出棺までの流れ・手順

出棺とは、一般的な仏式の葬儀において、告別式を終えた後の遺体を霊柩車に乗せて火葬場に向けて出発する儀式を指すことばです。
遺体は火葬場へと運ばれますが、ご遺族の希望があれば故人の思い出の場所やご自宅の前を通過したあと、火葬場へと運ばれます。
ここではこの出棺について、その流れ・手順について順を追って解説します。
流れ・手順①:棺を葬儀会場の中央に移す
告別式が終わり、僧侶が退席すると出棺の準備です。
参列者は一度席を立ち、葬儀スタッフにより椅子が撤去されます。
祭壇から遺体が収められた棺が降ろされ、葬儀会場の中央に移動します。
このとき、棺は頭が北を向くように置かれます。
流れ・手順②:棺の蓋を開け故人と最後のお別れをする
棺のふたが開けられ、遺族や近親者、友人や知人といった故人とゆかりが深い順番に最後のお別れです。
その際に、祭壇や棺の周囲に飾られている共花を各自が故人の周りにも飾ります。
葬儀会場のスタッフがお盆にのせて準備した共花は参列者に渡され、この共花を棺に入れることを「別れ花」と呼びます。
一般参列者は、故人の棺に別れ花を入れる時間が、故人と対面する最後の時間です。
親族に続いて遠慮することなく共花を棺に飾り、故人との最後の時間を過ごしましょう。
流れ・手順③:棺の蓋を閉め釘打ちの儀を行う
故人と最後のお別れが済むと、次は釘打ちの儀です。
この釘打ちの儀は棺の蓋を閉める儀式で、葬儀業者の手によって金槌で釘の半分を打ちこみます。
その後、遺族が血縁の順にこぶしほどの大きさの石をもって軽く2回ずつ釘を打ち、最後に葬儀業者スタッフの手により金槌で釘が最後まで打ちこまれます。
この釘打ちの儀は、故人が三途の川を無事に渡り、黄泉の国へ難なく辿り着ける願いが込められた儀式です。
ただし、この釘打ちの儀は、お住いの地域や宗派によってはまったく執り行われない場合もあります。
流れ・手順④:参列者の男性が数名で棺を霊柩車に運び入れる
棺に釘が打ちつけられたら、その棺を霊柩車まで運び入れます。
一般的には、遺族や親族、友人や知人などの中から男性6人から8人が棺の隅を抱える形で霊柩車へと運び入れます。
ただし、参列者の少ない直葬、家族葬の場合は葬儀業者スタッフがこの中に加わり、棺の運搬を手伝ってくれます。
霊柩車へ棺を入れる際、棺の向きを頭がある方を前にするのか後ろにするのかが問題となることありますが、この作法には諸説あります。
地域により解釈が異なる作法のため、葬儀業者スタッフに確認しその手順に従えば良いでしょう。
流れ・手順⑤:喪主が参列者に向けて挨拶する
棺が霊柩車へ納められ、火葬場へと出棺する前に喪主は霊柩車を見送る葬儀参列者に対して挨拶を行います。
このとき、遺族は参列者の前に横一列で並びます。
遺影や位牌を持つ遺族は喪主の横に立ち、参列者に遺影や位牌を向けるようにしなければなりません。
挨拶は、故人と喪主の関係や葬儀に参列してもらったことに対するお礼、故人が生前お世話になった感謝の気持ちを述べましょう。
挨拶が終了したら遺族は一礼し、霊柩車にのせた棺が火葬場へと出棺されます。
葬儀から出棺までの所要時間

葬儀に慣れていない方の中には、この葬儀に関する時間について気になる方が多いようです。
急な葬儀、遠方の葬儀などは、お仕事や家事の合間をぬって出席する方も多いため、無理もないことです。
一般的には、葬儀と告別式はそのあと執り行われる火葬を考慮して午前中から始まります。
この場合、葬儀・告別式は10時から11時の間に始まりおよそ1時間、その後の出棺では30分ほど時間がかかかります。
出棺時の挨拶

先ほども解説したように、出棺時には必ず遺族を代表して挨拶が行われます。
ここでは、出棺時の挨拶する方について、また出棺時の挨拶をする際の5つのポイントを説明します。
出棺時のあいさつは、一生のうちで何度も経験するものではなく、その内容についてどのようにまとめたら良いのかわからないものです。
ここで紹介する、「挨拶をする際の5つのポイント」を踏まえて挨拶すれば、葬儀参列者に故人と家族の感謝の気持ちが伝わる、素晴らしい挨拶をすることができるでしょう。
挨拶する人
出棺時の挨拶は、基本的には喪主がおこないます。
しかし、喪主が大切な方を亡くした精神的なショックから、参列者の前で話せないなどの場合、遺族代表者が挨拶をおこなうことも可能です。
このとき、喪主は遺影や位牌を持ち、遺族代表の横に付き添います。
押さえておくべき5つのポイント
出棺時の挨拶は、ここで紹介する5つのポイントをおさえ、参列者に感謝の気持ちを伝えることが重要です。
ポイント①:使ってはいけないことばは避ける
使ってはいけないことばには「忌み言葉」と「重ね言葉」があります。
「忌み言葉」とは、不吉なイメージを持つ言葉です。
- 消える
- 落ちる
- 大変
- 四(死をイメージする)
- 九(苦をイメージする) など
「重ね言葉」とは、同じことばを繰り返すことばで、不幸が重なることを連想させてしまうものです。
- またまた
- ますます
- 度々
- 重ね重ね
- いよいよ など
また、重ねことばと同じく、物事が繰り返される意味のことばも控えた方が良いでしょう。
- 再三
- 再び
- 追って
- 続いて
- 繰り返し
などが当てはまります。
ポイント②:原稿・メモを作成しておく
どんなに人前で話すことが得意な方であっても、原稿を事前に作成しましょう。
葬儀の挨拶すべてに当てはまりますが、大切な方を亡くし精神的に不安定なときはことばがつまり、出なくなることがあります。
事前に原稿やメモを用意しておけば、このような不測のトラブルを防ぐことができます。
ポイント③:冒頭文は簡潔な構成にする
例えば、「本日の天気」などの内容を盛り盛り込んだ冒頭分は、本題に入るまでにとても長く感じます。
参列者の中にはご高齢の方も多く含まれ、長い挨拶はこのような高齢の参列者に対して、配慮が足りないと捉えられるので注意が必要です。
出棺時の挨拶では冒頭文をできるだけ簡潔にしましょう。
ポイント④:長文を避けコンパクトにする
出棺の挨拶は葬儀に参列していただいた参列者へ、感謝を気持ちを伝えることに焦点を当てた内容でなくてはなりません。
そのため、冒頭文同様に参列者への挨拶も簡潔にまとめます。
出棺時の挨拶全体の時間としては、3分以内が最適な目安と言えるでしょう。
ポイント⑤:構成を5つに絞る
冒頭文や挨拶をした後の内容は、次の5つに限定します。
- 自己紹介
- 弔問客へのお礼
- 故人への生前のお礼
- 故人の生前のエピソード
- 残された家族への力添えのお願い
故人のエピソード以外では、この後さまざまな定型文を紹介します。
ご自身の立場に応じて文章を構成してみてください。
しかし、故人のエピソードに関しては、ご自身のことばで故人との思い出深い出来事を伝えることが重要です。
出棺時の挨拶例文

先ほど触れたように、出棺時の挨拶について立場の異なるご遺族の例文や、故人のお亡くなりになった過程別の例文を記載しています。
挨拶することになった方は、ぜひ参考にしてみてください。
例文①:基本系
本日はお忙しい中、故○○(故人の名前)の葬儀に参列していただき、誠にありがとうございます。
このような大勢の方に見送られ、○○(故人の名前)も皆様のご厚情にさぞ喜んでいると思われます。
おかげさまで葬儀、告別式も滞りなく進行し、無事に出棺の儀を執り行わせていただくことができたことを厚く御礼申し上げます。
残された私どもは未熟ではありますが、どうか今後とも変わらぬご指導のほどよろしくお願い致します。
簡単ではございますが、以上で挨拶とさせていただきます。
本日は誠にありがとうございました。
例文②:喪主が家業・家督を継ぐ場合
私は故○○(故人の名前)の長男の○○(長男の名前)でございます。
喪主としてご挨拶を申し上げます。
本日はお忙しい中、ご会葬・ご焼香を賜り誠にありがとうございます。
父は昭和○○年〇月〇日に生を受け、○○年に株式会社○○に入社いたしました。
その後○○年に社長に就任し、今日に至ってまいります。
事業がこれまで発展できましたのも、ひとえに皆様のご厚情の賜物と感謝しております。
故○○(故人の名前)が悔いのない人生を送り、感謝の念を抱きあの世に旅立てたことに、父になりかわりまして心から御礼申し上げます。
今後は父の意思を引継ぎ、事業発展のため身をささげる覚悟でございます。
亡き父同様に、ご指導・ご鞭撻賜りますようお願い申し上げ、ご挨拶の言葉に代えさせていただきます。
例文③:親族代表が挨拶する場合
本来であれば喪主が挨拶を申し上げるところではございますが、○○(体調不良や高齢など挨拶ができない理由)のため、喪主に代わり親族を代表してご挨拶を申し上げます。
本日はお忙しい中、○○(故人の名前)の葬儀にご会葬いただき誠にありがとうございます。
おかげさまで、葬儀・告別式も滞りなく進行いたしました。
これだけ大勢の方に最後のお見送りをしていただき、○○(故人の名前)もさぞ感謝していることと存じます。
私ども○○家(喪主の苗字)に連なる親族一同、これからも故人の遺志を継ぎ生きていく所存ではありますが、残された遺族に対しても変わらぬご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
本日は誠にありがとうございました。
例文④:故人が急逝した場合
本日はお忙しい中、父○○(故人の名前)の葬儀に参列いただき誠にありがとうございます。
父は〇月〇日、息を引き取りました。
その日は会社から帰宅していつものように家族で夕飯を取り、和やかな時間を過ごしましたが、深夜に急に意識を失い急いで救急車で病院に駆けつけましたが、そのまま意識が戻ることはありませんでした。
死因は脳梗塞ということで突然の出来事でしたが、せめて故人が長く苦しむことなくあの世に旅出てた事はせめてもの救いです。
私たち家族はいまだに信じられない気持ちもあるいますが、父が天国で私たち家族を見守ってくれていることと信じています。
最後になりますが、生前賜ったご厚情に深く感謝を申し上げてご挨拶とさせていただきます。
例文⑤:故人が大往生だった場合
本日はお忙しいところ、父○○(故人の名前)の葬儀に参列していただき誠にありがとうございます。
○○年生まれの父は、家督をゆずりましてからここ数十年、悠々自適な生活を送っておりました。
先日○○病院にて眠るように○○才の生涯を閉じました。まさに幸せな大往生であった事は、子として何よりの慰めでございます。
父が家督をゆずってからの晩年を、心安らかに過ごせたのも、ひとえに皆様のご厚情の賜物と深く感謝いたしております。
これからは亡き父の意思を引継ぎ、家族で力を合わせて頑張っていく覚悟でございます。
最後になりましたが、生前皆様から賜りましたご厚情に深く感謝を申し上げ、ご挨拶の言葉に代えさせていただきます。
例文⑥:故人が闘病生活を送った末に亡くなった場合
本日はご多忙の中また足元が悪い中、父○○(故人の名前)の葬儀に参列いただき誠にありがとうございます。
父は去年の冬に病に伏せ、それ以降入退院を繰り返してまいりましたが、〇月〇日の深夜、家族が見守るなか静かに旅立ちました。
享年○○才でした。
父は仕事一筋な人生を送って参りましたが、定年後は夫婦で旅行に出かけ、二年前の春には家族で海外旅行に出かけるなど、沢山の思い出を私たちに残してくれました。
そんな父と、もう二度と会えないと思うと辛い思いでいっぱいです。
ただ父からすれば長い闘病生活から解放され、安心して旅立てたことでしょう。
父が豊かな晩年を過ごせたのも、ひとえに皆様方のご厚情の賜物と深く感謝いたしております。
本日はお忙しい中、父の最後をお見送りいただき誠にありがとうございました。
例文⑦:長男が喪主を務める場合
遺族を代表いたしまして、皆様に一言ご挨拶を申し上げます。
私は故○○(故人の名前)の長男○○(長男の名前)でございます。本日はお忙しい中、ご会葬・ご焼香を賜り誠にありがとうございます。
誰よりも仕事に打ち込んでいた父でしたので、家族と過ごす時間は限られていましたが、常に家族を気遣いいざという時はとても頼りになる存在でした。
本日は父の葬儀にこのように沢山の方がお集まりになってくださり、改めて父の人柄が偲ばれるようで、感慨深く勇気づけられております。
父に対する皆様のご厚情に心から感謝いたします。
今後とも父の生前同様に、ご厚誼・ご指導賜りますようお願い申し上げます
本日はお忙しい中、父のお見送りいただき誠にありがとうございました。
出棺する際の習慣

出棺する際に行われる習慣は日本全国で異なり、中には聞き慣れないその地域特有の習慣もあるでしょう。
ここでは、出棺する際の習慣として一般的な3種類をそれぞれ紹介します。
慣習①:BGMを流す
音楽をかけて故人を見送る場合があり、ジャズやクラシックなどの中から、静かな曲調のものを選曲するのが一般的です。
しかし、宗教的な要素がうすい「自由葬」や「音楽葬」などでは、故人が生前好きだった曲を大音量でかける場合もあります。
曲の選択や音量に関しては、著作権や環境への配慮が必要となることから、最終的な判断は葬儀業者との話し合いで決定されます。
慣習②:霊柩車のクラクションを鳴らす
霊柩車のクラクションを鳴らす慣習には、別れの合図という意味が込められています。
しかし、実はこれだけではなく、楽器の代わりにクラクションを鳴らすという説があります。
古来、火葬場へ遺体を運搬するには、大勢の方が列を組み運んでいました。
そして、この遺体を運ぶ際には、出発時に遠くの人に聞こえるようお寺の鐘や太鼓を鳴らしていたようです。
この習慣の名残として、霊柩車が火葬場へと出発する際にクラクションを鳴らすと言われているのです。
慣習③:茶碗や皿を割る
故人が実際に使用していたお茶碗を、出棺の際に割る慣習です。
この出棺時の慣習は、古くから日本に伝わり認知されていますが、この行為には「故人とこの世の未練を断ち、迷わずあの世に行けるように」という思いが込められています。
故人の愛用品は棺に入れて火葬することも可能ですが、茶碗は陶器であるため棺に入れることはできません。
そのため、あえて茶碗を割ることにより、「故人の居場所はここにはありません」と宣言していると言われています。
出棺時のマナー

出棺に参列する場合は、服装や持ち物などで注意しなければならないマナーがあります。
それぞれのポイントを解説していきます。
マナー①:火葬場に同行できる人・できない人
火葬場へ同行できる人は、喪主を含めた遺族や親族または故人と特別に親交のあった友人に限られます。
そのため、一般の葬儀参列者は火葬場への同行はできません。
どうしても火葬場への同行を希望する場合は、事前にその旨を遺族に申告して認められた方に限られます。
なお、火葬当日に火葬場への同行を希望することはマナー違反ですので、絶対にしてはなりません。
マナー②:服装
出棺の際の服装は、基本的には葬儀のときの服装と変わりありません。
ただし、告別式が終わり出棺が行われるまでの間、葬儀参列者は野外で待機する時間があります。
その待機時間であれば、暑い時期なら半袖になったり、寒い時期ならコートや手袋を着用するなどの体温調整はマナー違反ではありません。
ただし、これはあくまで待機時間です。
実際に出棺が始まれば、喪服を着崩したりコートを羽織ることはマナー違反になりますので注意してください。
マナー③:持ち物
出棺の際は、喪主が位牌を、他の遺族がそれぞれ分担して骨箱・遺影・骨箸・分骨袋を持ちます。
ただし、火葬場の中には、骨箱・骨箸・分骨袋をあらかじめ用意しているところもあります。
その場合は位牌と遺影のみを持って火葬場へ向かいます。
マナー④:傘の使用
出棺は野外で執り行われる儀式ですので、雨が降っている場合は傘を差してもマナー違反にはなりません。
ただし、服装同様に派手な色や柄がたくさんついたデザインの傘は、葬儀の場に相応しくありません。
黒色、または深い紺色の単色の傘などを使用しましょう。
まとめ

出棺までの流れや手順、出棺時の挨拶を例文を交えながら解説ました。
出棺は、故人と最後のお別れとなる貴重な時間です。
儀式の流れや手順などがわからず不本意な最後とならないよう、事前に儀式の内容を把握しておきましょう。
また、出棺時の挨拶では、異なる遺族の立場から複数の例文を紹介しました。
今回解説した「押さえておきたい5つのポイント」の内容を参考に、ご自身の立場に合った例文を参考にすることで、参列者に感謝の意を伝えられる文章がどなたにも作成できるでしょう。
ただし、挨拶はご自身の気持ちがとても重要です。
定型文にとらわれることなく、マナーを守った中でご自身の気持ちをちりばめた挨拶をすることができれば、儀式の最後を締めくくる最高の挨拶となることでしょう。