大切な家族との別れは突然訪れるものですが、ご自身が一族を支える立場にある場合は、その人物がこれから行う葬儀の喪主を務めることになるでしょう。
葬儀の喪主を務める状況は、一生の内で何度も訪れるものではありません。
それだけに、初めてこの立場になった方は十分な知識がないまま慌ただしく喪主を務めてしまうことで、弔問客や僧侶への対応が不十分になってしまう場面が見受けられます。
そこでここでは、この喪主の役割を詳細に説明しながら、「喪主の選び方」「施主との違い」「服装のマナー」などを併せて解説します。
喪主が担う役割は多岐にわたりますが、準備期間が限られているため事前の知識が重要です。
始めて喪主を務める方にとってもわかりやすく喪主の作業内容について解説していきます。
目次
喪主とは

喪主が担う役割を解説する前に、この喪主とはどのようなものなのかを説明します。
喪主とは、これから行う葬儀や法要の全般を取り仕切る人物を指す言葉です。
遺族はこの人物を中心として故人を弔うため、喪主は葬儀・法要における最高責任者と言うこともできるでしょう。
昔の日本の葬儀では現在のような葬儀業者が存在していなかったため、「葬儀組」と呼ばれる地域の方の協力の下に行われきました。
その中で行われる葬儀では、僧侶への対応や葬式組への指示などを一族の代表者が努めていたため、喪主は故人の供養に専念することができました。
しかし、現在ではこのような葬儀方法を行う地域は非常に稀となり、これまで葬式組が行ってきた役割のほとんどは喪主が行っています。
このような事情から、近年では喪主の担う役割は以前に比べて多岐にわたるのが現状です。
施主との違い
喪主とよく似た言葉に「施主(せしゅ)」と呼ばれる言葉があります。
この施主は、葬儀や法要を行う際に喪主と同じくその忌事の中心となる人物ですが、喪主とは担う役割は異なります。
先ほど解説したとおり、喪主はその葬儀や法要の責任者としてさまざまな役割に関与しますが、施主は葬儀や法要を行う費用面での代表者として必要な金銭を捻出することが主な役割です。
ただし、この喪主と施主で役割を分担するという考え方は時代の変化と共に徐々に薄れてきています。
現在では、喪主であっても葬儀や法要に関する費用を捻出しますし、施主であっても本来喪主が担う役割を行う場合は少なくありません。
役割分担が曖昧になったことで、施主と言う言葉自体が使われる機会も少なくなっています。
葬儀委員長との違い
葬儀を行う際の責任者という意味合いがある喪主ですが、社葬などの大規模な葬儀を行う際には、この責任者として「葬儀委員長」が立てられます。
葬儀委員長はその社葬に関する決めごとに決定権を持つ葬儀委員会から選出され、本来は喪主が行う役割を担います。
会社の今後を左右する社葬では、遺族を代表する喪主では葬儀を円滑に行うことは難しく、組織の重要人物を亡くした社員の不安な気持ちを取り除くことは不可能です。
このような考えから、社葬では会社の次期代表者となる人物が葬儀委員長を努めることで社員の結束を強め、社外に向けては今後も変わらないお付き合いをお願いします。
喪主の役割

ここからは、喪主が行わなければならない役割について解説します。
喪主が行う内容は多岐に渡るため、喪主一人で抱えてこんでしまっては、葬儀当日までに準備が間に合わないといった事態も十分に考えられます。
そのため、実際の決めごとは親族や葬儀業者へお願いし、その決められた内容を確認し裁可を下すことが喪主の役割だと心得ましょう。
役割分担された葬儀では一人当たりの作業負担が減り、その結果として弔問客へ心のこもった対応や挨拶ができるため、配慮が行き届いた素晴らしい葬儀になるでしょう。
葬儀に関する決定を行う
喪主は、葬儀に関するすべての事柄について決定し、葬儀当日にはこの決定通りに進行がなされているのかを確認しなければなりません。
この決定事項の中には、葬儀を円滑に進行するために必要な次の事柄も含まれています。
式場の席順の決める
葬儀会場の席順は、故人との関係性や血縁関係が濃いほど祭壇に近く座るというルールがあります。
一般的な葬儀会場では会場中央に設けられた通路を挟んで席が左右に分かれますが、この時祭壇に向かっ右側が親族席となり左側が一般席となります。
親族席と一般席のどちらでも祭壇に近い前方が上座となり、通路側から順番に血縁関係の近い順に座らわなけばなりません。
そのため、親族の席順は次のようになります。
- 左前から喪主
- 両親
- 子供
- 兄弟
- 叔父・叔母
このルールは一般席でも同様のため、前列の右側が故人と関係が深かった人物の席となり、社葬の場合はこの席に葬儀委員長が座ります。
焼香の順序を決める
焼香を行う順番も、席順と同様に故人と関係が深い順番で行うのが原則です。
そのため、次の順番で焼香を行うことが一般的です。
- 喪主
- 遺族
- 親族
- 会社関係者
- 友人・知人
- 一般弔問客
会社関係者は社内の肩書によって順番が決まります。
一般弔問客は席順によって順番が決まるためトラブルはありませんが、遺族や親族の場合は焼香の順番を巡るトラブルが多い傾向にあります。
そのため、喪主はこのような事態が起こらないためにも、席順を含めた焼香の順番を決めておく必要があるでしょう。
供物・供花の並びを決める
供物や供花の並び順は、故人と関係性が近い順番で祭壇に近い場所から並べるのがルールです。
なお、祭壇の左右どちら側から並べて良いのかわからない場合は、故人の頭がある方が上座となり足がある方が下座となるため頭側から並べれば問題はありません。
弔電の順番の決める
弔電を読み上げる順番に関しても、喪主の決定が必要です。
一般的に弔電は親族を優先して読みますが、お住いの地域によっては、公職者や地域の有力者が優先される場合があります。
また、故人が在籍していた会社の経営者を優先させるなどさまざまなパターンがあるため、この点に関しては地域の慣習に合わせた柔軟な対応が必要です。
火葬に関する決定を行う
故人の火葬についての取り決めも喪主が行います。
火葬についての取り決めは次に挙げる2種類がありますが、特に副葬品に関しては火葬場職員の判断も伴います。
そのため、遺族の要望が受け入れられなかった際の説明が必要な場合があります。
火葬場への移動方法を決める
火葬場への移動方法としては、次の乗り物が選択肢にあがります。
- 自家用車
- マイクロバス
- ハイヤー
駐車場の状況や道路状況などを加味して乗り物は選ばれます。
故人を亡くした悲しみや慣れない作業の連続から、遺族は肉体的に消耗し思わぬ事故を起こしてしまう可能性があります。
そのため、できることならマイクロバスかハイヤーで火葬場まで向かうことをおすすめします。
副葬品を決める
故人の棺に納めて一緒に火葬する物品を副葬品と呼びます。
遺族は故人が生前好きだった品を副葬品として棺に納めたいと考えますが、この判断は火葬場の職員によって決められます。
そのため、必ずしも遺族の希望が通るわけではありません。
せっかく棺に収めたものでも、火葬に適さないと判断された品は職員によって取り出し喪主へ返還されるため、この事情を遺族へ説明するのは喪主の務めとなります。
葬儀受付を決める
葬儀受付を担当する人物は、一般葬と家族葬では次のように異なります。
- 一般葬の場合:主に親族が担当する
- 家族葬の場合:「親族」「会社関係者」「町内会の方」などが担当する
いぜれにせよ、この受付を担当する人物を決めるのは喪主となります。
葬儀受付は高額な香典を扱うため、金銭の扱いに長けていて信頼できる人物に依頼しましょう。
通夜・葬儀の中で挨拶を行う
通夜や葬儀の中では何度か挨拶を行う場面がありますが、次に挙げる場面に関しては喪主が挨拶を行うことが一般的です、
この際の挨拶は、忌み言葉に気をつけ簡潔に行うことがマナーです。
喪主が行う通夜挨拶と出棺時の挨拶の文例は次のとおりです。
通夜挨拶の文例
本日はご多用の中、母の通夜式に参列いただきまして心よりお礼申し上げます。
沢山の弔問を頂き、故人もさぞかし喜んでいることと存じます。
尚、明日の葬儀は○○時より△△葬儀会館で執り行う予定です。
母の在りし日のことなどお聞かせ願えればと、ささやかではございますが別室にお食事の席を設けております。
お都合のよろしい方は、ぜひ故人の思い出話などお聞かせ願えればと存じます。
本日は、誠にありがとうございました。
出棺時の挨拶の文例
本日はご多忙の中、父・○○(故人の氏名)の葬儀にご会葬いただきまして、誠にありがとうございます。
このように大勢の方々にお見送りいただき、さぞかし故人も喜んでおることと存じます。
父は、昨年の冬に倒れその後入院しておりましたが、二日前に容体が急変しそのまま眠るように逝去いたしました。
享年86歳でした。
父を失ったことがまだ信じられない思いでございますが、苦しい闘病生活から開放されたことが何よりの慰めでございます。
遺された私どもは未熟者ではございますが、今後とも故人同様、ご指導ご鞭撻を賜りますようお願いいたしまして、ご挨拶に代えさせていただきます。
本日は誠にありがとうございました。
寺院への連絡を行う
喪主は、これまでお付き合いがある寺院や菩提寺に連絡し、葬儀の日程調整を行います。
葬儀は僧侶抜きでは行うことができないため、僧侶の日程が合わなければ葬儀そのものの日程を変更する場合もあります。
そのため、この寺院への連絡は故人の臨終後速やかに行う必要があります。
葬儀社を選別し決定する
寺院への連絡が終われば葬儀社の選別を行い決定します。
葬儀を依頼する葬儀社は、次のポイントを意識することで納得できる葬儀社を選ぶことができるでしょう。
- 葬儀費用が明確である
- 葬儀社スタッフの対応が丁寧で信頼できる
- 契約を急がせない
- 必要以上に豪華なプランを勧めない
- 長年の創業期間・豊富な葬儀実績がある
弔問客の弔問を受ける
喪主は、弔問客からの弔問を受けることになります。
近年、通夜や葬儀を弔問しやすい時間に行うため、弔問客の数は増えています。
多くの弔問客を受け入れる場合であっても、お悔やみの言葉をけられた際には丁寧にお礼を述べることが喪主の務めです。
葬儀後の挨拶回りを行う
喪主は葬儀終了後に、葬儀でお世話になった人物や参列してくれた方々にお礼を兼ねた挨拶回りを行います。
本来は直接自宅を尋ねてお礼を述べるのがマナーですが、それができない場合には電話や香典返しと共にお礼状を送りましょう。
葬儀後の法要を取り仕切る
故人の死後に行う追善供養や年忌法要に関しても、葬儀の喪主が中心となって行うことが一般的です。
喪主の決め方

ここまで、喪主の役割について解説してきましたが、この喪主は親族の中で誰が行うのが適任なのでしょうか?
故人の遺言によってあらかじめ喪主が選ばれている場合は、その遺言に従って指定された人物が喪主を行います。
そうではない場合は、次の2種類の方法によって喪主は選ばれます。
- 慣習
- 血縁関係
慣習
現在の一般的な慣習に従うのであれば、喪主は故人の配偶者が務めることになります。
以前は家督を継ぐことを周囲に示すためその一家の後継者が喪主を務めていました。
現在では、家督を継ぐという意識が希薄となったことから、故人の配偶者が喪主を務めるようになりました。
血縁関係
配偶者に何らかの事情があり喪主を務めることが困難な場合では、その血縁関係者の中でも故人に最も近い人物が喪主に選ばれます。
配偶者を除いた血縁関係者の優先順位は次のとおりです。
- 優先順位①:長男
- 優先順位②:次男以降の直系の男子
- 優先順位③:長女
- 優先順位④:長女以降の直系の女子
- 優先順位⑤:故人の両親
- 優先順位⑥:故人の兄弟・姉妹
配偶者や血縁関係者がいない場合の決め方
故人に配偶者や血縁関係者がまったくいない場合は、故人の友人・知人や普段の生活のお世話をしていた人物が喪主を務める場合があります。
この場合は喪主ではなく、友人代表や世話人代表と呼ばれることが一般的です。
喪主を複数人で行う場合の決め方
喪主は、必ずしも1人だけで行う必要はありません。
法律では祭祀継承者は1人と定められていますが、喪主に関する取り決めはありあせん。
そのため、高齢者の配偶者とそのサポート役としてその方の長男が同時に喪主を務めるなどの状況は珍しくはないのです。
施主の決め方

続いては、葬儀に関する費用を負担する施主の決め方を解説しましょう。
通常の葬儀では喪主と施主を分けることは少なく、喪主が両方を担う場合がほとんどです。
ただし、世帯主が亡くなった場合は喪主を息子が、施主を妻が務めるなどの状況は少なくありません。
この施主の決め方は、喪主を決める際と同様に血縁関係が濃い順番で選ばれます。
なお、社葬など大規模な葬儀を行う際には、喪主は遺族側が務め葬儀委員長と施主は、企業側が務めることが一般的です。
喪主の服装

ここからは、通夜や葬式時に喪主が着用する服装について紹介していきます。
洋服と和装に分けて、それぞれ具体的に解説しましょう。
男性の洋服
男性の喪主が着用する正式な洋礼服の服装は、「ブラックのモーニングコート」「ダークグレイの縞柄のスラックス」「黒色のネクタイ」が基本です。
最近では、ブラックスーツの準礼装と呼ばれる喪服も一般的になりましたが、この際には光沢がない生地を選びベストはシングルを着用します。
なお、洋礼服であっても準礼服あっても、ソックスは黒色もしくは紺色、タイピンやカフスなどの装飾品はつけないことが基本です。
男性の和装
男性の喪主が着用する正式な和装は、正式礼装の黒羽二重の染め抜き5つ紋付、羽織袴が基本です。
洋装の下着に相当する衿(えり)は、羽二重を選び色は白色または灰色のものを着用します。
なお、足袋の色は基本的には白色になりますが、地域によっては黒色となる場合もあるため注意が必要です。
女性の洋服
女性が喪主を務める場合の洋服は、黒色無地のワンピースかフォーマルスーツが基本です。
靴は黒色で光沢がないパンプスが正式なマナーとなり、ヒールが低いタイプが特に推奨されます。
なお、アクセサリーはできるだけ避けますが、結婚指輪と一連の真珠のネックレスは身につけても良いとされています。
女性の和装
女性が喪主を務める場合の和装は、黒紋付に黒無地の帯が正式礼装ですが、関西地方では一越ちりめんを正式とする場合もあります。
慶事ではないため留袖は着用せず、足袋は白色、帯揚げや草履などの小物もすべて黒色で統一します。
喪主の妻の服装について
喪主の妻の服装に関しては、先ほど紹介した女性が喪主を務める場合の服装と同じと考えれば良いでしょう。
近年は急な準備が必要な通夜では洋服を着用し、葬儀当日は和装を着用する方が増えています。
いずれの服装においても、小物類はすべて光沢がない黒色で統一し、靴や鞄には金属がないものを使用します。
まとめ

喪主は葬儀を行う上で非常に重要な役割を担っていますが、そのすべてに関わってしまうと肝心の挨拶や弔問客への対応に不備が生じる場合があります。
このような状況にならないためにも、遺族間で役割分担を行い、葬儀業者や世話係の方々のサポートを受けながら葬儀を行った方が全体の流れはスムーズです。
最後のお別れに悔いを残したくないと弔問してくれる方々を一番に考え、親族が一丸となって葬儀を成功に導くことができれば、故人にとってもこれほど嬉しいことはないのではないでしょうか。