葬儀や法要でお焼香をするとき、やり方がわからず戸惑うことはありませんか?
自分の前にお焼香をした人を真似ようとしても、作法がよく見えなかったりぎこちなくなってしまうと、お焼香のやり方をちゃんと知っておけば良かった……と悔やんでしまいます。
お焼香は葬儀や法要では欠かせないものですから、できればきちんとした作法を身につけておきたいですよね。
今回は、お焼香のやり方や種類、お焼香をするときの注意点・マナーについて詳しく解説していきます。
お焼香の種類と意味

お焼香は、よい香りを焚いて仏様や故人に捧げることで自分の心身を清め、心からのお悔やみや敬意の気持ちを捧げるという意味があります。
さらに、お香のよって清められた心身は邪気を祓うと考えられており、葬儀や法要では欠かせないものとして定着しました。
お焼香にもいくつかの種類があり、葬儀の内容によって使用されるお香も変わってきます。
では、お焼香で使用されるお香にはどのような種類があるのか、具体的な例を挙げて詳しくご紹介しましょう。
種類①:抹香を焚く(たく)
抹香とは、香木を粉状に細かく砕いたもので、お焼香として一番認識されている種類です。
抹香の入った器の隣に焼かれた炭を置いた香炉を用意し、抹香をひと摘みとって香炉に落とすことで良い香りを匂い立たせ、仏様や故人に捧げて心身を清めます。
抹香となる香木は、
- 白檀(びゃくだん)
- 沈丁(じんちょう)
- 丁子(ちょうじ)
- 鬱金(うこん)
- 龍脳(りゅうのう)
といった数種類がブレンドされたもので、抹香の等級が上がると実に10種類以上もの香木を合わせることも少なくありません。
種類②:お香を塗る
お香を手に取って塗り込める方法を塗香(ずこう)と呼び、宗派によってはお焼香が塗香で行われることがあります。
粉末状になったお香を左手にとったあと、右手でひと摘み口に含んで体内を清め、残りのお香を両手で擦り合わせて最後に塗り込めるのが塗香の作法です。
お香を口に含むという所作は少し驚きますが、塗香をすることで身体の内側から心まで清められると考えられています。
経本を手に取ったり読経をする前に塗香が行われることも珍しくありません。
種類③:線香を焚く
お線香を焚く方法も、仏様や故人に良い匂いを届ける作法としてよく見られます。
お線香を焚く場合、気をつけなければならないのがお線香の供え方です。
実は、宗派によってお線香の供え方にも違いがあるため、事前によく確認しなければなりませんん。
宗派別の線香の供え方は次のとおりです。
宗教 | 供え方 |
---|---|
真言宗・天台宗 | お線香を3本とったあと火をつけ、1本を自分側、残り2本を祭壇側に逆三角形になるように立てて供える |
日蓮宗・曹洞宗・臨済宗 | お線香を1本とったあと火をつけ、線香立ての真ん中に立てて供える |
初盆 | 3万円~5万円 |
浄土宗 | お線香を1本〜3本とったあと火をつけ、線香立ての真ん中に立てて供える |
浄土真宗 | お線香を1本とったあと真ん中から2つに折ってをつけ、線香立てに寝かせて供える |
お焼香で押さえておくべきやり方

お焼香は、葬儀や告別式の会場の広さや参列者の人数によって、そのやり方が異なります。
例えば、会場が狭く参列者が多いとお焼香に立つことは難しいですし、椅子がなく座って法要を行う場合はそれに合った作法が必要です。
では、お焼香の仕方には具体的にどのような方法があるのか、その種類と作法を詳しくお伝えします。
やり方①:立礼焼香
立礼焼香は、会場に参列者の椅子席が用意されている場合に行われるやり方です。
参列者は自分の順番が回ってきたら立ち上がり、焼香台まで進んで焼香をあげ手を合わせます。
主な手順は次のとおりです。
- 焼香の順番がきたら立ち上がり、遺族・僧侶に一礼してから焼香台の数歩手前まで進む。
- 焼香台の手前で一度立ち止まり遺影をみて手を合わせる。
- 焼香台の前に立ち、抹香を右手の親指・人差し指・中指の3本で摘んで、額に掲げるように捧げてから香炉に落とす(この作法は宗派によって異なる)。
- 3の作法を1回から3回繰り返す(回数は宗派によって異なる)。
- 焼香が済んだら合掌し、遺影の方向を向いたまま3歩下がってから僧侶・遺族に向き直って一礼して席に戻る。
やり方②:座礼焼香
座礼焼香は、会場が和室で畳に座った状態でお焼香をするやり方です。
参列者が焼香台まで移動するのは立礼焼香と変わりませんが、立ち上がらずに移動しなければならないため、膝をついたまま移動する「膝行(しっこう)」「膝退(しったい)」という作法を知っておかなければなりません。
「膝行」と「膝退」は、膝をついたまま少しお尻を持ち上げ、腕をついて少しずつ移動する方法です。
座礼焼香の主な手順は、次のとおりです。
- 拳を握った状態から親指だけを立てて畳につけ、両腕で身体を支えながら少しお尻を上げて、膝をついたまま遺族席の前まで移動する。
- 遺族席の前にきたら僧侶と遺族に例をして、座布団には座らず下座へよけて焼香台まで進み、正座をして合掌する。
- 立礼焼香と同様に焼香を行う。
- 焼香を終えたら祭壇を向いたまま「膝退」し(立ち上がらず膝を少し浮かせた状態で下がる)、僧侶・遺族に一礼する。
- 一礼を終えたらできるだけ「膝行」「膝退」で自分の席に戻るが、席が遠い場合は腰をかがめた状態で移動しても良い。
やり方③:回し焼香
回し焼香とは、会場が狭く参列者の移動がしにくい場合に行うやり方です。
参列者が移動する代わりに、お盆に乗せられた抹香と香炉が自分の席まで回ってきますので、参列者は座ったまま焼香を行います。
回し焼香の主な手順は以下のとおりです。
- 自分より前の人からお盆が回ってきたら軽く一礼して受け取り、自分の膝の上か目の前に置く。
- 立礼焼香と同じように焼香をしたあと合掌する。
- 焼香が済んだら、次の人に軽く一礼してからお盆を回す。
【宗派別】お焼香のやり方

お焼香をするとき、摘んだお焼香を額に捧げる「押し頂く」(目より高くささげて持つ)という行為の有無や、お焼香の回数が違っていて迷うことがありますよね。
お焼香の作法や宗派によって異なるので、できれば宗派別に正式なお焼香のやり方を知っておく方がスマートです。
ここでは、お焼香のやり方を宗派別にご紹介していきますので、各宗派の作法を確認しておきしょう。
真言宗
真言宗のお焼香は、3回行うことが基本です。
まず抹香を右手の親指・人差し指・中指で摘んだあと、額に押し頂いて香炉の中に落とします。
この行為を3回繰り返し、最後に合掌してください。
臨済宗
臨済宗のお焼香は、押し頂く作法や回数が少し複雑です。
実際に行われている例は次のとおりなので、他の方のお焼香を見ながら適切なやり方を選んで行うようにしましょう。
- 抹香を右手の親指・人差し指・中指で摘んだあと、押し頂かず香炉に落として合掌する。回数は一回で、この作法が一番多い。
- 抹香を右手の親指・人差し指・中指で摘んだあと、押し頂いて香炉に落とす。回数は一回。
- 抹香を押し頂いて香炉に落としたあと、もう一度抹香を摘んで押し頂かず添えるように落として合掌する。
曹洞宗
曹洞宗のお焼香では、「従香(じゅうこう)」と呼ばれる作法があります。
まず抹香を右手の親指・人差し指・中指で摘んだあと、押し頂いてから香炉に落としてください。
そのあともう一度抹香を摘み、押し頂かずに最初に落とした抹香に添えるように香炉へ落とします。
香炉へ落とす回数は2回ですが、1回目は押し頂き、2回目は押し頂かないという違いがあるので注意しましょう。
日蓮宗
日蓮宗のお焼香は、お焼香をする人の立場によって回数が変わります。
僧侶がお焼香を行う場合は3回で、抹香を右手の親指・人差し指・中指で摘んだあと、押し頂いてから香炉へ落とす行為を3回繰り返します。
信徒や参列者がお焼香を行う場合は1回で、抹香を右手の親指・人差し指・中指で摘んだあと、押し頂いてから香炉へ落とすのが作法です。
回数がどうしても気になるときは、事前に菩提寺や同じ檀家の人に尋ねておくと良いでしょう。
天台宗
天台宗のお焼香は、とくに決まった作法はありません。
押し頂く作法も回数にも制限がないので、自由にお焼香をすることが一般的です。
とはいえ、あまりに多い回数だとおかしいですから、できれば他の参列者のやり方に寄せて行った方が無難です。
他の宗派では1回〜3回行うことがほとんどなので、天台宗の葬儀や法要に参列するときにも、この回数を目安にしてみましょう。
浄土宗
浄土宗のお焼香も、天台宗と同じく決まった作法がありません。
したがって、他の宗派の回数を目安にしてお焼香をすると良いでしょう。
浄土真宗
浄土真宗のお焼香では、回数と押し頂く作法の他に、合掌するタイミングも気をつけなければなりません。
一般的な作法では、お焼香の前に合掌してから抹香を摘みますが、浄土真宗では焼香台の前にきたら合掌をせず、そのままお焼香をします。
抹香を右手の親指・人差し指・中指で摘んだあと、押し頂かずに香炉へ落とす作法を一回だけ行い、そのあとに合掌してから席に戻りましょう。
お焼香をする順番

お焼香は、故人に一番近しい人から行うことが作法です。
お焼香の順番を理解しておかないと、いざお焼香というときに順番が違って慌てることもあります。
今からご紹介する順番をよく確認してみましょう。
- 喪主
- 故人のニ親等内
- 故人の親族
- 一般参列者
順番①:喪主
最初にお焼香を行うのは、喪主となる人です。
具体的な例は次のとおりなので、故人と自分との続柄を確認してみましょう。
- 夫や妻が亡くなった場合:配偶者
- 自分の親が亡くなった場合:直系で一番年上の子供
- 子供が亡くなった場合:子供の親
- 兄弟が亡くなった場合:結婚していた場合は兄弟の配偶者、未婚の場合は親
順番②:故人のニ親等内
喪主の次にお焼香をするのが、故人の二親等内の人です。
つまり、故人から数えて二つ家系を辿ったときに該当する人が、故人の二親等内になります。
故人から数えた具体例は下記の通りになりますので、次の例を参考にして順番を考えてみましょう。
- 故人の両親
- 故人の祖父母
- 故人の配偶者
- 故人の兄弟
- 故人の子供
- 故人の孫
順番③:故人の親族
喪主、故人の二親等内の人がお焼香をしたら、故人の親族にあたる人がお焼香をします。
具体的には、故人の叔父や叔母、故人の従兄弟、故人の甥や姪といった人が該当しますが、親族のお焼香になると血縁の近さより、年齢で順番を決めることも少なくありません。
例えば、親族のうちより血縁の近い人からお焼香をすることもありますし、血縁よりも年功序列を優先し、高齢の方からお焼香をすることもあります。
二親等まではお焼香の順番を気にしがちですが、三親等以上になるとあまり意識されることはありませんので、親族内で譲り合いながら順番を決めていきましょう。
順番④:一般参列者
故人の親族のお焼香が終わったら、一般参列者がお焼香をします。
一般参列者のお焼香の場合、親族に近い席、つまり祭壇により近い人からお焼香を始めることがほとんどです。
さらに、一般参列者が多い場合は、祭壇前の他にも複数の焼香台が用意されることが多いです。
焼香台に近い人から順番に立ち上がり、お焼香を済ませるようにしましょう。
お焼香のやり方に関するよくある疑問

お焼香のやり方を事前に調べて準備していても、いざお焼香をする段階になると「こんなときはどうすれば良い?」と迷うことも少なくありません。
そこでこの章では、お焼香のやり方に関する疑問のうち、よくある質問や疑問点を取り上げて、その解決方法をご紹介していきます。
疑問①:お焼香のときバッグはどうする?
お焼香のときは、自分が座っている席を立って焼香台まで移動しますが、荷物を入れたバッグをどのようにすれば良いか迷う人も少なくありません。
特に女性の場合、お財布や携帯など貴重品をバッグに入れていることも多いですし、席に置いていってもしなくなったらと思うと、気が気じゃありませんよね。
かといって、バッグを持ったままお焼香をするのも失礼に感じますし、何かスマートな解決方法はないかと模索するケースも多いのです。
実際にお焼香を経験した人の例によればと、次のような方法でバッグを管理しています。
- 席を立つときに顔見知りに預け、お焼香が済んだら受け取ってお礼を言った。
- バッグが小さかったので持ったまま席を立ち、脇に挟んでお焼香を済ませた。
- 取手がついているハンドバッグだったのでそのまま席を立ち、腕に掛けてお焼香をした。
- 近くの席の人同士で声を掛け合い、お互いにバッグを見るようにした。
- 焼香台の近くに台が用意されていたので、バッグをそこに置いてお焼香をした。
例をみると、「誰かにお願いする」という方法が多いですね。
最近では、斎場側で焼香台の近くにバッグを置くスペースを設けることもあり、状況に合わせて対応することがほとんどです。
もしどうしても不安な場合は、参列する前に顔見知り同士で声を掛け合ったり、手に持っていても邪魔にならない大きさのバッグで参列するようにしましょう。
疑問②:お焼香での数珠の持ち方は?
お焼香でも数珠を持って合掌をしますが、数珠の持ち方に悩む人も多くいらっしゃいます。
お焼香で抹香を摘むのは右手になりますので、数珠は左手に掛けるように持ち、所作が済んだら両手に掛け直して手を合わせてください。
席から移動するときも同様で、数珠の房が下にくるよう左手で持ち、手を合わせるときに両手に掛けてお参りする方がスマートです。
お焼香の所作はすべて右手で行うので、数珠は左手で持つようにしましょう。
疑問③:お焼香の回数を間違えたら?
お焼香の回数を間違えたとき、どうしても気になって慌ててしまうことってありますよね。
先ほど紹介したように、お焼香は各宗派によって作法がありますから、できれば作法に従って行うことが理想的です。
しかし、そもそもお焼香は「お悔やみや敬意を香りと共に故人へ届ける」ものですから、気持ちがこもっているお焼香であれば、回数を間違えても慌てる必要はありません。
各宗派の作法をみても、1回から3回であれば大きく外れることはありませんので、仏様や故人に対する気持ちを込めてお焼香をするようにしましょう。
お焼香をするときの注意点・マナー

お焼香をするときは、各宗派の作法の他にも、守るべきマナーや注意点があります。
では、どのような点に気をつけてお焼香を行うべきなのか、お焼香をするときの注意点やマナーについて詳しく解説しましょう。
注意点・マナー①:マスクは外して行う
衛生面を考えてマスクをしたまま参列する人がいますが、お焼香ではマスクを外すのがエチケットです。
お焼香は、香りで参列者のけがれを祓うという意味もありますので、マスクをしていると香りが届きにくくなってしまいます。
さらに、お焼香の香りは仏様への敬意にもつながっていますから、マスクをしたままでのお焼香は仏様に失礼と考える人も少なくありません。
理由があってマスクをしている場合も、お焼香のときだけは外してマナーを守るようにしましょう。
注意点・マナー②:順番は事前に決めておく
お焼香は、故人に近しい人から順番に行われます。
したがって、事前に順番を決めて遺族が把握しておかないと、いざお焼香の案内をされたときに誰からお焼香をするか迷ってしまい、流れが止まる可能性があるのです。
さらに、一番最初にお焼香を行う人は誰かを見本にすることもできませんので、順番を決めて準備をすることが大切です。
先ほどご紹介したお焼香の順番を参考にして、事前に順番を決めておくようにしましょう。
注意点・マナー③:順番に合わせて着席しておく
お焼香の順番と同時に決めておかなければならないのが、斎場の席順です。
お焼香は祭壇に近い人から順番に行うので、斎場の席の一番前で焼香台に近い場所から順に着席すると良いでしょう。
もし小さな子供がいて本来の席が難しい場合でも、前から2列目の端の席に着席すれば退席もスムーズになります。
できるだけ、お焼香の順番に合わせて着席しましょう。
注意点・マナー④:やり方がわからないときは調べておく
お焼香のやり方がわからないときは、できるだけ事前に調べていざというとき慌てないよう準備をしましょう。
まれに「前の人に合わせれば良いから」と考える人もいますが、席順によっては自分が最初になることもありますし、焼香台の手元が見えずやり方がわからないというケースもよくあります。
さらに、もし前の人が間違っていてそれをそのまま続けてしまうと、その宗派の信徒の人にはあまり快く思われません。
供養する気持ちが一番大切ですが、事前にお焼香のやり方を調べておくことも気持ちの表れです。
お焼香のやり方がわからないときは事前に調べておきましょう。
注意点・マナー⑤ 焼香のときは遺族に話しかけない
お焼香の前と後に遺族に一礼しますが、このときに遺族に話しかけるのはあまり良いことではありません。
実際に、お焼香のときに久しぶりに会ったからといって長々と話かけられてしまい、他の人の一礼に返すことができず遺族が困ったというケースがあります。
お焼香をするときは、遺族に一礼をしてすぐに自分の席に戻るよう心掛け、葬儀や法要が終わってからゆっくり話をするようにしましょう。
注意点・マナー⑥ 司会者の案内に従って行動する
多くの場合、お焼香は司会者の案内によって行われます。
特に、参列者が多い葬儀では複数の焼香台が用意され、司会者から「お近くの焼香台へお進みください」という案内をされるのが一般的です。
しかし、参列者の中にはその案内を無視して遠くの焼香台に進む人がいることもあり、列が乱れたり流れが滞るケースも少なくありません。
司会者は、葬儀や法要がつつがなく終えられるよう考えて案内をしていますので、お焼香は司会者の案内に従って行うようにしましょう。
まとめ

お焼香にはさまざまな作法や決まりがあります。
事前に確認することで不安な点を取り除き、礼儀にかなったお焼香を行うことができます。
各宗派の作法やお焼香の注意点・マナーをよく確認して、遺族や参列者に失礼のないお焼香になるよう心掛けましょう。