相続税というと、なんとなく「高くて怖い税金だ」とイメージしている方もいることでしょう。
しかし、相続税はすべての相続でかかるものではなく、実は90%以上の相続で無税となっています。
では、相続税は遺産総額がいくらまでであれば無税なのでしょうか?
今回は、相続税が無税となる基準である相続税の基礎控除額について詳しく解説します。
目次
相続税は財産額がいくらまで無税?
遺産が一定額以下であれば、相続税はかかりません。
まずは、相続税が無税となる基準について、基本的な考え方を知っておきましょう。
基礎控除額以下なら無税
相続税が無税となる基準は、相続税の対象となる遺産総額が、相続税の基礎控除額を超えるかどうかです。
相続税の対象となる遺産総額が相続税の基礎控除額以下であれば、相続税は無税となります。
相続税の基礎控除額の計算方法
相続税が無税かどうかの判断基準となる相続税の基礎控除額は、次のように計算をします。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
これに法定相続人の数を当てはめると、法定相続人の数ごとの相続税の基礎控除額は次のようになります。
- 1人:3,600万円
- 2人:4,200万円
- 3人:4,800万円
- 4人:5,400万円
- 5人:6,000万円
- 6人:6,600万円
- 7人:7,200万円
- 8人:7,800万円
- 9人:8,400万円
- 10人:9,000万円
ご自身やご家族にとっての基礎控除額がいくらなのか、確認しておくと良いでしょう。
相続税の基礎控除で用いる法定相続人の数の考え方
相続税の基礎控除額の計算方法は、上記のとおり「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
ここでは、この計算に用いる「法定相続人の数」の考え方について解説します。
養子には算入制限がある
養子であっても、財産を相続する権利は実子と同じです。
しかし、相続税の基礎控除額の計算に算入できる養子の数には、次のような制限があります。
- 実子がいない場合:2人まで
- 実子がいる場合:1人まで
例えば、相続人が配偶者と長男の他、2名の養子である場合は、基礎控除額の計算に用いる法定相続人の数は3名(配偶者、長男、2名の養子のうち1名)となり、相続税の基礎控除額は4,800万円です。
この制限は、相続税を下げる目的で無数に養子を取るような極端な節税を防ぐために設けられています。
なお、幼い頃に実の親が養育できないなどの事情で養子に入った「特別養子」の場合には、ここでは実子として扱われます。
財産を相続しない人がいても基礎控除額は変わらない
相続税の基礎控除額の計算に用いる法定相続人の数は、相続で財産を取得しない人がいても変動しません。
例えば、法定相続人が配偶者と長男、長女の3名であった場合、配偶者がすべの財産を相続し、長男と長女は一切財産を相続しなかったとします。
この場合でも、法定相続人の数は3名のままであり、相続税の基礎控除額は4,800万円です。
遺言書があっても基礎控除額は変わらない
法定相続人の数は、遺言書があっても変動しません。
例えば、法定相続人が配偶者と長男、長女の3名であった場合、亡くなった方が友人に全財産を遺贈するという内容の遺言書を遺していたとします。
この場合でも、法定相続人の数は3名のままであり、相続税の基礎控除額は4,800万円です。
相続放棄をした人がいても基礎控除額は変わらない
法定相続人の数は、相続放棄をした人がいても変動しません。
例えば、法定相続人が配偶者と長男、長女の3名であった場合、長男と長女が相続放棄をして、その結果として計10名の兄弟姉妹や甥姪が相続人になったとします。
この場合でも、法定相続人の数は3名であり、相続税の基礎控除額は4,800万円のままです。
相続放棄の結果相続人となった人の数は、相続税の基礎控除額の計算に関係はないことに注意しましょう。
相続税の対象となる財産とは
相続税の対象となる財産は、次のとおりです。
これらの合計額に過去の一定の贈与を足し、そこから後ほど解説をする相続税の対象から引いてもらえるものを控除した結果が相続税の基礎控除額以下であれば、相続税は無税となります。
通常の相続財産
通常の相続財産とは、例えば次のようなものです。
- 土地や建物:自宅の土地建物のほか、賃貸物件も課税対象となります。ただし、賃貸物件の場合には自用のものより低く評価可能です。また、一定の要件のもとで土地が最大8割減してもらえる小規模宅地等の特例が存在します。
- 預貯金:定期預金や普通預金です。ネットバンクなどを見落とさないように注意しましょう。
- 現金:現金も課税の対象です。預金を下ろして現金にしたからといって相続税の対象にならないわけではありません。
- 有価証券:上場株式や投資信託などです。明細などが郵送されないネット証券の資産を見落とさないよう注意しましょう。
- 骨董品や絵画:骨董品や絵画など価値のある動産も相続税の対象となります。
- 車:自家用車や事業に使っていた車なども相続税の対象です。
- 借地権:土地を借り、その上に建物を建てて使用していた場合には、建物のほか借地権部分も課税の対象となる場合があります。
- 貸付金:他者への貸付金はもちろん、被相続人などが代表を務めていた会社などへの貸付金も相続税の対象です。
- 非上場株式:いわゆる「自社株」も相続税の対象となります。
これらは一例であり、亡くなった人が権利を持っていたものは、原則としてすべてが相続財産になります。
みなし相続財産と非課税枠
みなし相続財産とは、主に次の2つを指します。
- 被保険者である亡くなった人が保険料を支払っていた生命保険金
- 会社などから支給される死亡退職金
これらは、民法で定めるところの相続財産ではありません。
しかし、預貯金であれば相続税の対象となる一方で、生命保険金には相続税がかからないとすると非常に不合理であるため、相続税法により相続財産と「みなす」こととされています。
つまり、これらも相続税の対象になるということです。
ただし、相続人が受け取った生命保険金や死亡退職金のうち、それぞれ次の金額までは非課税となります。
- 非課税限度額=500万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が4名であり、相続人が受け取った生命保険金の合計が4,500万円であった場合は、このうち2,500万円だけが、上記の通常の相続財産に合算されて相続税の対象となります。
計算の手順は次のとおりです。
- 相続人が受け取った生命保険金の合計額:4,500万円
- 非課税限度額:500万円×4名=2,000万円
- 相続税の対象となる生命保険金額:4,500万円−2,000万円=2,500万円(計算結果が0以下となった場合は0となります)
相続税の対象とならない財産
亡くなった人が持っていた財産であっても、例外的に相続税の対象とならないものもあります。
相続税の対象とならない代表的なものは、墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物です。
ただし、例えば純金製の仏像など骨とう的価値が高いものや投資の対象となるもの、商品として所有しているものには相続税がかかります。
相続税の対象から引いてもらえるもの(債務控除)とは
相続税の計算をする際、次のものは相続税の対象となる財産から控除することが可能です。
これを、相続税の「債務控除」と呼びます。
- 被相続人の借金や未払金
- 葬儀費用
被相続人の借金や未払金
被相続人に借金や未払金があれば、これは債務控除の対象となります。
代表的なものは、次のとおりです。
- 借金
- 住宅ローン
- 未払医療費
- 未払の税金
ただし、非課税資産である墓などの購入にかかるローンなどの未払金は、債務控除の対象とはなりません。
葬儀費用
葬儀にかかった費用も、債務控除の対象となります。
葬儀費用のうち債務控除の対象になるものとならないものは、次のとおりです。
- 葬式、葬送、火葬、埋葬、納骨のためにかかった費用
- 遺体や遺骨の回送にかかった費用
- 通夜の費用
- 葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用
- 死体の捜索又は死体や遺骨の運搬にかかった費用
- 香典返しのためにかかった費用
- 墓石や墓地の買入れのためにかかった費用や墓地を借りるためにかかった費用
- 初七日や法事などのためにかかった費用
相続税の特例を使って無税になる場合の注意点
相続税が無税になる場合には、2つのパターンがあります。
それは、特例など使わなくとも財産総額が相続税の基礎控除以下となる場合と、相続税の特例を使った結果として無税となる場合です。
ここでは、特例を使った結果として相続税が無税となる場合の注意点を解説します。
相続税の主な特例とは
相続税の特例のうち特に税額に大きな影響を与えるものに、次の2つがあります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たした土地が一定面積まで最大8割減で評価してもらえる特例です。
この特例を最大限使うと5,000万円土地が1,000万円で評価ができると考えれば、インパクトの大きさをお分りいただけるのではないでしょうか。
対象となる土地には、居住の用に供していたもののほか、事業用や貸付用のものも含まれます。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減とは、配偶者が相続等で取得した財産のうち次のいずれか大きい額までには相続税がかからないという特例です。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
この特例を適用することで、財産総額が1億6,000万円以下のケースで配偶者が全て相続した場合、その相続についての相続税はかかりません。
特例は申告をしないと受けられない
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用するには、相続税の申告をすることが要件となっています。
そのため、これらの特例を使った結果として相続税が無税となるような場合には、必ず相続税の申告をするようにしましょう。
期限内に相続税の申告をしなければこれらの特例が受けられないため、特例の適用さえ受ければ無税となるはずであった場合でも、相続税の納税が発生してしまいます。
相続税の早見表
最後に、相続税の早見表を掲載します。
相続税の早見表とは、遺産総額と相続人の態様ごとに支払うべき相続税額を示した表です。
表を参照する際には、下記の点にご注意ください。
- この表は、遺産を法定相続分で分割したと仮定した計算結果です。実際には、相続税は遺産の分割方法により異なります。例えば、遺産総額が1億6,000万円以下であれば、配偶者が遺産を全額相続した場合の相続税は0円です。
- 相続人以外の人などが財産を取得した場合の2割加算や障害者控除や未成年者控除などの税額控除は考慮していません。
配偶者がいる場合の相続税早見表
配偶者がいる場合の相続税早見表は、次のとおりです。
配偶者がいる場合は、配偶者が受け取った遺産のうち1億6,000万円と配偶者の法定相続分のいずれか多い額までには相続税はかかりません。
遺産総額 | 配偶者と子1人 | 配偶者と子2人 | 配偶者と子3人 | 配偶者と子4人 |
---|---|---|---|---|
4,000万円 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
5,000万円 | 40万円 | 10万円 | 0円 | 0円 |
6,000万円 | 90万円 | 60万円 | 30万円 | 0円 |
7,000万円 | 160万円 | 113万円 | 80万円 | 50万円 |
8,000万円 | 235万円 | 175万円 | 138万円 | 100万円 |
9,000万円 | 310万円 | 240万円 | 200万円 | 163万円 |
1億円 | 385万円 | 315万円 | 263万円 | 225万円 |
1億5,000万円 | 920万円 | 748万円 | 665万円 | 588万円 |
2億円 | 1,670万円 | 1,350万円 | 1,218万円 | 1,125万円 |
2億5,000万円 | 2,460万円 | 1,985万円 | 1,800万円 | 1,688万円 |
3億円 | 3,460万円 | 2,860万円 | 2,540万円 | 2,350万円 |
3億5,000万円 | 4,460万円 | 3,735万円 | 3,290万円 | 3,100万円 |
4億円 | 5,460万円 | 4,610万円 | 4,155万円 | 3,850万円 |
配偶者がいない場合の相続税早見表
配偶者がいない場合の相続税早見表は、次のとおりです。
配偶者の税額軽減の使用ができないため、配偶者がいる場合と比べて税額が高くなる傾向にあります。
遺産総額 | 子1人 | 子2人 | 子3人 | 子4人 |
---|---|---|---|---|
4,000万円 | 40円 | 0円 | 0円 | 0円 |
5,000万円 | 160万円 | 80万円 | 20万円 | 0円 |
6,000万円 | 310万円 | 180万円 | 220万円 | 160万円 |
7,000万円 | 480万円 | 320万円 | 220万円 | 160万円 |
8,000万円 | 680万円 | 470万円 | 330万円 | 260万円 |
9,000万円 | 920万円 | 620万円 | 480万円 | 360万円 |
1億円 | 1,220万円 | 770万円 | 630万円 | 490万円 |
1億5,000万円 | 2,860万円 | 1,840万円 | 1,440万円 | 1,240万円 |
2億円 | 4,860万円 | 3,440万円 | 2,460万円 | 2,120万円 |
2億5,000万円 | 6,930万円 | 4,920万円 | 3,960万円 | 3,120万円 |
3億円 | 9,180万円 | 6,920万円 | 5,460万円 | 4,580万円 |
3億5,000万円 | 1億1,500万円 | 8,920万円 | 6,980万円 | 3,100万円 |
4億円 | 1億4,000万円 | 1億0,920万円 | 8,980万円 | 7,580万円 |
まとめ
相続税は、すべての人にかかる税金ではありません。
相続税の課税対象となる遺産の合計額が相続税の基礎控除額以下であれば、相続税は無税なのです。
ご自身やご家族についての基礎控除額と財産総額と比較して、相続税がかかりそうかどうかを早くから確認しておくと良いでしょう。