相続税を申告するにあたっては、それぞれの資産を評価しなければなりません。
当然ながら、各自が主観で評価をしていては課税の公平性が保てないため、それぞれの財産について認められる評価方法が定められています。このうち、相続税などの申告に適合する一定のルールに基づいて評価された土地の価額が、土地の「相続税評価額」です。
今回は、土地の相続税評価額について詳しく解説します。
目次
相続税計算上「土地」はどう評価すべき?
相続税の根拠となる「相続税法」では、土地などの財産評価方法について具体的なことは定められていません。財産の評価方法については、「財産評価基本通達」で定められています。
時価での評価が原則
財産評価基本通達において、財産の評価方法は相続開始時の「時価」によることとされています。まずは、この原則を知っておいてください。
「路線価方式」や「倍率方式」が認められる
時価評価が原則とはいえ、土地を「時価」で評価することは容易ではありません。上場株式などとは異なり、評価対象である特定の土地について頻繁に取引されていることなどほとんどないためです。
また、すべての土地について不動産鑑定士などに時価を算定してもらおうとすれば、手間も費用も大きくなってしまうことでしょう。そのため、実際には財産評価基本通達で認められている、「路線価方式」や「倍率方式」で土地の相続税評価額を算定することが一般的です。
これらの評価方法については、後ほど詳しく解説します。
原則に戻って時価で評価すべき場合もある
2022年4月、土地の相続税評価額についての新たな判例が出て話題となりました。これは、相続人が相続したマンション(専有部分の建物+敷地)を路線価方式で評価して相続税申告をしたところ、時価と路線価が乖離していることを理由に、税務署から多額の追徴課税がなされたことを発端としたものです。
この処分の妥当性が争われて最高裁まで持ち込まれましたが、最高裁は税務署側の追徴課税を妥当と判断しています。
路線価方式での相続税評価額は、上で解説をしたとおり、本来妥当な計算方法であるはずです。しかし、この例では実際の取引価格や不動産鑑定評価と路線価方式での評価額の乖離があまりにも大きいことを理由に、路線価方式での評価は「著しく不適当」であるとされました。
特に高層マンションなどでは、時価と路線価方式での評価額が乖離するケースが多く、このことを利用した相続税節税対策がしばしば行われてきた経緯があります。今後はこのような節税対策が封じられる可能性が高いため、節税対策をする際や相続税の申告をする際には相続税に詳しい税理士とよく相談をしたうえで、より慎重な対応が必要となるでしょう。
土地の相続税評価額を計算する方法1:路線価方式
土地の相続税評価額を算定する方法には、「路線価方式」と「倍率方式」が存在します。
まずは、路線価方式での評価について、詳しく解説していきましょう。
なお、路線価方式と倍率方式はどちらで評価してもよいわけではありません。後ほど解説をする「路線価図」で路線価が定められていれば路線価方式で評価を行い、路線価がない地域であれば倍率評価をすることとなります。
一般的には市街地では、路線価方式であることが多いでしょう。
路線価方式とは
路線価方式とは、その土地が面している道路に付された「路線価」に、土地の面積を乗じる形で評価をする土地の評価方法です。
路線価方式の計算方法
路線価方式における、基本的な土地の評価方法は、次のとおりです。
- 土地の相続税評価額=正面路線価×面積(㎡)
なお、複数の道路に接した土地であれば、その分加算がなされます。また、土地の形状がいびつであるなど使い勝手の悪い土地であれば、その分の減額が可能です。
土地の路線価はどう調べる?
土地の路線価は、国税庁のホームページから確認することができます。トップページに日本地図がありますので、この地図から評価をしたい土地の所在地を探しましょう。
評価をしたい土地が見つかったら、その土地が面する道路に書かれている数字を確認してください。この数字に1,000を乗じた数値が、その場所の1㎡あたりの路線価となります。
なお、アルファベットも書いてありますが、アルファベットは借地権割合を表すものであるため、ここでは無視して構いません。
たとえば、「120E」と記載があれば、その場所の路線価は1㎡あたり120,000円です。また、「22D」とあれば、その場所の路線価は1㎡あたり22,000円ということです。1㎡あたりの評価額ですので、都心であればあるほど大きな数字となります。
土地の面積はどう調べる?
路線価方式で土地の相続税評価額を算定する際には、土地の面積を調べなければなりません。なお、路線価に乗じる数字は「坪数」ではなく、「平米数」であることに注意が必要です。
土地の面積は、毎年4月から6月頃に市区町村から送付される「固定資産税課税明細書」を見ることで確認することができます。
また、固定資産税課税明細書が手元にない場合には、法務局からその土地の全部事項証明書(登記簿謄本)を取り寄せることでも面積の確認が可能です。全部事項証明書は、どこの法務局からであっても、全国の土地の分を取り寄せることができます。
土地の相続税評価額を計算する方法2:倍率方式
土地の相続税評価額を算定するもう一つの方法は、倍率方式です。倍率方式での評価方法について、確認していきましょう。
倍率方式とは
倍率方式とは、固定資産税評価額をもとに相続税評価額を算定する方式です。一般的に、田畑の広がる地域や山林などであれば、倍率方式で評価することが多いでしょう。
倍率方式の計算方法
倍率方式における基本的な土地の評価方法は、次のとおりです。
- 土地の相続税評価額=その土地の固定資産税評価額×倍率
固定資産税評価額や課税地目はどう調べる?
倍率方式で土地の相続税評価額を算定するためには、まずその土地の固定資産税評価額を調べる必要があります。
土地の固定資産税評価額は、毎年4月から6月頃に市区町村から送付される「固定資産税課税明細書」で確認しましょう。土地の金額がいくつか載っていて分かりにくいかもしれませんが、「評価額」や「固定資産税評価額」などとある欄の数字を確認してください。
一般的には、その土地について書かれてる数字のうち、もっとも大きな数字であることが多いと言えます。
役所から届いた固定資産税課税明細書を紛失している場合には、土地の所在地を管轄する市区町村役場などから、「固定資産税評価証明書」を取り寄せて固定資産税評価額を確認しましょう。取得には、1通300円程度の手数料がかかります。
その地域の倍率はどう調べる?
固定資産税評価額に乗じる倍率は、国税庁のホームページから確認することができます。日本地図から評価をしたい市区町村を選択していくと、「この市区町村の評価倍率表を見る」というリンクが表示されますので、そちらをクリックしてください。
そこを開くと、その地域の評価倍率表が表示されます。
倍率は、「宅地」「田」「畑」など、地目によって異なる数字が定められています。上で解説をした「固定資産税課税明細書」や「固定資産税評価証明書」のなかに「課税地目」が書かれていますので、その課税地目に沿った倍率を確認しましょう。
課税地目と登記地目が異なる場合もありますが、この場合には課税地目の方を確認してください。
土地の相続税評価額を下げる方法
土地の相続税評価額を下げるには、次の方法があります。制度として認められている制度はしっかりと活用し、余計な税金を支払わずに済むように対策を練っておきましょう。
土地や土地上の建物を賃貸する
土地や、土地上に建てた建物を賃貸することで、土地の相続税評価額を下げることができます。なぜなら、賃貸をしている土地は自分で自由に使うことができないため、そのことを考慮して減額評価が認められているためです。
なお、自分が使用する土地を「自用地」といい、他者に貸している土地を「貸宅地」といい、建物を貸している場合のその敷地を「貸家建付地」といいます。貸宅地の評価方法は、次のとおりです。
- 貸宅地の評価額=自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合
借地権割合は、30%から90%の間の10%刻みで、地域ごとに定められています。その地域の借地権割合は、国税庁が公表している路線価図や倍率表から確認することができます。
たとえば、自用地評価額が3,000万円、借地権割合が60%の地域にある貸宅地の評価額は、次のとおりです。
- 評価額=3,000万円-3,000万円×60%=1,200万円
また、貸家建付地は次のように評価をします。
- 貸家建付地の評価額=自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合
このうち、借地権割合は全国一律で30%とされています。賃貸割合とは、たとえば土地の上に建っている建物がアパートなどの集合住宅である場合、全室中のうち何室を貸しているのかという割合です。
たとえば、自用地評価額が3,000万円、借地権割合が60%の地域にあり、土地上の建物全10室のうち8室を賃貸している場合の評価額は、次のとおりです。
- 評価額=3,000万円-3,000万円×60%×30%×8室/10室=2,568万円
このように、土地を貸したり土地上の建物を貸したりすることで、土地の相続税評価額を下げることができます。
活用できる補正率を活用する
土地の相続税評価にあたっては、その土地の特性に応じたさまざまな減額補正が認められています。
たとえば、真四角でない土地は端まで使いきれず有効利用が制限されることが多いため、「不整形地補正」が認められる可能性が高いでしょう。また、奥に長い土地や間口が狭い土地も使い道が制限されるため、補正の対象です。
さらに、その地域の他の宅地と比べて著しく広大な土地で一定のものは、広大地補正の対象となる可能性があります。
このように、土地の評価には土地の特性に応じてさまざまな減額補正が認められていますので、要件を満たす補正は漏れなく活用するようにしましょう。
小規模宅地等の特例を活用する
小規模宅地等の特例とは、要件を満たすことで土地を最大8割減で評価することができる、相続税の特例です。評価額の高い土地では特に大きな節税効果が見込まれますので、ぜひ活用したい特例の1つでしょう。
ただし、小規模宅地等の特例には、土地の利用状況やその土地の取得者などにさまざまな要件が課されています。
たとえば、本来なら特例の活用ができたはずであるにもかかわらず、亡くなった父の家を父の入院中一時的に賃貸してしまったことで要件から外れ、特例の適用が認められなくなってしまうケースなどもあります。
小規模宅地等の特例の活用を検討する際には、あらかじめ要件をよく確認し、要件から外れてしまうことのないよう注意が必要です。
まとめ
土地の相続税評価額について解説しました。実際に相続税の申告をする際には、活用できる補正や特例を漏らしてしまうことのないよう、相続税に詳しい税理士へ申告を依頼されることをおすすめします。
土地にまつわる相続では、相続税評価のほか、名義変更で困ってしまう場合も少なくありません。
土地の名義変更には古い除籍謄本や原戸籍謄本など多くの書類が必要となり、これらを自分で集めることは容易ではないためです。