先祖供養は、仏教での葬儀が多い日本で受け継がれてきた、大切な務めの一つです。
しかし、現代では先祖供養の正しい意味や目的などを知らない人も増えてきました。
特に守るべきお墓や仏壇がある人だと、先祖供養の方法や行うタイミングなどで悩むケースも少なくありません。
そこで、今回は先祖供養の意味や具体的な供養の方法、先祖供養をする時の注意点などについて詳しく解説します。
先祖供養とは
先祖供養とは、先祖の霊に対して感謝の気持ちを伝え、魂を鎮めて冥福を祈る仏教の儀式です。
まだ日本に「生贄」の風習があった頃、人びとは動物を生贄として神に捧げ、災いを回避するために祈っていました。
この風習に対し、殺生を禁じている仏教が生贄(いけにえ)となった動物の魂を手厚く供養し、感謝の気持ちを伝えるようになったのが先祖供養の始まりと言われています。
現在の先祖供養は、亡くなった先祖に読経や供物を捧げて感謝し、功徳を捧げることが主な目的です。
先祖供養を通し、あらためて命の大切さやありがたみを感じ、自然に心が洗われたように感じる人もいます。
亡くなった先祖の霊は、現代に生きる人のルーツと言える存在です。
先祖供養を行なって、命をつないでくれたことへ感謝を捧げ、生きているありがたみを感じてみましょう。
先祖供養で得られる効果
先祖供養は「先祖に対して行われるもの」と思われがちですが、先祖供養を行う人にも得られる効果があります。
ここでは、先祖供養を行うことで得られる効果について紹介します。
気持ちが安らぐ
先祖と聞くと「はるか昔の人」と思われるかも知れませんが、家族や親族といった近しい存在で亡くなった人もすべて先祖霊です。
生前関わりがあった人を思い浮かべながら先祖供養し、楽しかった思い出などに思いを馳せていると、心が暖かくなることもあるでしょう。
このような気持ちとともに感謝を捧げることで、気持ちが安らぎ落ち着くことができます。
徳を積める
そもそも「徳」とは、良い行いをして助け合うことを言います。
しかも、それは強要されて行うものではなく、自分の意思で動くことが大切です。
先祖供養は、「自分のためではなく誰かのため」に行います。
仏様や先祖霊のために供物を捧げ、僧侶にお経をあげてもらい、お布施をして感謝する行為が徳となるのです。
徳を積むことは、巡り巡ってお互いの助け合いになり、安定した生活につながることでしょう。
感謝の気持ちを持てる
先祖供養を行うと、さまざまなことに対して「ありがたい」という感謝の気持ちを持てます。
先祖が命をつないでくれたことへの感謝、仏様が見守ってくださることへ感謝はもとより、現在の生活を支えているすべての物事へ感謝の気持ちが生まれることでしょう。
「ありがとう」という気持ちは、人の心を温かくします。
先祖供養を通して、普段気付きにくい小さな感謝の気持ちを見つめ直してみましょう。
先祖供養の種類
先祖供養は、どのような供養をしたいかによって供養の方法も分かれているため、事前に先祖供養の種類を確認しなければなりません。
ここでは先祖供養の種類を紹介するので、先祖供養の種類を確認する時の参考にしてください。
追善供養
追善供養は、亡くなった人の魂が成仏できるように行う供養です。
亡くなった人の代わりに遺族や親族が法要を行い、その供養で得た徳を亡くなった人に渡すことで、先祖の魂の徳が積まれて成仏できます。
故人の供養と聞いた時、初七日や四十九日といった忌日法要や、一回忌・三回忌などの年忌法要を思い浮かべる人もいると思いますが、まさにそれこそが追善供養です。
この他にも、お墓参りや仏壇に手を合わせるなど、日常的にできる方法でも追善供養が行われています。
永代供養
永代供養とは、故人の遺骨をお寺や霊園などに預け、遺族に代わって供養をお願いする方法です。
近年では、少子高齢化の影響でお墓を継ぐ者がいなくなったり、供養への意識が薄れておろそかになる人も多くなってきたため、永代供養で先祖の霊を供養するケースも増えてきました。
永代供養をお願いしておくと、遺族に代わってお寺や霊園が供養を続けてくれるので、弔い上げを迎えるまで安心できます。
先祖供養をしたい気持ちはあっても、さまざまな事情で個人的に供養ができないという人は、永代供養による先祖供養を検討してみるのも良いでしょう。
水子供養
水子供養とは、この世に生まれることができないまま亡くなってしまった胎児を供養することです。
この世で生きることはできなくても、胎児には魂が宿っていますから、冥福を祈りあの世で幸せに過ごせるよう供養することで徳が積まれ、ひいては先祖供養へとつながります。
水子の魂は、水子地蔵に導かれてあの世に行くと言われているため、水子地蔵が祀られている寺院で供養を行うと良いでしょう。
先祖供養の基本的な方法
先祖供養は、基本的な方法を知っておくと安心して行えます。
ここでは、先祖供養の基本的な方法を具体的に解説します。
忌日法要・年忌法要を行う
忌日法要・年忌法要は、故人が亡くなった日を1日目として日数を計算し、節目となる日や年に合わせて行う法要のことです。
一昔前までは、初七日から始まって四十九日を迎えるまで、七日ごとに法要が行われていましたが、現在では「大きな法要」だけを中心に行うケースが増えてきています。
例えば、忌日法要なら「初七日」「四十九日」だけを寺院にお願いし、他の日は自宅の祭壇でお供物をしたり、年忌法要なら「一回忌」「三回忌」「十三回忌」だけ大きな法要をし、「三十三回忌」で永代供養をするといった感じです。
個人の事情や周囲との兼ね合いもありますが、自分にできる範囲で年忌法要・忌日法要の供養を行なってみましょう。
お寺で供養をする
どのような種類の供養であっても、お寺にお願いすれば先祖供養を行なってもらえます。
忌日法要・年忌法要はもちろんですが、永代供養や水子供養など、さまざまな供養方法の相談が可能です。
一番良いのは檀家となっているお寺に相談することですが、もしそれが難しい場合は周囲の人に相談して、信頼できる寺院に供養をお願いしましょう。
自宅の仏壇にお経をあげる
僧侶に自宅まで出向いていただき、仏壇にお経をあげてもらうのも良い方法です。
日常的に自分でお経をあげるのも良いですが、お盆やお彼岸などの節目に僧侶にお経をあげてもらうと、それだけでも気持ちが軽くなることでしょう。
僧侶の説法を拝聴し、考えを深めるのも功徳につながりますので、気になる人は一度僧侶に相談し、自宅でお経をあげてもらいましょう。
卒塔婆(そとうば)を立てる
卒塔婆(そとうば)とは、供養を目的として立てられる、細長い板状のものです。
そもそも卒塔婆は、仏様の遺骨を収めたありがたい塔という意味があるため、卒塔婆を立てるだけで徳が積まれ供養になると考えられています。
ただし、浄土真宗では卒塔婆での供養を行なっていませんので、まずは自宅の宗派を確認してください。
先祖供養を自分で行う方法
先祖供養というと、「必ずお寺にお願いしなければならないもの」と思われがちですが、実は自分で先祖供養を行うこともできます。
では、先祖供養を自分で行う場合どのような方法があるのか、その具体的な方法を紹介しましょう。
仏壇に手を合わせる
毎日仏壇に手を合わせ、仏様と先祖の霊にご挨拶をすることも、立派な供養につながります。
慌ただしい毎日の中でも、仏壇に手を合わせる時間を取ることで、無事に過ごせる感謝の気持ちや喜びを感じられることでしょう。
一日一回でも良いので、仏壇の前に座り仏様や先祖に感謝を伝える時間を取るようにしてみてください。
仏壇にお供え物をする
仏壇にお供物をすると、お供物が線香の香りと共にあの世へ運ばれ、仏様や先祖の霊に届けられます。
お供えする品物は、いわゆる仏飯やお茶だけではなく、故人の好きだった食べ物や飲み物でも大丈夫です。
生前の故人の姿を思い浮かべながら、仏壇にお供物をして毎日の供養を続けましょう。
写真や遺品を飾り手を合わせる
仏壇がない場合でも、故人の写真や遺品を飾って手を合わせれば、それも大切な供養になります。
忙しい日々の中で、ふとしたときに目に入る位置に故人の写真や遺品があれば、大切な思い出とともに在りし日の故人の姿を思い出せます。
仏様の元にいる故人の姿を忘れずに思い浮かべる行為が、そのまま供養につながるのです。
リビングのキャビネットや窓辺など、家族の目につきやすい場所に写真や遺品を飾り、いつで手を合わせられるようにしましょう。
お墓参りをする
お墓には、先祖代々の故人の遺骨が埋葬されています。
そのお墓に足を運び、掃除をしてお墓参りをする行為は、先祖の霊や仏様が宿る場所を綺麗にするという徳につながり先祖供養になるのです。
お墓参りをする時期は、お盆やお彼岸・命日に限ったことではありません。
何か心に引っかかることがあったり、ふと気になった時はお墓参りをして、先祖と仏様に感謝しながら手を合わせましょう。
仏教以外での先祖供養の方法
先祖供養は仏教が始まりと言われていますが、仏教以外を信仰している人も多いことでしょう。
では、もし仏教以外で先祖供養を行いたい場合は、どのような方法があるのでしょうか?
ここでは、仏教以外での先祖供養の方法を解説しますので、わからないときの参考にしてください。
神道の先祖供養
神道の考えでは、亡くなった人の魂は氏神様となり、祖先の行く末を見守るとされています。
したがって、一般的な神棚とは別に故人の御霊を祀る場所を作り、お供物をして手を合わせなければなりません。
神道で先祖供養をする方法は次のとおりです。
霊璽を作る
霊璽(れいじ)とは、仏教でいうと位牌のようなものです。
神道では、では人が亡くなると生前の名前から「霊号」と呼ばれる名前が付けられ、霊璽に故人の御霊を移して祀られます。
霊璽そのものが神聖な存在になるため、直接目に触れないようにしなければなりません。
したがって、霊璽を直接見ないように布をかけたり、鏡付きの錦の覆いを被せるのが一般的です。
霊璽を作成する時は、氏子となっている神社の神職に相談して用意しましょう。
祖霊社に霊璽を祀る
でき上がった霊璽は、祖霊社(それいしゃ)と呼ばれる神棚のようなものに納め、神棚よりも低い位置にしつらえて祀ります。
祖霊社には内扉と外扉が付いており、霊璽は内扉の中に納めて扉を閉め、その外側に鏡を置いて人の目に触れないようにしてください。
外扉は開け放しておいても大丈夫です。
鏡の前には、お供物として「米・塩・水・酒・榊」を用意し、神棚と同じように「二礼・二拍手・一礼」をしてお参りしましょう。
キリスト教の先祖供養
キリスト教では、日本に根付いた信仰とは違った考え方をします。
したがって、まずはキリスト教の基本の考え方を学び、その上で供養につながる方法を行いましょう。
キリスト教は供養という考えではない
キリスト教では、人の死は神の元へ帰る喜ばしいことと考えており、供養という概念はありません。
その代わり、折に触れ亡くなった故人を思い出し、故人の魂と神に感謝の気持ちを捧げます。
したがって、あらためて供養という儀式行うことはありませんが、故人への愛と神へ感謝を常に持ち続けている点が、仏教の供養と共通していると言えます。
家庭祭壇を作り神に祈る
あらたまった儀式はありませんが、より深く故人の魂や神を祈りを捧げたい場合は、海底祭壇を作る方法があります。
リビングなどの一角に、故人の写真や遺品・聖書・十字架などを配置し、食事の前や寝る前・起床後に祈りを捧げ、神と故人の魂に尊敬の念を表しましょう。
先祖供養でよくある疑問
先祖供養を行う場合、多くの人がさまざまな疑問を抱えます。
そこで、ここでは先祖供養でよくある疑問点を挙げ、その疑問にお答えしましょう。
疑問①:先祖供養をしないと呪われる?
先祖供養と呪いを関連づけて考える人は多いのですが、そもそも先祖供養が「生贄になった動物霊を供養するため」に始められたことですから、この説から転じて「供養をしないなら呪う」という迷信が生まれた可能性があります。
せっかく先祖供養をしても、「呪われると嫌だから」という気持ちからだと、感謝や敬愛の気持ちが伝わらず悲しいものです。
「呪わないで欲しい」という恐れより、「見守ってくださってありがとうございます」という気持ちを込めた先祖供養をしましょう。
疑問②:先祖供養は必ずお寺にお願いするべき?
先祖供養は、自宅でも自分でできる方法があるので、絶対にお寺にお願いするとは限りません。
ただし、大きな忌日法要や年忌法要の場合は、お寺にお願いすることで遺族の気持ちも落ち着き、法要に参列した人にも受け入れてもらいやすくなります。
先祖供養の内容にもよりますが、状況に合わせて周囲と話し合い、お寺にお願いするかどうかを決めると良いでしょう。
疑問③:先祖供養は仏教だけ?
先祖供養自体は、仏教から始まった儀式です。
しかし、「神への感謝」「故人への祈り」という点で見れば、神道でもキリスト教でも捧げる気持ちに違いはありません。
信仰する宗教の教えや状況に合わせ、先祖供養の方法を模索しましょう。
疑問④:先祖供養の費用の相場は?
先祖供養の費用は、内容によって変わるので一概には言えません。
例えば、忌日法要や年忌法要の場合は、僧侶による読経をお願いするとお布施で1万円〜3万円、お膳料やお車料まで含めると3万円〜5万円かかることもあります。
永代供養の場合は、個人墓で約40万円、集合墓や合祀墓になると約10万円が相場です。
さらに、僧侶による法要もお寺によって費用は異なるため、「〇〇円です」とはっきり相場を出せません。
先祖供養の相場が気になる場合は、まずどのような供養がやりたいかを決め、その上でお寺や周囲に相談して確認しましょう。
疑問⑤:先祖供養は開運になるの?
「運気が悪い時は、先祖供養をすると開運する」という意見を持つ人もいますが、これは結論からいうとどちらとも言えません。
なぜなら、「運気が上昇した」という人も「変わらなかった」という人もいるので、人それぞれに得られる結果が異なるからです。
ただし、日頃から先祖供養が気になっていた人が先祖供養をすると、気持ちが軽くなり前向きになることはあるでしょう。
「開運するかしないか」に重きを置かず、仏様や先祖へ感謝と敬愛を伝えることを優先して考えてください。
先祖供養の注意点
先祖供養を行う場合は、気をつけなければいけない注意点があります。
では、具体的にどのような点に気をつけなければならないのか、先祖供養の3つの注意点を紹介しましょう。
- 悪質な先祖供養の勧誘にだまされない
- 願い事を叶えるための供養にしない
- わからない点は周囲に相談する
注意点①:悪質な先祖供養の勧誘にだまされない
不幸が続いたり呪いを恐れたりしている人に対し、「先祖が供養されていないからだ」という理由で悪質な勧誘をし、高額な詐欺を行う集団がいます。
先祖供養は、お寺や周囲の人に相談すれば、適正な費用で心のこもった供養ができますので、悪質な先祖供養の勧誘にだまされないようにしましょう。
注意点②:願い事を叶えるための供養にしない
先祖供養は、仏様と先祖の霊に感謝と敬愛を伝えるためのものです。
「宝くじを当てたい」「試験に合格したい」といった願い事叶えるための供養は、私利私欲にまみれて大切な心が伝わりません。
先祖供養をする場合は、純粋に供養することに重きを置いて供養しましょう。
注意点③:わからない点は周囲に相談する
先祖供養の方法は、供養の種類や規模によってやり方が変わってくるため、細かい部分でわからない点が出てくることもあります。
そのようなときは、まず「どのような供養がしたいか」を明確にし、詳しいやり方を寺院や周囲に相談して、より良い方法で先祖供養をしてみましょう。
まとめ
先祖供養は、先祖の霊を手厚く弔うだけではなく、仏様へ感謝の気持ちを伝え心を安らかにするものです。
信仰している宗教に合わせ、周囲の人ともよく相談しながら、心のこもった先祖供養をしましょう。