葬儀や法事の際に持参する香典には、宗教や宗派で異なる表書きや金額の書き方などの決まりごとがあるため、よほど経験がある方でなければ不安を感じてしまうものです。
そこで、今回は「御仏前」という表書き解説しながら、「表書きの種類」「香典金額相場」「香典袋の書き方」などについて解説します。
御仏前に関連する葬儀マナーも紹介しますので、今後葬儀や法事を控えている方にとって大変役立つ内容です。
目次
御仏前とは

「御仏前」は主に四十九日法要後や法事の際に、仏前へ備える供物の表書きとして使われます。
この御仏前の読み方や、よく似た言葉として混同しがちな「御霊前」との違いは次のとおりです。
御仏前の読み方
仏の前を意味する仏前に接頭語の「御」をつけて「ごぶつぜん」と読みます。
御という文字は和語の前についたときは「お」、漢語の前についたときは「ご」と読みます。
仏前は漢語のため読み方は「ごぶつぜん」です。
なお、「ご仏前」「御沸前」などの表記も読み方は同じ「ごぶつぜん」です。
御仏前と御霊前の違い
表書きとして使う御仏前は忌明けに使用し、四十九日までは「御霊前」を使用します。
仏教の教義では人は亡くなると霊になり、四十九日に閻魔大王の裁きが下り成仏して極楽浄土へ行くと考えられています。
このような考えから表書は四十九日までは霊の状態のため「御霊前」、四十九日後は仏になるため「御仏前」と書くことがマナーです。
ただし、同じ仏教であっても浄土真宗だけは「故人は死後直ちに仏となる」と考えられているため、四十九日以前であっても御霊前は使わず御仏前を使用します。
【法要別】御仏前を書く墨の種類

御仏前に限らず香典袋に記載する内容は、行う儀式によって濃墨か薄墨かを使い分ける必要があります。
ここでは、故人の死後初めて行う大きな法要の初七日から一周忌以降の法要に分けて、それぞれ使う筆の種類と適切な表書きの書き方を解説します。
初七日法要
初七日法要は故人が亡くなってから七日後に行う法要で、仏教の多くの宗派では香典袋の表書きは「御霊前」と記載します。
ただし、先ほどお伝えしたとおり、浄土真宗や曹洞宗では四十九日以前であっても御仏前と書くのがマナーです。
この際に使用する墨は、「故人を亡くした悲しみの涙で墨が滲んでしまった」という意味から薄墨を使用します。
四十九日法要
故人が亡くなってから49日後に行う四十九日法要では、故人が既に成仏し遺族の悲しみも癒えていると考え通常の濃墨を使用します。
なお、四十九日法要では故人が成仏し仏となったため、どの宗派においても表書きは「御仏前」です。
初盆(新盆)
新盆はとは故人が亡くなって始めて迎えるお盆です。
この新盆では一般的なお盆の行事に加え、僧侶を招いて読経を頂きます。
この際の法要の表書きは、やはり故人が既に成仏していることから「御仏前」となり使用する墨も通常の濃い墨となります。
一周忌以降の法要
一周忌以降の法要はすでに仏様となった故人を供養する意味合いで行うため、表書きはいずれも「御仏前」となり使用する墨も濃墨です。
金額を書く際のマナー・注意点

香典袋の表書きが重要なように、金額の記載方法も非常に重要なマナーです。
ここでは、金額を書く際のマナー・注意点を解説しながら、金額を記載する際に用いる「大字(だいじ)」について説明します。
マナー・注意点①:金額は漢数字の大字(だいじ)を用いる
香典金額を記載する際には漢数字を用いますが、この際の漢数字は私たちが日常生活で用いる漢数字ではなく、旧字体の漢数字の大字を使用するのがマナーです。
次の表では、一般的な漢数字に対応する大字を記載しています。
漢数字に対応する大字一覧
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なお、「4」や「9」など数字は「死ぬ」「苦しむ」を連想する縁起が悪い数字のため香典に用いることはありません。
大字を使った記入例
ここでは、さきほど説明した大字を使った金額の書き方を、「算用数字」「漢数字」「大字」の3種類の書き方で記載します。

金額の最後の「也」について
金額の最後に「也」をつける方もいますが、この也は円よりも小さな単位があった時代の名残のため現在では不要とされています。
昔からの習慣として也をつける方もいますが、マナー的にはどちらでも良いとされているのが実情です。
マナー・注意点②:横書きの場合は算用数字を用いても良い
香典の金額は縦書きのため大字を使うことが一般的ですが、最近の香典袋の中には金額欄を横書きで設けているタイプもあります。
このような香典袋には、算用数字を用いて金額を表記してもマナー違反にはなりません。
マナー・注意点③:金額は表面・住所は中袋に書く
金額は中袋の表面中央に書き、「郵便番号」「住所」「氏名」は中袋裏面の左下に書きましょう。
なお、連名のため記載する人物の名前が多くなる場合は、別紙に名前を記入して中袋に同封するのがマナーです。
中袋がない場合
封筒タイプの香典袋には中袋がないものも多く、その際には香典袋の外袋の裏面に「住所」「氏名」「金額」を記載します。
書き方は中袋がある香典袋と同様です。
【状況別】名前の書き方

香典袋に記載する名前は、包む方の状況により記載方法が異なります。
ここでは、次に挙げる状況別に名前の記載方法について解説します。
個人の場合
故人で香典を包む場合は、香典袋の中央にご自身の名前をフルネームで記載します。
夫婦連名の場合
夫婦で葬儀に参列する場合は通常香典袋も連名で出すことになりますが、この際の名前は夫の名前だけを書くのがマナーです。
ただし、故人と夫婦ともに親しかった場合は2人の名前を書く場合もあります。
この際には、夫の氏名を中央に書き妻の下の名前のみをその左側に書きます。
また、相手に結婚の報告をしていない場合は、中袋の裏面に記載した名前の横に旧姓を書いておきましょう。
2人の連名の場合
連名で名前を書く場合であっても、2名の場合は個人で書く場合と同様に香典袋の中央に名前を書きます。
この際には、目上の方を中央に記載しその他の方を左側に書くのがマナーです。
なお、2名が同列の立場の場合は右側から五十音順に書きましょう。
3人の連名の場合
3人の連名で香典を包む場合は、香典袋の表面の書き方は2名の場合と同様の書き方になりますが、裏面に記入していた住所・氏名を別紙に記載する必要があります。
なお、別紙には住所と氏名の他に各自が包んだ香典金額を記入するのがマナーです。
中袋の表面には香典の合計金額を、裏面には代表者の住所・氏名を記載します。
4人以上の連名の場合
4名以上の連名で香典を包む場合は、表面中央に「○○一同」と記載して、3名で包んだ場合と同様に別紙に香典を包んだ人物の「住所」「氏名」「香典金額」を記載します。
企業として書く場合
企業の取引先や社員の家族などに会社として香典を包む場合は、表面中央に代表取締役名をフルネームで記載しその右側にやや小さめで企業名を書きましょう。
なお、中袋には香典金額と代表取締役の住所・氏名を記載します。
【血縁関係別】御仏前の金額相場

御仏前の金額相場は、「ご自身の年齢」「故人との関係」「お住いの地域」などで異なります。
ここでは、御仏前の金額相場を故人との関係を年代別に分け、それぞれの年代で目安となる金額を記載していますので、参考にしてください。
祖父・祖母の場合
- 20代:1万円
- 30代:1万円~3万円
- 40代:3万円~5万円
父親・母親の場合
- 20代:3万円~10万円
- 30代:5万円~10万円
- 40代:10万円~
兄弟・姉妹の場合
- 20代:3万円~5万円
- 30代:3万円~5万円
- 40代:5万円~
叔父・叔母の場合
- 20代:1万円
- 30代:1万円~3万円
- 40代:1万円~3万円
甥・姪の場合
- 20代:1万円~3万円
- 30代:1万円~5万円
- 40代:1万円~5万円
いとこや3親等より遠い親戚の場合
- 20代:3,000円~1万円
- 30代:3,000円~2万円
- 40代:3,000円~3万円
血縁関係がない場合(友人・会社関係者など)
友人の場合
- 20代:5,000円
- 30代:5,000円~1万円
- 40代:5,000円~1万円
会社関係者の場合
- 20代:5,000円
- 30代:5,000円~1万円
- 40代:5,000円~2万円
【法要別】御仏前の金額相場

香典は四十九日や一周忌など、葬儀後に行う法事の際にも必要です。
ここでは、通夜・葬儀から七回忌までの御仏前の金額をそれぞれ記載しながら、行う法事の内容について解説します。
通夜・葬儀
通夜・葬儀は故人が亡くなった際に行う儀式で、さきほどお伝えしたように香典の相場は故人との関係性によっても異なります。
この際の御仏前金額相場は、3,000円~5万円です。
初七日法要
故人が亡くなってから7日目に行う初七日法要は、葬儀後に始めて行う大規模な追善供養です。
この際の御仏前金額相場は、3,000円~5万円です。
四十九日
故人が成仏する境目となる四十九日法要は、葬儀後に行う法事の中でも特に重要な法事として多くの参列者を招いて行われます。
この際の御仏前金額相場は、1万円~10万円です。
故人と関係が深い方の香典は高額となり、両親が亡くなりご自身が40代以上であれば御仏前は10万円が相場です。
一周忌
故人が亡くなってからちょうど1年にあたる祥月命日に行われる法事です。
この際の御仏前金額相場は、故人と関係が深い方で1万円~10万円、遠い親戚や友人などは3,000円~1万円です。
三回忌
三回忌は、故人が亡くなってから2年目の命日に行う法事です。
この際の御仏前金額相場は、故人と関係が深い方で5,000円~5万円、遠い親戚や友人などは5,000円~1万円です。
七回忌
故人が亡くなってから6年目に行う七回忌の御仏前金額相場は5,000円~3万円が相場です。
なお、これ以降の年忌法要では時間経過と共に香典金額は下がります。
【宗教別】御仏前以外の表書きの書き方

香典袋の表書きは御仏前以外にも多くの書き方があり、宗教や宗派によって正確に書き分けなければ相手に礼を欠いてしまいます。
ここでは、御仏前以外の各宗教別の表書きの書き方を解説します。
仏式の場合
仏式の葬儀では御仏前以外に「御霊前」や「御香料」といった書き方がありますが、浄土真宗の場合には注意が必要です。
浄土真宗では霊魂の存在を認めていないため、「御霊前」の表書を用いることはありません。
神式の場合
神式の葬儀や法事では、亡くなった方はその家の守護神となると考えられているため、表書きには「御霊前」や「御神前」を用います。
また、お供えする玉串や榊の費用という意味合いから「玉串料」や「御榊料」などの表書きもよく使われます。
キリスト教式の場合
キリスト教式の場合では、カトリックとプロテスタントの宗派によって表書きが異なります。
カトリックでは「御花料」や「御ミサ料」、プロテスタントでは「御花料」や「弔慰料」などが一般的です。
なお、プロテスタントでは御霊は異教徒が崇拝するものという考えがあるため「御霊前」の使用は厳禁です。
宗教・宗派が確認できなかった場合
葬儀までに相手の宗教が確認できなかった場合は、表書きは多くの宗教に共通する「御霊前」とすると良いでしょう。
ただし、御霊前はキリスト教プロテスタント派ではタブーとされています。
そのため、葬儀を教会で行うことがわかったら、「御花料」と記載した香典袋を持参することをおすすめします。
御仏前を入れるのし袋と水引の種類

香典袋につけられる水引は、宗教によって使う種類が異なります。
表書き同様にこの水引の種類を間違えば、相手に対して礼を欠いてしまいますので注意が必要です。
各宗教ごとに用いる水引の種類は次のとおりです。
- 仏式の場合:黒白または双銀
- 神式の場合:双銀または双白
- キリスト教式の場合:黒白または水引不要
お金の包み方

香典では、包むお金のマナーも重要です。
ここでは、お金の包み方に関するマナーを紹介します。
お金は向きを揃える
香典袋にお金を入れる際には、お金の肖像を裏面にしてさらにその肖像が下向きになるように入れることがマナーです。
なお、入れるお金の向きはすべて揃えて入れることも重要です。
旧札を使用する
香典として包むお金は、旧札を使用するのがマナーです。
これは、「不幸事を予想してあらかじめ新札を用意した」という憶測を避けるための配慮です。
近年では、特にお金の種類やこれらのマナーに関しては全く気にならないという方もいますが、香典のためにあえて新札を用意する必要はありません。
どうしても新札しか手元にない状態の際には、お金に折り目をつけて香典袋に入れましょう。
中袋がない場合は直接入れる
香典袋の中には中袋がない種類もあるため、この場合はお金を直接香典袋に入れましょう。
中袋がないからといってマナー違反になるわけではありません。
御仏前を渡す際のマナー

御仏前の香典は渡す際のマナーも重要です。
ここでは、香典を渡す際のマナーやお悔やみの言葉について解説します。
- 施主の方に手渡す
- 袱紗(ふくさ)に包んで渡す
- お悔やみの言葉を述べてから渡す
- 法事に欠席する際には後日郵送で渡す
マナー①:施主の方に手渡す
香典は、施主の方に直接手渡すことがマナーです。
しかし、このマナーはお住いの地域で大きく慣習が異なる場合があります。
基本的なマナーは押さえつつ、周囲の方の動きに合わせる柔軟な対応が無難と心得ましょう。
マナー②:袱紗(ふくさ)に包んで渡す
香典袋は袱紗に包んで持参することがマナーです。
受付で渡す際には袱紗から香典袋を取り出して、相手から見て表書きが見えるよう時計回りに回して両手で手渡しましょう。
マナー③:お悔やみの言葉を述べてから渡す
施主に香典を渡す際には、お悔やみの言葉を述べながら渡します。
無言で会釈をしながらの渡す方も増えていますが、できれな故人を偲ぶ言葉と共に渡すのが正式なマナーです。
なお、お悔やみの言葉には次のような声かけが一般的です。
- この度は誠にご愁傷様でした。どうか御霊前にお供えください
- この度は思いもかけないことで謹んでお悔やみ申し上げます
- 本当に残念なことで心からお悔やみ申し上げます。心ばかりですが仏前にお供えください
マナー④:法事に欠席する際には後日郵送で渡す
何らかの事情で法事を欠席する際には、香典を後日郵送することになります。
この場合は、郵便トラブルを考慮して現金書留を利用しましょう。
まとめ

突然の訃報を受けた際には、誰もが動揺してしまいその後の行動まで気がまわらないものですが、葬儀に持参する香典袋のマナーは知っておきたいものです。
特に「御仏前」などの表書きは、「宗教」「宗派」「法要の種類」で書き方が異なるため、その教義の背景を踏まえながら理解していればどのような葬儀にも対応することができます。