【2021】エンバーミングとは?費用・手順・効果・メリット&デメリット

エンバーミング 一般知識・マナー

遺体を長く保たせる「エンバーミング」は、故人を見送るまでに時間が必要なとき役立つ処置です。

災害時で火葬がなかなかできなかったり、都心部の火葬場で予約が取りにくいときなどに利用されていますが、日本ではまだあまり馴染みがありません。

今回は、現在日本で行われているエンバーミングについて、具体的な方法やよくある疑問点、メリット・デメリットを詳しく解説します。

目次

エンバーミングとは

外国の墓地

エンバーミングの歴史は古く、イタリアやフランスの科学者が17世紀頃に防腐剤注入の技術を開発し、アメリカの南北戦争をきっかけにして多くの人に広がりました。

エンバーミングは、遺体に残っている腐敗しやすい部分を防腐剤に置き換えるため、腐敗によって起こる感染症の問題を解決します。

 

また、防腐剤により遺体を長く保てるので、どうしてもすぐに火葬できないときや、遺体を長距離移送しなければならないときに行われることも少なくありません。

火葬が主流の日本ではあまり耳にすることがありませんが、遺体を埋葬するまでの状況や衛生の観点から、エンバーミングを希望する人が増えています。

海外では行われることが多い

エンバーミングが行われるのは圧倒的に海外が多く、特に土葬が主流のアメリカでは実に90パーセントがエンバーミングの処置を行います。

土葬された遺体は土に還っていきますが、このときエンバーミングされていないと腐敗した体液が地面に染み込み、地下水に影響を及ぼして感染症にかかる可能性があるのです。

このような事態を防ぐため、アメリカを始めとした土葬の習慣がある海外では、「エンバーマー」と呼ばれる専門家の手によってエンバーミングが行われています。

日本でのエンバーミング率

日本でも1974年にエンバーミングが導入されましたが、当時はまだ医療機関内にとどまる程度で葬儀関係の普及はありませんでした。

日本でエンバーミングが注目されるきっかけになったのは、1995年に起こった阪神淡路大震災です。

未曾有の被害となった震災では多くの人が一度に亡くなり、火葬が間に合わない遺体を長く保たせるためにエンバーミングが施されました。

 

阪神淡路大震災がきっかけでエンバーミングは広く日本に知れ渡り、1995年には1万人にも満たなかった処置件数が、2013年には3万件に達しています。

悲しい出来事がきっかけで日本での普及が広まったエンバーミングですが、少しでも長く遺体を綺麗に保ちたい遺族にとって、エンバーミングは大切な選択肢となっています。

エンバーミングのやり方の手順

手術する手元

エンバーミングの処置は直接遺体に施されるので、どのようなことが行われるのかわかっていないと不安ですよね。

ここでは、エンバーミングの手順と行われる処置の内容について詳しく解説します。

  1. 遺体を消毒・洗浄する
  2. 遺体の顔を整える
  3. 血液を抜き防腐液を注入する
  4. 切開部分や傷痕を縫い合わせ・修復する
  5. 全身洗浄して衣服を着せる

ステップ①:遺体を消毒・洗浄する

最初に行われるのは、遺体の消毒と洗浄です。

遺体の表面には細菌や微生物がついているため、エンバーミング処置に支障が出ないよう丁寧に消毒・洗浄されます。

 

このときに同時に行われるのが、遺体の傷の確認と死後硬直を解く作業です。

処置を行うエンバーマーが感染症にならないよう、注意しながら消毒と洗浄が進められていきます。

ステップ②:遺体の顔を整える

遺体の消毒が終わったら、鼻や口といった遺体の体腔に綿を詰めて塞ぐ作業をします。

さらに、目・口を閉じさせて顔を整えていきますが、どうしても閉じられなかった場合は歯茎を縫い合わせたり、目を接着するなどの処置が行われます。

 

この工程は葬儀社でも行われるためよく誤解されるのですが、エンバーマーは納棺師やエンゼルメイク(死亡した際に看護師などが顔色や表情を化粧などで手直しすること)を行う化粧師と同じではありません。

遺体の顔を整えたら、エンバーマーにしかできない処置に入ります。

ステップ③:血液を抜き防腐液を注入する

「ステップ②」までの処置が済んだら、静脈から防腐液を注入し、静脈につないだ管から血液を抜く作業に入ります。

血管の確保では、主に遺体の鎖骨部分や大腿部を切開し、防腐液を注入ながら血液を抜いていきます。

 

全身に防腐液をいき渡せるため、エンバーマーはマッサージを施しながら作業を進めますが、このマッサージでは遺体の顔に赤みをさすというもう一つの効果が得られます。

全身に防腐液が行き渡ったら、体内に残っている体液や内容物を吸い出し防腐剤に置き換えていきます。

ステップ④:切開部分や傷痕を縫い合わせ・修復する

防腐液・防腐剤の処置が終了したら、切開した部分や損壊した遺体の傷の縫合・修復を行います。

「ステップ①」で確認した傷も綺麗に縫合し、隠せる傷痕はすべて修復用のテープで処置をしていきます。

ステップ⑤:全身洗浄して衣服を着せる

すべての処置が終わったら、最後にもう一度全身を洗浄し、衣服を着せてエンバーミングが終了します。

着せたい洋服を渡しておくと、エンバーマーが遺体に着せてくれます。

エンバーミングをお願いするときは、事前に服を選んで渡すようにしましょう。

エンバーミングを行う目的・効果

手術器具

エンバーミングは「遺体の保全と衛生のための処置」なので、その効果には明確な目的があります。

ではエンバーミングを行う目的と効果はどのようなものなのか、その内容を詳しく解説していきますね。

目的・効果①:遺体の殺菌・消毒

遺体は、亡くなった直後から腐敗が始まるため、可能な限り清潔に保たなければなりません。

エンバーミングは医療技術に基づいた処置なので、徹底した遺体の殺菌・消毒を行うことができます。

目的・効果②:感染症の予防

感染症の原因となる細菌やウィルスは、生命活動が止まった人体でも生き続けます。

特に、細菌は遺体を栄養にして活動を続けるため、適切な処置をしなければ感染症を引き起こし大変危険です。

エンバーミングでは防腐剤の効果で細菌やウィルスを滅菌するため、遺体からの感染症を防ぐ最適な手段です。

目的・効果③:遺体の腐敗防止

腐敗が進んだ遺体は感染症の危険性が高まるだけでなく、臭いも強くなるのでできるだけ早く腐敗を止めなければなりません。

エンバーミングは防腐剤を遺体全身に回すため、遺体の腐敗防止と臭いの軽減に高い効果が期待できます。

目的・効果④:遺体の修復

エンバーミングは高度な技術を持つエンバーマーによって行われるので、遺体に残る傷も綺麗に修復されます。

特に、事故や災害などで大きな損傷を受けた遺体は、可能な限り生前の姿に近づけて修復するため、遺族にとって心の救いになることも少なくありません。

目的・効果⑤:お別れの時間を長くする

エンバーミングにより処置が施された遺体は、約10日から2週間ほどその姿を保つことができます。

お別れまでの時間を長く持てるエンバーミングは、諸事情によりすぐに葬儀ができない遺族にとって欠かせない選択肢です。

エンバーミングするケース

棺

優れた技術で高い効果が期待できるエンバーミングですが、故人の死後2日から3日で火葬になる日本では、どのようなケースでエンバーミングが施されているのでしょうか?

日本におけるエンバーミングのケースを解説していきましょう。

ケース①:遺体の損傷が激しい

葬儀社の納棺師やエンゼルメイクでも遺体を綺麗にしてもらえますが、遺体の損傷が激しい場合は生前の姿に近づけることが難しくなります。

特に、頭部は死装束で隠すことも難しいですし、損傷が激しいと体液が流れ出てくるため、どうしても専門の技術が必要です。

エンバーミングは遺体の整形まで担うことが可能なので、遺体の損傷が激しいときには多くの人がエンバーミングを依頼しています。

ケース②:火葬がすぐにできない

日本の葬儀では、故人が亡くなってから2日から3日で火葬が行われることが一般的です。

しかし、災害などにより短い期間で多くの死者が出たり、都心部の火葬場で予約が詰まっておりすぐに火葬ができないときは、火葬ができるまで遺体を保たなければなりません。

 

エンバーミングを行うと、遺体は10日〜2週間は衛生的に保たれます。

どうしてもすぐに火葬ができず困っている人の大きな助けとなっています。

ケース③:遠方へ遺体を移送したい

故人が海外で亡くなったとき、日本へ遺体を移送するためには数日時間が掛かるので、より強固な腐敗防止策が必要になります。

火葬してご遺骨を連れ帰る方法もありますが、宗教的観念から火葬をしない・最期の姿を一目でも遺族に見せてあげたいという希望があるときは、エンバーミングによる防腐処置が有効です。

日本におけるエンバーミングは、法医学的観点からの処置であると同時に、遺族の心情に寄り添う方法として多く役立てられています。

エンバーミングでよくある疑問点

手袋をはめる術衣の人

エンバーミングは広く知られてきていますが、実際に行われるケースが少ないため、多くの人がさまざまな疑問を持っています。

そこで、ここではエンバーミングでよくある疑問点を挙げ、回答する形で詳しく解説します。

Q.エンバーミングは納棺の儀式と同じ?

エンバーミングと納棺の儀式は、どちらも遺体を整える工程があるため同じだと思われますが、この二つはまったく異なるものです。

納棺の儀式は遺族が主体になって行われ、故人の旅立ちをお手伝いしながら最期のお別れをゆっくりと過ごします。

これに対し、エンバーミングは専門知識のあるエンバーマーだけが行うことを許される遺体の処置なので、遺族が触れることはもとより、立ち会うこともできません。

一般的な流れとしては、エンバーミング処置が行われた遺体がご遺族へ引き継がれ、お通夜の前にあらためて納棺の儀式が行われます。

Q.エンバーミングの費用は?

日本におけるエンバーミングの費用は、日本遺体衛生保全協会(IFSA)で定められています。

基本料金は約15万円から25万円ですが、遺体の損傷具合によってはこの類いではありません。

エンバーミングは葬儀社を通して依頼することがほとんどなので、まずはエンバーミングについて葬儀社とよく相談して費用を尋ねてみると良いでしょう。

Q.エンバーミングは違法?

日本は刑法で死体損壊罪が定められているので、「遺体に処置をするエンバーミングは違法になるのでは?」と思う人も少なくありません。

しかし、エンバーミングは処置を行う上で厳格な基準が設けられており、医学的観点から節度をもって施されるので違法にはなりません。

 

なお、日本遺体衛生保全協会(IFSA)で定められている基準は次のとおりです。

  • 本人もしくは家族からの同意を署名で得ること
  • IFSAの認定及び登録されている技術者によってのみ行われること
  • 最小限の切開だけを行い処置ごに縫合・修復を行うこと
  • 処置後の遺体保存は50日までとし、必ず火葬や埋葬をすること

エンバーミングのメリット

点滴の管と針

専門性と高い技術を誇るエンバーミングには、遺族が納得するさまざまなメリットがあります。

エンバーミングの主なメリットについて、具体的な例を挙げて詳しくお伝えしましょう。

メリット①:遺体を生前の姿にできる

エンバーミングによる処置は、遺体を生前の姿に限りなく近づけることができます。

闘病により痩せこけた頬を膨らませて穏やかな顔に整えたり、傷跡を消して少しでも安らかな寝顔にするなど、生前に近い姿になった遺体を見て心が慰められる遺族も少なくありません。

最期の姿をより美しく整えてあげたいという遺族にとって、エンバーミングという選択肢は悲しみが和らぐメリットとなります。

メリット②:遺体を長く保てる

エンバーミングは防腐剤を遺体全身に注入するため、ドライアイスよりも長く遺体を保つことができます。

ドライアイスも一定の効果がありますが、2日を過ぎるとどうしても遺体に変化が現れてしまい、長く保つことができません。

生前の姿で遺体を長く保てるエンバーミングは、遺体の保全と衛生面のメリットを兼ね備えた方法と言えます。

メリット③:最期のお別れがゆっくりできる

エンバーミングにより遺体が長く保たれることで、最期のお別れをご遺族が納得する形でゆっくり行うことができます。

不慮の事故などで急にお別れをしなければならないとき、どうしても心の整理がつかず葬儀までに時間が掛かるという人も少なくありません。

このような状態に置かれた遺族にとって、エンバーミングにより生まれる時間の余裕は、最期のお別れまで納得した形で行える最大のメリットと言えるでしょう。

エンバーミングのデメリット

手術用の鉗子

エンバーミングによるメリットは、遺族にとって大変ありがたいものばかりです。

しかし、その一方でエンバーミングを選択する上で知っておくべきデメリットもあります。

 

では、エンバーミングには具体的にどのようなデメリットがあるのでしょうか?

詳しくご紹介していきますので一つひとつ確認してみてください。

デメリット①:エンバーミングの施設が少ない

エンバーミングは高度な技術で遺体の衛生・保全を行うため、どうしてもエンバーミング専用の施設で行わなければなりません。

施設は昔に比べると増えてきましたが、それでも日本遺体衛生保全協会(IFSA)に所属する施設は全国で55ヶ所しかなく、容易に増やすこともできないので施設が足りないというのが現状です。

 

したがって、エンバーミングを確実に行うためには、エンバーミングの施設と提携している葬儀社を選ぶことが重要です。

エンバーミングを希望する場合は、葬儀社を選ぶ段階でエンバーミングに対応しているかをよく確認してください。

デメリット②:費用が高い

エンバーミングは一般の葬儀費用から外れている上、専門性の高い技術が必要になるため、どうしても費用が高くなります。

この費用の面がわかっておらず、あとから金額を見て驚く人も少なくありません。

エンバーミングを行うときは、葬儀費用とは別に15万円から25万円は掛かるということをよく理解しておきましょう。

デメリット③:家族や親族に反対される可能性

エンバーミングでは、処置のために遺体を切開しなければならないため、遺体に傷をつけることを嫌がる家族や親族に反対されるケースもあります。

たとえ故人が生前にエンバーミングを望んでいても、少しでも体を綺麗に保ちたいという家族や親族がエンバーミングを拒否することも多いのです。

 

遺体を検死することに反対する人がいますが、エンバーミングにも同じ反応するする人がいます。

このようなデメリットを考慮した上で、それでもエンバーミングを希望するときには適切な対応を心がけましょう。

エンバーミングを依頼するときの注意点

白菊

エンバーミングを依頼するときは、希望どおりになるよう注意しなければならないことがあります。

エンバーミングの依頼するときの注意点について、その理由を交えて紹介していきましょう。

注意点①:必ず家族で話し合う

デメリットでもお伝えしましたが、エンバーミングはどうしても遺体にメスを入れることになるため、家族が拒絶反応を示す可能性があります。

エンバーミングは本人や家族の署名をもって合法となるため、反対を押し切ってエンバーミングを行った場合、親族間で争いに発展するかも知れません。

このような事態を避けるために、エンバーミングを希望するときには必ず他の家族と話し合い、全員が納得する形で話を進めるようにしましょう。

注意点②:専門業者に依頼する

エンバーミングを安全に行うためには、専門の施設と高度な技術が必要です。

つまり、エンバーミングに対する知識が深く、エンバーミング施設と提携している葬儀社に依頼することが重要です。

 

もし専門業者に依頼しなかった場合、エンバーミングの効果が得られずトラブルにもなりかねません。

エンバーミングは専門の業者へ依頼し、衛生・保全を確実に行えるか確かめるようにしてください。

注意点③:目的をはっきり伝える

エンバーミングの目的はさまざまですが、具体的な理由を伝えると理想的な処置が行われやすくなります。

たとえば、遺体の損壊が激しい場合には「できる限り傷を目立たなくして欲しい」、火葬する日まで時間がある場合には「○○日まで遺体を保ちたい」など、目的をはっきり伝えると適切な処置がしやすくなり、トラブルになりにくくなります。

エンバーミングを検討するときには具体的なイメージを固めた上で、はっきりとした目的を伝えるようにしましょう。

まとめ

葬儀場に安置される棺

エンバーミングによる遺体の保存は、遺体だけではなくその家族や親族にも大きな効果をもたらします。

まずはエンバーミングの知識を深めてメリット・デメリットを比較し、周囲の人と話し合って納得のいく形でエンバーミングを検討してみましょう。

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