不動産を相続する際に、用いられる代償分割という方法。代償分割を行うことで、資産を平等に分けることができる、かつ不動産の所有権自体は1人の相続人が持つことができます。本項では、代償分割の方法から、課される可能性のある税金(相続税,贈与税,譲渡取得税など)について解説していきます。
被相続人=資産を残す人=亡くなった方
相続人=資産を受け継ぐ人=配偶者,子供,親戚など
目次
代償分割に関する基本知識
代償分割とは
相続財産の分割については、法律でその割合の基準が定められています。これを、法定相続分といいます。たとえば、相続人が配偶者と子ども2人の場合、配偶者は全体の1/2を、子は残りの1/2を等分にして、1/4ずつ相続するといった具合です。
ところが、相続財産に不動産などが含まれているケースでは、物理的に法定相続分通りに分けることが難しい場合があります。そんなときに使われるのが、代償分割という方法です。
代償分割では、誰か1人が不動産を受け取る代わりに、相続額が少なくなってしまう人に対して代償金を支払い、調整します。これによって、公平に財産を分けることができるのです。
また、代償金は現金に限らず、所有している不動産などでもよいとされています。少しややこしいですが「不動産の代償を、不動産で支払う」というケースです。
Aが不動産1を相続し、その代わりにBには不動産2を、Cには現金で支払うといったことも可能です。代償分割で重要なのは「最終的に全員が受け取る財産額が、法定相続分通りになること」で、財産の種類は現金でも不動産でも良いのです。
その他の分割方法
ちなみに、例えば不動産を分割するとき、代償分割以外にも方法はあります。
現物分割
相続財産をそのままの状態で、相続人それぞれに割り振る方法です。たとえば、自宅の土地建物は配偶者に、マンションは長男に、預貯金は次男に、といった形で分割します。手間はかかりませんが、公平に分けるのは難しくなります。
換価分割
相続財産を現金化し、分割する方法です。公平な分割は可能ですが、不動産の売却などによって利益が発生した場合、その所得に対して相続人に譲渡所得税が課せられます。
共有分割
ひとつの相続財産を、複数の相続人で共有する方法です。たとえば、土地のうち、1/2は妻、1/4は長男、残りの1/4は次男のように分割します。このように分けた場合、その土地を売却するには共有者全員の承諾が必要になるのに加え、共有者の誰かが亡くなったときにはさらに相続が発生して共有者が増えるということも起こり得ます。
また、土地の一部だけを、その部分の所有者が売却してしまうことも可能です。
代償分割で「相続税」はかかる?
代償分割に話を戻します。代償分割を行った場合、例えばAとBの間では、財産が動くことになりますが、それぞれ相続税の課税についてはどのように扱われるのでしょうか?これについては、財産を分割するときに基準にした価格によって、違いが出てくるため注意して下さい。
ケーススタディ
相続人
- Aさん
- Bさん
相続財産
- 時価:5,000万円
- 相続税評価額:4,000万円
相続の方法
- Aさんが不動産を相続し、代償金としてBさんに2,000万円支払う
代償分割の割合が、相続税評価額4000万円に基づいている場合
- Aの課税価格:4,000万円-2,000万円=2,000万円
- Bの課税価格:2,000万円
この場合、相続税評価額4,000万円に対し、2,000万円の代償を支払うことで、課税価格は半分の2,000万円ずつとなります。
代償分割の割合が、時価に基づいている場合。
この場合、2,000万円という代償の金額は同じですが、時価をベースにしているため「A:B=3:2」で分割したと考えられます。
- Aの課税価格:4,000万円-{2,000万円×(4,000万円÷5,000万円)}=2,400万円
- Bの課税価格:2,000万円×(4,000万円÷5,000万円)=1,600万円
参考:国税庁ホームページ
代償分割で「贈与税」はかかる?
贈与税とは
まず、贈与税とはその名前の通り、贈与によって受けて得た財産にかかる税金です。1月1日から12月31日までの1年間を基準とし、110万円(基礎控除)以内であれば課税対象にはなりませんが、これを超える場合には金額に応じて一定の税率が課せられます。
代償分割における贈与税
代償分割は、相続人のうち誰かが不動産などを相続する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う分割方法ですが、ではこの代償金に対して贈与税はかかるのでしょうか?
結論からいうと、答えはノーです。代償分割において支払われる相続人から別の相続人へと支払われる代償金は、相続人固有の財産ではなく、被相続人から相続する財産の代わりとみなされます。ですから、相続税はかかっても、贈与税はかからないのです。
ただし、分割方法を決めたときの遺産分割協議書にその旨がきちんと記されていないと、贈与とみなされて贈与税が課せられることがあります。
贈与税は、相続税よりも基礎控除が低く、さらに税率も高くなっていますから、代償分割をするときには、誰が何を受け取り、誰にどれだけの代償金を、どんな形で支払うのかを遺産分割協議書にきちんと明記しましょう。
代償分割で「譲渡所得税」はかかる?
譲渡所得税とは
まず譲渡所得税の説明です。譲渡所得税とは、土地や建物を売却したときに生じた利益に対して課せられる税金で、以下の2つの計算で求められます。
譲渡所得=譲渡収入金額ー(取得費+譲渡費用)
課税譲渡所得=譲渡所得ー特別控除
※取得費:土地や建物の購入費、建築費、購入手数料、設備費や改良費などの合計から、減価償却費相当額を差し引いたもの。もしくは、譲渡収入金額の5%。
※譲渡費用:仲介手数料や立退き料、違約金など、売るためにかかった費用
※特別控除:マイホームを譲渡した場合に3000万円の控除、など
※譲渡取得税について、詳しくはこちら
譲渡所得税がかかる場合
1章で説明した通り、代償分割では、代償金は現金以外でもよいとされています。譲渡所得税が課せられるのは、代償金を不動産で支払った場合のみです。
たとえば、
- 相続人A:不動産
- 続人B:代償金(他の不動産)
という代償分割が行われたとしましょう。AがBに対しして、現金ではなく不動産を譲る事で代償分割を行なったケースです。この場合、実際にはAはBに他の不動産を渡すことで、Bから売却益を得たわけではないため、譲渡所得税はかからないように思えます。
しかし、この場合は、金銭の授受が無くても、実質的には価値のある不動産をBに譲渡している為、Aは譲渡所得税も支払うことになる可能性があります。
ケーススタディ(1)
相続人
- A、B、C
相続財産
- 相続税評価額9000万円の不動産X
相続方法
- Aが不動産Xを相続する
- AはBに対して代償分割として「取得費2,000万円 / 時価3,000万円」の不動産Yを譲渡し、Cに対しては現金3,000万円を支払う
Aが支払う譲渡所得税
- 3,000万円ー2,000万円=1,000万円
ここから、名義人変更の手数料などを差し引いた金額を、Aは譲渡所得として得たことになり、これに対して譲渡所得税が課せられます。
ケーススタディ(2)
相続人
- A、B、C
相続財産
- 相続税評価額9000万円の不動産X
相続方法
- Aが不動産Xを相続する
- AはBに対して代償分割として「取得費2000万円 / 時価3000万円」のマイホームを譲渡し、Cに対しては現金3,000万円を支払う
Aが支払う譲渡所得税
- 通常は、時価と取得費の差額1,000万円から、名義人変更の手数料などを差し引いた金額に対し、譲渡所得税が課せられます。ただし、住んでいる家を譲渡する場合には譲渡所得3,000万円までは控除が受けられるため、Aは譲渡所得税の支払いがありません(特別控除)。
まとめ
思い出の詰まった家を残し、かつ公平に相続したい、なんてときに便利な代償分割ですが、代償金を不動産で支払う場合には、譲渡所得税が課される場合があるので、注意が必要です。
せっかく公平に分割したのに、誰かが余計に税金を払うなんてことがないよう、事前にしっかり調べておきたいところですね。