相続放棄の手続きが終われば、相続にまったく関わらずに済むと考えがちです。
しかし、相続放棄の手続きが完了しても、他の一切の手続きが不要になるとは限りません。
「相続放棄申述受理証明書」がいるケースでは、裁判所で発行手続きが必要です。
この記事では、相続放棄申述受理証明書が必要になるケースや発行手続きについて解説します。
名前が似ていて間違えやすい「相続放棄申述受理通知書」との違いも確認して、相続放棄申述受理証明書について正しく理解するようにしましょう。
目次
相続放棄申述受理証明書とは
相続放棄の手続きに関連する書類のうち、書類の名称の頭に「相続放棄申述受理」と付いていて、名前がよく似ているものに以下の2つがあります。
- 相続放棄申述受理通知書
- 相続放棄申述受理証明書
この2つは異なる書類ですが、相続に慣れていない方にとっては紛らわしくてわかりにくいはずです。
1つ目の相続放棄申述受理通知書は「相続放棄をするときの手続きに関連する書類」です。
一方で、2つ目の相続放棄申述受理証明書は「相続放棄をした後に使う書類」です。
まずは、相続放棄申述受理証明書がどのような書類なのか、そして相続放棄申述受理通知書とは何が違うのか、基本を押さえていきましょう。
相続放棄したことを証明する書類
裁判所によって多少フォーマットが異なりますが、見本をお見せしましょう。
相続放棄申述受理証明書は次のような書類です。
相続放棄申述受理証明書は、文字通り「相続放棄の手続き(申述)が裁判所によって正式に受理されたことを証明する書類」で、相続放棄が完了したことを示す重要な書類です。
後述する「相続放棄申述受理証明書が必要なケース」に該当する場合に、裁判所で発行手続きをして取得します。
ただし、逆に必要ないケースもあるため、相続放棄した人全員が発行を申請するわけではありません。
あくまで、相続放棄をした後の状況に応じて、必要な場合に裁判所で申請して取得する書類です。
相続放棄申述受理通知書とは異なる
相続放棄申述受理証明書と名前が似ていて、特に間違えやすいのが相続放棄申述受理通知書です。
まず、相続放棄をするときの手続きは、およそ次のような流れで進めます。
- 必要書類とともに相続放棄申述書を裁判所に提出する
- 裁判所から送付される照会書に記入して回答を返送する
- 正式に相続放棄が完了すると、相続放棄申述受理通知書が送付される
相続放棄の手続きが無事に終わったことを知らせる通知と言えます。
相続放棄申述受理証明書のように発行申請した人だけが取得するものではなく、相続放棄をした人すべてに届く書類です。
なお、相続放棄申述受理通知書は再発行ができません。
何度でも申請して発行できる相続放棄申述受理証明書とは違うため、再発行ができるのかどうかという点でも、2つの書類の違いを正しく覚えて混同しないようにしましょう。
相続放棄申述受理証明書が必要なケース
相続放棄申述受理証明書が必要になるのは、主に次の2つのケースです。
- 債権者から求められた場合
- 相続登記や預金口座の解約の手続きを行う場合
上記のケースに該当する場合には、後述する発行手続きの流れに沿って、裁判所で手続きを行うようにしてください。
ケース①:債権者から求められた場合
相続放棄をする理由はさまざまですが、亡くなった方に借金があって相続放棄をした場合には、債権者から相続放棄申述受理証明書の提出を求められることがあります。
まず、銀行など故人にお金を貸していた債権者は、借金などの遺産を相続した相続人に対しては返済を請求できますが、相続放棄をした相続人は返済義務がないので請求できません。
そして、債権者は相続人のうち誰が相続放棄をしたのかわからないので、相続放棄申述受理証明書の提出を求めてくることがあります。
そのため、債権者から求められた場合には、自分が借金を相続しておらず返済義務がないことの証明として、相続放棄申述受理証明書を提出しましょう。
また、その際には名称が似ている「相続放棄申述受理証明書」と「相続放棄申述受理通知書」のどちらの提示を債権者が求めているのか、しっかり確認するようにしてください。
債権者が証明書ではなく通知書の提出を求めてきた場合は、通知書は再発行ができないので基本的にコピーを郵送することになります。
なお、後述するように、相続放棄申述受理証明書は債権者でも裁判所で手続きして発行が可能です。
そのため、債権者が自分で証明書を取得して誰が相続放棄をしたのか確認している場合もあり、相続人に対して証明書の取得・提出を求めてこないこともあります。
ケース②:相続登記や預金口座の解約の手続きを行う場合
不動産や預金を相続する手続きで必要な書類はケースごとに異なりますが、他の相続人に相続放棄をした人がいると、相続放棄申述受理証明書が必要になることがあります。
誰が相続人として遺産を相続する権利を持ち、相続放棄をしていて相続権を持たないのが誰なのか、手続きを受け付ける役所や金融機関で確認が必要だからです。
そのため、不動産の相続登記や預金口座の解約の手続きをする相続人は、相続放棄をした人に依頼して相続放棄申述受理証明書を取り寄せます。
ただ、相続放棄をした本人でなくても、相続人であれば他の相続人がした相続放棄の証明書の発行を裁判所に申請することが可能です。
相続放棄をした相続人が非協力的で証明書を取得してくれなかったり、そもそも仲が悪くて連絡が取れない場合でも、相続登記などの手続きをする相続人自身で証明書を発行できます。
証明書が必要な場合は、「利害関係者が相続放棄申述受理証明書を発行する手続きの流れ」で解説する方法に従って手続きして、相続登記や預金口座の解約の手続きを進めるようにしてください。
相続人が相続放棄申述受理証明書を発行する手続きの流れ
裁判所で手続きをして相続放棄申述受理証明書を発行できるのは、基本的に次のいずれかに該当する人です。
- 相続放棄をした本人
- 債権者や相続放棄をした人以外の相続人などの利害関係者
どちらに該当するかで手続きの流れが少し変わります。
ここでは、相続放棄をした相続人が相続放棄申述受理証明書を発行するまでの手続きの流れを解説していきます。
申請方法
相続放棄申述受理証明書の発行手続きを行う裁判所は、相続放棄の手続きを行った家庭裁判所と同じく、「被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」です。
裁判所に直接出向いて窓口で申請する方法でも、必要書類を郵送する方法でも手続きができます。
必要書類を揃えて裁判所に提出するだけなので、手続きとしてはそれほど難しくありません。
ただし、手続きの流れや必要書類が裁判所によって異なる場合があるため、あらかじめ裁判所に確認するようにしてください。
また、申請してから証明書が発行されるまでにかかる日数についても、裁判所ごとに異なるので事前に確認したほうが良いでしょう。
必要書類
相続放棄をした本人が相続放棄申述受理証明書を発行する際には、主に次の書類が必要になります。
- 相続放棄申述受理証明申請書
- 申請書に押す印鑑(認印で可)
- 運転免許証や健康保険証などの身分証明書のコピー
上記の他に、通知書の持参を求められたり、身分証明書の記載が相続放棄手続き時の氏名等と異なる場合に、つながりのわかる戸籍謄本等が必要になることもあります。
また、1通あたり150円分の収入印紙がいるため、発行する枚数に応じた金額の収入印紙も必要です。
なお、東京家庭裁判所の場合は、以下のサイトで申請書をダウンロードでき、申請書の記入例の確認もできます。
- 裁判所ホームページ:その他の申請
そして、郵送で申請する場合はこちらも必要になります。
- 返信用封筒
- 返信用の切手
東京家庭裁判所で手続きをする場合の返信用切手の金額は、1枚~4枚であれば84円、5枚以上だと94円ですが、金額は事前に裁判所に確認するようにしてください。
なお、以下は東京家庭裁判所で手続きする場合の申請書の記入例になります。

相続放棄申述受理通知書に記載されている事件番号などを記入すれば良いので、申請書の作成はそれほど難しくありません。
ただ、手続き方法や申請書の作成方法がよく分からなくて不安であれば、弁護士に依頼しても良いでしょう。
弁護士は相続放棄申述受理証明書を取得する手続きを代理する権限を持っています。
費用
相続放棄申述受理証明書を発行する際には、1通につき150円の手数料がかかるため、150円分の収入印紙を申請書に貼付します。
郵送による場合は返信用切手も必要ですが、いずれにしても費用はあまりかかりません。
利害関係者が相続放棄申述受理証明書を発行する手続きの流れ
他の相続人や債権者などの利害関係者が相続放棄申述受理証明書を発行する場合も、手続きの流れはほぼ同じです。
ただし、相続放棄をした本人ではないため、相続放棄申述受理通知書がなくて事件番号がわかりません。
相続放棄申述受理証明書の発行の手続きでは申請書に事件番号を書く必要があるので、最初に事件番号を調べるための手続きが必要になります。
申請方法
家庭裁判所の窓口でも郵送でも手続きできる点は、相続放棄をした相続人本人が手続きをする場合と同じです。
相続放棄申述受理証明申請書に記載する事件番号がわからない場合は、まずは相続放棄の申述の有無の照会の手続きを行います。
相続放棄の申述の有無の照会手続き
相続放棄をしているかどうかを裁判所に照会して確認することができ、相続放棄をしていることが確認できた場合には、事件番号など相続放棄の内容について裁判所から回答を得られます。
そのため、事件番号を知りたい場合には、まずは相続放棄の申述の有無の照会手続きをするために申請書を提出しましょう。
手続きを行う裁判所は、「被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」です。
東京家庭裁判所で手続きをする場合は、以下のサイトから申請書をダウンロードできます。
- 裁判所ホームページ:その他の申請
相続人が申請する場合は、被相続人の住民票の除票や申請者の住民票、照会者と被相続人の関係が分かる戸籍謄本等も手続きで必要です。
債権者などの相続人以外が照会する場合は利害関係を証明する書類が必要で、照会者が個人であれば住民票等が、法人であれば登記簿謄本等も手続き書類として必要になります。
ただ、申請書の用紙や必要書類は裁判所によって異なることがあるため、あらかじめ裁判所に確認するようにしてください。
なお、この申述の有無の照会手続きは無料なので手数料はかかりません。
必要書類
相続放棄をした相続人以外の相続人や債権者など、利害関係者が相続放棄申述受理証明書を発行する際には、主に次の書類が必要になります。
- 相続放棄申述受理証明申請書
- 申請書に押す印鑑(認印で可、法人の場合は代表者の職印)
- 運転免許証や健康保険証などの身分証明書のコピー(法人の場合は資格証明書や登記簿謄本等)
- 利害関係を証明する書類
また、1通あたり150円分の収入印紙がいるので、発行する枚数に応じた金額の収入印紙も必要です。
そして、郵送で申請する場合は以下も必要になります。
- 返信用封筒
- 返信用の切手
なお、相続放棄をした本人が申請する場合とその他の人が申請する場合で、申請書の用紙が異なる場合があります。
必要書類として何が必要で申請にはどの用紙を使うのか、あらかじめ裁判所に確認するようにしてください。
費用
相続放棄申述受理証明書の取得にかかる費用は、相続放棄をした人が申請する場合と変わりません。
証明書の発行1通につき150円の手数料がかかり、郵送による場合は返信用切手も必要です。
相続放棄申述受理証明書に関するポイント
最後に相続放棄申述受理証明書に関するポイントをいくつか紹介します。
ポイント①:裁判所でのデータ保存期間は30年
相続放棄をしたことの履歴が裁判所で保存される期間は30年です。
そのため、相続放棄申述受理証明書を発行できる手続き期限は30年ということになります。
ただ、実際には30年も経ってから証明書が必要になることは考えにくく、たとえば30年の期限を経過した後に証明書が必要になって困ることはないと考えて良いでしょう。
そもそも、借金の返済を請求できる権利の時効は5年や10年なので、時効が成立した後は請求できなくなります。
時効が成立した後に債権者から相続放棄申述受理証明書の提出を求められることは、基本的には考えられません。
ポイント②:相続放棄申述受理通知書を紛失した場合は照会が必要
相続放棄申述受理証明書の発行手続きをするのが、相続放棄をした人であってもそれ以外の利害関係者であっても、申請の際に事件番号を記入する必要があります。
相続放棄をした人自身が証明書の発行手続きをする場合、通常は通知書に記載された事件番号を確認して申請書に記入すれば問題ありません。
しかし、通知書を紛失した場合は、事件番号を調べないと証明書の発行手続きができないため、相続放棄の申述の有無の照会手続きを最初に行ってください。
相続放棄の申述の有無の照会手続きは相続放棄をした本人でもできますし、照会をして裁判所から回答を得れば事件番号がわかります。
ポイント③:相続放棄した人が他の相続人の相続放棄申述受理証明書を取得することはできない
相続放棄をした相続人が、他の相続人の相続放棄申述受理証明書の発行手続きを代わりに裁判所で行うことはできません。
相続放棄申述受理証明書を取得できるのは、相続放棄をした相続人または利害関係者ですが、相続放棄をした人は最初から相続人ではなかった扱いになり、利害関係者に該当しなくなるからです。
つまり、相続放棄をしている人が複数いるケースでは、1人がまとめて裁判所で手続きをして他の相続放棄者の証明書まで申請・発行するようなことはできません。
故人に多額の借金があって相続人全員が相続放棄をしたような場合、債権者から相続放棄申述受理証明書の提出を求められたとしても、相続人がそれぞれ個別に発行の手続きを行う必要があります。
ポイント④:相続放棄した人が非協力的な場合でも他の相続人は自分で発行手続きができる
たとえば、不動産を相続する相続人が相続登記の手続きをする際、相続放棄をした人が非協力的で相続放棄申述受理証明書を渡してくれないことが考えられます。
このままでは相続登記の手続きができないため、相続登記をする相続人自身で相続放棄申述受理証明書の発行手続きを進めましょう。
さきほど解説したように、相続放棄をした本人でなくても、他の相続人は利害関係者として相続放棄申述受理証明書を申請・取得できます。
非協力的な相続人が対応してくれるまで待ったり、協力してくれるように交渉を続ける必要はありません。
相続放棄申述受理証明書を発行するための手続きの手間はかかりますが、費用は1通につき150円と大した金額ではないので、相続登記などの手続きをする人自身で発行手続きをしたほうが得策です。
相続登記などの遺産相続の手続きが終わらないままだと思わぬ不利益を被ることもあるので、手続きをできるだけ早く進めるようにしましょう。
ポイント⑤:相続放棄自体が無効になる行為は絶対にしない
債権者から相続放棄申述受理証明書の提出を求められた際、たとえば「相続放棄をしていて返済の義務はないわけですが、少額でも良いので返済に協力してもらえませんか?」と言われたとします。
このような場合、相続放棄の手続きが完了していて返済義務がなく、善意で少しだけ返済する分には問題ないだろうなどと考えてはなりません。
故人の借金を少しでも返済すると、遺産を相続することを法的に認めたことになってしまうからです。
相続放棄の手続き完了後であっても、このような行為をすると相続放棄が無効になって借金を相続してしまうため注意が必要です。
相続放棄申述受理証明書の提出を求められた際にすぐに対応することは大切ですが、ご自身が不利益を被るようなことがないように、その他のことは慎重に対応するようにしてください。
まとめ
相続放棄申述受理証明書は、金融機関などの債権者から求められた場合や相続登記などの手続きをする際に必要になります。
相続放棄をした人すべてに送付される相続放棄申述受理通知書とは異なり、あくまで必要な場合に発行手続きを行って取得する書類です。
家庭裁判所で発行の手続きをする際には、相続放棄申述受理証明申請書に事件番号などを記入し、必要書類とともに提出します。
裁判所によって申請書の用紙の名称が違ったり、手続きの流れや必要書類が異なる場合があるので、手続きをする際には裁判所に事前に確認するようにしてください。
また、相続放棄をした相続人本人だけでなく、他の相続人や債権者などの利害関係者でも相続放棄申述受理証明書を取得できます。
他の相続人が相続放棄をしていて、不動産の相続登記や預金口座の解約の手続きで証明書が必要な場合には、相続放棄をした人にわざわざ依頼せず、ご自身で発行手続きを行っても良いでしょう。