相続では様々な手続きが発生しますが、中には法律的なものや、税務に関する手続きなどがあり、素人では対応できない手続きもあります。そんなとき頼りになるのが士業と呼ばれる専門家ですが、今回は、相続業務においてもっとも関わりがあるであろう税理士についてお話しします。
はじめに注意しておくと、一概に税理士といっても、相続業務の経験や、専門領域以外の知見など、能力は人によってさまざまです。税理士に依頼する際は、あらゆる事務所を比較検討することをおすすめします。
税理士に依頼が必要な相続のケース
すべての相続について、税理士への依頼が必要となるわけではありません。税理士に依頼が必要な相続のケースとしては、主に次のようなものが挙げられます。
- 相続税がかかる場合
- 二次相続まで含めて相続税の相談がしたい場合
- 所得税の準確定申告を依頼したい場合
相続税がかかる場合
相続で税理士へ依頼すべき代表的なケースは、その相続に対して相続税がかかる場合です。
相続税はすべての相続でかかるわけではなく、遺産総額に亡くなった人(「被相続人」といいます)が過去に行った一定の贈与を加算した合計額が、次の式で算定される相続税の基礎控除額を超える場合にのみ課税されます。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
遺産総額などが基礎控除額を超える場合には、相続税の申告や納税が必要になる可能性が高いため、相続が起きたら早めに税理士に相談をすると良いでしょう。
二次相続まで含めて相続税の相談がしたい場合
今回起きた相続のみならず、二次相続までを踏まえた相続税の相談がしたい場合には、税理士へ依頼すべきでしょう。
一般的に、二次相続とは夫婦のうちどちらか後に亡くなった人の相続を指します。仮に夫が先に亡くなり、その後で妻の相続が起きる場合には、夫の相続を「一次相続」、妻の相続を「二次相続」と呼ぶわけです。
相続税には「配偶者の税額軽減」という制度があります。この制度を使うことで、配偶者が相続した財産のうち「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分」のどちらか大きい額までは相続税がかかりません。
つまり、遺産総額が1億6,000万円以下なのであれば、被相続人の配偶者がすべて相続することにより、その相続での相続税をゼロにすることが可能です。しかし、これにより配偶者の資産が膨らむと、その配偶者自身の相続である二次相続の際に相続税が高くなってしまう可能性があります。
このように、一次相続と二次相続をトータルで考えれば、一次相続において配偶者の税額軽減を最大限まで活用することが必ずしも得策とは限りません。
一次相続で配偶者がどの程度の資産を相続すればトータルの相続税が最も安く済むのかは、資産の額や内訳、家族構成、配偶者がどの程度の資産を持っているのかなど、個々の状況によって異なります。そのため、二次相続までを踏まえた相続税のアドバイスを受けたい場合には、税理士に依頼をした方が良いでしょう。
所得税の準確定申告を依頼したい場合
準確定申告とは、亡くなった人について行う所得税の 確定申告のことです。
通常の確定申告期限は、対象年の翌年2月16日から3月15日ですが、準確定申告は死亡を知った日の翌日から4ヶ月以内に申告と納税を行わなければなりません。
すべての相続で準確定申告が必要になるわけではありませんが、事業所得や不動産所得があった人が亡くなった場合には、原則として準確定申告が必要になると考えておくと良いでしょう。
また、亡くなる直前に不動産などの資産を売却していた場合にも、準確定申告が必要となる可能性が高いといえます。準確定申告を依頼したい場合には、早期に税理士へ相談しましょう。
相続における税理士の仕事
相続について税理士に依頼する場合、その仕事内容は時間軸で大きく2つに分けられます。
- 生前対策時
- 相続発生時
です。
どのような業務を仕事して受けるか、細かい部分は税理士法人や個人によって異なります。また、相続税の算出や贈与についてのアドバイスなど、個別の業務として受けてくれるところもあれば、生前対策のシミュレーションから贈与のサポートまで、相続人の調査から相続税の申告まで、言ったようにまとめてひとつのサービスになっているところも多いです。
生前対策における業務
生前対策として税理士が請け負うってくれる仕事は、主に、相続税に関するシミュレーションと節税対策の提案の2つに分けられます。
- 相続税シミュレーション
- 相続税の算出
- 不動産(土地・建物)の評価
- 遺産分割方法のアドバイス
- 遺言書作成のアドバイス
- 節税対策の提案
- 贈与について(贈与契約書作成、贈与税の申告)
- 養子縁組
相続発生後の業務
一般に、相続業として多くの税理士が受けるのが、こちらの相続発生後の業務です。税理士の本業中の本業とも言える相続税の申告はもちろん、それに至るまでの、財産目録の作成、遺産分割協議書の作成、なども業務として行います。
- 相続人の調査
- 財産目録の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 相続税申告
これもケースバイケースと言えばそうなりますが、遺産分割協議書の作成だけは単体で依頼できないケースが多いです。各士業には独占業務というものが設けられており、重複する部分があったり「この業務のついでとして行うのであれば問題ない」など様々な決まりあったりします。
税理士は税務に関する専門家であり、書類作成は専門外の業務と見なされるのです。もしこれらの業務を単体で専門家に依頼したいときには、弁護士や行政書士などの専門家に依頼すると良いでしょう。
遺産分割協議書の作成を税理士にお願いする場合は、相続税申告と合わせて依頼することになるでしょう。遺産分割協議書は相続税申告に必要な書類なので、その作成は税務の一環と見なされ、税理士の業務の範疇と認められるのです。
相続で税理士に依頼するメリット
相続で税理士に依頼するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?ここでは、相続税の申告を依頼した場合を前提として、5つのメリットを紹介します。
受けられる特例を漏らさずに適用してもらえる
相続税の申告を、自分でやってはいけないわけではありません。
しかし、相続税には特例がいくつかあり、中には適用要件を満たすかどうかの判断が難しいものも存在します。また、そもそも特例の存在さえ知らなければ、適用のしようがありません。
結果的に、本来であれば受けられたはずである特例の適用を漏らしてしまい、相続税を余分に支払ってしまう可能性があるでしょう。税理士に依頼した場合には、要件を満たす特例は漏らさず適用してもらうことができます。
もれなく申告してもらいやすい
相続税の申告を、自分で完璧に行うことは容易ではありません。上で記載をしたように、特例の適用を漏らしてしまう可能性がある一方で、本来は計上すべきであった資産の申告が漏れて、税務調査で指摘がされる可能性もあるでしょう。
調査で申告漏れ(過少申告)が指摘されると、過少申告加算税が追加で課される他、本来の申告期限からの利息的な意味合いである延滞税も支払わなければなりません。税理士に申告を依頼した場合には、申告漏れのリスクを格段に下げることが可能となります。
税務署からの信頼が高い
1つ上で記載をしたように、自分で申告をした場合にはどうしても申告漏れが生じやすくなります。そのため、税務署からも申告漏れを疑われやすく、税務調査に入られるリスクが高くなってしまう可能性があるでしょう。
期限の管理をしてもらえる
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。
相続税の申告は決して簡単なものではなく、申告書の作成には多くの時間と手間がかかります。そのため、自分で行うためには根気と時間が必要となり、仕事など他のことが忙しくなってしまうと、うっかり期限を過ぎてしまうかもしれません。
税理士へ相続税の申告を依頼した場合には期限に間に合うよう調整をしてくれますので、申告期限を超過してしまうリスクを減らすことが可能となります。
次の相続まで踏まえたアドバイスが受けられる
二次相続までを踏まえたシミュレーションを自分で行うことは、容易ではありません。一方で、税理士に相続税の申告を依頼した場合には、二次相続までを踏まえたアドバイスを受けることが可能となります。
税理士費用の相場感
相続に関する業務は、できれば専門家に依頼したいと考える方は多いかもしれませんが、その時に気になるのが費用です。
冒頭で申し上げた通り、税理士の能力も様々なので、提供するサービスの料金もピンからキリまでありますが、ここではその相場をご紹介します。ここから大きく外れなければ妥当な料金といえるでしょう。
生前対策業務の費用相場
生前対策として税理士に相談する場合は、相談料が発生することが多いです。初回は無料のところが多いのですが、それ以降は「30分当たり5,000円」が相場となっています。
また、相続税の資産や不動産の評価などを頼むと、別途費用がかかります。相場感としては、次のようになっています。
要相談となっている部分については、見積りを出してもらって判断するとよいでしょう。インターネットや電話による無料見積りを行っているところもあるので、そうしたところを利用して相場を知るのも一つの方法です。
相続発生時の費用相場
相続発生時にかかる費用は、相続財産の価額や内容、相続人の数によって変わります。相続税申告までの一連の作業を依頼した場合の料金は、相続財産の0.5%~1%に収まれば妥当とされています。
具体的な相場はおよそ次のようになっており、ここに、相続人が一人増えるごとに基本料金の10%が加算されることが多くなっています。
税理士の選び方の5つのポイント
ここまで税理士の仕事や依頼するメリットについて見てきましたが、実際に依頼する際、どのような税理士を選べば良いのでしょうか?5つのポイントを紹介します。
- 相続業務の経験が豊富である
- 書面添付制度を受けることができる
- 税務調査に対応できる能力がある
- 税務領域以外の分野についても詳しい
- 営業目線ではなく顧客第一の考えを持っている
相続業務の経験が豊富である
まず、相続業務の経験が豊富な税理士を選びましょう。具体的には「相続税の申告件数が、20件以上」などです。前提の知識として、相続税の申告をするだけなら税理士なら誰でもこなせるでしょう。言うなれば、資格を持っていれば誰でもできます。
しかし、たとえば、
- 相続後のことまで考えて、遺産分割の内容を設計したり
- 税務申告で注意する点を事前にお伝えしたり
- 次の世代のことまで考えた資産に関する提案ができたり
上記のような、いわゆるコンサル的な業務までできる税理士は非常に少ないです。「相続税申告承ります!」といった看板を掲げている税理士や税理士事務所などでも、ただ単に申告だけができるケースも少なくはありません。
そうではなくて、+αの相談に乗ったり、上記のような提案ができたりするのか、そこをしっかりと見分けましょう。その一つの目安として、相続業務の経験数は指標となります。
書面添付制度を受けることができる
書面添付制度とは、相続税の申告の際、申告書を作った税理士が書面を添付して提出する制度です。その書面には、申告書を作るときにどんなことを調査したのかといったことが記されています。これがあれば、申告書について疑問が発生した場合、まず、申告書を作った税理士だけが税務署に呼び出されます。
そこで調査官の疑問を解決することができれば、税務調査は省略されます。反対に、この書面がなく申告書に疑問が生じた場合、直接、相続人(納税者)に対して税務調査が行われます。書面添付制度を利用しない場合、税務調査を受ける確率は25%、利用した場合は6%まで下がるといいますから、ぜひ利用したいところです。
税務調査に対応できる能力がある
相続税の申告書に誤りや漏れがあると思われる場合、税務署から税務調査が入る可能性があります。その立ち会いをしてくれるかどうかも、税理士を選ぶ上でのポイントです。
税務調査は、被相続人、もしくは相続人の自宅で行われます。調査官が自宅に入り、被相続人のあらゆる財産を調べていくのですから、それだけでも緊張する時間です。さらに、被相続人の財産に関して専門的な質問をされることもあります。
「うちは財産が少ないから関係ない」と考える人も多いようですが、税務調査は財産の多い少ないに関係なく行われます。いざというときに対応に困らないためにも、税務調査に立ち会ってくれる税理士に依頼しましょう。
税務領域以外の分野についても詳しい
相続では、相続税以外にも、遺言書や争族、不動産や保険など、さまざまな問題が起こり得ます。専門知識を要する問題について素人だけで対応するのは困難ですし、かといって複数の専門家に依頼するのは費用もかかります。ですから、できるだけ幅広い分野に対応できる税理士を選びましょう。
税理士は税務の専門家ですから、それ以外の問題については畑違いではあります。しかし、相続税について多く扱っている人はある程度知識をもっているケースが多いようです。また、弁護士や司法書士、行政書士といった専門家とネットワークを構築し、あらゆる問題についてワンストップで対応できる体制を整えている事務所もあります。
営業目線ではなく顧客第一の考えを持っている
税理士を選ぶ上で最も重要なのが、顧客のことを一番に考えてくれるかどうかです。相続のかたちは人それぞれで、やるべき作業も異なります。同じ被相続人からの相続でも、控除申請が必要な人もいれば、相続税の申告自体が不要な人もいるでしょう。
こうした一人ひとりの状況に合わせて、やらなくていいことはやらなくていいとはっきり答えてくれる税理士を選びましょう。
相続税申告に不慣れな税理士などに依頼すると、マニュアル通りに全ての作業を進められたり、削減できる作業を削減してもらえなかったりして余計な費用がかかってしまうこともあります。
また、相続はお金に関することや親族の関係など、デリケートな問題も絡む問題です。そうした意味でも、本当に信頼して任せられる税理士を選ぶことが非常に重要なのです。
相続での税理士費用は誰が払うべき?
相続税の申告などを税理士へ依頼した場合、税理士の報酬を誰が支払うのかについて、法律上の決まりはありません。実際には、相続人の一人がまとめて払うケースや、相続で受け取った財産価額で按分するケースが一般的でしょう。
税理士報酬の支払いでもめてしまいそうな場合には事前に話し合いをしておき、書面でまとめておくと安心です。
なお、二次相続のことを考えれば、配偶者が税理士報酬を負担して配偶者自身の財産を少しでも減らすことで、二次相続でかかる相続税額を低減することにつながります。
まとめ
相続業務については複雑なものが多いので、税理士含めた専門家への依頼を検討する人は多いでしょう。しかし、まずは自分でもある程度は調べ、内容を理解した上で依頼することが重要だと思っています。
自分で調べた上であれば「何を依頼すべきか」がある程度分かってきます。そうなると無駄な費用を払わなくて済みますし、専門家についても信頼できるかどうかを見抜くことが可能です。専門家に依頼するしないに関わらず、まずは相続について自分で取り組む姿勢を持つことを大事にしましょう。