不動産を相続する人が相続登記の手続きをするときには、戸籍謄本や固定資産評価証明書などさまざまな書類が必要になります。
手続きをミスなくスムーズに終えるためにも、相続登記で必要になる書類を正しく理解しておくことが大切です。
そこでこの記事では、不動産の相続登記で必要になる書類について解説していきます。
目次
相続登記では「登記原因証明情報」と「住所証明情報」が必要

法務局で相続登記の手続きをする際には、次のような登記申請書を提出します。

上記の申請書にも記載があるように、登記の申請をする際には添付情報として「登記原因証明情報」と「住所証明情報」を示す書類の添付が必要です。
実際に登記申請をする際には、登記原因証明情報と住所証明情報を示す具体的な書類を添付することになります。
ここでは、登記原因証明情報と住所証明情報がそれぞれどのような情報のことを指し、具体的に添付する書類が何なのかを解説していきます。
登記原因証明情報とは
登記原因証明情報とは、「登記の原因となった事実又は法律行為とこれに基づき現に権利変動が生じたことを証する情報のこと」です。
相続登記の場合は、「相続が開始したこと」が「登記の原因となった事実」(登記原因証明情報)にあたり、相続に関する情報を証明する書類を、登記申請書に添付して提出する必要があります。
つまり、誰が亡くなって相続が開始したのか、誰が相続人として不動産を相続するのか、これらを示す書類の添付が必要です。
具体的には、被相続人や相続人の戸籍謄本などが登記原因証明情報を示す書類にあたります。
住所証明情報とは
登記の手続きを行う際、新たに権利者となる人の住所を証明する情報、つまり住所証明情報を提出することになっています。
これは、新たに所有権の登記名義人となる者が現に存在する者であることを証明するとともに、登記記録上の住所が実際の住所と異ならないようにするためです。
具体的には、住民票の抄本や戸籍の附票が住所証明情報を示す書類にあたります。
【ケース別】相続登記の必要書類の一覧表

次の3つのいずれのケースに該当するかによって、相続登記で必要になる書類は異なります。
- 法定相続分に従って相続登記をする場合
- 遺産分割協議に基づいて相続登記をする場合
- 遺言書に基づいて相続登記をする場合
一つひとつの書類の取得方法については次の章で解説しますが、まずはそれぞれのケースで必要になる書類の一覧を確認していきましょう。
ケース①:法定相続分に従って相続登記をする場合
法定相続分に従って不動産を相続する場合には、相続登記の手続きで次の書類を提出します。
- 登記申請書
- 固定資産評価証明書
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、住民票の除票
- すべての相続人の戸籍謄本、住民票
また、提出書類ではありませんが、登記申請書を作成する際に登記事項証明書(登記簿謄本)が必要になります。
ケース②:遺産分割協議に基づいて相続登記をする場合
遺産分割協議を行い、協議した内容に基づいて不動産を相続する場合には、相続登記の手続きで次の書類を提出します。
- 登記申請書
- 固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、住民票の除票
- すべての相続人の戸籍謄本と印鑑証明書
- 不動産を相続する相続人の住民票
また、登記申請書を作成する際に登記事項証明書(登記簿謄本)が必要になります。
ケース③:遺言書に基づいて相続登記をする場合
遺言書に基づいて不動産を相続する場合には、相続登記の手続きで次の書類を提出します。
- 登記申請書
- 固定資産評価証明書
- 遺言書(検認を受けた場合は検認済証明書も必要)
- 被相続人の死亡時の戸籍謄本、住民票の除票
- 不動産を相続する人の戸籍謄本と住民票
また、登記申請書を作成する際に登記事項証明書(登記簿謄本)が必要になります。
相続登記で必要になる書類:共通するもの

ここからは、相続登記で必要になる書類について、一つひとつその概要や取得方法を紹介していきます。
まずは、どのようなケースでも相続登記で必要になる書類についてです。
- 固定資産評価証明書
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本や住民票の除票
- 相続人の戸籍謄本や住民票
なお、相続登記で提出するほとんどの書類では、有効期限の定めはありません。
そのため、仮に10年以上前に発行した戸籍謄本や住民票を添付して提出したとしても、有効期限切れなどの理由で無効になることはなく手続きは有効です。
また、固定資産評価証明書については、その年度(4月1日~翌年3月31日)のものを取得して提出する必要があります。
固定資産評価証明書
固定資産評価証明書は、土地や建物、機械などの固定資産の評価額が記載されている書類です。
登記の手続きをする際の提出書類の一つとして必要になり、不動産がある地域の自治体の市区町村役場などで取得できます。
固定資産評価証明書の発行費用は自治体によって異なりますが、市区町村役場の窓口などで発行する場合の費用は、1通につき300円前後です。
郵送による申請や取り寄せが可能な自治体もありますが、その場合は封筒代・切手代もかかります。
なお、固定資産評価証明書を発行できるのは、不動産の所有者や同居の家族、相続人などに限られるため、誰でも発行できるわけではありません。
発行の手続きをするときには本人確認書類などが必要になるので、発行方法などを自治体に事前に確認したほうが良いでしょう。
なお、固定資産評価証明書は、その年度(4月1日~翌年3月31日)の証明書を取得して提出する必要があります。
そのため、たとえば3月に取得した固定資産評価証明書は、4月の登記手続きでは使えないため注意が必要です。
登記事項証明書(登記簿謄本)
登記の手続きで法務局に提出する登記申請書には、所在地や地積・床面積など、不動産に関する事項を記入する必要があります。
不動産に関する事項は、登記事項証明書(登記簿謄本)の内容を確認しながら記入することになるため、あらかじめ法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得しておきましょう。
なお、登記簿謄本と登記事項証明書には次のような違いがありますが、記載内容は同じです。
- 登記簿謄本:紙の登記簿から複写した書類
- 登記事項証明書:コンピューター内のデータから反映したもの
法務局に行って窓口で申請して取得する場合は、対象となる不動産を管理している法務局、もしくは最寄りの法務局で「登記簿謄本・抄本交付申請書」に記入して申請してください。
登記・供託オンライン申請システムを使ってオンラインで申請することもでき、その場合は指定の登記所もしくは郵送で登記簿謄本を受け取ることになります。
- 登記簿謄本の取得方法は?誰でもできる?オンライン・法務局での方法と必要書類
発行手数料は、窓口で申請して受け取る場合は1通約600円、オンライン請求・郵送受取の場合は1通約500円、オンライン請求・窓口交付の場合は1通約480円です。
登記申請書
相続登記の手続きで提出する登記申請書は、以下の法務局ホームページからダウンロードできます。
次のサイトには申請書の記入例も掲載されているので、一度確認してみると良いでしょう。
なお、申請書に記入する主な項目は以下のとおりです。
- 課税価格:固定資産評価証明書に記載された不動産の価格を記入
- 登録免許税:固定資産評価証明書に記載された固定資産評価額(千円未満切捨)に税率0.4%を掛けた金額(百円未満切捨)を記入
- 不動産の表示:登記事項証明書(登記簿謄本)に記載された内容を記入
被相続人の戸籍謄本や住民票の除票
相続登記の手続きでは被相続人の戸籍謄本が必要になり、多くのケースで被相続人の住民票の除票も必要になります。
被相続人の戸籍謄本
登記の手続きでは、誰が亡くなり誰が相続人になるのか、相続関係を確認できる書類として、被相続人の戸籍謄本の提出が必要になります。
遺言書に基づく相続登記の場合は、他に相続人がいるのかどうかを確認する必要性は(登記の手続き上は)なく、所有者が亡くなったことを示せれば良いため、被相続人の死亡時点の戸籍謄本を添付すれば問題ありません。
一方で、法定相続分や遺産分割協議に基づく相続登記の場合には、そもそも誰が相続人なのかを確認する必要があります。
そのため、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍の提出が必要です。
自治体の窓口で発行する場合には、一般的に、戸籍謄本であれば1通約450円、除籍謄本や改製原戸籍謄本であれば1通約750円の発行手数料がかかります。
被相続人の住民票の除票
相続登記の手続きをしようとすると、登記簿上の所有者の住所と被相続人の本籍地が異なることが少なくありません。
この場合には、登記簿上の所有者と被相続人が同一人物であることを法務局が確認するために、被相続人の本籍地が記載された住民票の除票が必要です。
住民票の除票を自治体の窓口で発行する場合には、一般的に300円前後の発行手数料がかかります。
相続人の戸籍謄本や住民票
相続登記の手続きでは、相続人の戸籍謄本や住民票の提出も必要になります。
相続人の戸籍謄本
相続関係を確認できる書類の一つとして、不動産を相続する人の戸籍謄本が必要になります。
- 法定相続分に基づく相続登記:不動産を相続する人(すべての相続人)の戸籍謄本が必要
- 遺産分割協議に基づく相続登記:相続関係を証明するため、すべての相続人の戸籍謄本が必要
- 遺言書に基づく相続登記:不動産を相続する人の戸籍謄本が必要
法定相続分に基づいて各相続人が相続する場合には、すべての相続人の戸籍謄本が必要になります。
不動産を相続する人が遺言書によって指定されていて、その遺言に従って相続する場合は、不動産を相続する人の戸籍謄本だけで構いません。
しかし、遺産分割協議に基づいて相続登記をする場合は、仮に不動産を相続する人が一部の相続人だけであっても、すべての相続人の戸籍謄本が必要になります。
これは、そもそも相続人が誰で遺産分割協議の参加対象者が誰なのか、相続関係を確認する必要があるからです。
相続人の住民票
すでに解説したように、登記の手続きでは不動産を相続する人の住所証明情報も必要になります。
相続する人自身の住民票を市区町村役場などで取得して、登記申請書に添付してください。
法定相続分に基づいて各相続人が相続するのであれば、すべての相続人の住民票が必要です。
遺産分割協議や遺言書の内容に基づいて特定の相続人が不動産を相続するのであれば、不動産を相続する人の住民票を用意して登記申請書に添付して提出します。
相続登記で必要になる書類:ケースごとに必要なもの

続いて、相続登記の手続きでケースごとに必要になる書類をについて解説していきましょう。
遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議を行って誰が不動産を相続するのかを決めた場合には、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書を登記申請書に添付する必要があります。
印鑑証明書は、相続人がそれぞれ住んでいる地域の市区町村役場で取得できるので、各相続人に依頼して送ってもらうようにしましょう。
遺言書(と検認済証明書)
遺言書の内容に従って不動産を相続する場合には、登記申請の際に遺言書も提出する必要があります。
自筆証書遺言書や秘密証書遺言書が自宅などで見つかった場合は、家庭裁判所で遺言書の検認を受けて検認済証明書を受け取り、登記申請書に検認済証明書を添付してください。
なお、残されている遺言書が公正証書遺言書の場合や、自筆証書遺言書が法務局で保管されていた場合には、検認の手続きは不要です。
また、遺言書で遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者の印鑑登録証明書も必要になります。
相続放棄申述受理証明書
相続人の中に相続放棄をした人がいる場合、遺産分割協議や遺言書に基づいて相続登記を行うケースでは、相続放棄をしたことを証明する書類の提出が必要になります。
その人が相続放棄をしているのかどうかで相続関係が変わり、本当に相続放棄をしているのか法務局側で確認する必要があるからです。
そのため、相続放棄申述受理通知書のコピーや相続放棄申述受理証明書を登記申請書に添付して提出します。
なお、相続放棄申述受理証明書は相続放棄者本人以外でも、一定の利害関係人が手続きをして発行することが可能です。
発行方法は以下の記事で解説しているので、実際に証明書が必要な場合には参考にしてください。
委任状
登記の手続きは専門家である司法書士に依頼することもでき、この場合には委任状の提出が必要になります。
一般的に司法書士事務所側で委任状の用紙を準備してくれるため、用意された委任状の用紙に署名押印して司法書士に渡してください。
相続登記で必要になる書類:法定相続情報証明制度を利用した場合

法定相続情報証明制度は2017年5月から始まった比較的新しい制度です。
この制度を利用した場合には、相続登記の手続きをするときに法務局に提出する書類を一部省略できます。
法定相続情報証明制度とは
法定相続情報証明制度とは、戸籍謄本などの書類を法務局に提出すると「法定相続情報一覧図」の写しを発行してもらえる制度です。
法定相続情報一覧図は相続関係を証明する書類で、銀行や法務局で相続手続きをする際に使えます。
手続きの流れ
必要書類と法定相続情報一覧図を登記所に提出すると、法定相続情報一覧図の写しが発行されます。
最初に法定相続情報一覧図を自分で作成する必要がありますが、次の法務局ホームページで提供されている用紙を使っても良いでしょう。
そして、法定相続情報証明制度を利用するためには、次の書類を揃える必要があります。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本と住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本または抄本
- 申出人の氏名・住所を確認できる書類
また、法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合には、各相続人の住民票記載事項証明書(住民票の写し)も必要になります。
法定相続情報一覧図と必要書類を準備できたら、次のいずれかの登記所に提出してください。
- 被相続人の本籍地の登記所
- 被相続人の最後の住所地の登記所
- 申出人の住所地の登記所
- 被相続人名義の不動産の所在地の登記所
提出された資料を登記官が確認し、問題なければ法定相続情報一覧図の写しが発行されます。
手数料
法定相続情報一覧図の写しの発行手数料は無料で、5年以内であれば何度再発行しても手数料は無料なのでかかりません。
相続登記で必要になる書類
法定相続情報一覧図の写しを発行するときに、被相続人や相続人の戸籍謄本をすでに提出して法務局が確認しています。
そのため、相続登記の手続きの際に法定相続情報一覧図の写しを添付すれば、戸籍謄本の添付は不要です。
また、不動産を相続する人の住所が法定相続情報一覧図の写しに記載されていれば、住所証明情報として使えるため、相続人一人ひとりの住民票を登記申請時に提出する必要はありません。
ただし、登記申請書や固定資産評価証明書などは、法定相続情報証明制度を利用しないケースと同様に提出が必要になります。
相続登記で必要になる書類:相続放棄した人がいる場合

相続放棄をした人がいる場合、相続登記で必要になる書類は『【ケース別】相続登記の必要書類の一覧表』で紹介した書類と基本的には同じです。
ただし、法定相続分に基づいて相続する場合と、遺産分割協議に基づいて相続する場合には、相続放棄者が相続放棄したことを証明する書類の提出が必要になります。
そのため、『【ケース別】相続登記の必要書類の一覧表』で紹介した書類に加えて、相続放棄申述受理通知書のコピーや相続放棄申述受理証明書なども用意して提出してください。
相続登記で必要になる書類:代理人に登記手続きを依頼する場合

相続登記の手続きを司法書士に依頼する場合には、登記の手続き時に委任状も必要です。
そのため、『【ケース別】相続登記の必要書類の一覧表』で紹介した書類とあわせて委任状も提出します。
司法書士に依頼した場合には、一般的に司法書士事務所側で委任状の用紙を準備してくれるため、用意された委任状の用紙に署名押印して司法書士に渡しましょう。
提出した書類の原本を返却してもらう方法
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登記申請書に添付する書類は、原本を添付することが原則となっています。
そのため、戸籍謄本や住民票のコピーを添付することはできません。
ただし、一部の書類については、提出した原本の還付(返却)を受けられることになっています。
相続に伴う他の手続きでも書類の原本を使う場合には、相続登記の手続きで書類を提出する際に返却を希望する旨を記載しましょう。
返却を希望する際の具体的な申請方法ですが、まず返却を希望する書類すべてのコピーを取り、コピーした書類をまとめてホチキスで止めてください。
そして、1ページ目に「原本に相違ありません。」と記載して、申請人が記名押印してページの継ぎ目に割印を押して原本とともに提出します。
別途、原本還付請求書のような書類を作成する必要はありません。
そうすれば、登記手続き完了後に原本が返却されるので、他の相続手続きなどでも書類を使うことが可能です。
なお、登記申請用に作成した委任状や印鑑証明書など、一部の書類では原本の返却は行われません。
また、相続関係説明図を提出することで戸籍謄本等の原本の返却を受ける方法もありますが、この場合はそもそも相続関係説明図の作成・提出が必要になります。
まとめ
相続登記の手続きでは、被相続人や相続人の戸籍謄本、固定資産評価証明書、登記申請書など、さまざまな書類が必要になります。
必要書類の種類はケースによって異なるため、ご自身の場合に何の書類が必要になるのかを確認して、登記の手続きで提出する書類を漏れなくそろえるようにしてください。
相続登記の手続き方法がよくわからない場合には、一人で悩まずに早めに専門家に相談することをおすすめします。
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