相続登記の申請は法務局の窓口へ持ち込む方法などのほか、オンラインで行うことも可能です。では、相続登記のオンライン申請を自分で行うことはできるのでしょうか?
今回は、相続登記のオンライン申請を自分で行う際の流れや必要書類などについて詳しく解説します。
目次
相続登記を申請する3つの方法
相続登記を申請するには、次の3つの方法が存在します。まずは、それぞれの方法の概要を知っておきましょう。
- 法務局の窓口に持ち込んで申請する
- 法務局へ郵送して申請する
- オンラインで申請する
法務局の窓口に持ち込んで申請する
相続登記を申請するもっともオーソドックスな方法は、管轄の法務局の窓口へ直接持ち込んで申請をする方法です。軽微な不備にその場で気づいてもらえた場合にはすぐに修正ができる点や、「本当に書類が法務局の窓口に到着しただろうか?」と不安を感じずに済む点が、この方法を選択する大きなメリットといえるでしょう。
一方、法務局の開庁時間内である平日の日中に申請に出向くことが難しい場合や、管轄の法務局が遠方である場合などには、この方法で相続登記を申請することは困難です。
なお、相続登記をする際の法務局の管轄は、相続登記をしようとする不動産(土地や建物)の所在地によって決まります。
法務局へ郵送して申請する
相続登記をする方法の一つに、管轄の法務局へ郵送で申請する方法があります。管轄の法務局が遠方であっても申請がしやすい点が、郵送申請の大きなメリットであるといえるでしょう。
オンラインで申請する
相続登記を申請する3つ目の方法は、オンラインで申請する方法です。相続登記のオンライン申請では、自宅などのパソコンから相続登記を申請し、その後添付書類を管轄の法務局へ郵送する二段階の方法が取られています。
普段からパソコンの利用に慣れている人であれば、オンラインでの申請も一つの選択肢となるでしょう。
相続登記をオンラインで申請するメリット
相続登記をオンラインで申請するメリットには、次の4点が存在します。これらを踏まえ、オンライン申請を利用するかどうかを検討すると良いでしょう。
- 遅い時間であっても申請することができる
- 法務局まで出向く必要がない
- 登録免許税を電子で納付できる
- 相続登記の完了が把握しやすい
遅い時間であっても申請することができる
法務局の窓口開庁時間は、平日8時30分から17時15分までです。そのため、平日の日中に仕事をしている人などにとって、開庁時間内に出向くことは容易ではないでしょう。
一方、オンライン登記システムは原則として平日8時30分から21時まで稼働していますので、遅い時間であっても申請をすることが可能です。
法務局まで出向く必要がない
オンライン申請を活用すれば、法務局の窓口へ出向く必要がありません。管轄の法務局が遠方である場合や忙しい方にとっては、これも大きなメリットの一つといえるでしょう。
登録免許税を電子で納付できる
相続登記を申請する際には、登録免許税という税金の納付が必要です。法務局の窓口で申請する場合や郵送で申請する場合にはこの登録免許税は現金で納める必要があり、その方法は収入印紙を購入するか、税務署や金融機関で手続きする方法があります。
ただし、この登録免許税額は10万円以上など高額となることも、決して珍しいことではありません。そのため、これほどの額の現金や収入印紙を持ち歩くことに不安を感じる人も少なくないことでしょう。
一方、相続登記をオンライン申請する場合には、登録免許税を電子で納付することが可能ですので、多額の現金や高額の収入印紙を持ち歩く必要がありません。
なお、相続登記の際にかかる登録免許税の額は、原則として次の式で算定されます。
- 登録免許税額(相続)=不動産の固定資産税評価額×1,000分の4
相続登記の完了が把握しやすい
窓口へ持ち込んだり郵送で申請したりした場合には、相続登記が完了しても法務局からすぐに電話などで連絡があるわけではありません。原則として自分でホームページ上の登記完了日(リンク先は東京法務局の例)を確認し、完了後に法務局へ出向いて完了書類を受け取る必要があります。
また、返信用封筒を同封しておけば完了書類の郵送を受けることができますので、この返送をもって登記完了を知ることとなるでしょう。
一方、オンライン申請の場合には、登記の完了をシステム上の通知で確認することができます。そのため、登記の完了をリアルタイムで把握することが可能です。
相続登記をオンライン申請するための手順
相続登記をオンラインで申請するためには、次の手順を踏む必要があります。では、一つずつ解説していきましょう。
- 相続登記の前提となる遺産分割協議をまとめる
- 相続登記の必要書類を準備する
- オンライン申請に必要な機器を準備する
- 申請情報を入力する
- 添付書類を添付して電子署名をする
- 申請情報を送信する
- 登録免許税を納付する
- 添付書面を郵送する
ステップ1:相続登記の前提となる遺産分割協議をまとめる
はじめに、相続登記の前提となる遺産分割協議をまとめましょう。
遺産分割協議とは、相続人全員で行う遺産分けの話し合いのことです。相続登記を行うためには、最低限、相続登記をしようとする不動産を誰が取得するのかについての話し合いがまとまっていなければなりません。
ただし、亡くなった人(「被相続人」といいます)が有効な遺言書を遺していた場合には遺産分割協議は必要なく、遺言書に従って財産を分けることとなります。なお、このステップは、オンライン申請と郵送などでの申請で特に変わるところではありません。
ステップ2:相続登記の必要書類を準備する
次に、相続登記の必要書類を準備しましょう。必要書類については、後ほど詳しく解説します。
ステップ3:オンライン申請に必要な機器を準備する
ステップ2と並行して、オンライン申請に必要な機器の準備を行います。相続登記のオンライン申請に必要となる機器などは、次のとおりです。
パソコン
オンライン申請はスマートフォンなどから行うことはできず、必ずパソコンの準備が必要です。また、パソコンはWindows10または8.1が推奨されています。
パソコンを用意したら、法務局のホームページから申請用総合ソフトをダウンロードして、操作手引書を見ながら申請者IDやパスワードの取得など事前準備を済ませましょう。
マイナンバーカード(署名用電子証明書入り)
相続登記をオンラインで申請するためには、申請書類に電子署名を付す必要があります。そのため、署名用電子証明書入りのマイナンバーカードが必要です。
署名用電子証明書入りのマイナンバーカードを持っていない場合には、あらかじめ住所地の市区町村役場で手続きをして、取得しておきましょう。
ICカードリーダライタ
マイナンバーカードに対応したICカードリーダライタが必要です。ICカードリーダライタは、家電量販店やインターネット通販などで購入できます。
ステップ4:申請情報を入力する
機器の設定ができたら、実際の申請に入りましょう。インストールした申請用総合ソフトにログインし、「申請書の作成を行う」をクリックします。
その後、作成する申請様式を選択する画面が出てきますので、そこから次の順に選択をしてください。
- 「不動産登記申請書」
- 「登記申請書(権利に関する登記)【署名要】」
- 「(4)所有権移転(相続)【署名要】」
選択をすると登記申請書の様式が表示されますので、今回登記をする内容に従って空欄を埋め、申請書の作成を行いましょう。
ステップ5:添付書類を添付して電子署名をする
登記申請書が作成できたら、相続関係説明図など必要書類のデータを添付します。データを添付したら、画面の指示に従って電子署名を付しましょう。
ステップ6:申請情報を送信する
申請書類と添付書類の準備ができたら、申請情報を送信します。「受付確認」ボタンを押すと「受付のお知らせ」が表示されます。こちらが登記申請が受け付けられたことの証明書となります。
ステップ7:登録免許税を納付する
申請書が法務局で受け付けられると、申請用総合ソフトに「納付」ボタンが表示されます。ここから、インターネットバンキングを使って登録免許税を納付しましょう。
ステップ8:添付書面を郵送する
原則オンラインのみでは完結しません別途、必要書類を法務局へ郵送する必要があります。郵送する際には、申請用総合ソフトから「書面により提出した添付情報の内訳表」を印刷したうえで管轄の法務局へ送付しましょう。
送付は、レターパックプラス(赤)や簡易書留など、相手へ手渡しされ、かつ記録が残る形式で行います。また、添付書類や登記完了後に発行される書類について郵送での返却を希望する場合には、返送用の封筒も同封しておきましょう。
相続登記をオンライン申請する場合に必要となる書類
相続登記をオンラインで申請する場合には、原則として次の書類が必要となります。
- 不動産の全部事項証明書
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
- 被相続人の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 相続関係説明図
- 不動産の固定資産税評価証明書
なお、これらは遺言書ではなく遺産分割協議書で不動産の取得者を決めた場合に、一般的に必要となる書類です。状況によってはこれら以外の書類が必要となる場合もありますので、自分で申請をする場合には、あらかじめ管轄の法務局で必要書類について確認をしておきましょう。
不動産の全部事項証明書
相続登記に取り掛かる前に、相続登記の目的となっている不動産の全部事項証明書を取得しておきましょう。
全部事項証明書は、相続登記の添付書類ではありません。しかし、オンラインで登記申請の情報を入力する際や遺産分割協議書を作成する際には不動産の情報を正確に記載する必要があり、全部事項証明書を参照する必要があります。そのため、全部事項証明書は必須であると考えておくと良いでしょう。
なお、不動産の全部事項証明書は全国の法務局で取得することができるほか、登記・供託オンライン申請システムからオンラインで取り寄せることも可能です。
また、登記情報提供サービスを利用することで、全部事項証明書に記載の情報を閲覧することもできます。パソコン作業が得意であれば、これらの方法で不動産の情報を確認されるとよいでしょう。
遺産分割協議書
遺産分割協議書とは、遺産分割協議の結果をまとめた書類です。相続登記に使用する場合には、協議の対象となった不動産の情報を全部事項証明書どおりに正確に記載するとともに、誰がその不動産を取得することになったのか明確に記載しましょう。
相続人全員が協議に納得していることの証明として、相続人全員が実印で捺印を行います。
相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書に押した印が実印であることの証明として、相続人全員の印鑑証明書が必要です。印鑑証明書を代わりに取得しようとすれば他の相続人の印鑑カードなどを預かる必要が生じますので、印鑑証明書は各相続人に取得してきてもらうと良いでしょう。
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
その相続での相続人を確定するため、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本が必要です。それぞれ、被相続人がその時点で本籍を置いていた市区町村役場で取得しましょう。
なお、被相続人の兄弟姉妹や甥姪が相続人である場合には、これらに加えて被相続人の父母それぞれの出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本も必要となります。
被相続人の除票または戸籍の附票
被相続人と不動産の名義人が同一であることの確認のため、被相続人の除票または戸籍の附票のいずれかが必要です。除票は被相続人の最後の住所地の市区町村役場で、戸籍の附票は被相続人の最後の本籍地の市区町村役場で取得できます。
相続人全員の戸籍謄本
相続人が存命であることの証明のため、相続人全員の戸籍謄本が必要です。それぞれ、本籍地の市区町村役場で取得します。
不動産を取得する相続人の住民票
新たに不動産の所有者となる人の住所を正しく登記するため、不動産を取得する相続人の住民票が必要です。ただし、オンラインで相続登記をする場合には電子署名に住所情報が格納されているため、住民票の添付を省略することができます。
相続関係説明図
相続関係説明図とは、相続関係や相続人の情報などを記載した書類です。取得をした戸籍謄本や除籍謄本などの情報をもとに作成します。
相続関係説明図は、法務局のこちらのページを参考としながら作成すると良いでしょう。
不動産の固定資産税評価証明書
相続登記を申請するには、上でも触れた通り、登録免許税を納めなければなりません。
この登録免許税は、その不動産の固定資産税評価額をもとに算定されます。そのため、固定資産税評価額を証明する書類である固定資産税評価証明書の添付が必要です。
固定資産税評価証明書は、その不動産が所在する市区町村役場で取得できます。
相続登記のオンライン申請をする場合の注意点
相続登記をオンライン申請することを選択する場合には、次の点に注意しましょう。
- パソコンや機器の設定が必要になる
- 添付書面は郵送する必要がある
- 補正のお知らせを見落とさないように注意する
- 登記識別情報は書面での交付がベター
パソコンや機器の設定が必要になる
相続登記をオンラインで申請するためには、上で解説をしたとおり、パソコンなど機器の設定が必要となります。
設定方法のマニュアルは法務局のホームページからダウンロードできるとはいえ、決して簡単な作業であるとはいえず、このような作業に慣れていないと非常に手間がかかってしまうことでしょう。この作業をする場合には、時間に余裕をもって行うことをおすすめします。
添付書面は郵送する必要がある
相続登記をオンラインで申請した場合であっても、原則オンラインのみでは完結しません。添付書類については、別途法務局へ申請する必要があります。
そのため、機器設定の手間をかけてまでオンライン申請をするのではなく、はじめからすべて郵送で申請をすることも選択肢の一つとなるでしょう。
補正のお知らせを見落とさないように注意する
相続登記をオンラインで申請した場合、法務局からの補正(修正)指示があると、その連絡は申請用総合ソフトへ届きます。この通知を見落として補正をしないままでいると、いつまで経っても相続登記は完了しません。
そのため、オンラインで登記申請をした場合には、定期的に申請用総合ソフトを確認する必要があります。
登記識別情報は書面での交付がベター
登記識別情報とは従来の権利書にあたるもので、相続登記が完了すると新たに不動産の名義人となった人に対して交付されます。従来の権利書とは異なり用紙自体が重要というよりも、12桁の符号(パスワード)が登記識別情報そのものです。
オンラインで相続登記を申請した場合にはこの登記識別情報はオンラインで通知を受けることも選択できますが、後々の管理のことを考えればオンラインでのみ通知を受けるのではなく、やはり紙に印字されたものの交付を受けた方が良いでしょう。オンライン申請をした場合であっても登記識別情報が印字された用紙(その上から目隠しがされた状態)の交付を受けることはできますので、こちらの方法を選択されることをおすすめします。
まとめ
相続登記のオンライン申請を自分で行うことは可能です。ただし、機器の設定などが煩雑であるほか少なくとも添付書類は郵送をする必要がありますので、これを踏まえてオンライン申請をするのか、郵送など他の方法で申請をするのか検討すると良いでしょう。
オンライン申請をする場合でも郵送などで申請する場合であっても、相続登記には多くの書類が必要となります。中でも、「出生まで遡る除籍謄本」などは普段目にすることが少ないため、戸惑ってしまう人が少なくありません。