人生の節目で訪れる儀式やご祈祷を行う際には、神社へ「初穂料」を奉納し神事を執り行ってもらいます。
しかし、この初穂料を奉納する場面は神社のため作法に不安を感じてしまうものです。
そこで、ここでは初穂料とは何なのかを説明しながら「玉串料との違い」「儀式別の費用相場」「のし袋の選び方やマナー・注意点」などを解説します。
神事に関するマナーは、その内容が理解できればそれほど難しくはありません。
この機会に理解を深め、人生の節目を晴れやかな気持ちで迎えましょう。
目次
初穂料とは

普段の生活ではあまり聞きなれない「初穂料」という言葉ですが、この言葉は日本古来の宗教である神道に関する用語です。
ここでは、この初穂料とは何であるのを説明しながら、初穂料が私たちの生活のどのような場面で必要になるのかを解説します。
「初穂料」の読み方
「初穂料」の読み方は「はつほりょう」です。
「初穂」と「料」から成り立つこの言葉は、「初」と「穂」はそれぞれ訓読みして「はつほ」、「料」は音読みで「りょう」と読みます。
初穂料の意味
初穂料は神社で行う神事の際に納める謝礼です。
「初穂」とは字のごとく、その年の最初に収穫したお米のことを指しており、かつての日本では初穂は豊作祈願と感謝の気持ちをこめて神仏に奉納されるものでした。
しかし、実際にはその年の最初のお米を手にできるのは農家に限られ、貨幣経済の発展と共にこの初穂の慣習はお金を奉納する慣習へと変化します。
時代経過と共に変化した神様への奉納品ですが、初穂といえば「神様にお供えするもの」という意味が強くなり、現在では神前にお供えするお金を初穂料と呼ぶようになります。
初穂料が必要な場面
冒頭でも触れたように、初穂料は人生の節目や神社へ祈禱を依頼する際に必要な謝礼です。
初穂料が必要な儀式は次のとおりです。
- お宮参り
- 神前式(和婚スタイルの結婚式)
- 七五三
- 地鎮祭
- 新車購入時のお祓い
- 各種祈禱
- お守り・お札の購入 など
なお、初穂料は通夜や葬儀などの不祝儀で使うことはできません。
初穂料と玉串料の違い

神社へ渡す謝礼の中には初穂料とよく似た「玉串料(たまぐしりょう)」がありますが、この2つは使われる状況が似ているにもかかわらず、意味が異なるため注意が必要です。
ここでは、この玉串料の意味や初穂料との使い分け方を解説します。
玉串料とは?
「玉串料」の「玉串」とは榊の枝に̪紙垂(しで)をつけたものです。
本来は「米」「酒」「野菜」などの食事と合わせて、祈願する本人が神様にお供えする玉串ですが、現在では「お供え物」「榊」「紙垂」を準備するのは現実的ではないため、玉串料としてお金を納めるようになります。
「初穂料」と「玉串料」の使い分け方法
初穂料と同じく神社のさまざまな儀式で使われる玉串料は、ご祈禱や神式の結婚式などでも使われますが、初穂料と大きく異なるのは通夜や葬儀の際にも使われるという点です。
これは、玉串に自らの心を乗せ神様に捧げることによって、故人を慰め供養することができると考えられているためです。
ただし、玉串はお守りやお札の購入には使うことができません。
お守りやお札の購入ができるのは初穂料のみとなっています。
初穂料と玉串料の使い分け

【儀式別】初穂料の金額相場

初穂料は儀式や神社によって金額が異なるため、一律の金額はありません。
そこで、ここでは次に挙げる儀式ごとの金額相場を解説します。
なお、神社によってはあらかじめ金額が儀式ごとに設定されている場合がありますので、利用する神社が決まっている場合は電話やホームページなどで確認することをおすすめします。
神前式・結婚式
神社で挙げる結婚式は神前式と呼ばれ、金額相場は5万円~10万円です。
中には、「食事」「着物レンタル」「着付け」「ヘアメイク」などのサービスを用意している場合もあり、これらは初穂料以外のオプション料金を払うことで神前式に追加することも可能です。
神社によってはホームページなどで紹介している場合もありますので確認してみましょう。
地鎮祭
地鎮祭とは住宅を建てる際にその土地の神様に許しを得て、工事の安全と家族の繫栄を祈願する神事です。
この際の初穂料の金額相場は2万円~3万円です。
ただし、神社によっては地鎮祭を行う場所までの交通費や、その他のお供え物が必要となる場合があります。
地鎮祭はお住いの地域によってさまざまな形態があるため、金額以上にマナーにばらつきがあります。
依頼する神社や施工業者へ確認すると、その地域のやり方や必要な金額を教えてもらえます。
お宮参り・七五三
神様に赤ちゃんの出生をお知らせするのがお宮参り、子供の成長を祈願するのが七五三ですが、この際の金額相場はどちらも5,000円~1万円です。
ただし、これらの行事には子供の着付けや写真撮影などが不可欠なため、初穂料以外に専門業者への支払いが発生します。
神社の敷地内で受けることができるこれらのサービスは非常に人気ががりますが、特に七五三シーズンの週末は非常に込み合うため注意が必要です。
中には完全予約制の神社もあり、予約なしでお参りに行ってもご祈禱を受けられないケースもあります。
初穂料を払う人物

初穂料を払う人物については決まりはありません。
ただし、儀式当日になって誰が初穂料を払うのか揉めないためにも、あらかじめ支払いについての取り決めは必要でしょう。
中には、両家の祖父母が参加する儀式であれば初穂料を折半する、父方の祖父母が初穂料を出し母方の祖父母が儀式終了後の食事会の費用を出すなどの支払い方法も見受けられます。
いずれにせよ、初穂料の支払いについての決めごとが無ければ当日のトラブルの原因となる場合もあるため、両家相談の上で事前に具体的な取り決めをすることをおすすめします。
初穂料の税務処理方法

自営業者や確定申告が必要な方の中には、初穂料の税務処理について疑問を感じている方も多いものです。
ここでは、このような疑問を解消するため初穂料の勘定科目について行事ごとに解説します。
初穂料の勘定科目
初穂料やご祈禱の際の費用は、法人税法や消費税法では「喜捨金」と呼ばれ寄付金に分類されています。
しかし、次のような状況では経理上の勘定科目はどのようになるのでしょうか?
次にあげる勘定科目は、あくまでも一例です。
詳しくは税理士や税務署への確認が必要となるため、次に解説する内訳はあくまでも一例とお考えください。
地鎮祭の場合
地鎮祭の初穂料は「建物」の取得価格に含めて処理されるため、税区分は対象外となります。
車のお祓いを受けた場合
原則として寄付金となりますが、考えによっては車両費として処理することも可能です。
なお、金額が非常に少ない場合は雑費として処理することもできます。
祭礼の際に初穂料として納める場合
寄付金です。
神社を参拝した際に初穂料として納める場合
寄付金です。
ただし、金額が少ない場合は雑費として処理することもできます。
初穂料の領収書について
初穂料を納める際には、領収書をもらうことは可能です。
なお、お守りやお札を購入する際にも領収書をもらうことができます。
混雑時の神社では領収書の発行に手間取ることも予想されるため、あらかじめメモや名刺などを用意しておくと領収書の発行がスムーズです。
初穂料の熨斗袋(のしぶくろ)の書き方と水引の選び方

初穂料を支払う際には、財布から裸のお金を取り出して支払うことはマナー違反のため、あらかじめ用意した熨斗(のし)袋などに包む必要があります。
ここでは、この熨斗袋について種類や表書きの書き方などのマナーを解説します。
表書きの書き方
外袋の表書きには蝶結びの水引の上段に「初穂料」、もしくは「御初穂料」と記載します。
下の段にはご祈禱を受ける方のフルネームを記載しましょう。
なお、使用する筆は毛筆が好ましいですが筆ペンを使用しても問題はありません。
中袋の書き方
お金を包む中袋の表面の中央には、お金の金額を大きく記載します。
この際使用する数字は、「初穂料を包む際のマナー・注意点」で詳しく解説する大字を用いて記載するのがマナーです。
なお、裏面には左下に次の内容を記載します。
- 郵便番号
- 住所
- ご祈禱を受ける方のフルネーム
市販されている熨斗袋の中袋には「住所」「氏名」「金額」を記載する欄が、あらかじめ印刷されているものもあります。
このような中袋の場合は、印刷に従って記載すれば間違いはありません。
封筒の書き方
熨斗袋が用意できない場合などは、郵便番号を書く欄がない白封筒に初穂料を包むことができます。
この際の書き方は次のとおりです。
- 表面上段に「初穂料」と記載
- 表面の下段には祈禱を受ける子供の名前をフルネームで記載
- 裏面には「金額」「郵便番号」「住所」を記載
使用する水引の種類
お宮参りや七五三などのおめでたい行事は、何度あっても喜ばしい行事のため紅白で蝶結びの水引を使用します。
結びきりの水引はNG
慶事である結婚式には結びきりの水引が使われることから、「おめでたい行事であれば結びきりの水引を使用しても良いだろう」と考える方もいますが、これは間違いです。
結びきりは「真結び」とも呼ばれ、簡単にほどけない作りから「繰り返しあってはならない」という意味があります。
お宮参りのようなおめでたい行事は何度あっても喜ばしいため、この結びきりとはまったく逆の意味となってしまうのです。
複数人で御祈禱を受ける場合の名前の書き方
兄弟複数人でご祈禱を受ける際には、表面の下部に記載する名前は連名となります。
上の子の名前をフルネームで記載し、その左側に下の子の名前だけを記載しましょう。
寺院で七五三を行う場合の熨斗袋の書き方
七五三の行事は寺院で行うことも可能です。
寺院に納める場合の熨斗袋の表書きは、お布施または御祈祷料と記載します。
なお、水引や中袋の書き方に関しては神社でも寺院でも同様の書き方となります。
初穂料を包む際のマナー・注意点

初穂料は熨斗袋や水引の選び方以外にも、気を付けなけれならないポイントがあります。
ここでは、「お金の入れ方」「記載する漢数字」「袱紗」に関するマナー・注意点を解説します。
お金の入れ方
熨斗袋に入れるお金は向きが重要です。
肖像画を表側にして、さらに上向きにして入れるのが正しい入れ方です。
迷った際には、熨斗袋からお金を取り出す際に肖像画が最初に見えれば向きは合っていると覚えると良いでしょう。
包むお金は新札でなくても良い
初穂料に使用するお金は、必ずしも新札である必要はありません。
ただし、初穂料は神様に納めるものですから、あまりにも汚れたお金やしわのついた紙幣は控えることがマナーです。
数字は漢数字の旧字体を使用する
初穂料を包んだ中袋には表書きとして表面の中央に金額を記入しますが、この際に用いる文字には旧字体の漢数字である大字(だいじ)を用いることがマナーです。
なお、金額の初めには「金」を書き、金○○圓と表記します。
一般的な漢数字に対応する大字は次のとおりです。
旧字体の漢数字一覧
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熨斗袋は袱紗に包んで持ち歩く
日本では古来より、贈呈真などを素手で触るのは非礼とされる文化があります。
そのため、神社に納める初穂料も素手やポケットに入れても持ち運ぶのは厳禁です。
必ず袱紗に入れて持ち運び、納める際には袱紗から丁寧に取り出して渡しましょう。
初穂料を渡すタイミングと受付方法

初穂料はご祈禱前の受付のタイミングで渡します。
神社に到着したらまずは神社の社務所にてご祈禱の申し込み用紙の記入を行い、その際に初穂料を渡す流れが一般的です。
受付用紙と初穂料を受付に渡したら、控え室にて待機しますのでその後は案内にしたがって動きましょう。
なお、七五三など神社が混雑する時期は、専用の大きな受付窓口が用意される場合もあります。
まとめ

神社での儀式やご祈禱に必要な初穂料は、よく似た意味合いで使われる玉串料との使い分けが必要です。
ただ、お布施のような「心付け」とは異なり行う儀式によっても明確な金額相場があるため、判断に困ることは少ないでしょう。
また、渡す際にも社務所で事務的に渡すため、しきたりや手順を心配する必要はありません。
ただし、これらのマナーは全国の神社が一律に行っているわけではなく、地域による違いは存在します。
ご祈禱の予約をする際に疑問点を質問すれば神社側は快く返答してくれるため、事前確認を含めて質問してみると良いでしょう。