仏教徒であれば、亡くなった際には僧侶から戒名を授けてもらえますが、戒名は宗派によっても使われる文字や金額が異なるため、いざ戒名をいただいてみるとその金額の高さに驚いてしまうことがあります。
そこで、ここでは戒名の宗派別費用相場を中心に、戒名の構造や位、戒名をいただく際の注意点について解説します。
戒名費用は不明瞭な点が多く、希望よりも高い位の戒名をいただいてしまうことで、お世話になった菩提寺と金銭トラブルに発展してしまうケースも珍しくありません。
永年にわたり良好な関係を続けてきた菩提寺との信頼を損なわないためにも、ご自身が納得できる戒名とその費用相場を理解し、心残りのない供養を行うよう努めましょう。
戒名とは
はじめに、戒名について把握しておきましょう。
本来の戒名とは、出家した修行僧が仏門に入ることで「規律のある世界で生きていく証」として与えられる名前でした。
しかし、現在では亡くなった方が極楽浄土へ行き、仏の弟子になった証として授かる「死後の名前」という位置付けとなっています。
そのため、仏教徒であれば僧侶以外の私たち一般人であっても、戒名をいただくことが可能です。
戒名は菩提寺がある場合は菩提寺の住職から、菩提寺がない場合は葬儀で読経していただいた僧侶から授けていただきます。
起源は江戸時代
このような戒名の教義は日本独特のもので、仏教発祥の地インドでは戒名という考えはありません。
日本で戒名が広がったきっかっけは、仏教が中国経由で伝来する過程で儒教の教えを反映する「位牌」の考えが混ざりあうことで、戒名を重要視するようになったと考えられています。
江戸時代にはすでに戒名をいただく教えは大衆化されていましたが、この時代は身分によって授かる戒名に違いがありました。
そのため、高額なお布施をすることでよりランクの高い戒名を求める風潮は、すでにこの時代にはあったと考えられています。
戒名の構造
難しい漢字が並び、専門の知識がなければ意味がわからないと思われがちな戒名ですが、その構造を知ることで戒名を理解することができるでしょう。
戒名は基本的には次の4つで構成されています。
- 院号・院殿号
- 道号
- 戒名
- 位号
この4つにはそれぞれに意味があり、全体では7文字から12文字で戒名となり、文字数が長いほど「位」が高い戒名となります。
戒名の構造ごとの意味については次のとおりです。
構造①:院号・院殿号
「院号」「院殿号」は、生前から寺院に高額な寄進をするなど寺院に大きく貢献した方や、社会的地位の高かった方の戒名の一番上につけられます。
そのため、多くの戒名にはこの院号・院殿号がつけられることはありません。
もともと、この院号・院殿号は、天皇が住む御所を「○○院」と呼んだことに由来しています。
このような事情から、当初の院号・院殿号は時の天皇や公家などの極めて位が高い方にのみに与えられるもので、明治時代に入ると有名な政治家などが用いるようになりました。
構造②:道号
4段構成からなる戒名の、上から2番目につけられるのか「道号」です。
この道号は禅宗の僧侶が座禅を組んだ場所やお堂に由来し、本来は仏道を極めた方がいただける名前とされています。
道号は俗名でいえばその方の字(あざな)にあたるため、その方の家名がつけられますが、性格や趣味に縁がある文字が使用される場合もあります。
構造③:戒名
現在では4つの構成をあわせて「戒名」と呼んでいますが、本来は道号の次に記載される3番目の部分が「戒名」です。
この戒名は基本的には2文字で表され、宗派によっては法号や各号と呼ばれます。
構造④:位号
位号は4段構成の最後の部分です。
この位号は「年齢」「性別」「地位」により異なり、仏教徒としての「位」を表しています。
また、成人することなく亡くなった方は、年齢と性別によって次のような位号をいただきます。
- 童子・童女:17歳未満の男女
- 孩子(がいし)・孩女(がいにょ):5歳未満の男女
- 乳児:生まれて間もない赤ちゃん
- 水子(すいし):死産の場合
なお、位号の種類と位に関しては「【宗派別】戒名の位」で詳しく解説しています。
白木位牌につける文字
白木位牌には、戒名では使われることがない次の文字を使う場合があります。
- 冠字
- 上文字
- 置字
- 梵字
この文字を使う理由は各宗派によって異なりますが、これらの文字には次のような種類・意味があります。
- 冠字:戒名の上に「空」「妙法」「法名」のいずれかが使われる
- 上文字:「新円寂」「新帰元」「遷化」などが使われる
- 置字:戒名の下につけられ「霊位」「位」などが使われる
- 梵字:神仏の名前を表す文字で戒名の最初に使われる
この白木位牌に限定して使わる文字は、戒名ではないため本位牌には記載されることはありません。
ただし、真言宗では「梵字」と戒名の下の「位」を本位牌に記載するのがしきたりです。
各宗派が用いる特徴的な文字
各宗派では次の特徴的な文字を戒名に用います。
- 浄土宗:誉
- 真言宗:梵字
- 日蓮宗:日・妙
- 浄土真宗:
- 男性:釋
- 女性:釋尼
- 浄土宗・臨済宗・曹洞宗・天台宗:院号の上に「梵字」
【宗派別】戒名の位
戒名には位があり、その位は戒名の一番上に記載される院号・院殿号をつけるかどうかによって決められます。
しかし、これ以外にも戒名の一番下にある位号に使われる文字によっても、戒名の位がランク分けされているのです。
ここでは、この位号を参考に戒名の位とその特徴を宗派別に解説します。
なお、順番は位の高い順に記載し、( )内は女性の戒名です。
浄土宗の場合
浄土宗の位は次のとおりです。
- ○○院信士(信女)
- ○○居士(大姉)
- ○○信士(信女)
浄土宗では戒名を法号とよび、寺院への貢献度や社会的地位により院号がつけられます。
日蓮宗の位
日蓮宗の位は次のとおりです。
- ○○院居士(院大姉)
- ○○院日信士(院日信女)
- ○○院信士(院信女)
- ○○信士(信女)
日蓮宗では戒名を法号とよびます。
臨済宗の場合
臨済宗の位は次のとおりです。
- ○○院居士(院大姉)
- ○○居士(大姉)
- ○○信士(信女)
臨済宗では戒名を法号とよび、故人の性格や生前の仕事に縁がある漢字がつけられます。
曹洞宗の場合
曹洞宗の位は次のとおりです。
- ○○院居士(大姉)
- ○○居士(大姉)
- ○○信士(信女)
曹洞宗ではもともと「釈迦の弟子」という意味を込め、檀家が健在のうちに戒名をさずける生前戒名を行っていました。
しかし、近年では生前戒名を行う状況は少なくなり、他の宗派と同様に亡くなった後に戒名をさずけるケースが増えています。
真言宗・天台宗の位
真言宗・天台宗の位は次のとおりです。
- ○○院居士(院大姉)
- ○○院信士(信女)
- ○○居士(大姉)
- ○○信士(信女)
真言宗・天台宗では位牌の最初の1文字に梵字を記載する場合があります。
これは、梵字を戒名の前につけることで、仏様の弟子であることの証明を示しているためです。
浄土真宗の位
浄土真宗の位は次のとおりです。
- ○○院釋(院釋尼)
- ○○釋(釋尼)
浄土真宗では戒名を法号と呼び、位をつけてランク分けすることはありません。
これは、浄土真宗の教義にある「浄土では皆が平等である」という考えに基づいているためです。
他の宗派と同様に戒名の一番上に院号をつけることはありますが、この院号は高い位を証明するものではなく、あくまでも形式的なものになっています。
【宗派別】戒名のお布施相場
位が高い戒名ほどお布施の相場は高額となりますが、この戒名の御布施相場は宗派によっても異なります。
ここでは、戒名をいただく際に必要なお布施の相場を宗派別に分け、戒名別に表に記載します。
お布施相場①:浄土宗
戒名 | お布施相場 |
○○院信士(信女) | 100万円以上 |
○○居士(大姉) | 35万円~60万円 |
○○信士(信女) | 5万円~15万円 |
お布施相場②:日蓮宗
戒名 | お布施相場 |
○○院居士(院大姉) | 100万円以上 |
○○院日信士(院日信女) | 80万円以上 |
○○院信士(院信女) | 50万円以上 |
○○信士(信女) | 30万円~50万円 |
お布施相場③:臨済宗
戒名 | お布施相場 |
○○院居士(院大姉) | 100万円以上 |
○○居士(大姉) | 50万円~80万円 |
○○信士(信女) | 30万円~50万円 |
お布施相場④:曹洞宗
戒名 | お布施相場 |
○○院居士(大姉) | 50万円~200万円 |
○○居士(大姉) | 50万円~70万円 |
○○信士(信女) | 30万円~50万円 |
お布施相場⑤:真言宗・天台宗
戒名 | お布施相場 |
○○院居士(院大姉) | 100万円以上 |
○○院信士(信女) | 80万円以上 |
○○居士(大姉) | 50万円~70万円 |
○○信士(信女 | 30万円~50万円 |
お布施相場⑥:浄土真宗
戒名 | お布施相場 |
○○院釋(院釋尼) | 50万以上 |
○○釋(釋尼) | 20万円~40万円 |
戒名の位を選ぶ基準
戒名はお布施を多くわたすことで高い位をいただくことができますが、お布施以外には次の基準で戒名の位を選ぶことが一般的です。
- ご先祖様と同じお墓に入る場合はご先祖様よりも高い位の戒名をつけない
- 夫婦で同じお墓に入る場合は2人の戒名は同じ位でそろえる
- 新たにお墓を建てる場合は戒名の位は自由に決めても良い
なお、戒名とは寺院から檀家への恩返しという側面があるため、お布施の額や生前の寺院との関わり合いによって、位の高い戒名をいただけるという事情があることを覚えておきましょう。
戒名をいただく際の注意点
戒名は定価が設定してあるわけではないため、この戒名料をめぐって金銭トラブルが発生するケースがあります。
ここでは、このようなトラブルを回避するためにも、戒名をいただく際の注意点を解説します。
- 自分の家に菩提寺があるのかを確認する
- 戒名料の値段を最初に確認する
- 戒名トラブルを避けるため生前戒名を検討する
注意点①:自分の家に菩提寺があるのかを確認する
家族が亡くなった際には、お世話になっている菩提寺の僧侶へ「葬儀」「戒名」「納骨」を依頼することが一般的です。
しかし、普段からあまり仏事に興味がない方の中には、ご自身の家の菩提寺があるのか、もしくはどの寺院が菩提寺なのかわからない方もいます。
このような方に葬儀を一任してしまうと、菩提寺があるにもかかわらず葬儀業者の紹介した寺院で葬儀や戒名をいただき、いざ納骨するタイミングで菩提寺が判明するケースがあります。
この場合のように、他の寺院で葬儀を行い戒名をいただいているのに、納骨のみを菩提寺で行おうとすることはマナー違反です。
最悪の場合、改めて菩提寺で葬儀や戒名をいただかなければ、納骨できない可能性もあります。
まずは、ご自身の家に菩提寺があるのかどうか、または普段からどの寺院にお世話になっているのかを確認し葬儀に臨みましょう。
注意点②:戒名料の値段を最初に確認する
先ほどお伝えしたように、戒名には定価はありません。
とはいえ、おおよその相場はあるため、あらかじめ戒名の種類とその相場を把握しておくことをおすすめします。
中には相場以上の戒名料を請求する寺院もあり、言われるがまま高額な戒名料を払ってしまうことで、後々トラブルに発展するケースが報告されています。
戒名料の値段を寺院に確認することで、このようなトラブルを回避することができるのです。
注意点③:戒名トラブルを避けるため生前戒名を検討する
戒名は、ご自身が生きている間につけていただくことも可能です。
「生前戒名」ではご自身が存命のうちから戒名を決めるため、納得のいく戒名をいただけます。
戒名についてご自身が僧侶と話し合い、金額を事前確認することで戒名料を巡り金銭トラブルになることもありません。
また、一部の地域では生前戒名をいただくことで、戒名料が安くなる場合もあります。
生前戒名の相場は5万円から40万円と言われ、一般的な戒名料よりも安く設定されているため、遺族の負担を考慮する方にも向いているといえるでしょう。
ただし、この生前戒名には次の注意点があります。
- 納骨予定の菩提寺でつけていただく
- 生前戒名をいただいた事を家族に伝える
先ほどお伝えしたように、菩提寺以外で葬儀や戒名をいただくと納骨を断られてしまう可能性があります。
また、葬儀を担当する家族が生前戒名をいただいたことを知らずにいると、戒名を二重につけてしまう可能性もあるので注意が必要です。
生前位牌を作る場合
このように、遺族の負担を考慮して生前戒名をいただいた方のなかには、さらに生前位牌を作りご自身の死後に備える方もいます。
生前位牌は、位牌に書かれる2文字の戒名を赤字で書くことがルールです。
位牌に書かれた赤文字の戒名は、死後その赤字部分を金文字に書き直されます。
このように、生前からご自身の戒名や位牌を作る行為は「逆修」と呼ばれ、仏教的には徳の高い行為とされ推奨されているのです。
戒名料の包み方
戒名料を包む際には、作法に基づいた包み方をしなければ僧侶に対して礼を欠いてしまいます。
ここでは戒名料の包み方について、のし袋の選び方や表書きの書き方などを含めて解説します。
のし袋の選び方
忌事で使われる袋といえば、私たちは黒白の水引がついた香典袋を想像してしまいますが、戒名料などのお布施を香典袋に包むことはありません。
戒名料を含めたお布施を包む袋には「白い無地の封筒」が使われます。
また、この白い無地の封筒以上に冠婚葬祭で進物を包むために使われる「奉書紙」と呼ばれる和紙もおすすめです。
なお、白い無地の封筒を使う場合は封筒に郵便番号マークがついていないものを使用しましょう。
僧侶の中には、余計なマークがついている封筒を嫌う方もいます。
表書きの書き方
のし袋には「表書き」を書くことで、持参した金銭が何であるのかを示しましょう。
戒名料を包む際には、この表書きは「お布施」もしくは「御布施」とするのが一般的です。
中袋の書き方
戒名料を包む際に中袋を使う場合は、次のように記載します。
- 中袋の表面にお布施金額を記載する
- 裏面左側には包んだ方の住所と名前を記載する
なお、お布施金額は漢数字の旧字体を使い縦書きで記載するのが作法です。
住所に使用される数字は通常の漢数字を使用します。
裏書の書き方
中袋を使わない場合は封筒の裏面右側に金額を、左下に住所と氏名を記載します。
この際に使用する数字も中袋同様に、金額は漢数字の旧字体、住所に使用する数字は通常の漢数字を使用しましょう。
墨は通常の濃い墨を使用する
香典を包む際には薄墨を使うことがマナーですが、戒名料などのお布施を包む際には、通常の濃い墨を使用します。
香典は故人の御霊前に供えるため、悲しみを示す意味で薄墨が使われます。
しかし、お布施を受け取る僧侶に不幸事があった訳ではないので、薄墨は適さないのです。
戒名料を渡すタイミング・マナー
準備した戒名料は、ご自身のタイミングで僧侶へ渡すのはマナー違反です。
戒名料を含めたお布施は、適切なタイミングと作法をもって僧侶に渡さなければなりません。
ここでは、僧侶に戒名料を渡すタイミングとその際のマナーを解説します。
戒名料を渡すタイミング
戒名料を僧侶へ渡すタイミングは、戒名をつけていただくことを僧侶へ依頼したとき、もしくは葬儀が終わったタイミングで葬儀のお礼と共に渡しましょう。
ちなみに、戒名を依頼するタイミングは、お通夜が終わった時にお礼と共に依頼するのが一般的です。
戒名料を渡す際のマナー
戒名を僧侶へ渡す際には、直接手渡しで渡すのはマナー違反です。
必ずお盆か袱紗(ふくさ)を利用して渡すように心がけましょう。
お盆と袱紗を使った戒名料の渡し方は次のとおりです。
お盆の使い方
お盆を使って戒名料を渡す際には、普段よりも小さい切手盆(きってぼん)とよばれるお盆を使います。
切手盆を使ったお布施の渡し方の手順は次のとおりです。
- 袱紗からお布施の入った封筒を取り出す
- 取り出した封筒を封筒を切手盆の上に乗せる(僧侶から見て表書きが読める向きにおく)
- 僧侶に対して感謝の言葉を述べながら両手で封筒を差し出す
袱紗の使い方
もしも切手盆がない場合には、持参した袱紗を使ってお渡ししましょう。
袱紗を使ったお布施の渡し方は次のとおりです。
- 袱紗からお布施を包んだ封筒を取り出す
- 袱紗を軽くたたみその上に封筒をのせる(僧侶から見て表書きが読める向きにおく)
- 僧侶に感謝の言葉を述べながら両手で封筒を差し出す
自分で戒名をつけることも可能
戒名は、ご自身でつけることも可能です。
ご自身でつける戒名には次のメリットがあります。
- 自分の好みの戒名をつけることができる
- 戒名料を抑える事ができるため遺族の金銭的な負担がかるくなる
しかし、ご自身でつける戒名にはメリットばかりではなくデメリットも存在します。
ご自身でつける戒名には次のデメリットもあります。
- 本来の戒名とは僧侶からいただくため正式な戒名として認識されない
- 寺院や僧侶によっては納骨を断る場合がある
菩提寺への相談は必須
ご自身でつけた戒名が菩提寺に断られてしまっては、すべてが手遅れです。
これまで良好な関係を築いてきた菩提寺との関係も険悪になってしまうでしょう。
そのため、自身で戒名をつけようと考えるであれば、まずは菩提寺に相談してその理由を僧侶に聞いていただきます。
最終的には住職や僧侶が総合的に判断しますが、問題がないと判断された場合にのみ仏教教義にのっとった適切な戒名をつけるようにしてください。
まとめ
戒名は仏教の教えの上では極楽に成仏するために必要な「死後の名前」ですが、現実問題として高額な金銭が必要です。
そのため、戒名の種類と必要なお布施費用のバランスを考慮し、その考えを寺院側へ相談してみましょう。
相談することで寺院側はこちらの事情や考えを理解し、無理のない戒名料で適切な戒名を授けていただくことができるのです。