遺言書がないときにはどう決める?相続手続きの手順について

遺産分割
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近しい誰かが亡くなるのは悲しいものですが、それが突然のお別れともなればなおのこと。さらに、追い打ちをかけるようにやってくるのが、相続に関するあれこれです。しかも、突然のお別れともなれば遺言書がないということもあるでしょう。そんなときにも慌てず、故人の遺産を適切に相続するにはどうすればよいのでしょうか。本稿では、遺言書が無かった場合の相続手続きの進め方について解説します。


被相続人=資産を残す人=亡くなった方
相続人=資産を受け継ぐ人=配偶者,子供,親戚など


1.遺言書には大きく4種類ある

遺言書と一言でいっても、実は大きく4つの種類に分けることができます。

ここではまず簡単に4種類の遺言についてご説明します。

※遺言書について、より詳しく解説した記事はこちら。

自筆証書遺言

被相続人が自ら作成するものです。民法で定められたとおりの書式で書かなければならず、全文自筆で、日付と署名、押印が必要になります。また、これが見つかった場合には家庭裁判所でその内容を確認してもらい、検認を受けなければなりません。形式が違う場合などには、無効とされることもあります。無効とされた遺言書に従うかどうかは、相続人に委ねられます。

公正証書遺言

被相続人が公証役場で作成します。口述、口がきけない場合は通訳による申述、または自書で内容を伝え、それを元に、公証人が遺言書を書く、という手順を踏みます。被相続人の署名と押印が求められますが、健康状態によってそれができない場合、公証人がそれを附記して代えられます。

プロが作るものなので、家庭裁判所での検認は不要です。また、被相続人の死後、日本公証人連合会の「遺言検索システム」で簡単に検索できます。

秘密証書遺言

遺言書があることは示したいけれど内容は誰にも知られたくないとき、作成した遺言書を公証役場に持参すると、秘密証書遺言として記録に残すことができます。署名が自筆で、押印も要りますが、その他の部分は自筆でなくてかまいません。また、これが見つかった場合には、家庭裁判所での検認が必要です。

これも、公正証書遺言と同じく、「遺言検索システム」でありかを見つけられます。

その他、特別の方式の遺言

死亡の危急に迫った者

  • 病気などで死の間際にある人について、3人以上の証人の立ちあいのもとで、口述、もしくは通訳を介した申述をし、遺言とすることができます。証人のうち1人はこれを元に遺言書を作成し、各証人の確認を得て、署名、押印します。
  • 遺言書作成から20日以内に、証人のひとり、もしくはその利害関係者が家庭裁判所に請求し、効力を認めてもらわなければなりません。

伝染病隔離者

  • 伝染病で隔離されている人は、警察官ひとり、証人ひとり以上の立ち会いのもと、遺言書を作成できます。

在船者

  • 船舶に乗っている人は、船長、または事務員ひとりと、二人以上の証人の立ち会いのもと、遺言書を作成できます。

船舶遭難者

  • 船舶に乗っていて、死亡の危急に迫っている人は、2人以上の証人がいれば、内容を口頭で伝えることで遺言とできます。
  • 証人はこれを書面化して署名、押印し、また、証人のひとり、もしくは利害関係者から、大きな遅れと判断される期間を空けずに家庭裁判所に請求をして、効力を認めてもらわなければなりません。

2.遺言書の効力は?

遺言書がある場合には原則従う

正式な遺言書がある場合、これに従うべきというのが原則です。

遺言書がある場合はこれに従い、遺産分割の協議の余地はないとする最高裁の判決もあります(平成3年4月19日)。

しかし、遺言書が絶対的な効力を持つというわけではありません。

相続人の遺留分が侵害される場合

遺留分とは、相続人に認められた最低限の権利のことをいいます。

たとえば、遺言書に「全財産を前妻のAに」や「全ての財産を寄付する」などと書かれていた場合、相続人の手元には一銭も残らないどころか、見知らぬ誰かに全財産がわたってしまうことになります。これを防ぐのが遺留分です。

ただし、遺留分が侵害される場合でも、故人の遺志を尊重して遺言書に従う、という選択もできます。

※遺留分について、詳しくはこちら。

相続人全員が遺言書に従わないと同意した場合

遺言書に記載されているのが相続人のみだった場合、これを無視することに全員が合意すれば、遺言書はなかったものとして遺産分割を行うことができます。

しかし、相続人以外の受遺者が遺言書に記載されている場合には、勝手に無視することはできません。この場合、遺言書に従うか、話し合いで決めるか、裁判で争うかといった選択肢があります。

3.遺言書がない場合の遺産分割の手順

さて、いよいよ本稿の目的である、遺言書がない場合の手続きについて解説します。

基本的には、遺言書がある場合の手続きと同じですが、異なるのが相続人全員で「遺産分割協議」を開くというところです。

遺言書によって「財産を誰にどう分けるか」が決められていない為、全員で話し合って決める必要があるのです。

それでは手続き全体について順番に見て行きましょう。

※遺産分割協議については、4番目に説明しています

法定相続人の確定

法定相続人とは、民法で定められた相続人のことです。

相続人には順位が定められており、被相続人の配偶者、子、子がいない場合は親、親もいない場合には兄弟姉妹が相続人になります。また、被相続人の子が亡くなっている場合には、そのさらに子、つまり孫が相続することになります。

これを、代襲相続といいます。

法定相続人を探すには、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍が必要です。

ずっと同じ住所で暮らしていた場合には、現在の戸籍謄本だけで済みますが、結婚や引っ越しなどがあった場合には、現在の戸籍謄本に加えて、除籍謄本、改製源戸籍もそろえなくてはなりません。

これらは、本籍地のある役所や役場に行くか、郵送で取り寄せることができます。

法定相続人は、ひとりでも欠けると遺産分割の協議が無効になってしまいます。必ず、もれのないように確認しましょう。

法定相続人が確定したら、全員の戸籍謄本と住民票、印鑑証明、実印を準備しておきましょう。

※法定相続について、詳しくはこちら。
※代襲相続について、詳しくはこちら。

相続財産の調査

次に、相続すべき財産を調査、確定させます。

不動産や預貯金、有価証券や動産といったプラスの財産の他、借金や未払い金などのマイナスの財産に関してもきちんと調べ、できればリスト化しておきましょう。

探すポイントは、預貯金通帳、登記事項証明書、納税通知書や保険、金融関係の郵便物などです。

また、市区町村の役所、役場で閲覧できる「名寄帳」には、ある人物が所有する不動産の一覧表が載っています。所有する不動産が多い、あるいは不明な場合には、これを調べるという方法もあります。

相続を放棄するかどうか

相続人は、相続財産を相続するのか、放棄するのかを選べます。

放棄するときには、相続が発生、つまり被相続人が亡くなってから3ヶ月以内に家庭裁判所への申請が必要です。

相続を放棄すると、その人ははじめから相続人ではなかったことになり、相続人は次の順位の人に移ります。

もちろん、代襲相続もできません。

相続を放棄すると、プラスの財産ももらえない代わりに、マイナスの財産を抱えることもなくなります。

プラスよりマイナスの方が大きいような場合には、相続放棄をすることも検討しましょう。

また、相続人全員が同意した場合のみ、限定承認という形をとることもできます。

これはプラスの範囲内でマイナスの財産を引き受ける制度。

手元に残るものはありませんが、債権者に少しでも返済できるというメリットがあります。

この申請も、被相続人が亡くなってから3ヶ月以内に、家庭裁判所で行います。

※相続放棄、限定承認について、詳しくはこちら。

遺産分割協議をする

先ほど説明した、遺産分割協議です。

相続人と相続財産が確定したら、相続人全員で話し合い、取り分を決めていきます。

ただし、全員が一堂に会する必要はありません。電話やメール、郵送などのやりとりによって決めることもできます。

まず、原則としては、法定相続分に従って分けることになります。

法定相続分とは、民法に定められている相続財産分割の割合です。たとえば、配偶者と子がいる場合、それぞれ1/2ずつ、配偶者と子が2人いる場合、配偶者に1/2、残りの1/2を子で等分するというようになっています。

もし、相続財産に不動産があってうまく分けられないような場合には、4つの方法があります。

  • 現物分割:不公平でもいいので、現物のままそれぞれに分ける
  • 換価分割:不動産などを売却し、現金化してから分ける
  • 代償分割:誰かが不動産を相続する代わりに、相続分が少ない人に代償金を支払って補てんする
  • 共有分割:土地の面積などによって分割し、ひとつの不動産を複数の相続人で共有する形をとる

遺産分割協議がまとまったら、その内容を遺産分割協議書という形で残しておきます。決まった形式はありませんが、第三者から見て、相続の内容が明確であることが重要です。

もし、協議で決着がつかなかった場合は、家庭裁判所に申し立てをすることで、遺産分割調停が、それでも決まる見込みがないときには、遺産分割審判が行われます。

相続税の申告・納付

相続分が確定したら、相続税の申告と納付をしましょう。場所は、被相続人の死亡時の住所を管轄する税務署です。申告、納付のいずれも、期限は被相続人が亡くなってから10ヶ月と定められています。超過すると加算税が課せられるので、必ず期限内に行いましょう。

また、相続人や相続財産の確定、遺産分割協議などには期限がありませんから、これらが長期におよび、10ヶ月を超えることもあります。その場合は、法定相続分にもとづいて相続されたとみなされ、相続人それぞれの相続税が決定されます。

※相続税の計算方法について、詳しくはこちら。

まとめ

遺言書が家になくても、公証役場などで保管されているケースがあります。まずは慌てずに、考えられる場所を探しましょう。

それでも見つからない場合は、まず法定相続人の確定を行い、次に相続財産の確定、遺産分割協議、相続税の申告・納付という順に進めていきます。

相続放棄、限定承認は被相続人がなくなってから3ヶ月、相続税の申請・納付は10ヶ月と決まっているので、期限には充分注意しましょう。

この流れを知っておくだけでも、いざというときに慌てずに相続を進められますよ。

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