法事の際に必要となる香典ですが、この香典を包む香典袋の表書きをみなさんは知っていますか?
香典袋の表書きは、「宗教・宗派」「法事の時期」などを考慮しながら記載方法を変えるなど、非常に複雑で分かりづらいマナーがあります。
そこで、ここではこの香典の表書きに関するマナーを中心に、香典袋の中袋の注意点や香典袋の種類について解説します。
香典にマナー違反があると、遺族に対し不快な思いをさせてしまうことになりかねません。
香典のマナーは、葬儀全体の中でも基本的なマナーです。
これから法事に参加する機会が増える社会人にとっては、押さえておかなくてはならないマナーの一つです。
法事の表書きとは何か?

まずは、「法事の表書き」とは何を指しているのかから説明していきましょう。
みなさんは、「御祝い」「お見舞い」などの文字が書かれた、白色の封筒を見たことがあるのではないでしょうか?
表書きとは、この「御祝い」「お見舞い」に該当する文字で、法事の表書きとは弔事で渡す府祝儀袋に記載された文字のことです。
この表書きは、日本古来のしきたりが現代に継承されたもので、非常に長い歴史と伝統があります。
日本では、元々贈り物に目録をつける習わしがあります。
その慣習が簡略化され、香典袋の表面に表書を書くようになったと言われています。
このように、古くからの習わしが形を変えて現代に継承されてきた表書きは
- 袋の中身にはどの様なものが入っているのか
- どの様な気持ちで贈ったものなのか
を表すために記述します。
法事で香典が必要な場面

教義上、法事に参加するだけで故人を供養する思いは表現されると言われますが、参列者のマナーとして香典が必要な法事があります。
ここでは、香典が必要となる法事にはどのようなものがあるのかについて解説しましょう。
初七日法要
初七日法要は、葬儀が終わった後一番最初に行われる法事です。
一般的には、故人の親族などごく限られた身内で行われる場合がほとんどですが、故人と生前の関係が特に深かった方は遺族から声がかかる場合もあります。
初七日法要では、ご焼香が行われるため香典を渡すことがマナーとなっています。
四十九日法要
仏教では、
- 故人が亡くなった日から49日間を「中陰」
- 49日目にあたる日を「満中陰」
と呼び、忌明けの日として法事が営まれます。
この際の法事は「四十九日法要」と呼ばれ、「親族」「友人」「知人」など、故人と関係があった方を大勢招いた大規模な法要が行われます。
僧侶による読経・参列者の焼香・法要後の会食を行うことが一般的であり、参列者は香典を持参します。
年忌法要・初盆
「一周忌など年忌法要までくれば香典は必要ないんじゃないの?」とお考えの方もいらっしゃいますが、年忌法要であっても香典は必要です。
これは、香典が遺族と参列者の「相互援助」の精神に基づいて行われている、葬儀マナーだからです。
そのため喪主・施主が法事を行うのであれば、参列者は香典を持ち寄り法要を手助けしなければいけません。
年忌法要のように、故人が亡くなってから日数が経過した法事は、基本的には回数を重ねるごとに参列者の数は限定され規模も縮小していきます。
しかし、「相互援助」の精神は変わる事はありませんので香典が必要となるのです。
この考え方は、故人が亡くなってから始めて迎えるお盆「初盆」でも同様です。
初盆の法要は、四十九日法要と同様の内容が行われる事が多く、参列者は香典を持参します。
【宗教別】表書きの書き方

香典袋は「不祝儀袋」とも呼ばれ、葬儀や法事の際のお悔やみとして現金を包む際に使用します。
この際の表書きは、渡す方の宗教によって異なります。
ここでは、私達に馴染み深い「仏教」「神道」「キリスト教」の3つの宗教を例に、それぞれの表書きを解説しましょう。
宗教 | 表書き | |
仏教 |
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神道 |
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キリスト教 | カトリック |
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プロテスタント |
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仏教の場合
仏教の場合の表書きは、次のようにと表記することが一般的です。
- 御霊前
- 御仏前
- 御香料
- 御香典
このように、表書きには多くの表記方法があります。
これらはこの後の「時期別表書きの書き方」で解説するように、故人が亡くなってからの時期によって使い分ける必要があります。
ただし、仏教であっても「浄土真宗」の場合は他の宗派とは「死」の概念が異なり、死者の冥福を祈るという教義がありません。
そのため、表書きはどのような場合でも「御仏前」と表記します。
神道の場合
神道では、仏教でいうところの法事・法要では、「霊祭」という儀式が行われます。
この霊祭に参列する方は香典が必要となり、香典の表書きは次のように表記することが一般的です。
- 御玉串料
- 御榊料
なお、香典が必要な霊祭の種類・行う時期は次のとおりです。
霊祭の種類 | 行う時期 |
翌日際 | 葬儀の翌日に自宅で家族のみ |
十日祭 | 故人の死後10日ごとに行われ40日まで |
五十日祭 | 親族・友人を招いて大規模に行う(仏教の四十九日法要にあたる) |
百日祭 | 故人の死後100日目 |
式年祭 | 満50年目まで行う(仏教の年忌法要にあたる) |
キリスト教の場合
日本ではそれほど多くはありませんが、喪主がキリスト教の場合は葬儀・法要もキリスト教の教えに従い行われます。
ここでは、キリスト教の2大宗派である「カトリック」と「プロテスタント」の香典の表書きを解説します。
カトリックの場合
カトリックでは、仏教の法事・法要にあたる儀式を「追悼ミサ」と呼び、故人の死後7日目と30日目に大規模に行います。
この追悼ミサに参列する方は香典が必要となり、香典の表書きは次のように表記することが一般的です。
- 御ミサ料
- 御花輪料
- 御花料
プロテスタントの場合
プロテスタントでは、仏教の法事・法要にあたる儀式を「記念集会」と呼び、故人の死後1ヶ月目に「昇天記念日」を行います。
この昇天記念日に参列する方は香典が必要となり、香典の表書きは次のように表記することが一般的です。
- 忌慰料
- 御花料
【時期別】表書きの書き方

香典の表書きは、香典を渡す法事の時期によっても記載方法が異なります。
ここでは、法事を行う時期を「四十九日前」と「四十九日後」にわけ、表書きの記載方法を解説します。
- 四十九日以前:御霊前
- 四十九日以降:御仏前
四十九日以前の書き方
四十九日以前に行われる法事では、表書きは「御霊前」と記載します。
なお、この際の筆は、毛筆の筆を使い「薄墨」で書くことがマナーです。
薄墨を使う理由は「突然の事で墨をする時間もなかった」「涙で墨が滲んで薄くなった」など、突然の悲しい知らせに哀悼の意を表すためだと言われています。
ただし、最近では墨を常備している家庭は少なく、薄墨用の筆ペンを使用しても問題はありません。
四十九日以降の書き方
一方で、四十九日以降の法事の表書きは「御仏前」と記載します。
また、あらかじめ予定されている法事という認識のため、使用する墨は通常の濃い墨を使用しましょう。
ただし、地域によっては四十九日以降も薄墨を使用して表書きを記載する地域もあるため、法事を行う地域の風習・しきたりを確認する必要があります。
【状況別】表書きの名前の書き方

表書きにはご自身の名前も含まれており、この名前の書き方には厳密なルールがあります。
特に、連名や複数人で香典を出す場合の名前の表書きのルールは、遺族側が香典を出した側の情報を把握する意味合いがあります。
そのため、統一した表記方法があり、これに従わない弔問客はルールを守れない迷惑な弔問客とみなされる場合があります。
香典を連名で出す方や複数人で出す方(職場の有志など)は、この表記方法を十分に理解して名前の表書きを表記しなければなりません。
次の3つのケースに関して詳しく解説しましょう。
- 個人で出す場合
- 連名で出す場合
- 複数人で出す場合
状況①:個人で出す場合
個人で香典を出す方の名前の表書きは、特に決まりはありません。
香典袋の水引を境に、下段中央にフルネームで記載します。
状況②:連名で出す場合
香典は世帯ごとに出すため、夫婦で法事に参列する場合であっても、名前は夫の名前を下段中央に記載します。
ただし、故人が夫婦共通の友人などの場合は、夫婦それぞれの名前を連名で記載します。
香典袋の表面下段中央に夫の姓名を記載し、その横に妻の名前を書くとバランスが良いでしょう。
状況③:複数人で出す場合
香典を複数人で出す場合は、名前を表記するのは3名までです。
その場合、香典袋の表面下段中央に代表者の姓名を記載し、その左右にその他の姓名を記載します。
4名以上の場合は、まず代表者の姓名を下段中央に記載し、その左側に「他○名」「他一同」という記載方法になります。
このように、香典を出す人数が3名以上で名前を表書きに表記できない場合は、別紙に全員の姓名を記入して中袋へ入れておきましょう。
中袋に関する注意点

先ほど少し触れたように、香典袋には中袋がついたものもあります。
この中袋に関しても注意点があります。
注意点①:住所・氏名・金額を書く
中袋には、次の3点を記載します。
- 住所
- 氏名
- 香典金額
使用する筆は毛筆が推奨されますが、中袋は読みやすさが重要となるため、万年筆や筆ペンを使用しても問題はありません。
墨の色は濃い墨を使用します。
記載場所は、次の2パターンがあります。
パターン①
- 金額:中袋の表面
- 住所・氏名:裏面に記載する
パターン②
- 金額:中袋の裏面の右側
- 住所・氏名:中袋の裏面の右側
ちなみに、中袋にはあらかじめ「住所」「氏名」「香典金額」を記入する欄が設けられているものもあります。
その場合は、記入欄に従って記載してください。
注意点②:金額は旧字体の漢数字で書く
香典の金額は、故人との関係性や法事の内容によっても異なりますが、「死」や「苦しむ」を連想させる「4」や「9」の金額は避けなければなりません。
また、2で割り切れる偶数も「故人との縁切れる」または「この世と故人の関係が切れる」と言われ、はばかられます。
金額の記載方法は、「一」「二」「三」の様な新字体の漢数字ではなく、「壱」「弐」「参」の様に旧字体の漢数字で記載することがルールです。
旧字体の漢数字記入例は次の通りです。
新字体漢数字(使用不可) | 旧字体漢数字(使用可) |
五千円 | 金伍仟圓・金伍阡圓 |
一万円 | 金壱萬圓 |
二万円 | 金弐萬圓 |
三万円 | 金参萬圓 |
十万円 | 金拾萬圓・金什萬圓 |
注意点③:中袋がない場合は裏面に書く
香典袋の中には、中袋がないタイプのものも多く販売されています。
これらは略式の中袋と解釈され、金額が少ない香典や香典を郵送で送る際に使用されます。
この場合は、香典袋の裏面、水引下段の左側に住所・金額を記載します。
氏名に関しては、香典袋の表面に記載済みなので、改めて記載する必要はありません。
法事の香典袋の選び方

香典袋には通常「水引(みずひき)」と呼ばれる飾り紐がついています。
この水引には「未開封」「魔除け」「人と人とを結びつける」などの意味があり、その歴史は古く室町時代にさかのぼります。
このように、長い年月をかけて私たちの冠婚葬祭の贈答品、もしくは香典に使われてきた水引は、その種類も大変多く葬儀の内容や香典の金額の過多により使い分けられます。
ここでは、この水引を中心に香典袋の使いわけや正しい選び方を解説します。
種別 | ケース | 水引の種類 |
回忌・周忌数 | 一周忌まで |
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三回忌 |
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宗教別 | 仏教 |
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神道 |
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キリスト教 |
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香典の金額別 | 5千円以下 | 表書きと水引が印刷されているタイプ |
1万円~3万円 |
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3万円以上 |
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地域別 | 関東地区 |
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関西地区 |
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回忌・周忌数別の水引
水引の色は、一周忌までは「黒白」もしくは「銀色」が一般的です。
三回忌からは、「青白」もしくは「黄白」のものを使用します。
宗教別の水引
ここでは、宗教別に使用する水引について解説します。
仏教の場合
仏教で使用する水引は
- 色:黒白・銀色
- 結び方:結び切り
が正式なマナーです。
神道の場合
神道で使用する水引は
- 色:白・銀色
- 結び方:結び切り
が正式なマナーです。
キリスト教の場合
キリスト教では水引の無い香典袋の使用が一般的です。
ただし、水引がある香典袋を使用する場合は
- 色:黒白
- 結び方:結び切り
を使用しても問題はありません。
香典の金額別の水引
香典袋や水切りは、香典金額によっても異なります。
ここでは、次の3つの金額に分けて解説します。
- 5千円以下
- 1万円~3万円
- 3万円以上
5千円以下の場合
この金額の香典を包む場合、表書きと水引がプリントされているタイプの香典袋を使用します。
なお、5千円以下の香典の場合は豪華な水引がついた大きな香典袋を使用すると、喪主や施主に対し失礼に当たります。
これは、「香典袋や水引は香典の金額に見合うものを使用しなければならにない」というルールがあるためです。
1万円~3万円の場合
この金額の香典を包む場合、標準サイズの香典袋に白色と黒色の水引がついたデザインを選びます。
また、京都を中心とした関西地方では、白色と黄色の水引がついたデザインの水引を使用します。
3万円以上の場合
この金額の香典を包む場合、大型の香典袋を使用し、銀色の水引がついたデザインを選びます。
なお、5万円~10万円を超える香典を包む場合は、最大サイズの香典袋に蓮の花の模様が薄くあしらわれ、細やかな細工を施した銀色の水引が使われた、高級感ある香典袋を使用します。
地域別の水引
通夜・葬儀では全国的に黒白の水引が使用されますが、法事の際の水引となると、関東と関西では黄白の水引を使用できる期間に違いがあります。
関東地区の場合
- 一周忌法要まで黒白の水引を使用する
- 三周忌以降は黄白の水引を使用しても良い
関西地区の場合
- 四十九日法要から黄白の水引を使用できる
法事の香典袋の3つのマナー

香典袋に関しては、お金の種類やお金の入れ方に関してもマナーがあります。
失礼に当たらないよう、しっかりと把握しておいてください。
マナー①:新札は使わない
お葬式や法事の香典に、新札を使うのはマナー違反です。
これは、不幸ごとを予想し事前に香典を用意していたという印象を避けるためだと言われています。
どうしても新札しか用意できない事情がある方は、新札を一折してから包むと良いでしょう。
なお、三回忌など故人が亡くなってからかなりの年数が経過した法事であっても、香典に新札を使う事に抵抗感を覚える方は多くいます。
香典を包む場合は、どのような法事であっても新札は使わない方が無難です。
マナー②:お金の向きは揃える
香典袋に入れるお金の向きが不揃いなのはマナー違反です。
お金の向きは、人物が書いてある方を裏にし、さらに人物の顔を下向きにして香典袋に揃えて入れなければなりません。
これは、施主がお札を取り出した際に金額を確認しやすくするためだと言われています。
マナー③:袱紗(ふくさ)に包んで渡す
袱紗とは、贈り物を包んだり覆ったりする儀礼用絹布です。
冠婚葬祭において使用されますが、法事の際は香典袋を包むために使用されます。
香典袋を裸のまま持ち歩き、裸のまま遺族に渡す行為はあまり美しいものではありません。
大切に袱紗に包んだ香典袋を、袱紗を開いて取り出した後に遺族に渡すのが正式なマナーです。
まとめ

法事の際に喪主・施主に包む香典袋には、今回紹介した「表書きのマナー」「香典袋のマナー」「中袋のマナー」など多くの決まりごとがあります。
そのため、不幸事に慣れていない方にとっては、その情報の多さに少し驚いてしまうかもしれません。
しかし、ご自身が参加する葬儀の内容を理解できれば、先ほどお伝えしたマナーは簡単に理解することができるはずです。
香典に関するマナーは、間違ってしまうと故人や遺族に失礼にあたる、重要な内容が多く含まれています。
普段から身近な葬儀や法事に気を配り、いざというときに備える気持ちが大切です。