相続で「不動産を売却」する際の流れ・注意点は?相続税はどうなる?

相続で不動産を売却不動産
この記事を監修した専門家は、
牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。

一人暮らししていた親が亡くなって空き家になってしまった場合など、相続でもらった不動産を売却するケースは、少なくないかと思います。

では、相続した不動産を売却する際にはどのような点に注意すれば良いのでしょうか?この記事では、相続での不動産売却について注意点や流れを詳しく解説します。

相続での不動産売却とは

相続での不動産売却とは、相続でもらった不動産を売却することです。特に、相続した不動産が空き家である場合には、売却が有力な選択肢となります。

相続での不動産売却に明確な定義はありませんが、おおむね相続開始後5年以内くらいの売却を指すことが多いでしょう。

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相続で不動産売却をする際の注意点:手続き編

相続した不動産を売却する場合には、さまざまな注意点があります。まずは、手続き上の注意点として次の3つを解説していきましょう。

手続きでの注意点
  • 故人名義のままでは売却できない
  • 必ずしも買い手が見つかるとは限らない
  • 急いで売れば買いたたかれる可能性がある

故人名義のままでは売却できない

相続をした不動産を、故人名義のままで売却することはできません。売却手続きの前に、相続した人の名義へと変えるための相続登記を済ませておく必要があります。

すぐに売る不動産の相続登記をすることはもったいなく感じる人もいるかもしれません。しかし、登記のルール上、故人から直接買い手へ登記することはできません。そのため、これは致し方ないものであると考えてください。

必ずしも買い手が見つかるとは限らない

都心の一等地や新興住宅地などであれば、よほど法外な値を付けない限り、買い手が見つからない可能性は低いといえます。一方で、過疎化が進みつつあるような地域や交通の便の悪い地域であれば、必ずしも買い手が見つかるとは限りません。

また、土地上に建っている建物の老朽化が進んでいる場合にはそのままで売却することは容易ではなく、建物を解体して更地にしてから売却せざるを得ないケースも少なくありません。そのため、売却代金を当てにして次の計画を立てることは、慎重になった方が良いでしょう。

急いで売れば買いたたかれる可能性がある

たとえば、相続税の納税資金を確保するための売却などでは、納税期限までに対価を得る必要があり、売却を急いでしまいがちです。しかし、期限に間に合わせようとあまりにも急げば、相手から足下を見られて買いたたかれてしまうリスクがあります。

他に資金調達の方法がなく、多少低い価格になるのは仕方がないと納得して売るのであれば良いですが、後から相場を調べて「本来ならもう少し高く売れたはずだった」と後悔してしまわないよう、事前の情報収集は入念に行うようにしましょう。

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相続で不動産売却をする際の注意点:税務編

相続で不動産を売却する際には、税務面でも注意しなければなりません。主な注意点は、次のとおりです。

税務面での注意点
  • 相続発生後すぐに売っても相続税の対象からは外れない
  • 譲渡所得税の対象になる
  • 特例により譲渡所得税が安くなる可能性がある

相続発生後すぐに売っても相続税の対象からは外れない

相続が起きてすぐに売れば、相続税の対象から外れると考える人もいるかもしれません。しかし、いくら相続後すぐに売却をしても、売った不動産が相続税の対象から外れることはありません。誤解のないようにしておきましょう。

むしろ、相続税の申告期限前に売ってしまったことで、本来であれば使えたはずの「小規模宅地等の特例」が使えなくなってしまう可能性がありますので、相続税がかかる場合には売却の前に税理士に相談をしてください。小規模宅地等の特例とは、相続税の計算上、要件を満たす土地を最大8割減で評価することができる特例です。

譲渡所得税の対象になる

相続でもらったものであるかどうかに関わらず、不動産などの資産を売却した際には、譲渡所得税の対象となります。譲渡所得税とは、不動産を売った対価(譲渡価格)から、その不動産の取得費や譲渡にかかった経費を差し引いた「儲け」に対してかかる税金です。

ただし、相続でもらった不動産は購入から時間が経っていることが多く、取得費が低いことが少なくない点に注意しなければなりません。取得費が低いということは、その分計算上の儲けが多く出ますので、譲渡所得税も高額になる可能性が高いということです。

なお、取得費が不明である場合や取得費が譲渡価格の5%より低い場合には、譲渡価格の5%を取得費とみなして計算することが認められています。

特例により譲渡所得税が安くなる可能性がある

譲渡所得税にはさまざまな特例があり、中でも相続で受け取った不動産を売却した場合には、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」が使える可能性があります。

この特例は、その不動産を相続するにあたって相続税を支払っていた場合、その相続税相当額を取得費に加算することができるというものです。つまり、譲渡所得税の計算上、その不動産の取得にかかった相続税相当額を経費にすることができるイメージです。

ただし、この特例を使うことができるのは、相続開始後、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに不動産を売却した場合に限定されます。この期間が過ぎてしまうと、もはやこの特例を使うことはできません。特例の適用を受けたい場合には、売却する時期にも注意が必要です。

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相続が起きてから不動産を売却するまでの流れ

相続が起きてから不動産を売却するまでの一般的な流れは、次のとおりです。

相続発生から不動産売却までの流れ
  • 不動産を相続する人を決める
  • 不動産の相続登記に必要な書類を準備する
  • その地域にくわしい不動産屋などに売却の相談をする
  • 不動産の相続登記をする
  • 契約を交わして売却をする
  • 譲渡所得税の申告と納税をする

不動産を相続する人を決める

はじめに、その不動産を相続する人を決めることからスタートします。不動産を相続する人を決める方法には、主に次の2つの方法が存在します。

  • 遺言書で決める:亡くなった人(「被相続人」といいます)が有効な遺言書を遺していた場合には、原則としてその遺言書の指定どおりの人が不動産を取得します。
  • 遺産分割協議で決める:遺言書がない場合には、相続人全員で話し合って不動産を取得する人を決めます。

なお、当事者同士で遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所での話し合いである調停や家庭裁判所が決断をくだす審判で、不動産の取得者を決めることとなります。

不動産の相続登記に必要な書類を準備する

不動産を相続する人が決まったら、不動産の相続登記に必要な書類を準備しましょう。遺産分割協議で不動産の取得者を決めた場合、相続登記に必要となる書類は、原則として次のとおりです。

必要書類
  • 登記申請書:登記申請のメインとなる書類です。穴埋め形式ではなく、一から作成する必要があります。
  • 遺産分割協議書:遺産分割協議の結果をまとめた書類です。登記をしようとする不動産を誰が相続することとなったのかを明確に記載し、相続人全員が実印で押印をします。
  • 相続人全員の印鑑証明書:遺産分割協議書に押した印が実印であることの証明のために必要です。
  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本・除籍謄本・原戸籍謄本:被相続人の相続人を確定するために必要です。
  • 相続人全員の戸籍謄本:相続人の生存を確認するために添付します。
  • 被相続人の除票または戸籍の附票:登記名義人と被相続人の同一性を示すために添付します。
  • 不動産を相続する人の住民票:新たな名義人の住所を正しく登記するために必要です。
  • 固定資産税評価証明書または評価通知書:登記に際して必要となる登録免許税を算定するために必要です。なお、相続登記の登録免許税額は、原則としてその不動産の固定資産税評価額の1,000分の4です。

ただし、状況によってはこれら以外の書類が必要となる場合もあります。自分で相続登記をする場合には、管轄の法務局の登記相談などを活用のうえ、あらかじめ必要書類を確認しておくと良いでしょう。

その地域にくわしい不動産屋などに売却の相談をする

必要書類の準備と並行して、その地域にくわしい不動産屋などに、売却の相談を進めましょう。不動産屋への相談や売却の交渉自体は、相続登記の完了前にはじめても差し支えありません。

不動産の相続登記をする

先ほども解説をしたように、故人名義のままでは不動産の売却手続きをおこなうことはできません。そのため、売却に先立って相続登記を済ませておく必要があります。

相続登記は、結果的に売却をする場合であっても売却をしない場合であっても、必要となる手続きです。そのため、売却の話がまとまる前であっても、先に相続登記を行っておきましょう。

契約を交わして売却をする

相続登記が終わり、買い手との交渉がまとまったら、実際に売却手続きを行います。不動産屋へ仲介を依頼する場合にはよほど問題がないかと思いますが、仮に不動産屋を介さずに当事者同士で売買をする場合には契約書をしっかりと作り込んで、後のトラブル予防に努めましょう。

いくら親しい間柄であったとしても、口頭のみでの売買はトラブルの原因となりますので、おすすめできません。

譲渡所得税の申告と納税をする

不動産を売却したら、その年分の確定申告で譲渡所得税の申告と納税を行います。申告期限は通常の確定申告と同じく、その年の翌年2月16日から3月15日までです。自分で申告することが難しい場合には、税理士へ依頼しましょう。

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相続不動産の売却で発生するその他の費用

相続した不動産を売却するにあたっては、他にどのような費用が発生するのでしょうか?主に発生するその他の費用は次のとおりです。

司法書士報酬

先ほど解説したように、相続をした不動産を売却するためには、次の二段階の名義変更が必要です。

  1. 相続登記(故人から、相続人への名義変更)
  2. 売買での移転登記(売主である相続人から、買主への名義変更)

このうち、「①」の相続登記は、司法書士へ依頼する場合と自分で行う場合の2つのパターンがあります。司法書士へ依頼した場合の報酬は司法書士事務所によって異なるものの、おおむね8万円から10万円程度となることが多いでしょう。

当然、これは買い手には関係のない話ですので、売主側で負担をすることとなります。

一方、「②」の売買での移転登記は、司法書士へ依頼することが通常であり、自分で行うケースはほとんどありません。なぜなら、売買による融資の決裁やお金の支払いと同時に所有権移転の登記書類に押印をもらう必要があり、絶対にミスが許されないものであるためです。

この売買での移転登記にかかる司法書士報酬は、おおむね5万円から10万円程度が目安となります。売買の場合にかかる司法書士報酬は買い手が負担することが多いものの、地域や状況によって異なる場合がありますので、あらかじめ確認しておくと良いでしょう。

仲介手数料

不動産会社などを仲介して不動産を売買する場合には、不動産会社に対して仲介手数料がかかります。仲介手数料の上限は法律で定められており、原則として次のとおりです。

取引額(売買額) 仲介手数料の上限(税抜き)
200万円以下の部分 取引額×5%
200万円超〜400万円以下の部分 取引額×4%
400万円超の部分 取引額×3%

たとえば、取引額が2,000万円の場合には、仲介手数料の額は次のようになります。

  • 仲介手数料=200万円×5%+(400万円-200万円)×4%+(2,000万円-400万円)×3%=66万円

ただし、このように逐一計算していては、非常に面倒です。そのため、取引額が400万円を超える場合には、次の速算式で計算したほうが早いでしょう。

  • 仲介手数料の上限(税抜き)=取引額×3%+6万円

当然ながら、計算結果は同じとなります。

この仲介手数料の上限額は、不動産会社に売買を依頼した人が、それぞれ依頼先の不動産会社に支払う費用です。そのため、原則として買い手のみならず、売り手も負担が必要になります。

相続登記の登録免許税

先ほど解説したように、相続した不動産を売却する際には、次の二段階の名義変更が必要です。

  1. 相続登記(故人から、相続人への名義変更)
  2. 売買での移転登記(売主である相続人から、買主への名義変更)

これらの登記それぞれについて、登録免許税がかかります。

まず、相続登記の登録免許税額は、原則として次の計算式で算定されます。

  • 登録免許税額(相続)=不動産の固定資産税評価額×1,000分の4

仮に固定資産税評価額が2,000万円であれば、登録免許税額は8万円です。これは買い手には関係ありませんので、原則としてその不動産を相続した相続人が支払います。

また、売買登記にも別途、登録免許税額がかかります。この場合の登録免許税額は、原則として次の計算式で算定されます。

  • 登録免許税額(売買)=不動産の固定資産税評価額×1,000分の20

仮に固定資産税評価額が2,000万円であれば、登録免許税額は40万円です。

ただし、令和5年3月31日までの間に登記を受ける場合、土地の売買にかかる登録免許税率は1,000分の15へと軽減されています。

売買にかかる登録免許税額は法律上、売り手と買い手が連帯して支払うこととされています。実際には買い手がすべて支払う場合もありますが、地域や状況などによって異なりますので、あらかじめ確認しておくと良いでしょう。

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相続不動産の売却でよくあるその他の質問

最後に、相続不動産の売却に関するよくある質問とその回答を紹介しましょう。

相続不動産の売却の確定申告は必要?

相続した不動産を売却した場合、確定申告は必要なのでしょうか?

結論をお伝えすると、相続で取得した不動産を売って儲けが出た場合には、原則として確定申告が必要です。この場合には、売却をした年の翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告と納税を行いましょう。

一方、譲渡所得がマイナスの場合には、確定申告の必要はありません。たとえば、被相続人が5,000万円で買った不動産を、相続が起きた後、3,000万円で売却した場合などです。

ただし、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」などの特例の適用を受けた結果として譲渡所得がゼロになる場合には、確定申告をしなければなりません。なぜなら、特例の適用を受けるためには、申告が要件とされているためです。

また、特例の適用を受けずに譲渡所得がマイナスとなった場合には、他の所得と通算することで所得税の還付が受けられる可能性もありますので、義務ではないものの確定申告をした方が良いケースも存在します。

確定申告が必要かどうか判断に迷う場合には、税理士もしくは管轄の税務署まで相談すると良いでしょう。

相続不動産の売却にかかる税金は3年以内なら安くなる?

相続した不動産を、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに売った場合には、税金(譲渡所得税)が安くなる可能性があります。なぜなら、先ほど解説したように、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」が存在するためです。

特例の適用を受けたい場合には、申告期限後3年以内に売却することができるよう、早めから売却の準備にとりかかることをおすすめします。具体的には、すみやかに相続登記を済ませておくほか、その地域の不動産売却にくわしい不動産業者に相談をしておくことなどが挙げられます。

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まとめ

相続をした不動産をすぐに売却する場合であっても、相続登記は行わなければなりません。あらかじめ相続登記をしておかなければ、売却の機会を逸してしまう可能性もありますので、相続をした不動産の売却を検討している場合には、早期に相続登記を済ませておきましょう。

しかし、相続登記には必要書類が多く、また慣れない登記申請書の作成も必要となるため、すべてを自分で行うことは容易ではありません。

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この記事を監修した専門家は、
牛腸真司
税理士
立命館大学卒業2011年、税理士登録。税理士登録番号は118275。2012年 東京都港区益本公認会計士事務所(現税理士法人総和)にて資産税対策専任。2015年 千葉県税理士会登録。千葉県税理士会松戸支部広報部員。