家族が亡くなった際の親族は一定期間喪に服し、通常とは異なる生活を送ります。
この喪に服す期間が新年と重なった場合、どのような正月を過ごせば良いのか、疑問に感じているの方が多いのではないでしょうか?
ここでは、喪中期間と新年が重なってしまった場合の正月の過ごし方を説明しながら、「喪中と忌中の違い」「避けるべき行動」「注意点」などについて解説します。
喪中の正月とは

私たち日本人は、身内が亡くなった際には一定期間喪に服し、故人の冥福を祈りながらお祝い事などを避けて慎ましく生活を送ります。
この喪に服す行為は「忌服(きふく)」もしくは「服忌(ぶっき)」とも呼ばれ、「服」の文字には「故人の死を慎み喪服に身を包む」という意味から、古来の喪中期間は喪服に身を包み外部との接触を避ける生活を送ることが習わしでした。
現代では、そこまでの制限を設けた生活を送ることはありませんが、おめでたいとされる正月に喪中を迎えた場合では、正月行事や年末年始の慣習にさまざまな制約を設け生活を送るのがマナーとされています。
喪中と忌中の違い

喪中正月の過ごし方を解説する前に、喪中とは何であるのかについて、よく似た言葉である「忌中」の意味とともに解説します。
社会から穢れを隔離するのが「忌中」
喪中とよく似た言葉に「忌中(きちゅう)」がありますが、この忌中とは、近親者に不幸事があった際に「死の穢れが自身にある間は社会的な活動を控える」行為です。
これは、かつて死が穢れであったとされる時代の名残で、死が他の方に伝染することがないように自身が他の方の生活圏内から距離をとって生活したことに由来します。
忌中の期間
仏教における忌中の期間は、故人が亡くなってから四十九日法要までを指しています。
ただし、お住いの地域や宗派によっては三十五日法要までとする場合もあるため、注意が必要です。
自主的に行動を慎むのが「喪中」
死が他の方に伝染することがないように社会的な強制力が働いた忌中に対して、喪中は喪に服す行為を自主的に行う期間です。
古くは門を閉ざして家の中でも喪服を着用していましたが、現代ではこのような慣習を一般家庭で行うことはありません。
故人の冥福を祈りながら慎ましく生活を送る期間が喪中です。
喪に服す人の範囲
2親等までの親族に不幸事があった場合に喪に服すのが一般的です。
3親等以降の親族に不幸事があった際には喪に服す必要はありませんが、故人と特に親密な付き合いをしていた場合などは喪に服す場合もあります。
そのため、血縁の深さではなく生前の故人や親族との付き合いの深さによって喪に服すかどうかの判断を行いましょう。
喪中の期間
喪中期間は「血縁の深さ」「お住いの地域」「故人との関係性」によって異なります。
以前は明治時代に発令された「太政官布告」という法令に基づき続柄と喪中期間は詳細に定めらていましたが、この法令は昭和22年に撤廃されています。
しかし、仏教の考え方に基づいた喪中期間については現代でも太政官布告が一つの目安とされ、次の表の期間を喪中期間とすることが一般的です。

忌中・喪中に避けるべき行動

喪中・忌中は故人の冥福を祈る期間のため、慶事を避けて生活を送るという考え方があります。
しかし、必ずしもそうしなければならないというわけではありません。
ただ、次の行動は必ず避けた方が良いと考えられています。
- 急に招待された結婚式
- 遠方への旅行
- 贅沢にお金を使う豪遊
常識の範囲を逸脱しない行為を心掛けて、状況に応じた配慮が求められるのが喪中期間です。
ご自身の行いがどのように他人に映り、受け取られるのかを考えて行動するよう心掛けてください。
【行事別】喪中の正月の注意点

正月は新年を祝う慶事のため、喪中の正月はさまざまな注意点を踏まえて過ごさなくてはなりません。
ここでは、喪中正月の際に気をつける注意点を行事別に解説します。
- おせち料理
- 正月飾り
- 親戚の集まり
- 初詣
- 新年の挨拶
- お歳暮のやり取り
注意点①:おせち料理
喪中正月におせち料理を食べる際には、故人に配慮して次のポイントを踏まえる必要ががります。
- 「伊勢海老」「鯛」「紅白の食べ物」は控える
- 「かまぼこ」「栗きんとん」「黒豆」を中心としたおせち料理にする
- めでたさを演出する重箱の使用は避け、お皿におせち料理を盛り付ける
- お祝い箸は使わない
- お酒は控える
年越しそばやお雑煮は可
年越しそばには「一年の厄を切り落とす」「長いものを食べて長寿を祈願する」という意味合いがあり、新年を迎えるお祝いという意味は含まれていません。
そのため、喪中であっても問題なく食べることができます。
お雑煮は、元々高級な食べ物としてお祝い事の際に頂く料理でしたが、現代では一般的な料理として各家庭に浸透しました。
そのため、喪中であっても問題なく食べることができます。
ただし、この場合もおせち料理と同じく、お祝いの雰囲気を出すような紅白かまぼこや花形人参は控えましょう。
注意点②:正月飾り
門松やしめ飾りなどの正月飾りは、歳神様を迎え入れ1年を無事に過ごすことができたことを感謝して飾るため、身内に不幸事があった場合は飾らないのがマナーです。
ただし、忌中を過ぎていれば飾っても構わないとする考え方もあるため、周りの年長者へ確認することをおすすめします。
鏡餅は例外な場合もある
正月飾りに含まれる鏡餅は、不幸が訪れた家庭に福をもたらしてくれるという願いを込めて、忌中を過ぎていれば問題なく飾ることができるという考えがあります。
ただし、この考えはお住いの地域や各家庭によって異なるため、やはり年長者の意見に従った方が良いでしょう。
注意点③:親戚の集まり
正月期間は、親戚同士が集まり新年の挨拶を交すのが一般的ですが、喪中の正月では集まる主旨を変更する必要があります。
特に、親族を招く場合は「新年をお祝いする会」ではなく、「旧年中に亡くなった故人を偲ぶ会」であることを親族に伝えて集まりましょう。
主旨に沿って重苦しい雰囲気になる必要はありませんが、主旨を伝えることで集まった親戚の意識も変わるものです。
なお、ご自身の親族が亡くなった後の正月に配偶者の家を訪問する際には注意点はありませんが、配偶者側の親族が亡くなった後の正月に訪問すること際には、相手側の意向に沿った対応が必要です。
お年玉は名目を変更する
子供たちにとって一大イベントのお年玉は、本来であれば新年を迎えるお祝いという意味合いがあるため控えるべきですが、名目を変更して配ることができます。
喪中の正月に配るお年玉は紅白の水引がある祝儀袋ではなく無地のポチ袋に入れ、表書きをおこずかいや文具代として渡しましょう。
注意点④:初詣
初詣の行き先は神社と寺院の2種類がありますが、忌明けであればどちらに初詣に出かけても問題はありません。
ただし、四十九日法要前の忌中期間は神社と寺院では対応方法が異なります。
神道に基づく神社では、死を穢れと考えられているため、忌中期間の参拝は厳禁です。
一方で、仏教に基づいている寺院では、死は穢れではなく極楽浄土への旅立ちと考えられているため、忌中期間であっても参拝は問題ありません。
お墓参りは可
忌中期間や喪中期間の中で、宗教的な教義の違いを気にすることなくお参りすることができる場所として挙げられるのが故人のお墓です。
故人を偲ぶ行為として相応しいお墓参りは、故人の死後の期間を問うことはありません。
なお、墓所によっては正月期間を閉園日と定めている場合もあるため注意が必要です。
注意点⑤:新年の挨拶
新年は「あけましておめでとう」の挨拶を交わすのが一般的ですが、喪中は「おめでとう」という言葉を使うことができません。
自分が喪中であることを知らない相手は「あけましておめでとう」と挨拶をしてくるため、ついつられて「あけましておめでとうございます」などと返してしまうため注意点が必要です。
喪中の正月の挨拶は「昨年はお世話になりました。本年もよろしくお願いします」とお祝い言葉を避けた挨拶を心掛けてください。
喪中であることをさりげなく伝える
喪中だと知らない相手から「あけましておめでとうございます」と声をかけられた場合、「今年もよろしくお願いします」と返事をすると違和感を感じてしまいます。
そのため、自身が喪中であることをさりげなく伝え「おめでとう」を使うことができないと言葉をかけましょう。
この際は、「今は喪中だから丁寧な挨拶はできないけど今年もよろしく」などと伝えると、相手も状況を理解してくれます。
注意点⑥:お歳暮のやり取り
お歳暮は、日頃お世話になっている方への感謝の気持ちを伝えるためのもので、お祝い事への贈り物とは異なります。
そのため、贈る方や贈られる方が喪中であってもお歳暮のやり取りをすることはマナー違反ではありません。
しかし、忌中の場合は、お歳暮であっても控えた方が良いでしょう。
特に、ご自身の身内に不幸がありなおかつ忌中の場合は、贈られた側が「穢れがある方からの贈り物」と捉える場合もあるため贈らない方が無難です。
熨斗(のし)紙の種類を変更する
喪中のお歳暮は、通常のお歳暮とは異なるため、熨斗(のし)紙は水引なしの無地のかけ紙か短冊に変更します。
ただし、お仕事上のお付き合いがある方には短冊は略称となるため、無地の熨斗紙を使用しましょう。
喪中に年賀状が届いた際の対応方法

喪中はがきの配達の遅れや出し忘れなどで、喪中が相手に伝わらずに年賀状が送られてくることがあります。
ここでは、このような場合の対応方法を解説しながら、寒中はがきの文例を紹介します。
寒中見舞いを送る
喪中の連絡が周知されないことで届いてしまった年賀はがきには、寒中見舞いを出しその文中で年賀はがきが出せなったことを伝えます。
寒中見舞いは1月5日から2月4日の期間で送るものですが、喪中においては年賀状に代わる挨拶状となります。
そのため、年賀状を送ってきた方にはなるべく早い時期に寒中見舞いを送ることがマナーです。
寒中見舞いの文例
喪中報告を兼ねた寒中見舞いの文例は次のとおりです。
寒中お伺い申し上げます。
寒気厳しき折でございますが 皆様にはお変わりございませんか
私方 昨年○月○日に父○○(享年○歳)が他界いたしましたため 年頭のごあいさつを控えさせていただきました
寒さももうしばらく続くと思いますが 元気でお過ごしくださいますよう
本年も皆様にとりまして良い年となりますように 心よりお祈り申し上げます
令和○○年○月
神道・キリスト教の喪中正月の過ごし方

ここまでは仏教徒における喪中の正月について解説してきました。
続いては、私たちになじみが深い神道と、キリスト教の喪中正月の過ごし方について解説します。
神道の場合
先ほどお伝えしたように、神道では死を穢れとして扱うため喪中の初詣は避けなりません。
しかし、仏教における死は極楽浄土への旅立ちと考えられているため、たとえ喪中であってもお参りをすることが可能です。
ちなみに、同じ仏教であっても浄土真宗の場合は故人はすぐに成仏して仏様となるため喪中という考えがありません。
故人がなくなった最初の正月であっても、いつもの正月のように過ごすことができます。
キリスト教の場合
キリスト教の場合は死に対する考え方が前向きのため、「神様に導かれた天国で再び出会うことが約束されている」と考えられています。
このような考えには喪中や忌中といった概念はなく、故人を偲ぶ期間や故人の死後に禁止している行為もありません。
キリスト教の一大イベントであるクリスマスを過ごし、その流れで新年を迎えることが一般的です。
喪中の正月を迎える実家への帰省方法

たとえ喪中であっても、年末年始の実家への帰省は問題ありません。
ただ、喪に服し故人を偲んで生活している実家に帰るのであれば、ご自身も派手な服装やアクセサリーの着用を避けて慎ましやかな生活を送らなければなりません。
また、一緒に実家に帰る子供の服装も黒やグレーを基調とした地味な服装を心がけましょう。
帰省する際の手土産の渡し方
新年を実家で過ごす際に渡す手土産は「お年賀」となり、慶事の贈り物となるため喪中の実家には不向きです。
そのため、熨斗をつけずに包装紙で包んだだけの手土産を通常の手土産として渡します。
どうしても熨斗をつけたい場合は、表書きを「ご挨拶」とすると良いでしょう。
なお、手土産は仏壇にお供えできるアイテムが喜ばれるため、「かりんとう」「豆菓子」「お饅頭」など比較的日持ちする和菓子がおすすめです。
まとめ

喪中の正月は、故人の供養を行いながら慎ましい生活を送り、できる限りお祝い事を避け静かに過ごします。
以前ほど厳密なしきたりの中で生活することがない喪中ですが、特に正月に関しては通常の正月とは異なる生活になるため、喪に服すという気持ちを大切にしながら臨機応変な対応を心がけましょう。