生前に「遺言書」を作成しておくことで、自分の死後に遺産を渡したい人や渡す財産を指定できます。
遺言書には3種類あり、それぞれの遺言書の特徴を理解して最適な方法を選ぶことが大切です。
この記事では、遺言書の持つ効力や3種類ある遺言書の違い、それぞれの作成方法、専門家に依頼する場合の考え方などを紹介していきます。
形式不備などで遺言書が無効にならないよう、遺言書の作成で必要な知識を身につけましょう。
遺言書とは
「遺言書」という言葉を聞いたことがある人は多くても、実際に遺言書を作成したり他人が書いた遺言書を見たことがある人はそれほど多くはありません。
相続を経験したことがなく遺言書を見た経験がない人もいるでしょうし、相続を経験したことはあっても遺言書が残されていないケースもあります。
自分が高齢になっていざ遺言書を作成しようとしても、そもそも遺言書を見たことがなくてわからず「遺言書とは何なのか?」と疑問に感じる人もいるはずです。
まずは「遺言書の定義」を確認して、よく間違えやすい「遺書」との違いも理解しておきましょう。
定義
遺言書とは、被相続人(財産を残して亡くなった人)が遺産の分け方について生前に自分の意思を示すために作成する書類です。
生前に遺言書を作成しておけば、財産を渡す人や渡す財産の中身・割合などを指定でき、自分の死後に始まる相続においても自分の意思を反映させることができます。
また、財産の分け方だけでなく、子を認知したり遺言を執行する遺言執行者を遺言書で定めることも可能です。
遺書との違い
「遺言書」と「遺書」は混同しがちですが、「法的な効力」と「主に記載する内容」が異なります。
- 遺書:法的な効力はなく、死を覚悟した人が自分の想いを記す手紙に近いもの
- 遺言書:法的な効力があり、主に財産の分け方について記載して相続のために残すもの
周囲の人への感謝や恨みなど、死ぬ前に伝えたい想いを書き記す手紙のようなものと言えます。
一方で、遺言書は単なる手紙ではなく、法律で定められた形式に従って作成された「法的な効力を持つ書類」です。
遺書のようにプライベートな内容を自由に書くというよりも、自分の死後に起きる相続に備えて主に財産の分け方について記載するものです。
遺言書の効力
遺言書には法的な効力があることを紹介しましたが、具体的にどのような効力があるのでしょうか?
ここでは、「遺言書を作成することで生じる効力」と「遺言書によっても侵害できない他の権利・法的効力」のそれぞれについて解説していきます。
効力
遺言書で定めることで効力を発揮する事項には、主に次のようなものが挙げられます。
- 推定相続人の廃除と廃除の取り消し
- 相続分の指定
- 遺産の分割の方法の指定と遺産の分割の禁止
- 財産の処分(遺贈)に関すること
- 子の認知
- 遺言執行者の指定
効力①:推定相続人の廃除と廃除の取り消し
相続人の廃除とは、被相続人に対して虐待をしたり重大な侮辱を加えた相続人や、その他の著しい非行があった相続人から、相続権を剥奪することです。
相続人の廃除を行う方法には、次の2つがあります。
- 財産を残す人が生前に裁判所で手続きをする方法
- 廃除を行う旨を遺言書に記載する方法
効力②:相続分の指定
遺言書が残されていない場合は、各相続人が相続する割合(法定相続分)が法律で決まっています。
しかし、故人が遺言書で各相続人の遺産の取り分を指定している場合は遺言書の内容が優先されるため、法定相続分以外で割合を定めることも可能です。
法定相続分という相続人に関する規定よりも、遺言書に記載された被相続人の意思が優先されて効力を持つことになります。
効力③:遺産の分割の方法の指定と遺産の分割の禁止
遺産の取り分(相続分)だけでなく、遺産の分割方法について遺言書で指定することもできます。
さらに、5年を超えない期間の範囲で遺産分割を禁止することも可能です。
遺産分割の禁止は、すぐに相続人の間で遺産分割の話し合いをしても揉めそうな場合や、相続人に未成年者がいて成年になるのを待って遺産分割をさせたい場合などに遺言書に記載します。
効力④:財産の処分(遺贈)に関すること
遺言書が残されていない場合には相続人が遺産を相続しますが、遺言書を作成することで相続人以外の人も含めて遺産の受取人として指定できます。
遺言によって財産を渡す方法を遺贈と言い、相続人以外の人で特にお世話になった人に財産を受け取って欲しい場合などに役立つのが遺言書です。
効力⑤:子の認知
婚姻関係にない男女間に生まれた子は、父親が認知をしていない場合には父親が亡くなったときに相続人にはならず相続権を有しません。
しかし、このような内縁の妻との間の子であっても父親が認知をすれば相続人になります。
子の認知は、父親が生前に認知届を市区町村役場で提出すればできますが、認知する旨を遺言書に記載する方法でも可能で、隠し子に遺産を相続させたい場合などに行われる方法です。
効力⑥:遺言執行者の指定
遺言書では、遺言に記載された内容を実行する遺言執行者を指定することもできます。
「相続人の廃除」と「子の認知」に関する記載が遺言書に含まれる場合は遺言執行者を必ず選任しなければならず、それ以外の場合は必ずしも遺言執行者を指定する必要はありません。
ただし、相続人の人数が多くて遺産分割で揉めそうな場合には、遺言執行者を選任しておいた方が相続の手続きがスムーズに進む可能性が高くなります。
効力が発生する条件
お伝えしたような遺言書の効力が発揮されるには、「遺言書が正しく作成されていること」が前提です。
遺言書を作成する際には法律で定められた形式や条件を守る必要があり、たとえば次のような場合、遺言書自体が無効になってしまうため注意してください。
- 日付の記載や遺言者の署名、押印がない場合
- 遺言書を作成した人に遺言能力が認められない場合
- 遺言書が複数人によって連名で作成されている場合
特に、日付については「2020年1月吉日」など明確に日にちを特定できないような場合にも無効になるため気をつけてください。
また、2点目として、認知症の方が作成した遺言書のように遺言能力自体が否定されて無効になる場合もあります。
そして、遺言を残せるのは15歳以上の人なので、14歳以下の人が作成した遺言書も無効です。
3点目に関しては、たとえば両親が連名で遺言書を作成するようなケースが該当します。
遺言書の作成はあくまで単独で行わなければならず、複数人で作成すると有効とは認められません。
他にも無効になるケースはあるので、遺言書を作成する際には専門家に相談した方が良いでしょう。
遺留分との関係
遺留分とは、「相続人が相続できる遺産の割合として最低限保証されている権利」です。
遺留分は一定の相続人に認められた権利であり、被相続人が作成する遺言書でも侵害できません。
仮に遺留分を下回るような財産の渡し方・分け方が遺言書に記載されていても、遺留分を持つ相続人は権利を主張して請求手続き(遺留分侵害額請求)を行うことができます。
そのため、遺言書を書く人自身の想いだけでなく、財産を受け取る側の権利(遺留分)も考慮して遺言書を作成することが大切です。
遺言書3種類のメリット・デメリットの比較
一口に「遺言書」と言っても異なる3種類の形式があり、それぞれ特徴や作成方法が異なります。
自分の望む相続を実現するために遺言書を作成する際には、3種類の遺言書の違いを理解して適切な形式を選ぶことが大切です。
ここでは、それぞれの遺言書の特徴やメリット・デメリットを紹介していきます。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者自らが自筆で作成して保管するタイプの遺言書です。
公証人や証人に確認してもらう必要がなく、作成も書き直しもしやすい形式の遺言書と言えます。
遺言の内容を秘密にできるので、家族などの相続人に知られたくない場合にも役立つ遺言書です。
ただし、他の2つの遺言書とは違って代筆が認められておらず、必ず自分で書かなければなりません。
遺言書の作成方法をよく理解していない人が自筆証書遺言を作成すると、日付の記入や署名・押印が漏れていて無効になったり、内容が不明確で遺言として認められないリスクがあります。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で作成する遺言書です。
公証人と証人の前で遺言の内容を述べて、その内容を公証人が遺言書として記載します。
遺言書の作成を公証人という専門家が行うので形式不備の心配が基本的になく、作成した遺言書は公証役場で保管するので紛失の心配もありません。
遺言者ではなく公証人が作成するため、自分では字が書けない状態にある方でも作成できます。
ただし、公証人や証人の前で遺言の内容を述べるので内容を秘密にできず、3種類の中では特に手間も費用もかかる形式の遺言書です。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言書の作成や封印まで本人が行い、封印された状態の遺言書を公証人と証人が確認して署名・押印する形式の遺言書です。
公正証書遺言とは違って内容を秘密にできる反面、自筆証書遺言と同様に形式不備によって無効になるリスクがあります。
3種類の比較
3種類の遺言書を比較すると、次のようなメリットとデメリットが挙げられます。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
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メリット |
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デメリット |
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費用面では、「自筆証書遺言」であれば最も安く作成できますが、「秘密証書遺言」では公証役場で手数料1万1,000円がかかり、「公正証書遺言」では遺言書の作成手数料や証人に支払う日当などがかかります。
また、上の表の中の「検認」とは裁判所で行うもので、遺言書を開封して内容を確認する手続きです。
被相続人が亡くなって相続が開始した場合、残されている遺言書の形式が自筆証書遺言または秘密証書遺言であれば、検認の手続きが必要なので多少手間がかかります。
ただし、2020年7月10日から自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まるので、この制度を利用して法務局で保管された自筆証書遺言については検認は不要です。
今までであれば、自筆証書遺言は家などで保管するため紛失リスクがある点がデメリットでしたが、この制度を活用すれば紛失リスクはなくなります。
- 法務局における自筆証書遺言書保管制度について(法務省ホームページ)
遺言書の作成方法
遺言書は、法律で定められた一定の条件を満たしていないと無効になってしまいます。
遺言書を作成する際には、作成の流れや守るべき条件を理解しておくことが大切です。
ここでは、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言それぞれの作成方法を紹介していきます。
自筆証書遺言
自筆証書遺言を作成する際の流れは次のとおりです。
- 自分の財産が何なのかや相続人が誰なのかを把握する
- 誰にどの財産をどれだけ渡すのかを決めて遺言書を書く
- 財産を証明する書類を準備する
- 封筒に入れて封印する
なお、自筆証書遺言書は手書きする必要がありますが、財産を一覧化した目録はパソコンで作成しても良く、手書きする必要はありません。
そして、遺言書を書く際のフォーマットなどは特に決まっていないため、書式は基本的に自由です。
ただし、全文・日付・氏名を自書して押印する必要があり、反していると遺言書が無効になります。
内容の書き方は自由ですが、記載内容が不明確で財産が特定できないと無効になる可能性もあるので、遺言書を書く際には財産を特定できるように正確に記載するようにしてください。
そして、財産を証明する書類には、銀行口座の通帳のコピーや土地の登記簿謄本などが該当します。
また、法定の要件ではないものの遺言書や目録などは封筒に入れて封印した方が良いでしょう。
公正証書遺言
公正証書遺言を作成する際の流れは次のとおりです。
- 自分の財産が何なのかや相続人が誰なのかを把握する
- 誰にどの財産をどれだけ渡すのかを決める
- 必要書類を揃える
- 公証人と事前の打ち合わせを行う
- 公証役場で遺言の内容を口述して公証人に遺言書を作成してもらう
公正証書遺言では、財産を証明する書類(通帳のコピーや登記簿謄本など)だけでなく、必要書類として印鑑証明・実印・戸籍謄本なども必要になります。
財産を渡す相手によって必要書類が変わるので、公証役場で事前に確認するようにしてください。
なお、最寄の公証役場の場所は、こちらのサイトで確認が可能です。
- 公証役場一覧(日本公証人連合会ホームページ)
そして、公証人と事前に打ち合わせを行って遺言書を作成する日時などを決め、公証役場で遺言書を作成します(公証役場以外の場所を指定できる場合もあります)。
2人以上の証人の立会のもと、遺言者が公証人に遺言の内容を口述してその内容を公証人が遺言書として作成し、内容に間違いがないことを確認できたら署名・押印して完了です。
秘密証書遺言
秘密証書遺言の作成の流れは、作成した遺言書を封印するところまでは「自筆証書遺言」と原則同じです。
ただし、自筆証書遺言と違って必ずしも本人が作成する必要はないので他人による代筆やパソコンでの作成でも良く、遺言者本人による署名と押印があれば問題ありません。
そして、作成して封印した秘密証書遺言を公証役場に持ち込み、封書に公証人・証人・遺言者が署名・押印します。
遺言書を作成するときのポイント
ここまで、3種類の遺言書の特徴やメリット・デメリット、遺言書の作成方法について解説しました。
自分の想いである「遺言」を書き記す点では、どの形式の遺言書でも一緒です。
遺言書を作成する上では、「どのような内容の遺言にするのか」ということも大事なポイントです。
どの形式で遺言書を作成するにしても、特に次の点には気をつけながら作成することが大切です。
- 遺言書を作成する目的を明確にする
- 遺留分は侵害できない
- 内容や形式の不備には細心の注意を払う
ポイント①:遺言書を作成する目的を明確にする
たとえば、相続トラブルの回避が目的であれば、相続人に平等に財産を渡すことが考えられます。
逆に、特定の人により多くの財産を渡したい場合には、他の相続人の遺留分を侵害しない範囲で財産の分け方を考えて遺言書を作成するケースもあるはずです。
遺言書を作成する目的が違えば遺言の内容も当然変わるので、まずは遺言書を作成する目的を明確にするようにしてください。
ポイント②:遺留分は侵害できない
すでに解説したように、一定の相続人には遺留分が認められていて、被相続人が作成する遺言書でも相続人の権利(遺留分)は侵害できません。
遺留分を侵害するような内容で遺言書を作成すると、自分の死後に相続人が権利を主張して手続き(遺留分侵害額請求)を行って、遺言書とは異なる内容で遺産分割が行われる可能性もあります。
相続トラブルの原因にもなり得るので、遺言書の作成では遺留分を考慮に入れることが大切です。
ポイント③:内容や形式の不備には細心の注意を払う
「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」では、内容や形式の不備によって遺言書自体が無効にならないように細心の注意を払ってください。
「日付」「署名」「押印」といった形式面で不備があると無効になり、渡す財産が記載されていても内容が不明確だと遺言として成立しない可能性もあります。
たとえば「銀行口座の預金を相続人Aに渡す」だけでは、どこの銀行の口座なのかわかりません。
銀行口座の銀行名や口座番号なども含めて、遺言書の中で明確に記載することが大切です。
遺言書の作成を相談すべき専門家
不備によって無効にならないように、遺言書を作成する際は専門家に相談した方が良いでしょう。
遺言書について相談できる専門家には、弁護士・司法書士・行政書士・税理士がいます。
遺言書を作成する目的やご自身の状況に応じて依頼先を決めるようにしてください。
弁護士
相続トラブルを回避する目的で遺言書を作成する場合は、相続トラブル対応に携わっていて「どんな点が相続トラブルの原因になりやすいのか」を理解している弁護士に相談すると良いでしょう。
さらに、弁護士に依頼して遺言執行者になってもらえば、自分の死後に実際に遺言を執行する所まで含めて安心して任せることができます。
司法書士
自分の財産の中に土地や建物などの不動産が含まれる場合には、土地に関する実務経験を持つ司法書士に相談してみると良いでしょう。
実務で相続登記を行ったり様々な相続案件を見てきた経験を持つ司法書士であれば、不動産の相続で問題になりそうな点を考慮しながら適切なアドバイスをしてくれます。
行政書士
行政書士は様々な申請手続きを行うことができる士業で、相続関連業務に強い行政書士もいます。
相続関連業務を扱っている行政書士であれば遺言書の作成に関してアドバイスをできる場合があり、他の士業に比べて費用が安いことが多い点もメリットです。
税理士
相続税を少しでも安くするような遺産の分け方を考えて遺言書を作成したい場合には、相続税に強い税理士に相談することも一つの選択肢です。
財産を誰が受け取るかで相続税の特例制度の対象になる場合とならない場合があり、節税対策を行って少しでも多くの財産を相続人の手元に残したい場合には税理士に相談すると良いでしょう。
まとめ
生前に遺言書を作成しておけば「財産の渡し方」を自分で決めることができ、その他にも「相続人の廃除」「子の認知」「遺産分割の禁止」などを記載することで効力を発揮します。
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があって特徴が異なるので、それぞれの遺言書のメリット・デメリットや作成方法を正確に理解しておくことが大切です。
また、遺言書を作成する際には、不備によって遺言書が無効にならないように注意してください。
相続に詳しい専門家に依頼すれば安心なので、不安な場合には弁護士などに相談すると良いでしょう。