相続の場面でかかる税金は、相続税の他にもいくつか存在します。では、相続で不動産を取得した場合、不動産取得税は課税されるのでしょうか?
今回は、相続の際に不動産取得税がかかる場面を紹介し、相続で不動産を取得した場合にかかる税金について詳しく解説します。
不動産取得税とは
不動産取得税とは、不動産(土地・建物)を取得した際に、不動産が所在する都道府県から課される税金です。固定資産税や都市計画税などとは異なり毎年かかるようなものでなく、不動産を取得した時点で、一度のみ課税されます。
なお、贈与税などはまったく別の税金であるため、たとえば相続時精算課税制度の適用を受けて贈与税が非課税となる場合であっても、不動産取得税までが非課税となるわけではありません。
不動産取得税は、不動産取得後、一定期間内(都道府県によって異なり、東京都では30日以内)に申告をすべきとされています。申告をしない場合には過料が科される可能性があるほか、軽減措置が受けられない可能性があるため注意が必要です。
相続において不動産取得税はかかる?
相続で財産をもらった場合、どのような税金がいくらくらいかかるのだろうかと不安になってしまう方も少なくないのではないものです。
はじめに、相続で不動産を取得した場合に、不動産取得税が課税されるのかどうかについて解説します。
原則として相続での不動産取得税はかからない
相続で不動産を取得した場合には、不動産取得税は課税されません。このことは、不動産取得税について定めている地方税法に明記されています。
具体的には、次の事由により不動産を取得した場合には、不動産取得税は非課税です。
- 相続:遺言などがない場合の通常の相続
- 包括遺贈:「全財産を相続させる」「遺産の3分の1を相続させる」など遺産をひっくるめた記載の遺言での遺贈
- 被相続人から相続人に対しての遺贈:相続人に対して「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載した遺言での遺贈
これを別の視点でまとめると、次のようになります。
- 「相続人」が相続や遺言で不動産を受け取った場合:非課税
- 「相続人以外の人」が遺言で不動産を受け取った場合:包括遺贈なら非課税、特定の不動産を指定した遺贈(「特定遺贈」といいます)なら課税
まずは、この原則を覚えておきましょう。包括遺贈と特定遺贈については、後ほど改めて解説します。
例外的に不動産取得税がかかるケース
相続で不動産を取得した場合には、不動産取得税はかかりません。
しかし、次のような場面では不動産取得税が課税されます。なぜなら、これらは相続と似ているものの、厳密にいえば相続で取得したとはいえないためです。
相続人以外が特定遺贈で不動産を取得した場合
相続人以外の人が特定遺贈で不動産を取得した場合には、不動産取得税が課税されます。遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」があり、それぞれの違いは次のとおりです。
- 包括遺贈:個別の財産を特定せず、「全財産を相続させる」「遺産の2分の1を相続させる」など遺産をひっくるめた記載の遺言での遺贈です。原則として借金などマイナスの財産も引き継ぐことになる点や、遺贈を受けたくない場合には家庭裁判所での相続放棄が必要となる点に特徴があります。
- 特定遺贈:「愛知県名古屋市○区一丁目○番地の土地を遺贈する」のように、個々の財産を特定して記載した遺言です。原則として借金などマイナスの財産は引き継がず、遺贈を受けたくない場合には厳格な手続きをすることなくいつでも放棄をすることができます。
包括遺贈の場合には、実質的に相続人と同じような立ち位置となります。そのため、たとえ相続人以外が不動産を取得した場合であっても、包括遺贈であれば非課税、特定遺贈であれば課税とされているのです。
死因贈与で不動産を取得した場合
死因贈与とは、死亡を原因として効力が発生する贈与契約です。遺言と似ていますが、遺言は遺言者が単独で行う行為であるのに対して、死因贈与は双方の「あげます」「もらいます」の意思の合致で成立する契約である点が大きく異なります。
厳格な要件を必要とせず口頭でも成立する余地がありますが、口頭では他の相続人などに死因贈与があったことを証明できないため、公正証書などの書面で作成することが一般的です。
死因贈与は相続ではないため、死因贈与で不動産を取得した場合には原則どおり不動産取得税の課税対象となります。
生前贈与で不動産を取得した場合
生前贈与とは、存命のうちに財産をあげることです。将来の相続人に対しての贈与であったとしても贈与である以上は相続とは異なりますので、原則どおり不動産取得税の対象となります。
なお、婚姻期間が20年以上である配偶者へ居住用不動産などを贈与した場合には最高2,000万円までは贈与税がかからないという特例がありますが、これはあくまでも贈与税の特例であり、不動産取得税とは関係ありません。そのため、この特例を使った結果として贈与税が課税されなかった場合であっても、不動産取得税は原則どおり課税されますので注意しましょう。
相続時精算課税で不動産を取得した場合
相続時精算課税とは、生前贈与をした財産を相続時に精算して、相続税の課税対象とする制度です。相続時精算課税制度を使えば、累計2,500万円までの生前贈与にかかる贈与税が非課税になる他、2,500万円を超えた部分も一律20%という比較的低い税率での課税となります。
しかし、これは単なる非課税の制度ではなく、相続時精算課税制度を使って行った贈与は、すべて相続税の対象として相続時に足し戻される点に注意が必要です。
このように相続時精算課税制度を使った贈与は相続税の対象となりますが、それはあくまでも税制上の仕組みであり、その実態が贈与であることには変わりありません。そのため、原則どおり不動産取得税の課税対象となります。
相続登記をした後で遺産分割をやり直した場合
相続登記をした後で遺産分割をやり直した場合には、不動産取得税の課税対象となります。
たとえば、いったんまとまった遺産分割協議にもとづいて不動産を被相続人から長男の名義へと変えた後で、何らかの事情により遺産分割協議をやり直し、やり直した結果その不動産を二男が受け取ることとなったような場合です。
この場合には、原則として登記はいったん亡くなった人(「被相続人」といいます)に戻るのではなく、長男から二男へ直接移転します。そのため、二男が相続により不動産を取得したとは考えづらく、原則どおり不動産取得税が課税されます。
不動産取得税の計算方法
不動産取得税は、次の式で算定します。
- 不動産取得税額=不動産の価格(課税標準額)×税率
それぞれの内容は、次のとおりです。
不動産の価格(課税標準額)
不動産取得税を計算する際の不動産の価格は、原則として固定資産税評価額です。固定資産税評価額は、市区町村役場から毎年4月から6月頃に送付される固定資産税の納税通知書などに同封の固定資産の一覧などで確認することができます。
なお、令和6年3月31日までの取得であれば、宅地の課税標準は固定資産税評価額の2分の1へと軽減されています。また、住宅の取得の場合には、住宅の価格から最大1,200万円(認定長期優良住宅の場合には最大1,300万円)が控除される特例が存在します。
なお、課税標準額が次の金額未満の場合には、不動産取得税は課税されません。
- 土地:10万円
- 家屋(新築、増築、改築):23万円
- 家屋(売買など):12万円
税率
不動産取得税の税率は、原則として4%です。ただし、土地と住宅用の家屋については、令和6年3月31日まで3%へと軽減されています。
不動産取得税の軽減措置
不動産取得税には、次の軽減措置が存在します。
居住用の中古住宅を取得したときの軽減措置
次の要件を3つとも満たす場合には、建物部分にかかる不動産取得税が軽減されます。
- 個人が自己の居住用に取得した住宅であること
- 床面積が50㎡以上240㎡以下であること
- 昭和57年1月1日以降に新築された住宅か、それ以前に新築された住宅で、建築士等が行う耐震診断によって新耐震基準に適合していることの証明がされたものであること
これらの要件を満たす場合には、その住宅の新築された日に応じた次の額が住宅の価格から控除されて、不動産取得税が計算されます。
新築された日 | 控除額 |
---|---|
平成9年4月1日以降~ | 1,200万円 |
平成元年4月1日以降~平成9年3月31日 | 1,000万円 |
昭和60年7月1日以降~平成元年3月31日 | 450万円 |
昭和56年7月1日以降~昭和60年6月30日 | 420万円 |
昭和51年1月1日以降~昭和56年6月30日 | 350万円 |
昭和48年1月1日以降~昭和50年12月31日 | 230万円 |
昭和39年1月1日以降~昭和47年12月31日 | 150万円 |
昭和29年7月1日以降~昭和38年12月31日 | 100万円 |
参照元:不動産取得税(東京都主税局)
住宅用土地を取得したときの軽減措置
住宅用の土地を取得した場合には、土地にかかる不動産取得税が軽減措置の対象となる可能性があります。軽減額は、次の1と2のいずれか大きい額です。
- 45,000円
- 土地1㎡当たりの価格×住宅の床面積の2倍(1戸当たり200㎡を限度)× 住宅の取得持分 × 3%
軽減を受けるための要件は、それぞれ次のとおりです。
新築住宅用の土地の取得の場合
この場合の要件は、それぞれ次のとおりです。
- 土地を先に取得した場合:土地取得後3年以内に、その土地上に住宅が新築されていること(ただし、土地の取得者が住宅の新築までその土地を引き続き所有しているか、土地の取得者からその土地の譲渡を受けた人が住宅を新築したことが必要)
- 新築住宅を先に取得した場合(同時取得を含む):次のいずれかに該当すること
- 住宅を新築した人が新築後1年以内にその敷地を取得している
- 新築未使用の住宅とその敷地を新築後1年以内に同じ人が取得している
中古住宅用の土地の取得
この場合の要件は、それぞれ次のとおりです。
- 土地を先に取得した場合(同時を含む):土地を取得した人が、その土地を取得した日から1年以内にその土地上の中古住宅を取得していること
- 中古住宅を先に取得した場合:中古住宅を取得した人が、当該住宅を取得後1年以内にその敷地を取得していること
相続で不動産を取得した場合にかかる税金
相続で不動産を取得したときには、次の税金がかかる可能性があります。それぞれ、確認していきましょう。
- 相続税
- 登録免許税
- 毎年の固定資産税と都市計画税
- 収益不動産の場合には毎年の所得税
- 不動産を売却した場合には譲渡所得税
相続税
相続税とは、被相続人が亡くなった時点で持っていた財産や、一定の生前贈与などに対してかかる税金です。相続税は、たとえば「不動産に対していくら、預貯金に対していくら」と財産ごとに課されるのではなく、課税される財産全体の合計(「課税価格の合計額」といいます)に対してかかります。
そのため、相続で不動産を取得したからといって課税されるというものではなく、受け取った財産が不動産であっても預貯金であっても課税される可能性があります。
相続税には基礎控除額がある
相続税には次の式で計算する基礎控除額が定められています。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税は、課税価格の合計額からこの基礎控除額を引いた残りに対してのみ課税される決まりです。そのため、そもそも課税価格の合計額が相続税の基礎控除以下であれば、相続税はかかりません。
課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合には相続税額が発生する可能性が高いため、税理士などへ相談して試算してもらうと良いでしょう。
登録免許税
登録免許税とは、不動産の名義変更などの登記をする際にかかる税金です。税額分の収入印紙を登記の際に添付することにより納税します。
登録免許税の額は、不動産を取得した人が相続人か相続人以外かで異なります。それぞれ解説しましょう。
相続人が相続や遺贈で不動産を取得した場合の登録免許税
相続や遺贈で不動産を受け取った人が被相続人の相続人である場合、相続登記にかかる登録免許税は次のとおりです。
- 登録免許税額=不動産の価格(固定資産税評価額)×1,000分の4
たとえば、相続登記をする不動産の固定資産税額が2,000万円であれば8万円、5,000万円であれば20万円ということです。不動産の評価が高ければ高いほど登録免許税の額も大きな金額となりますので、どの程度かかるのか知っておくと良いでしょう。
相続人以外が遺贈で不動産を取得した場合の登録免許税
相続人以外の人が遺言などにより不動産を受け取った場合の登録免許税額は、次のとおりです。
- 登録免許税額=不動産の価格(固定資産税評価額)×1,000分の20
相続人以外への遺贈の場合には、通常の相続や相続人への遺贈と比べて登録免許税がかなり高額となるので注意が必要です。
たとえば、不動産の固定資産税額が2,000万円であれば40万円、5,000万円であれば100万円ということです。
なお、生前贈与の際にかかる登録免許税も、固定資産税評価額の1,000分の20です。この場合には、取得者が誰なのかによって税率の違いはありません。
毎年の固定資産税と都市計画税
相続で不動産を取得した場合には、その不動産を持ち続けている限り、毎年固定資産税と都市計画税がかかります。固定資産税や都市計画税は毎年1月1日時点での所有者に課税され、市区町村から送付される納付書などによって納付します。
固定資産税額と都市計画税の計算方法は、次のとおりです。
- 固定資産税額=課税標準(固定資産税評価額)×1.4%
- 都市計画税額=課税標準(固定資産税評価額)×0.3%
ただし、税率は市町村により多少異なる場合がありますので、詳細は取得した不動産がある市区町村に確認されると良いでしょう。また、取得した不動産が自宅の敷地や賃貸アパートの敷地など住宅用地などであれば、一定の減額特例があります。
収益不動産の場合には毎年の所得税
相続で取得した不動産が賃貸アパートなどの収益不動産である場合には、所得税の課税対象となります。不動産収入にかかる所得税は、その年に得た収入からその年にかかった経費を差し引いた利益の額に応じて計算します。
所得税は、毎年1月1日から12月1日までの分を翌年2月16日から3月15日までの間にみずから申告し、納税しなければなりません。申告を忘れた場合には、加算税などのペナルティが課される場合がありますので、忘れずに申告するようにしましょう。
賃貸している不動産の戸数が多い場合などご自身での申告に不安がある場合には、税理士へ依頼すると安心です。
不動産を売却した場合には譲渡所得税
相続で取得した不動産を売却した場合には、譲渡所得税の課税対象となります。譲渡所得税とは、不動産などの資産を売却した際の「もうけ」に対してかかる税金です。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税は、次の式で算定されます。
- 譲渡所得金額=(収入金額)−(取得費+譲渡費用)
- 譲渡所得税額=(譲渡所得金額)×(税率)
計算式内のそれぞれの項目の内容は、次のとおりです。
- 収入金額:その不動産を売却したことで得た対価の額です
- 取得費:その不動産の取得にかかった費用です。売主に直接支払った購入対価の他、購入時にかかった仲介手数料や登録免許税、建物の建築代金、土地の測量費なども含まれます。取得費がわからない場合などには、売った金額の5%を取得費として計算することができます。
- 譲渡費用:不動産を売るために直接かかった費用です。不動産を売るためにその上の建物を取り壊した場合の取壊し費用や、不動産会社に支払った仲介手数料などが含まれます。
- 税率:売却した不動産の所有期間が5年以下であれば30%、所有期間が5年超であれば15%です。所有期間は相続してからの期間ではなく、被相続人の所有期間を引き継ぐことができます。なお、令和19年までは復興特別所得税としてそれぞれ所得税率×2.1%が加算されます。
譲渡所得税の特例
相続で取得した不動産を相続開始から一定期間内に売却した場合には、次の特例の適用が受けられる可能性があります。なお、次の2つの特例を併用することはできません。
- 相続税の取得費加算の特例:その不動産の取得に関して支払った相続税額を、取得費に加算することができる特例です。
- 空き家の3,000万円特別控除:被相続人が亡くなる直前に居住しており被相続人の死亡により空き家となった不動産を譲渡した場合に、譲渡所得金額から最大3,000万円を控除することができる特例です。
これらの特例の適用には条件がありますので、譲渡をする前に税理士へ相談することをおすすめします。
譲渡所得税の申告と納税
譲渡所得税は、みずから確定申告を行い、納税しなければなりません。申告は、売却した日が属する年の翌年2月16日から3月15日の間に行います。
申告を忘れた場合には、加算税などのペナルティが課される可能性がある他、受けられたはずの特例が受けられなくなる可能性があるので、忘れないように注意しましょう。
まとめ
相続で不動産をもらった場合には、原則として不動産取得税はかかりません。しかし、他の税金がかかる可能性がありますので、どの税金がどの程度かかるのか確認し、申告が必要なものは申告を忘れないよう注意しましょう。
相続で不動産を取得した場合には、税金のことのみならず、相続登記も忘れずに行う必要があります。特に、2024年度以降は不動産取得から3年以内の相続登記が義務付けられますので、早期に手続きを済ませましょう。
しかし、相続登記には「被相続人の除籍謄本や原戸籍謄本」や「不動産の固定資産税評価証明書」など見慣れない書類も数多く求められ、自分ですべてを行うことは非常に煩雑です。