相続登記などの相続手続きをしようと考えて必要書類を調べると、多くの手続きで「遺産分割協議書」が必要であると書かれています。
しかし、遺産分割協議書を作成した経験がある方は、決して多くはないでしょう。そのため、どのように作成したら良いのかわからないという方も少なくありません。
今回は、不動産のみについて記載する遺産分割協議書の作り方や、相続登記の際に遺産分割協議書の他に必要となる書類などについてくわしく解説します。
目次
遺産分割協議書は不動産のみ書いても良い?

遺産分割協議とは、亡くなった人(被相続人)の財産を誰がどのように取得するのかについて相続人全員で話し合うことです。
そして、この遺産分割協議の結果をまとめた書類のことを遺産分割協議書といいます。
相続登記に使う目的なら不動産のみ書いても良い
遺産分割協議書には不動産の他、預貯金や有価証券など遺産のすべてについて記載することが一般的です。
しかし、遺産分割協議書の作成目的が相続登記のみなのであれば、不動産のみを書いても間違いではありません。
特に、他の財産について記載がなくとも、相続登記を行うことは可能です。
相続登記とは、亡くなった人の名義となっている不動産を、相続人などの名義へと変える手続きを指します。
不動産のみの遺産分割協議書の書き方・記載項目

では、不動産のみの遺産分割協議書の書き方や記載項目を紹介していきましょう。
雛形(サンプル)も紹介するので、作成時の参考にしてみてください。
なお、必要な事項さえきちんと記載されていれば、記載の順序や形式に特に決まりはありません。
亡くなった方の情報を書く
亡くなった方(被相続人)については、次の事項を記載します。
- 氏名
- 最後の住所地
- 最後の本籍地
- 生年月日
- 死亡年月日
これらの情報は、次の書類を見ながら正確に記載しましょう。
- 亡くなった旨の記載がある戸籍謄本または除籍謄本
- 最後の除票または戸籍の附票
相続人の情報を書く
相続人については、次の事項を記載します。
- 氏名
- 住所
- 被相続人との続柄
これらの情報は、次の書類を見ながら正確に記載しましょう。
- それぞれの相続人の戸籍謄本
- それぞれの相続人の住民票
相続人全員で協議をした結果である旨を書く
下記の雛形でも記載のように、相続人全員で協議をし、合意した結果である旨を記載します。
なお、相続人の一部を無視して遺産分割協議を成立させることはできません。
仮に相続人の中に認知症の人や行方不明の人などがいる場合には、遺産分割協議に先立って、これらの人の代わりに遺産分割協議に参加をする「成年後見人」や「不在者財産管理人」などを選任する必要があります。
不動産の情報と取得する人を書く
相続登記をしたい不動産について、誰がどの不動産を取得するのかがわかるよう、明確に記載します。
書くべき事項は、それぞれ次のとおりです。
いずれも、不動産の全部事項証明書をを取得すれば掲載されています。
土地の書き方
土地は、次の情報を記載します。漏れや誤字のないよう、全部事項証明書を確認しながら正確に記載しましょう。
所在 大阪市○○1丁目
地番 1番1
地目 宅地
地積 100.00㎡
なお、地目には他に「田」「畑」「山林」「雑種地」などがあります。
土地が被相続人と他の人との共有になっている場合は、(被相続人の持分〇〇分の〇)と記載しましょう。
また、地積についてはその地目により小数点以下の記載がない場合と、小数点以下第二位まで記載されている場合があります。
ここでは、全部事項証明書のとおりに作成すれば問題ありません。
建物の書き方
建物は、次の事項を記載します。こちらも全部事項証明書どおりに正確に記載してください。
所在 大阪市○○1丁目1番地
家屋番号 1番
種類 居宅
構造 鉄骨造スレートぶき2階建
床面積 1階 70.00㎡ 2階 50.55㎡
なお、種類には他に「事務所」「店舗」「倉庫」などがあります。
マンションの書き方
マンションには、主に次の2通りが存在します。
- 土地を、専有部分の所有者全員が共有して所有しているもの
- 敷地権方式のもの
ぞれぞれ、次の点に注意しましょう。
共有持分方式の場合
共有持分方式は、比較的築年数の古いマンションに多く存在します。
専有部分の所有者全員が共有して土地を所有している場合には、上で解説した土地や建物の記載のように、建物と敷地となっている土地それぞれを遺産分割協議書に記載します。
専有部分である建物の全部事項証明書とは別で、敷地となっている土地の全部事項証明書も取得して情報を確認してください。
この場合には、理論上は敷地となっている土地の共有持分のみを売却することも可能です。
敷地権方式の場合
敷地権方式の場合には、専有部分である各部屋と土地の所有権がセットとなっています。
被相続人が所有していた部分の建物の全部事項証明書を取得すれば、敷地権についても掲載されます。
まずは専有部分である建物の全部事項証明書を取得し、そこに敷地権の記載があるかどうかで、この「敷地権方式」なのか先ほど紹介した「共有持分方式」なのかを判断すると良いでしょう。
この方式の場合には、敷地だけを切り離して売却するようなことはできません。
敷地権方式の場合には、次のように記載します。
一棟の建物の表示
所在 名古屋市中区○○2丁目2番地2
建物の名称 ○○マンション
専有部分の建物の表示
家屋番号 ○○二丁目2番2
建物の名称 101
種類 居宅
構造 鉄筋コンクリート造1階建
床面積 1階部分 65.65㎡
敷地権の目的である土地の表示
符号 1
所在及び地番 名古屋市中区○○2丁目2番2
地目 宅地
地積 1000.00m²
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 1000分の30
長くて複雑そうに見えるかもしれませんが、基本的には全部事項証明書に書かれている情報をそのまま転記するのみです。
「一棟の建物の表示」「専有部分の建物の表示」「敷地権の目的である土地の表示」をそれぞれ記載する必要があると知っておきましょう。
相続人全員が署名と捺印をする
最後に、協議がまとまった日付を記載の上、相続人全員が署名と捺印を行います。
捺印は、必ず実印にて行ってください。
その時点で実印の登録がない場合であっても、原則として新たに実印の登録をする必要があります。
不動産のみの遺産分割協議書のひな型

不動産のみの遺産分割協議書の雛形を紹介します。
作成の際のサンプルとしてテンプレートにするなど、参考にしてみてください。
遺 産 分 割 協 議 書
(被相続人)
氏名 相続太郎
最後の本籍 東京都千代田区○○1丁目1番地
最後の住所 大阪府大阪市○○1丁目1番1号
生年月日 昭和10年10月10日
死亡年月日 令和3年1月1日
上記の者の遺産について、相続人 相続花子、相続人 相続一郎、相続人 相続次郎 において分割協議を行った結果、下記のとおり遺産を分割し取得することに合意決定した。
第1条 次の財産は、相続人 相続花子 が取得する。
1 所在 大阪市○○1丁目
地番 1番1
地目 宅地
地積 100.00㎡
2 所在 大阪市○○1丁目1番地
家屋番号 1番
種類 居宅
構造 鉄骨造スレートぶき2階建
床面積 1階 70.00㎡ 2階 50.55㎡
第2条 次の財産は、相続人 相続一郎 が取得する。
1 一棟の建物の表示
所在 名古屋市中区○○2丁目2番地2
建物の名称 ○○マンション
専有部分の建物の表示
家屋番号 ○○二丁目2番2
建物の名称 101
種類 居宅
構造 鉄筋コンクリート造1階建
床面積 1階部分 65.65㎡
敷地権の目的である土地の表示
符号 1
所在及び地番 名古屋市中区○○2丁目2番2
地目 宅地
地積 1000.00m²
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 1000分の30
上記のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したことを証するため、本協議書を3通作成し、署名押印のうえ、各自1通ずつ所持する。
令和3年7月30日
住所 大阪府大阪市○○1丁目1番1号
相続人(配偶者) 相続花子 実印
住所 名古屋市中区○○2丁目2番地2 ○○マンション101号室
相続人(長男) 相続一郎 実印
住所 大阪府大阪市○○1丁目1番1号
相続人(二男) 相続次郎 実印
自分で不動産のみの遺産分割協議書を作成するポイント

不動産のみの遺産分割協議書は、自分で作成することも可能です。
自分で不動産のみの遺産分割協議書を作成する際には、主に次の点に注意しましょう。
- 全部事項証明書を取得する
- 省略せずに正確に書く
全部事項証明書を取得する
遺産分割協議書を作成する前に、遺産分割協議書に記載をする不動産の全部事項証明書を取得します。
被相続人の所有する不動産は、毎年4月から6月頃に市区町村役場から送付される「固定資産税課税明細書」でもある程度確認は可能です。
しかし、これだけでは共有持分がわからない他、遺産分割協議書に記載すべき不動産の情報についての表現が全部事項証明書と異なる場合も多いです。
全部事項証明書は、全国どこの法務局からでも、誰でも取得できます。
たとえば、大阪市にある不動産の全部事項証明書を、東京の法務局で取得することも可能です。
省略せずに正確に書く
遺産分割協議書を作成する際には、各項目を省略せず正確に記載することが必要です。
たとえば、不動産の所在地が「○○1丁目1番地」であるにもかかわらず「1-1」などと略して書いてしまうと、法務局から訂正を求められる可能性があります。
面倒であっても、必ず全部事項証明書や住民票などを参照し、一字一句正確に記載するようにしましょう。
登記漏れを防ぐために確認すべき3つの書類
被相続人が持っていた一部の不動産について登記手続きが漏れてしまえば、再度登記を後日行わなければなりません。また、長期間気付かずに次の相続時に気付いた場合などには、手続がさらに煩雑となってしまうでしょう。
では、被相続人が所有する不動産について登記漏れを防ぐためには、どのような書類を確認すれば良いのでしょうか?主に確認すべき書類は、次のとおりです。
固定資産税課税明細書
固定資産税課税明細書とは、固定資産税が課税されている不動産の一覧が掲載された書類です。これは、毎年4月から6月頃に市区町村役場から送付される、固定資産税の納付書に同封されています。
この固定資産税課税明細書を見ることで、被相続人名義の不動産をある程度把握できるでしょう。しかし、固定資産税課税明細書には、次の不動産は掲載されていないことが少なくありません。
- 墓地や公共の用に供されている私道など、固定資産税課税が非課税である不動産
- 固定資産税の免税点(土地30万円・家屋20万円)未満の評価額である不動産
- 共有である不動産のうち、他の共有者が固定資産税を納めているもの
そのため、固定資産税課税明細書のみを確認していれば、これらの不動産について登記手続きが漏れるリスクがあるでしょう。
名寄帳
名寄帳とは、その市区町村内に存在するある者名義の不動産を一覧表にしたものです。被相続人の名寄帳を取り寄せることで、固定資産税が非課税となっている不動産などについても把握することが可能となるでしょう。
ただし、名寄帳は市区町村ごとに請求するものであり、「日本全国にある被相続人の不動産」の一覧表は存在しません。そのため、不動産のある市区町村さえわからなければ、名寄帳を取り寄せることは困難です。
全部事項証明書(登記簿謄本)
上で紹介をした全部事項証明書(登記簿謄本)を法務局から取り寄せることで、その不動産の名義人を調べることが可能です。
たとえば、被相続人の関係先の不動産(たとえば、被相続人が営んでいた会社の敷地)などの名義に被相続人が入っているのではないかと考える場合には、その土地の全部事項証明書を取り寄せることで、被相続人の名義が入っているかどうかを調べることができます。
この会社の敷地が会社(法人)と被相続人個人との共有になっている場合には被相続人宛に固定資産税課税明細書は届かない可能性がありますので、気になる不動産については調べておくと良いでしょう。
不動産の名義変更で遺産分割協議書の他に必要となる書類

相続による不動産の名義変更をするには、遺産分割協議書の他に次の書類も必要です。
- 登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、除籍、原戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産を取得する人の住民票
- 相続人全員の印鑑証明書
- 不動産の評価証明書または評価通知書
なお、ここでは一般的に必要となる書類を紹介します。
状況によってはこれら以外の書類が必要となる場合もありますので、実際に相続登記を行う際には事前に法務局へ確認しましょう。
登記申請書
登記申請書は、相続登記のメインとなる書類です。
原則としてこの書類に書いた内容がそのまま登記されますので、正確に作成してください。
法務局のホームページに記載例が載っていますので、参考すると良いでしょう。
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、除籍、原戸籍謄本
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本は、被相続人の相続人を確定するために必要です。
それぞれ、その時点で本籍地のあった市区町村役場で取得します。
被相続人の兄弟姉妹や甥姪が相続人となる場合には、被相続人の両親それぞれの出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本も用意しなければなりません。
被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
被相続人の住民票の除票や戸籍の附票は、被相続人の最後の住所地を確認するために必要です。
除票は被相続人の最後の住所地の市区町村役場で、戸籍の附票は被相続人の最後の本籍地の市区町村役場で取得できます。
相続人全員の戸籍謄本
相続人全員の戸籍謄本は、相続人が生存していることの確認のために必要です。
それぞれの相続人の本籍地の市区町村役場で取得できます。
不動産を取得する人の住民票
不動産を取得する人の住民票は、新しい所有者の住所を正確に登記するために必要です。
不動産を取得する相続人の住所地の市区町村役場で取得できます。
相続人全員の印鑑証明書
相続人全員の印鑑証明書は、遺産分割協議書へ押した印が実印であることの証明として必要です。
それぞれの相続人の住所地の市区町村役場で取得できます。
マイナンバーカードを持っていることを条件に、コンビニなどで印鑑証明書が取得できる市区町村もあります。
お住まいの市区町村に確認してみてください。
不動産の評価証明書または評価通知書
不動産の評価証明書や評価通知書は、相続登記をする不動産の固定資産税評価額を証明するために必要です。
相続登記する際には「登録免許税」という税金が課され、この登録免許税の額は固定資産税評価額の1,000分の4と定められています。
そのため、登録免許税の額を正確に算定するためには固定資産税評価額の証明書が必要なのです。
評価証明書や評価通知書は、いずれもその不動産が所在する市区町村役場で取得できます。
評価証明書は有料ですが、評価通知書であれば無料で取得が可能です。
まとめ
不動産のみの遺産分割協議書は、ポイントを押さえて全部事項証明書どおりに記載すれば自分で作成をすることも可能です。掲載したひな型を参考にしながら、ぜひ作成にチャレンジしてみてください。
しかし、相続登記に必要な書類は遺産分割協議書の他にも多く存在し、慣れてないと、これらを集めるだけでもひと苦労です。相続した不動産の名義変更でお困りの際や、少しでも時間を節約したい場合には、「そうぞくドットコム不動産」の利用をご検討ください。