際に限定承認が選択されるケースはそれほど多くありません。
相続放棄であれば2~3週間程度で手続きが終わることが一般的ですが、限定承認では手続きが終わるまで1年以上かかる場合があり、時間がかかる点もデメリットです。
なお、期限である3ヶ月までに相続財産調査が終わらない場合などには、裁判所に申請すれば期限の延長が認められることがあります。
準確定申告の手続き期限は4ヶ月

亡くなった人が事業を経営していた場合など、まとまった所得があると、準確定申告の手続きが必要になる場合があります。
準確定申告では手続き期限に注意が必要で、準確定申告が必要な場合には、相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に手続きをしなければなりません。
通常の確定申告の場合は、所得を得た年の翌年2月16日~3月15日が手続き期間ですが、準確定申告の場合は異なり、4ヶ月以内に手続きが必要になります。
準確定申告とは亡くなった人の代わりに行う確定申告
一定額以上の所得がある場合など、一定の要件に該当する人は所得税の確定申告を行う義務があります。
しかし所得を得た本人が死亡した場合、本人は亡くなっているため確定申告の手続きができません。
そこで亡くなった人に代わって相続人が確定申告の手続きを行うことになり、この手続のことを準確定申告といいます。
相続人が2人以上いる場合は、連署により準確定申告書を提出しますが、他の相続人の氏名を付記して各人が別々に提出しても構いません。
1月1日から死亡日までの所得額をもとに所得税額を計算して、4ヶ月以内に申告・納税を行います。
準確定申告が必要なケースと不要なケース
準確定申告が必要になるのは、たとえば次のようなケースです。
- 故人が給与所得者で、給与所得・退職所得以外の所得額が20万円を超える場合
- 故人が給与所得者で2か所以上から給与を受け取っていて、年末調整がされなかった給与収入金額が20万円を超える場合
- 故人の給与収入金額が2,000万円を超える場合
- 故人が年金受給者で、年金額が400万円を超える場合や他の所得額が20万円を超える場合
- 故人が事業経営者などで、所得額が所得控除額を超えて納めるべき所得税額がある場合
逆に、たとえば亡くなった人が給与所得者で、すべての所得に対して源泉徴収がされていて副業などによる所得額が20万円以下の場合は、準確定申告は不要です。
また、そもそも亡くなった人に所得がない場合や、所得があっても基礎控除額48万円以下で納税額がゼロの場合は、準確定申告の義務は生じません。
なお、準確定申告の義務は生じないものの、あえて準確定申告の手続きをしたほうが良い場合があります。
たとえば医療費控除を適用することで還付金を受け取れる場合があるので、その場合には準確定申告をしたほうが良いでしょう。
相続税申告の手続き期限は10ヶ月

相続税は遺産を相続する人にかかる税金で、相続税がかかる場合には相続開始後10ヶ月以内に手続きをする必要があります。
ただし、遺産を相続する場合でも相続税がかからないケースが多く、申告や納税が不要のケースも少なくありません。
そのため、まずはご自身のケースで相続税がかかるのか、申告が必要なのかを確認してみましょう。
その上で、申告や納税が必要な場合には、期限である10ヶ月後までに手続きを終える必要があるので、相続財産調査や遺産分割協議などを早めに行うようにしてください。
遺産を相続しても相続税申告が必要になるとは限らない
相続税の計算では、相続する遺産の金額から基礎控除額を引いた上で税率を掛け合わせます。
そのため、遺産額が基礎控除額以下であれば、相続税はかからず申告の手続きは不要です。
- 相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 ×(法定相続人の数)
基礎控除額は、相続人が1人であれば3,600万円、2人であれば4,200万円、3人であれば4,800万円で、遺産額がこの金額以下であれば相続税はかかりません。
逆に、遺産額が基礎控除額を超える場合は、相続税がかかり申告が必要なケースが多くなります。
相続税の申告の手続き先は、亡くなった人の住所地を管轄する税務署です。
申告書を作成して必要書類を揃えて、期限である10ヶ月後までに税務署に提出します。
10ヶ月の期限に間に合わない場合は概算額で申告する
相続税の計算では、各相続人が相続する遺産額をもとに税額を計算します。
しかし、たとえば遺産の分け方を巡って揉めた場合には、各相続人が相続する遺産額が決まらず、相続税を計算することができません。
そして、このときに注意が必要なのが、仮に相続税の申告期限である10ヶ月までに、遺産の分け方が決まらず相続税を計算できない場合でも、相続税の申告期限は延長されない点です。
そのため、このような場合には、各相続人が法定相続分で相続した場合の税額を計算して、仮の税額で10ヶ月の期限までに申告・納税を行います。
相続税の申告義務があるにも関わらず、10ヶ月の期限までに手続きをしないと、無申告加算税などの罰金を科されてしまうので注意しましょう。
税金を払い過ぎたら5年10ヶ月以内に還付請求を行う
相続税の計算を間違えてしまい、誤って税額を高く算出して納税した場合には、正しい税額に申告内容を修正すれば払い過ぎた分の税金の払戻しを受けられます。
還付金の請求ができる手続き期限は、相続が開始してから5年10ヶ月後以内です。
過去に申告した内容に間違いがあるかもしれない場合は、相続税専門の税理士に相談して申告済の内容を確認してもらい、還付金を受け取れないかチェックしてもらうと良いでしょう。
遺留分侵害額請求権を行使できるのは1年以内

遺留分とは、遺産の一定割合を最低限相続できる権利として、一定の相続人に法律上保障された権利です。
たとえば、配偶者と子が相続人になるケースでは、配偶者・子それぞれに遺留分として遺産の4分の1を相続する権利が保障されています。
そして、遺留分侵害額請求とは、自分の遺留分を他の相続人などが侵害した場合に、侵害した分を返すように請求することです。
請求する権利である遺留分侵害額請求権を行使できるのは、自分の遺留分が侵害されていることを知ってから1年以内、または相続開始後10年以内です。
期限である1年や10年を経過すると、仮に遺留分を侵害されている場合でも、遺留分侵害額請求権を行使することはできません。
死亡保険金を請求できるのは一般的に3年以内

死亡保険金を請求できるのは、一般的に亡くなってから3年以内です。
ただし、簡易保険の場合は期限が異なり、5年以内であれば請求できます。
期限を過ぎると請求権が消滅してしまうので、死亡保険金を受け取れる場合は早めに手続きを行いましょう。
なお、保険会社の中には、期限である3年や5年を過ぎた後でも、相談すれば死亡保険金の支払いに応じてくれる場合があります。
そのため、期限を過ぎた場合でも、諦めずにまずは保険会社に問い合わせてみると良いでしょう。
期限はないが早めにやるべき遺産相続手続き

遺産相続に関する手続きのうち、「遺産分割協議」「銀行預金の相続手続き」「不動産の相続登記」には期限が特にありません。
しかし、いずれの手続きも早めに終えたほうが良く、いつまでも手続きをしないまま放置していると、自分自身が不利益を被る場合があるため注意が必要です。
手続き期限の有無に関わらず、遺産の相続手続きは早めに始めて早めに終えるようにしましょう。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、遺産を相続人の間でどのように分けるのかを決める話し合いです。
遺産分割協議には期限が特にないため、仮に遺産の分け方がいつまでも決まらない場合でも、それ自体は何か法律に違反するわけではなく、罰則を科されることはありません。
しかし、遺産分割協議が終わらない状態が続くと、たとえば現金や預金を誰が相続するのか決まらず、遺産を生活費に充てる予定だった相続人が困ることがあります。
また、相続税の申告期限である10ヶ月までに遺産分割協議が終わらないと、10ヶ月の期限までに概算で申告した上で、協議が終わったときに再度申告をし直さなければなりません。
そして、遺産分割協議が終わらないうちに、相続人の中の誰かが亡くなり次の相続が起きると、相続に関わる人の数が増えて話し合いがまとまりにくくなる可能性があります。
このように、遺産分割協議をしない状態が続くことは何かとデメリットが多いので、遺産分割協議は少しでも早く終えるようにしましょう。
銀行預金の相続手続き
銀行預金の相続手続きに期限は特になく、仮にいつまでも手続きをせずに放置しても、それ自体は問題ありません。
しかし、口座名義人の死亡を銀行が知ると、口座は凍結されて預金が引き出せなくなります。
そのため、遺産である銀行預金を相続人が生活費として使う場合などは、早めに手続きをしたほうが良いでしょう。
いつまでも口座が凍結されたままで預金を引き出せないと、相続人が生活に困る場合があります。
なお、法律上は最後の取引日から10年経過すると休眠預金の扱いになり、その口座の預金は民間公益活動等のために使われますが、休眠預金になった後でも相続手続きは可能です。
ただ、預金の相続手続きを長年放置していた場合は、次の相続が発生してしまい、権利関係が複雑になり手続きが煩雑になる場合があります。
そのため、銀行預金の相続手続きは、家族が亡くなった後にできるだけ早く終わらせるようにしましょう。
不動産の相続登記
遺産に土地や家などの不動産が含まれる場合には、不動産の名義変更手続きである相続登記を法務局で行います。
相続登記の手続きに期限は特にないため、仮にいつまでも手続きをせずに放置しても、罰則を科されるようなことはありません。
しかし、相続登記をして自分が土地や家の持ち主であることを登録しておかないと、たとえば次のように困る場合があります。
- 不動産を相続した後に売却できない
- 借入れをする際に不動産を担保にできない
そもそも不動産の正式な所有者として登記がされていないと、買い手は売買に応じてくれませんし、お金を貸す金融機関は抵当権の設定手続きに応じてくれないことが一般的です。
相続登記の手続きをしておけば、このように困ることはなくなるので、不動産を相続する場合には相続登記の手続きを早く済ませるようにしましょう。
なお、2021年8月時点では相続登記に期限はありませんが、相続登記を義務化する法案が2021年4月に国会を通過しました。
そのため将来的には相続登記が義務化されて、一定の期間内に相続登記をしないと罰則が科される予定になっています。
遺産の相続手続きの期限を過ぎた場合

遺産の相続に関する手続きのうち、期限が決まっている手続きを期限までにしなかった場合には、次のようなデメリットが生じます。
- 相続放棄ができず借金を相続してしまう
- 準確定申告や相続税申告の期限を過ぎたら罰金を科される
- 相続税の特例が使えず税負担が増える
期限までに手続きを終えれば困らずに済むので、相続開始後に必要になる手続きは期限までに確実に終えることが大切です。
相続放棄ができず借金を相続してしまう
相続放棄の手続き期限である3ヶ月を過ぎると、原則として相続放棄はできず遺産を相続してしまいます。
仮に遺産に借金が含まれる場合でも、3ヶ月の手続き期限を過ぎると相続人は借金を相続してしまい、返済義務を負わなければなりません。
そのため、遺産に借金が含まれることがわかっていて相続放棄が必要な場合には、期限である3ヶ月以内に裁判所で手続きを行いましょう。
準確定申告や相続税申告の期限を過ぎたら罰金を科される
税金関係の手続きを期限までにしなかった場合には、延滞税や無申告加算税などの罰金を科されてしまいます。
延滞税は期限の翌日から納税完了日までの日数に応じて課されるもので、無申告加算税は期限までに申告していなかった場合に課されるものです。
延滞税や無申告加算税の納税が必要になると、その分だけ手元に残る遺産額が減ってしまいます。
そのため、準確定申告や相続税申告が必要な場合には、罰金を科されないように期限までに手続きを終えることが大切です。
相続税の特例が使えず税負担が増える
相続税の計算では、税負担が軽減されるさまざまな特例が用意されています。
しかし、特例制度の中には申告期限までに手続きをすることが条件になっているものがあり、期限を過ぎると特例制度の適用を受けられません。
使えたはずの制度を使えないと税負担が増えてしまう場合があるので、相続税の申告は期限である10ヶ月までに終えるようにしましょう。
まとめ
遺産の相続に関連する手続きの中には、期限が決まっているものと決まっていないものがあります。
相続放棄や限定承認は3ヶ月、準確定申告は4ヶ月、相続税申告は10ヶ月がそれぞれ期限です。
これらの手続きが必要な場合には、期限に遅れないように手続き書類の準備などを早めに行うようにしましょう。
また、遺産分割協議や銀行預金の相続手続き、不動産の相続登記では期限が特に決まっていませんが、手続きをしていないと相続人自身が困る場合が少なくありません。
そのため、期限が特に決まっていない手続きについても、できる限り早めに手続きを進めて終えるようにしてください。